高次脳機能障害になった音楽家・GOMAが描く「奇跡の絵」の力

高次脳機能障害になった音楽家・GOMAが描く「奇跡の絵」の力

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/07/14
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張りつめた空気の中、ひとりの男性が筆を手に取り、ひとつひとつ点を描いている。一切のぶれもなく、ひとつひとつ奇跡のように描かれる点。そしてその点が集まると、ひとつの大きな世界ができていた――この写真の男性は、GOMAというディジュリドゥ奏者。実は2009年に大きな事故に遭い、GOMAさんは脳に損傷を負った。その直後から、突然このような絵を描き始めたというのだ。

その絵は多くの人の心をとらえている。詩人の谷川俊太郎さんはGOMAさんの絵からインスピレーションを受けた詩を書きおろし、『Monad』という一冊の本が生まれた。各地でGOMAさんの原画展も予定されている。そんなGOMAさんの奇跡のような軌跡を、個人的に親交もあるスタイリストの中村のんさんに綴ってもらった。

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GOMA作「Water Fall」/『Monad』より

NHKドキュメンタリーにくぎ付け

「想像したことがあるだろうか?ある日突然、当たり前のように続いてきた日々が、変わってしまうことを」

2018年2月のある日、流れてきた声に興味を引かれ、テレビの前に座を移した。画面には、私が住む町の名前がテロップされ、近所の見慣れた風景が映しだされていた。私と同じ町にいる人のドキュメンタリー?思わず身を乗り出した。続くナレーションにさらに興味を引かれた。

「GOMA。45歳。
オーストラリアの先住民族“アボリジニ”の楽器、“ディジュリドゥ”の日本を代表する奏者だ。
その人生が一変したのは、8年前。交通事故で、脳を損傷。すると、彼は突如、絵を描き始めた」

GOMAの背景が紹介され、様々な彼の姿が映し出された。床に座って大きなカンバスに点を打ちづづけるGOMA。ライブハウスでディジュリドゥを演奏するGOMA。その人は「無心」としか言いようのない目をしていて、点によって描かれた曼荼羅のような絵が放つパワーは摩訶不思議でありつつも、強烈だった。

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GOMAさんアトリエにて 撮影/森清

GOMAという人の存在を知ったのは、この、NHK ETV特集『Reborn~再生を描く~』という番組でだった。36歳のとき交通事故に遭う。精密検査の結果、どこも異常なしと診断される。事故の2日後、4歳の娘の絵の具を手に取る。そこから、一日に何時間も描き続ける日々が始まる。「描かずにはいられなかった」とGOMAは言う。そして、記憶が消えていることに気づき、事故から半年後、「外傷性脳損傷による高次脳機能障害」と診断される。

「いのちの力」が新しい関係性を作る

「高次脳機能障害とは、なかなか一言では括れない多彩な症状を示す。脳は複雑な活動を同時並行で行っていて、その複数の活動同士がうまく噛み合わなくなる状態をいう。ただ、人間の生命とは本当に不思議なもので、数十億年の間、生き残り続けてきたいのちの力としか言いようがないのだが、誰もが思いもよらない脳の場所と場所とが、働きと働きとが結びつき、新たな生命の関係性を作り直して新たに立ち上がってこようとする場合がある。GOMAさんの場合は、絵を描くという行為だった」

これは、知人でもある医師の稲葉俊郎氏(東京大学医学部付属病院 循環器内科 助教)がブログやフェイスブックに投稿した文章だ。

「記憶に感情がない」「誰かと自分が入れ替わったような」「社会からの疎外感」「常に葛藤」、番組内でGOMAはそういことを語っていた。そんなGOMAは番組の中で、映画「レインマン」の監修も務めたサヴァン症候群の世界的権威の精神科医、ダロルド・トレッファート博士を訪ね、「後天性サヴァン症候群」と診断される。新しく芽生えた才能が消えることはない。腕を磨けば磨くほど、消えるのではなく、むしろ進歩してゆく。そういう内容の言葉を、医師は告げていた。

番組では奈良県の天川村でのシーンもあった。ここでまた私は身を乗り出した。この番組を観る2週間前に、私はこの神社の節分の神事に参加していた。そして、このときお会いしていた宮司さんが現れ、天川村に残る「再生のエネルギー、人を癒す力をもっている火の鳥」の伝説についてGOMAさんに語っていたからだ。天河神社にある特別な(としか言いようのない)「気」を私は体感してきたばかりだった。

こうなると人は勝手に、この人と縁があるような気持ちになるものだ。「きっといつかこの人と会うことになる」それは根拠のない直感であり妄想だった。それからしばらくは、録画したこの番組を繰り返し見て、すごい番組を観たと、会う人ごとに言わずにはいられなかった。

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撮影/森清

妄想が現実になる

半年後、男友達から突然メールがきた。「さっきGOMAと食事してたんですけど、のんさんのことを話したら会いたいと言ってるので、近いうちに一緒に食事に行きませんか」。驚いた。彼が事故に遭う以前からGOMAさんと友達だったことを知る。そして私もGOMAさんと友達になった。私の根拠なき妄想的直観が現実になった。

今年の5月末、友人たちとの食事会にGOMAさんもお誘いした。そこで7月に本を出版すること、絵に添える言葉を谷川俊太郎さんにお願いしたことを知らされた。谷川俊太郎さんといえば、お孫さんの夢佳ちゃんとは、彼女が十代の頃からの、年の離れた友達だ。ここでまた「繋がり」を感じた。

7月3日、詩画集『Monado モナド』(講談社)の刊行記念として開催された「GOMA展」初日、開催場所の新宿高島屋の美術画廊を夢佳ちゃんと一緒に訪れた。GOMAさんの絵の実物を目にするのは初めてだった。一歩、足を踏み入れた途端、そこにあふれていたのは光だった。そう、光としか言いようのない「気」だった。

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開催中のGOMA展にて、中央のGOMAさんを囲み、左手に谷川俊太郎さんの孫の夢佳さん、右手に筆者の中村のんさん 写真提供/中村のん

絵を見ながらどうやって絵を描くのか質問したが、GOMAさんからは「わからない」と言う言葉しか返ってこない。時折意識を失い、そのとき脳裏に浮かぶイメージがあり、「描かずにはいられない」衝動にかられ、カンバスに点を打ち続けるのだと言う。「どうやって描くのか」はわからないけれど、これは意識を失う時に浮かんだイメージ、これは目が覚めた時のイメージ、ということはわかる。それをカンバスに表現するのだそうだ。

コンパスも使わず、下書きもなしに描かれるその絵を見ていると、「ピラミッド的ヒエラルキーの上位に神を位置するのではなく、曼荼羅的ないのちのネットワークを森羅万象とし、そこに八百万の神々の姿を見た」とされる先住民族たちの自然信仰をオーバーラップせずにはいられない。

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下絵は一切ないままにこういう作品になる。「夜に咲いた朝顔」GOMA作/『Monad』より

当然ながら、アボリジニもその自然信仰を行ってきた人々だ。25歳のGOMAさんが、ディジュリドゥという伝統楽器に惹かれてアボリジニと縁をもったことと、「描かずにはいられない」衝動から、無限の点を打ち、その集合が織りなす世界を描き続けていることが関係しているのかどうか、それは誰にもわからない。

GOMAさんの光に導かれる人たち

初日に訪れた会場で、『Monado モナド』の担当編集者さんをGOMAさんから紹介された。その人も番組を見てGOMAさんの存在を知ったのだと言う。そして、すぐにGOMAさんにコンタクトを取ったことからこの本が出来上がったのだと。この人もまたGOMAさんの光に導かれた1人なのだと思う。

会場を出たあと、夢佳ちゃんにGOMAさんの身に起こったことを伝えた。「もしもうちの夫に、来年そういうことが起こったら…と思うと…考えられない…」、3歳の子どものお母さんである夢佳ちゃんは言葉を失った。

家に帰って、詩画集のページをゆっくり開く。

「中心があります 私のココロに あなたのココロに 誰のココロにも 見えない中心があるのです」

この言葉から始まる谷川俊太郎さんの詩と、GOMAさんの絵が呼応し合い、共鳴し、低音から高音へ、高音から低音へと、一冊の中で、魂が悠久を旅する物語のようなハーモニーを奏でている。

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撮影/森清

運命は、ときとして、人の意思とは関係なく、人を闇に連れてゆくことがある。
けれど、その闇を経験したからこそ、光に導いてくれることもある。
GOMAさんの存在そのものが、そんな光にも感じる。事故で脳を損傷したあとに、今までにはなかった能力が下りてきたような、そんなGOMAさんの存在が。

お茶の間の1人としてGOMAさんの番組に感動していた私が依頼を受け、たった今、GOMAさんの原稿を書いていることも不思議な気がする。けれど、もしかしたら、それも決まっていたことなのかもしれない。でも、それも本当のところは誰にもわからない。

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撮影/森清

GOMA 1973年1月21日大阪府出身。ディジュリドゥ奏者・画家。1998年、オーストラリア・アーネムランドにて開催されたバルンガ・ディジュリドゥ・コンペティションにて準優勝。ノンアボリジニ奏者として初受賞の快挙を果たす。2009年交通事故に遭い、奏者としての活動を休止。並行して画家としての活動を開始する。2011年、奇跡的な音楽活動再開を果たす。2012年にはGOMAを主人公とする映画『フラッシュバックメモリーズ3D』が東京国際映画祭にて観客賞を受賞。2018年2月、NHK ETV特集『Reborn~再生を描く~』で取り上げられた。谷川俊太郎がGOMAの絵に詩を添えた『Monad』が刊行したばかり。7月15日まで新宿高島屋10階美術画廊にて個展が開催されている。

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Monad』GOMA・絵 谷川俊太郎・詩
「頭に浮かんだイメージを描かずにいられないのです」事故の2日後から突然絵を描き始めたGOMA。彼の脳裏に浮かび上がるイメージの絵に、谷川俊太郎が書き下ろした詩の二重奏。

GOMA展 『Monad』に掲載されている絵の一部とまた別の作品が展示されている。新宿高島屋10階美術画廊にて7月15日まで開催。(最終日は午後4時閉場)そのほかのインフォメーションについてはこちらをご参照ください。

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