地球上の氷消失がもたらす、4つの深刻な危機

地球上の氷消失がもたらす、4つの深刻な危機

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2023/11/21

今月末より開催されるCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)を前に、科学者らは、緩やかな短期的地球温暖化によっても、世界の海氷が深刻な危機にさらされるという、これまでで最も厳しい警告を発し、気候変動対策の抜本的改革を強く求めた。

「摂氏1.5度が唯一の選択肢である」と、国際雪氷圏気候イニシアチブ(ICCI)は11月16日に公開した最新の報告書で宣言し、今世紀中に地球の気温が2度上昇するだけで、氷床、氷河、雪、海氷、および永久凍土に不可逆的な害を及ぼし、海面上昇を加速させるだろうと警告した。

「氷の融点とは交渉できない」という副題を掲げた同報告書は、11月30日にドバイで始まるCOP28気候サミット参加国に対し、1.5度を地球温暖化の上限として定義するよう呼びかけた。

これは急進的な動きだ。2015年のパリ協定(環境省による仮訳文)では、国際社会が「平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏2度高い水準を十分に下回るものに抑える」こと、並びに、上昇を工業化以前よりも摂氏1.5度高い水準までに制限するための「努力を継続する」ことを誓約した。しかし研究者らは、「不可逆的な」氷の減少を防ぐためには、より厳しい制限が必要であり、そうした念願が化石燃料排出物を削減する努力を後押しし、気候変動対策の資金調達に役立つことを期待していると述べている。

「私たちは、再生不能エネルギーがもはや選択肢とならない未来に向けて、もっと多くのことができるし、そうする必要があります」と著者らは言っている。「この気候危機を乗り越える唯一の方法は、最終的に化石燃料を排除し、グリーンウォッシング(偽善的な環境配慮)に抵抗することです。結局のところ、氷の融点に効き目があるのは美辞麗句ではなく、私たちの行動だけなのです」

著者らは、世界の平均気温の上昇が今年中に1.5度に近づく可能性があることを指摘しつつ、「率直に言って1.5 度でさえ高すぎるのです」とさらに警告した。

報告書の著者で、諮問グループ「Ambition on Melting Ice」(通称「雪氷圏の友」)の主任科学顧問兼コーディネーターであるジェイムズ・カーカムは、次のように説明する。「雪氷圏は、飲用水と農業灌漑、および水力発電のために数十億の人々が依存している生命線です。それはまた巨大な脅威でもあります」

カーカムは、人間の歴史を通じて氷は気候を安定させる役割を担い、人類文明の繁栄を可能にしてきたと語る。しかし今は、主として化石燃料の燃焼による温室効果ガス排出が、世界の気温を人類が経験したことのない水準まで押し上げている。

「雪氷圏は遥か遠くにあり、近づくことも困難ですが、この地帯に起きる変化の影響は地球全体に波及し、無傷でいられる国はありません」とカーカムは言う。「昔のことわざを言い換えた『極域で起きることは極域に留まらない』は、まさにそのとおりです」

現在の海面上昇のおよそ3分の2は、氷河と氷床の氷消失が原因で起きている、とカーカムは説明する。6億人以上の人々が海抜10m以下の地域に住んでいるので、海面が1cm上昇するたびに、新たに2~300万人以上が洪水の危険にさらされる。

海面上昇は、膨大な経済損失も生む。一例を挙げれば、2012年にハリケーン・サンディが米国東海岸を襲った際、海面上昇によって米国の経済損失は13%(約1兆2000億円相当)増加したことを専門家らが明らかにした。各国政府が現在の気候変動対策に関する公約を果たしたとしても、2100年までに0.5mの海面上昇が起き、1億5000万人が危険にさらされる可能性があると科学者らは予想している。

しかし海面上昇は氷消失が及ぼす影響の1つにすぎない。アジアでは20億人近くが、灌漑、飲用水および水力発電を、山間部の氷河や雪解け水に依存している。現在の地球温暖化の傾向が続けば、今世紀中にヒマラヤの氷の最大75%が失われる可能性がある。

それ以外にも、永久凍土の融解が「非常に心配」だとカーカムは強調する。現在永久凍土は、排出国トップ10とほぼ同じ量の温室効果ガスを放出しており、世界の温暖化を1.5度以内に留めつつ各国が排出できる量を、実質的に減らしている。「もし私たちが永久凍土の広大な領域を融解し続けたなら、その排出量は、重要な気候目標を達成できなかった場合の現在の米国や中国の排出量と同程度まで増加するでしょう」とカーカムは言う。

ICCIは調査結果の中で、観測されたそれぞれの効果による影響は、気温が0.1度上昇するごとに悪化していき、ひとたび氷消失が加速すると、たとえ気温が安定したとしても、数千年間元に戻すことができないことを示している。

その理由により、報告書は早急な排出量削減が急務であることを強調しており、UAE(アラブ首長国連邦)で開催されるCOP28気象サミットを、新たなレベルの世界的目標の舞台になると認識している。

この報告書に答えてアイスランドのカトリーン・ヤコブスドッティル首相は次のように語った。「摂氏1.5度は、2度やそれ以上より望ましいということではありません。それが唯一の選択肢なのです。特に雪氷圏において気温が0.1度上昇するごとに事態が悪化する影響がわかった今、COP28では率直な現状評価と新たな緊迫感が必要です。私たちは具体的な成果、化石燃料の段階的廃止に向けた明確なガイドライン、そして気候変動対策の経済的支援のしくみを必要としています」

国際総合山岳開発センター(ICIMOD)所長でヒマラヤ山脈における気候変動を研究しているペマ・ギャムショは次のように語った。「ヒマラヤおよびヒンドゥークシュ山脈は、世界的雪氷圏危機の中心地であり、当地の氷河、雪、および永久凍土はすでに前例のない不可逆的な変化を受けています。このような変化は、山の水源の時期、供給、および季節分布の不安定さを拡大し、水、食料、およびエネルギーの安全保障を脅かすことで、山岳地域の生活に大打撃を与えます。報告書『State of the Cryosphere(雪氷圏の状態)』は、COP28で行動を起こさないことが大災害を招くという世界の首脳に対する警告です」

COP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)は、11月30日から12月12日までアラブ首長国連邦(UAE)ドバイで開催される。

forbes.com 原文

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