トヨタが「オリンピックCM取りやめ」...そのウラで起きている「劇的な変化」の正体

トヨタが「オリンピックCM取りやめ」...そのウラで起きている「劇的な変化」の正体

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/07/21
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トヨタ自動車が五輪に関するテレビCMの放送取りやめを決断した。

少し前には女子テニスの大坂なおみ選手の会見拒否と「うつ」告白。さらにはFCバルセロナ選手の差別発言に対する楽天グループの抗議など、このところスポーツ・ビジネスを取り巻く状況が激変している。

スポーツ・ビジネスは典型的なマス・マーケティングの世界であり、ネットの発達によるニッチ・マーケティングの拡大にどう対応するのかに注目が集まっていた。新型コロナウイルスによる感染拡大は、スポーツ・ビジネスのあり方を変えるきっかけとなりそうだ。

スポンサーにとってメリットが感じられない

東京オリンピックは、専門家から感染対策について不安視する声が出る中での開催となった。国民の一部は開催そのものに反対している状況であり、こうした形でオリンピックが行われるというのは、少なくとも戦後においては前代未聞の事態だろう。

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〔PHOTO〕Gettyimages

かつてオリンピックは、五輪憲章に定められている「人間の尊厳」「平和な社会の推進」といった理念を追求する純粋なイベントだったが、1980年代以降は、徐々にビジネス的な要素が強くなり、今ではスポンサーとの関係性が不可分なビジネス・イベントとなっている。

こうしたイベントのあり方の是非についてはともかく、オリンピックというのは企業のマス・マーケティングにとって欠かすことのできない存在となった。だが、ここで重要なのは、あくまでもマス・マーケティングにとって不可欠という部分である。

マス・マーケティングというのは文字通り、市場全体、消費者全体を対象にした戦略であり、良く言えば消費者が普遍的、悪く言えば画一的であることによって成立する。スポーツの普遍的価値を追求し、全世界の消費者が楽しむオリンピックは、こうしたマーケティング手法を好む企業にとって最高の舞台である。

テレビも典型的なマス・マーケティングの業界だが、オリンピックに対して巨額の放映権を支払っているのが米NBCであることからも、テレビとオリンピックの相性が良いことが分かる。

同様にオリンピックに対しては、マス商品を提供する企業がこぞってスポンサーとして資金を拠出している。今回の東京オリンピックには、ワールドワイド・スポンサーとして、コカ・コーラやプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、トヨタ自動車といったグローバル企業が、国内スポンサーとしては、アサヒビールや日本生命、NTTなどの企業が名を連ねている。

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〔PHOTO〕Gettyimages

これまではオリンピックのスポンサーに名を連ねることは、それだけでマスに対する告知効果やブランディング効果をもたらすので、スポンサー料が巨額であっても十分にお釣りが来た。だが、今回の大会では、果たしてスポンサー料がメリットに見合うものなのか、疑問符が付くケースが続出している。

会場の運営方法に関する議論はその典型で、当初はアルコール提供を行う方針だったものの、安全性をめぐって議論が紛糾し、結局は提供されないことになった。アルコール提供の見送りについてはスポンサーからの提言があったとも言われている。仮に販売が可能だったとしても、多くの批判が集まることは確実であり、これではスポンサーとして資金を出す意味がなくなってしまう。

聖火リレーでも、スポンサーが用意した宣伝用の大型自動車がランナーを先導するやり方に一部から批判が出た。コロナ危機という特殊要因があったとは言え、資金を出せば無条件にメリットを得られた以前の大会とはすっかり様子が変わっている。

そしてとうとう、大口のスポンサーであったトヨタ自動車が、CM放送取りやめと開会式への出席見送りを決断するに至った。

大坂選手の告白をきっかけに多様化が進む?

オリンピックに関する議論とは直接関係しないが、スポーツ・ビジネスの世界では別の出来事もあった。それはテニス女子の大坂なおみ選手の会見拒否と、うつの告白である。

大坂選手は2021年5月、精神的負担が大きいとして全仏オープンで記者会見に応じない方針を表明した。これに対して四大大会の主催者は連名で「今後も会見に応じない場合には、四大大会の出場停止もあり得る」という厳しいスタンスを表明した。

大坂選手はインスタグラムに「さよなら、これでせいせいした」と書かれたミュージシャンのジャケット写真を投稿するなど、主催者側と全面的に争うかに見えたが、翌日になり、うつ症状に苦しんでいたことを明らかにした。

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大坂選手〔PHOTO〕Gettyimages

現代社会は、多様な価値観を認める方向性にあり、スポンサーも含めて大坂選手の告白に共感した人は少なくないと考えられる。ただ、長期的に見た場合、スポーツ選手のあり方が変化すると、ビジネスの質も大きく変わらざるを得ない。

これまでの時代、消費者はスポーツ選手に対して「強さ」や「完璧さ」を求めており、スポンサーはこうした画一的なイメージが自社の製品販売に生かせると判断して、資金を拠出していた。大会イベントも同様で、スポーツを見に来る人のほとんどは試合に「熱狂」を求めている。必然的にそうしたイメージに合う選手こそがアスリートとしてふさわしいという流れが成立しやすい。

だが、スポーツの世界においても多様化が進んだ場合、選手の言動やファンのあり方についても同じように多様化する。このため、テレビが全世界に同じ試合を放映したり、大人数を会場に動員するといった従来型のマス・マーケティングは成立しにくくなる。

当然の結果として、ビジネスとしての形態も変化してくる。メジャースポーツに投じられる資金が減る一方、マイナースポーツにも資金が回る可能性が出てくるし、ネットでの視聴拡大を通じて、ファンの個別の要求にカスタマイズした観戦方法などが模索されるだろう。

現在のビジネス社会はネットの発達によって、従来型のマス・マーケティングが機能しなくなり、顧客ごとにカスタマイズされたニッチ・マーケティングの重要性が高まっている。テレビがネットに押されているのはまさにこれが理由であり、スポーツ・ビジネスの世界にも同じ流れが到来した可能性が高いのだ。

マス・マーケティングが成立しにくい時代

マス・マーケティングとニッチ・マーケティングの乖離という問題は、典型的なネット企業である楽天もすでに直面している。サッカースペインリーグのFCバルセロナの2選手が日本人に対する侮辱的な発言を行ったことについて、スポンサーである楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は抗議を行った。

マス・マーケティングの最大のメリットは、全世界に画一的に企業ブランドを遡及できることだが、一方で、何か問題があった際の対応というのも、全世界で統一とならざるを得ない。

今回は当事者が三木谷氏に直接、謝罪したことから、今のところそれ以上の問題には至っていないが、「誤訳だ」「差別ではない」と主張する人も一部、存在しており、反応が二分される可能性もあった。企業にとってスポーツチームへのスポンサーシップというのは、もはや普遍的にメリットを享受できる手段とは限らなくなっている。

良い悪いは別にして、ネットという極限まで個人にフォーカスできるインフラが普及した以上、企業のマーケティング活動は、より緻密に、そして個別最適化されていく流れにある。今すぐに状況が変わるわけではないが、こうした時代においては、徐々に画一的な従来型ビジネスは縮小すると考えた方がよく、スポーツ・ビジネスもその例外ではない。

コロナ危機は、10~15年かかる変化を一気に数年に短縮する作用をもたらしている。ネットの普及によるビジネスの多様化は、今に始まったことではないが、コロナ危機によってその動きが加速した可能性は高い。その意味では、今回取り上げた一連の問題がコロナ危機と前後して発生しているのも、決して偶然ではないだろう。

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