「リクナビ内定辞退予測」問題でリクルートOBの僕が伝えたいこと

「リクナビ内定辞退予測」問題でリクルートOBの僕が伝えたいこと

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/08/26
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リクルートキャリア社が運営するリクナビが炎上している。事前承諾を取っていない約8,000名の学生のデータを、内定辞退予測に活用していた問題だ。「承諾」の取り方も納得感があるものとは言い難い。このデータを活用するサービスを約38社が購入していた。

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「リクナビ」サイトより

この問題については、読売、朝日、毎日、日経が社説で批判している。論点もほぼ同じで、学生を裏切る行為であることや、個人のデータの取り扱いについて問題提起が行われた。

日々、トヨタ自動車、ホンダ、三菱電機、京セラ、NTTファシリティーズ、NTTコムウェア、大和総研ホールディングス、りそなホールディングス、東京エレクトロン、YKK、アフラック、大同特殊鋼、富士ソフト、アイシン・エイ・ダブリュ、テクノプロ・ホールディングス、レオパレス21、コロワイド、さらにはリクルートHD、このサービスを提供したリクルートキャリアなど、このデータを購入していた企業の名前が報道されている。

もっとも、日々の報道では「学生のデータを勝手に使うなんて」「リクルートけしからん」論に終始しているように見える。問題の本質に踏み込んでいないのではないか。本稿では、リクルートOBとして、そして日本の就職活動を長年に渡りウォッチしてきた立場として、論じたい。

この問題は、就職ナビ、さらにはリクルートという会社を深く理解することで本質が見えてくる。リクルート自体のビジネスの進め方も変化している。

人材ビジネスに、AIなどを活用したHRテックビジネスならではの問題を含んでいると考える。これまでの報道とは異なる視点で、この問題を読み解いてみよう。

リクナビに対する大いなる誤解

全国紙に掲載されたリクナビ批判は、前提からして事実を誤認している。たとえば、8月14日付の読売新聞朝刊社説はこのように主張している。

「就活サイトは今や、学生と企業を結ぶ基本的インフラといえる。年間約80万人が登録するリクナビは、業界を主導する立場にある。責任の重さを自覚すべきだ。」

完全には間違っているわけではない。ただ、正確だとも言えない。ファクトチェックをしてみよう。

「就活サイトは今や、学生と企業を結ぶ基本的インフラといえる」→×
たしかに、就活生がほぼ全員「登録する」サイトではある。ただ、学生と企業のマッチング手段は多様化している。逆求人型サービスなども台頭しているし、相変わらず大学にくる求人票によるマッチングも根強く残っている。外資系企業や人気企業はリクナビなどに必ずしも掲載をしない。

なお、リクナビがトップシェアだと言われていた00年代前半においても、就活生のほぼ全員が登録するサービスであるにもかかわらず、同サイトを通じて就職が決まった学生は登録者の約3割だった。現状はその影響力が増していることはイメージできない。

誰もが登録するサービスではあるが「基本的インフラ」かというと、その活用度、貢献度には疑問が残る。むしろこの「基本的インフラ」になり得るかどうかの危機感が、今回のようなサービスを生み出したのだと言えないか。

「学生と企業をつなぐ」とあるが、それは何によって成り立っているのかも考えなくてはならない。リクナビの収益モデルは「広告モデル」である。企業は掲載料を払ってサービスを利用する。創業者江副浩正が作り上げたビジネスモデルだ。リクルート社内では「江副モデル」「江副の方程式」と呼ばれる。

「学生の味方」と言われるが、「学生と企業の味方」が正しい。お金の出どころから考えると、企業に寄ってしまう可能性はある。

「年間約80万人が登録する」→?
これは事実ではあるが、この数字がどういう意味を持つか、考えてみよう。無批判でこの数字が全国紙各紙に載っていることに注目したい。

日本の就活生の数は文科省やリクルートをはじめとする民間企業が調査しているが、各年度約40万人である。1、2年生なども登録していることが想定される。もっとも、多数の登録数を誇るものの、前述したようにマッチング率や総数の問題を抱えているといえる。

大学ではリクナビやマイナビへの登録会が開かれている。これによりよくも悪くも就活生ほぼ全員が登録するサービスになるが、リクナビなど使わずに外資やベンチャーに就活する層も、消極的な層も登録することになる。

「リクナビは、業界を主導する立場にある」→×
たしかに就職ナビはリクナビから始まった。しかし、いまやシェアにおいては業界を主導する立場にはない。マイナビが追い上げを続け、ついには2015年度からは掲載社数、登録者数においてシェアトップになった。その後も一進一退の攻防を続けている。前述したように、新たなマッチングサービスも立ち上がっている。

私がバンダイで採用担当者をしていた00年代半ばはまさにマイナビとの競争が激化したころだ。これまで高くて価値があると言われるリクナビ関連のサービスの値段が競合を意識して値下げが進む様子を間近で見てきた。

業界を主導する立場だと未だに捉えられているのは、ラッキーだ。しかし、主導する立場どころか、見立てによっては追われる立場にあったことを認識しておきたい。

この問題を読み解く際に、まずこのような前提を確認しておきたい。一言でいうと、リクナビは学生「だけ」の味方ではないし、必ずしも大きな影響力があるわけではない。この状態が、今回の事件に関係しているとみるべきだろう。

モーレツ営業会社から、エンジニアの会社に

もう一つ、この問題を読み解く際のポイントは、リクルートが以前のようなモーレツ営業会社から、仕組みの会社、エンジニアの会社に変容していることである。

リクルートについて、バリバリの体育会系や、数々のユニークな武勇伝を持つ人など、営業マンというイメージを持つ人も多いことだろう。実際、リクルート出身者は営業に関するノウハウ本を出版した人、営業コンサル会社を立ち上げた人、その営業力を活かし起業家として成功した人など、同社に対しては「営業の会社」というイメージがつきまとう。

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しかし、このイメージは同社の実態とはズレている。2010年代なかばの段階で主要事業会社における営業担当者の比率は4割をきっている。もちろん、それでもかなりの絶対数になるのだが、同社はいまや営業力だけの会社ではない。

同社はいまや、エンジニアや、ビジネスプランナーの会社となっている。ITを活用した課題解決、さらにはビジネスモデルづくり、オペレーションの仕組みづくりが同社の強みとなっている。エンジニアの採用は強化されている。

営業は仕組み化され、営業ノウハウなども形式知化され、オペレーションの効率化が進んでいる。悪く言うならば、個々人の創意工夫や努力というよりも、言われたことをそのまま実行する営業になっている。リクルート出身の経営者や人事担当者が現状の営業姿勢に失望するのはこのあたりに要因がある。

人材系ビジネスも仕組み化のにおいを感じる。リクルートキャリア社の社長小林大三氏は経営企画畑が長く、人材ビジネスの経験がほぼなかった。さらには現状のホールディングスの経営陣、国内メディア事業を統括するリクルートの経営陣にも人材ビジネスを実務として経験した人がほぼいない。仕組み、システムへのシフトを感じる。

この営業の会社からエンジニアの会社へのシフト、営業の仕組み化が、今回のような問題を引き起こしたと私は見ている。顧客にもリスクが及ぶようなサービスがまかり通り、営業の側でのブレーキがかけられなかったのが問題ではないか。

今回のデータ活用については批判が殺到しているが、とはいえHRテックの領域においては「際どい」活用が他社でも散見される。すでに報道されているとおり、AIを活用して書類選考や面接を行うサービスはすでに大手企業でも導入されているし、離職率をやはりAIを使って測定するサービス、企業内での昇進昇格やキャリア形成イメージをシュミレーションする仕組みまである。

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法律違反ともいえるデータ活用だったが、エンジニアからすると「マッチングの精度を上げるのだから、何を悪く言われるのか?」という感覚なのだろう。

リクルートグループではこの10年間、生活者や顧客不在とも言える新サービスが立ち上がってきた。2013年にはリクナビでのOpen ESという共通エントリーシートの仕組みが導入され、大学などへの根回しが不十分なまま推薦状機能というものが導入され、炎上した。一部の大学では抗議声明まで発表された。この一連の騒動は、大学との関係悪化となったし、マイナビが掲載社数、登録者数で1位になる要因となったと語る同社関係者もいる。

他にもHOT PEPPERグルメに掲載された企業のFacebookページが作られるというサービスが立ち上がったこともあり、顧客から疑問の声が上がった。

この問題が起きたことについて、私はこのような同社の構造変化があることを認識している。そして、ややうがった見方ではあるが、エンジニアたちには「悪い」という認識すらなかったのではないか。これが現在のリクルートの姿であり、常識の違いである。これは非常識ではなく異常識だ。

リクナビは誰の味方なのか、という問題

かつてリクナビは希望だった。学生と企業の就職・採用活動の手間を軽減することが期待されていた。さらには、企業からの一方通行のものではなく、双方向の就活を目指していた。初期のリクナビの企画書は、理念についての紹介に多くのページが割かれていた。

しかし、結局のところ、大量応募型の就活を加速してしまったことが、同サイトの功罪の罪の部分だろう。人気企業と優秀学生はリクナビを必ずしも使わない。結果、誰のための誰の味方のサイトなのか、ぶれてしまった。

今回の内定辞退率予測のサービスは、リクナビの起死回生の一打だったのだろう。しかし、結果としては終わりの始まりのようなものになってしまった。

2010年の秋、リクナビは「7つの約束」というものを発表した。

1.入社後の活躍を期待できる出会いを創造します。
2.若い人たちが働く機会の拡大、ミスマッチの解消に努めます。
3.学業と両立できる就職活動を実現します。
4.就職活動にかかる学生の負担を軽減します。
5.将来を考える学生に、オープンな機会を提供します。
6.産業界が求める人材像を明らかにし、学生、大学に発信します。
7.国を越えた就職・採用活動を促進します。

リクナビは年々、進化している。目に見えない部分を含めてだ。しかし、これらの約束が守られたとは言い難い。いや、これらを過度に実現しようとして「それじゃない」というサービスが生まれてしまったともみることができる。まるで子供の誕生日やクリスマスのプレゼントに自分本位で選んだ玩具のようにズレてしまった。ただ、子供の玩具は何度でも買い直すことができるが、就活はそうではない。

最後に、論じきれていなかった論点を。法律と倫理、 リクルートキャリア社とクライアントの問題に切り分けて考えなくてはならない。またHRテックの未来に関わる問題だ。リクルートキャリア社の当初のリリースはいかにも「私は悪くない」と言わんばかりだった。のちのリリースはより丁寧で真摯だったが、業界や同社の未来にも関わる話なので記者会見を開いた方がいいだろう。

もっとも、これは、前向きに捉えるとマッチング精度をあげるための取り組みだった。日本の就活の根本的な問題点である、就職ではなく就社活動となっており、しかも未経験の実務スキルがクエスチョンの若者に対して多段階で基準が不透明な選別を行うことを是正する取り組みでもあった。法律違反や、労働者不在の議論はナンセンスだが、慎重な議論が必要だろう。

就職情報会社の存在意義すら議論されるだろう。このようなリスクを解消するためにもこれらの企業を許認可制にすることを検討するべきだ。

リクルート時代の先輩は「利益、理屈に狂うからリクルート」というオヤジギャグを言っていた。このようなギャグが出ること自体、不謹慎そのものだが、今回の事件もこの体質が影響していないか。

なんせ、いまだに中高年には「リクルート事件の会社」と認識される会社である。私はただでさえ中年でマッチョで茶髪で「あやしい」「うさんくさい」といわれるが、「リクルート出身」という肩書もあいまって「怪しい人」と勘違いされる。

時価総額でも日本のベスト20に入るグループである。コンプライアンスには力を入れてほしい。これは第2のリクルート事件になり得る案件である。

「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」は創業者江副浩正の言葉である。今回の問題を「危機」と捉え、新たな価値創造に向かうことをOBとして期待する。

まあ、最後に強烈なぶっちゃけ話をしよう。HD社長の峰岸真澄氏も、国内のメディア統括会社社長であり、同期の出世頭、北村吉弘氏も、カスタマーを何よりも大事にする人だった。部下にもそう語りかける人たちだった。君たちにはガッカリだよ。

吉弘君は「1兆円企業を目指す」と経営陣が言い出したときに「何のための1兆円か?」とみんなに問いかけた。「もし、目指すにしても、カスタマーの拍手の結果で1兆円を実現したい」とまだ、課長にもなる前に大演説をした。

あれから14年。リクルートは上場し、金の雨が降っている。だけど、カスタマーの拍手はどれだけ鳴り響いているんだい?

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