ラーメン一蘭が「超強気の値段」でも行列を絶やさないワケ

ラーメン一蘭が「超強気の値段」でも行列を絶やさないワケ

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/03/26
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もはや九州豚骨ラーメンの代名詞となった「天然とんこつラーメン専門店 一蘭」。ラーメン一杯が890〜980円(店舗によって異なる)、替玉は210円と、チェーンのラーメン店としては“強気”とも言える値段設定にもかかわらず、連日行列ができるほど店内は賑わい、国内はおろか海外にも進出を果たしている。

なぜ一蘭は、日本を代表する豚骨ラーメンになったのか。どうして世界的に受け入れられるようになったのだろうか。

すっかり定着した味集中システム

まず、現状を知るべく、一蘭の店舗に行ってみることに。私事で恐縮だが、一蘭は20年弱ぶり。ファーストコンタクトは博多の天神店(現在は休業中)で、その後、上野にあるアトレ上野山下口店で食べて以来となる。

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一人ひとり席が仕切られた「味集中カウンター」(筆者撮影)

向かったのは中野店。地下へ下ると、券売機だけポツンと佇んでいる。ここで食券を買い、さらに奥へと通路が伸びており、角を曲がったところで、一人ひとり席が仕切られた、お馴染み「味集中カウンター」がお出迎え。

席には味の好みを記入する「オーダー用紙」がセッティングされていて、麺の硬さや赤い秘伝のタレの有無などを記入する。なにをどう選んでいいか分からない時は、あらかじめ点線で囲まれたところを丸で囲めば、店側が勧める味になるという。

卓上のボタンを押すと、店員がオーダー用紙を回収し、出来上がりを待つ。お冷は回転寿司のお茶のように、グラスを押すと水が出る給水器が各席に付いている。追加のオーダー用紙も完備されていて、席を立つことなく用が済むようになっている。

ラーメンが出来上がり、店員が丼を置くと、深々と頭を垂れ、すだれがシャーッと閉まる。こうすることで、厨房側への視界も遮られ、まさしく味に集中するしかなくなるわけだ。

博多ラーメンの枠を超えた一杯

さて、久々の一杯はというと、九州の豚骨ラーメンというイメージからは離れた、クセのない、サラッとした味わいだった。注文シートで「こってり」と指定したので、表面に油の層が若干出来ていたが、コクはこの油から感じられるくらいで、スープ自体は実にさっぱりとしている。

味としては、博多ラーメンという枠を超えて、世界の「日式豚骨ラーメン」になった、という印象を受けた。と聞くと、「豚骨ラーメンと博多ラーメンのナニがどう違うの?」と思われる方もいるかもしれない。

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赤い秘伝のたれが特徴的な「天然とんこつラーメン」

両方とも豚ガラを煮込んだスープをベースとしていることに変わりはない。しかし、豚骨ラーメンが定着した九州においては、単に豚骨のスープというだけに留まらない“独自のスタイル”というものがある。

先に、こってりは油を加えると述べたが、多くのオーソドックスな豚骨ラーメンを出す九州の店では、東京のラーメンのように、透明な油(多くはラード)を加えない。豚骨にある脂が、煮込まれることでお湯と合わさって乳化しているので、後付でコクを演出する必要がない。

東京の豚骨ラーメン店ではラードを加える店が多く見られるが、九州スタイルが好みの場合に「油抜き」と言えば、スープ本来の味が楽しめる。ちなみに、九州で油の浮いたラーメンに出会うこともあるが、ラードを使わないところは寸胴に浮いた油分を掬って足してくれるケースもままある。

このように、本場の九州人が作る東京の店でも、土地に合わせて微妙に仕様を変更していることが多い。そしてここに、一蘭が人気となった要因が隠されている。

かつては「会員制の店」だった

つまり一蘭は、油でこってり度の調整をできるように(しかも天然由来でトランス脂肪酸ゼロの油を使用)し、豚骨臭を消すなど、早い段階から単に博多のスタイルを押し付けることをしなかったのである。九州だけに留まらず、広く支持される要素を早々に取り入れたわけだ。

だが、当初から一蘭が、今の人気を支えている味集中カウンターやオーダー用紙を採用していたわけではない。

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「オーダー用紙」では味の濃さやこってり度、チャーシューやねぎの有無などが選べる(Photo by GettyImages)

1960年、屋台として創業した一蘭(当初は別の屋号だったが、1966年に現在の名前に改名)。この時点で、唐辛子ベースの「赤い秘伝のたれ」は浮いていたらしい。これが人気となって一躍行列ができる有名店となった。

しかし一方で、味をパクるラーメン店も続発すると、すでに高齢だった店主夫婦は廃業を決意し、支店を出さず、味も門外不出とした。

とは言え、そのまま一蘭を名乗る偽店舗が幅を利かせる状況を看過できないのも事実。そこで同店は規模を縮小し、1992年に10年以上通う常連客のみが入ることができる会員制ラーメン店として生まれ変わったのである。

営業を続ける傍ら、後継者を探した店主夫妻。1995年に会員制ラーメン店は閉店するが、そこの常連客だった吉冨学氏が社長となり、前後して1993年に現在の一蘭が誕生することとなる。

強気の値段でも行列店になれたワケ

先代の味を守るために吉冨氏が行ったのは、麺やスープといった素材は自前の工場で一括生産するというセントラルキッチン方式の採用。こうすることで味の均一化を図りつつ、味が盗まれることも防止することを図ったのだった。

たしかに、本社や工場がトップダウンですべてを管理するシステムは合理的ではあるが、一般的に「冷たい」とか「人間味がない」といった印象を持たれかねないという不安もある。しかし、博多ではスグにこの一蘭のシステムが話題となった。

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女性客が圧倒的に多いのも一蘭の特徴(Photo by GettyImages)

当時ラーメン一杯の値段が400円程度だった福岡にあって、一蘭は650円という強気の値段設定。それにもかかわらず行列店となったのは、徐々に先鋭化されていくシステムに対して消費者が面白みを感じたからではないか、と筆者は考えている。

そして、そのシステムこそ、味集中カウンターやオーダー用紙なのだろう。実際、1号店の那の川店(福岡市南区)では、厨房とを仕切る暖簾はあるものの、隣との仕切りはなく、今でも一般的なカウンター席となっており、5号店となる博多店になってようやく仕切りが採用されている。

仕切りができた背景には、女性からの「ラーメンを1人で食べるところを見られるのが恥ずかしい」という声があったからだという。同様に「替え玉も声を出して頼みづらい」という意見にも、「替玉プレート」を目の前のボタンの上に置くだけで済むように対応し、卓上で注文が完結できるようなシステムが出来上がっていった。

このように、味以前に、そもそもラーメンを食べに行くことすらままならなかった層をも取り入れることで、一蘭は全国区の豚骨ラーメン店になれたのだろう。

「美味しさ」という素地があればこそ

創業者のこだわりが、恐らく本人も思いもよらなかったであろう形で発展し、多くの人々の口に運ばれるようになった一蘭のラーメン。

日本国内では、味集中カウンターが他人からの目を気にするという、日本人らしい気質で受け入れられたが、これが海外の人からすれば、非常に奇妙というか、思いも寄らないアイデアで、クールに映ったのだろう。

まるでテーマパークの乗り物に乗るような、一種のアトラクション的な面白さを日本に来た外国人がSNSなどで拡散するうちに、気付けば瞬く間に世界に広まった。今でこそコロナの影響はあれど、都内の店舗には常に外国人客が列をなし、店舗自体も海外に進出を果たした。

ただ、店が面白いだけではここまで人気は出ないはずだ。日式ラーメンの世界的ブームとも巧みにリンクしたということもあるが、豚骨を煮込んで脂の溶け込んだ旨みたっぷりでクセになる九州ラーメンという素地があり、そこから独自の豚骨ラーメンになっていったからこそ、受け入れられたのではないだろうか。

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「100%とんこつ不使用ラーメン発祥の店」と掲げる一蘭西新宿店(筆者撮影)

さらに、最近では「100%とんこつ不使用ラーメン」を開発するなど、諸事情により豚を口にできない人々にまでアプローチしようとしている。東京・西新宿店はこの豚骨不使用発祥の店として営業しており、実際に筆者も食したところ、豚骨不使用かと信じられないほど、豚骨スープにしか思えなかった。通常の一蘭のラーメンよりもこってりと感じられるほどだ。

多くのラーメン店がある中で一蘭だけが持ち得たもの。それは、自らの味を提供したいあまりに、独特すぎるシステムを構築したことに尽きる。一蘭に行ったら、そのワールドを丸ごと楽しんでほしい。そこで初めて、一蘭の味が完成するのだから。

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