稲垣えみ子「いい町の条件は『◯◯屋』があるかどうか」

稲垣えみ子「いい町の条件は『◯◯屋』があるかどうか」

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  • 更新日:2018/01/12
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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行

元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さん馴染みの豆腐屋さんの豆腐。形から味わい深さが…

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社会人になって一人暮らしを始めてから10回以上引っ越しを繰り返し、いつしか住む場所を決めるとき、「近所に豆腐屋がある」ことをルールにするようになりました。だってスーパーで豆腐は買えても豆腐屋が残っているということは、昔ながらの人づきあいが残っている証拠。間違いなくいい町です。

そう思い始めてからどこへ行っても豆腐屋が目につくようになり、我が実家の近所にも発見! 正月に帰省するたびに豆腐や油揚げを買うようになりました。年に一度の客なのに、愛想の良いご主人は覚えていてくれて「毎度どうも〜」と甲高い声で言って頂くのが誇らしく、帰省の楽しみの一つになっていたのです。

ところがある日、恐れていたことが。そう閉店の貼り紙! ご高齢だったのでいずれはこの日が来るとは思ってはいましたが、私もトシだからか、かけがえのないものが永遠に去ってしまったというショックは想像以上。しばらくすると店も壊され新しい家が建ちました。ここに豆腐屋があったという記憶も人々から失われていくんだな。ご主人どうしてるかな、新しい家に住んでいるのかな、商売やめてショボンとして病気になったりしてないかな。前を通るたびに心がざわつきます。

先日もそんなことを思いながらしばし元豆腐屋の前で佇んでいたら、なんと新しい家からご主人が「ご無沙汰してます」と出てきた! 元気そう! よかった! 聞けば、機械が壊れて修理に200万円かかると言われ、閉店を決意したと。「お客さんに寂しくなったと言われるんですけど、どうしようもなくてね」。なるほど。事情がわかりちょっと安心しました。

で、びっくりしたのは、ご主人はいつも私が店の前を通るのを窓から見て、いつ声をかけようか迷っていたというのです。なんと私たち、互いに思い合っていたんですね! 年に一度、数百円と豆腐を交換するだけの仲だったのに。人とはほんのわずかなつながりに驚くほど支えられている。本年もそのことを肝に銘じて生きていこうと思います。

※AERA 2018年1月15日号

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