文在寅政権、“前哨戦”に大差で「敗北」、混迷極める次期大統領選の“シナリオ”

文在寅政権、“前哨戦”に大差で「敗北」、混迷極める次期大統領選の“シナリオ”

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/04/08
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ソウル市長選が7日に投開票された。野党「国民の力」の呉世勲(オ・セフン)候補(60)が約280万票(得票率57.5%)を獲得し、約191万票(同39.18%)の与党「共に民主党」の朴映宣(パク・ヨンソン)候補(61)に圧勝した。同日行われた釜山市長選も、野党候補が与党候補に圧勝した。

ソウルは、韓国の全有権者の約5分の1が住む大票田であり、今回の選挙は文在寅政権の4年間の国政に対する審判だと位置づけられた。事前の予想では「勝者と敗者の得票率が15ポイント以上開けば、文在寅政権は急速にレイムダック状態に陥る」という見方が大勢だった。

この選挙結果を受けて、文政権はどうなっていくのだろうか。来年3月に迫った次期韓国大統領選はどんな展開になるのだろうか。

土地投機疑惑で“そっぽ向かれた”文政権

韓国大統領府の元高官は、今回のソウル市長選の特徴について「“文在寅不動産政策審判選挙”だった。候補者に焦点は当たらず、ひたすらイシュー(争点、論点)が注目された選挙だった」と語る。

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photo by gettyimages

ソウルのマンションの平均価格は文在寅政権が発足した2017年5月時点で6億600万ウォン(約5900万円)だったが、昨年の時点で9億ウォンを突破した。さらに、最近になって韓国土地住宅公社(LH)職員らが内部情報を元に不正投機を行った事件が浮上。3月には、韓国大統領府で経済政策などを担当する金尚祖(キム・サンジョ)政策室長が、不動産価格抑制策の施行直前に、自分に有利な不動産取引を行った疑惑で更迭された。

金氏は学者時代、富の独占だとして辛辣な財閥批判を繰り広げ、「財閥スナイパー」というニックネームを頂戴した人物だったが、自身にブーメランが返ってきてしまった。不動産問題にずっと焦点が当たる格好になり、文政権の主力支持層だった20代から30代が、「家が買えない」「文政権は公正と言えるのか」と怒り、そっぽを向いてしまった。

韓国世論の変化は次期大統領選にも影響

この結果、韓国の世論調査会社、リアルメーターが1日に発表した投票前最後の調査結果では、呉世勲候補を支持する人が57.5%、朴映宣候補が36.0%となった。他の世論調査もほぼ、呉候補が朴候補に20ポイント程度の差をつける展開になっていた。これらの数字は、ソウルが代表する韓国世論の幾つかの変化を物語っている。

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呉世勲氏(photo by gettyimages)

ひとつは、2016年から17年にかけて、ロウソクを手に週末ごとに集まった市民たちが朴槿恵大統領(当時)の退陣を迫った「ロウソクの灯革命」が吹き飛んでしまったという事実だ。

韓国の人々の政治志向は大体、「保守4割・進歩(革新)3割・無党派3割」ないし、「保守3割・進歩(革新)3割・無党派4割」と言われている。ロウソク集会が行われていたころは、無党派に加えて保守支持層の一部も当時の朴槿恵政権に愛想を尽かしていた。それが、2017年大統領選での文在寅氏の大勝利につながった。

だが、ソウル市長選の世論調査をみると、保守支持層はほぼ元に戻り、さらに無党派の支持も呉候補が獲得していることがわかる。保守は少なくとも「ロウソクの灯“後遺症”」からは立ち直ったと言えそうだ。ほんの半年前まで有力だった「次の大統領選も進歩(革新)の圧勝」という下馬評は姿を消した。

もうひとつは、かつての3金政治(金大中、金泳三両元大統領、金鍾泌元首相)のような、カリスマ性のある政治家がいなくなり、人物が勝敗を決める選挙はほぼ姿を消しているという状況だ。呉候補もソウル市長選への立候補を表明した頃の支持率は20%程度だった。

当初は、ソウル市長時代の2011年に市政を途中で投げ出した経緯から、支持率の伸び悩みを懸念する声もあったほどだが、不動産問題の追い風を受けて、ぐんぐん支持率を伸ばした。呉候補も、この状況をよく理解していたようで、市長選では人物論争を避け、「市民の皆さん、不動産高くありませんか」といった呼びかけを行い、うまくイシュー選挙の波に乗った。

大統領選は決め手欠く候補ばかり

おそらく、この構図は来年3月9日に投開票される次期大統領選にも引き継がれるだろう。元大統領府高官は「保守の力がほぼ元に戻った以上、選挙は無党派層の奪い合いになる。その勝敗は、人物ではなくて、どんなイシューが焦点になるかで決まるだろう」と語る。

現時点で、与党の進歩(革新)も野党の保守も決め手に欠ける候補ばかりだ。進歩(革新)は大統領候補予想者を巡る世論調査で2割程度の支持を集める李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事と同1割程度の李洛淵(イ・ナギョン)元首相が有力だが、李洛淵氏はソウル市長選などの選対委員長を務めており、今回の敗北で、かなり苦しい状況に追い込まれるだろう。

それでは、李在明氏で決まりかといえば、そうとも限らない。李在明氏は与党の非主流派であり、文派と呼ばれる文在寅支持派とは距離がある。初秋に行われるとみられる党の統一候補選びで、文派が対抗馬を立てれば、そちらに急速に支持が流れる可能性もある。

一方、野党側には有力な候補が見当たらない。今は、文在寅政権との確執のうえに辞任した尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検事総長が世論調査で3割を超える人気を集めている。尹氏は2日、父親と一緒に不在者投票を行った。韓国の与党関係者は「父親は元大学教授で高齢者。ホワイトカラーと高齢者層を意識した演出ではないか」と語り、尹氏が大統領選を意識しているとの見方を示す。

政界関係筋によれば、尹氏は最近、親しい大学教授に会い、「政治経験のない自分が、大統領選に立候補して良いだろうか」と相談したという。ただ、尹氏は現時点で、最大野党「国民の力」に入党する動きを見せていない。「国民の力」や「国民の党」など野党の再編を期待しているのかもしれないが、元々組織票がない尹氏が無所属で立候補して勝てるという保証はない。

また、尹氏への高い支持率は、「アンチ文在寅」という反発から来るもので、いったん、イメージが壊れると簡単に支持率は下がっていくだろう。

結局、大統領選は与党「共に民主党」と野党「国民の力」が推す候補のマッチレースとなり、その時点での争点が何になるかで、勝敗が左右される可能性が高い。今のところ、一番話題になりそうなのが、経済と生活の問題だ。不動産価格が大統領選までに劇的に下がる可能性は低いし、新型コロナウイルスの感染拡大がその時点までに終息しているという見通しも立っていない。

現在、政権を担っている与党には厳しい展開だが、候補者が無党派層にとって魅力的なアイデアを示せば、どうなるかわからない。別の政界関係筋も「政治と書いて“ウソ”と読む。要はプレゼンテーション能力が勝負を左右するんだ」と語る。

外交・安全保障の通信簿は「1」?

では、日本にも影響が及ぶ外交・安全保障関係はどうなっていくだろうか。

日韓関係だが、文在寅政権の姿勢は明らかに1年前とは変わった。それまでは、保守との政治闘争に勝つため、日本を利用してきた。自分たちの対抗勢力に対し、韓国人が公では反対しにくい「親日派」というレッテルを貼りまくった。その勢いで、2015年12月の日韓慰安婦合意を反故にし、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄にも一時動いた。

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しかし、南北関係や米韓関係でも成果を上げられず、「外交の通信簿は1」がつきそうな事態に陥った。行き詰まった状況を回避するため、日韓関係の改善を目指すようになり、最近では、旧日本軍の従軍慰安婦に関する米ハーバード大教授の論文を巡る論争でも、「アカデミズムの問題」として、日本を刺激しないよう問題に介入しない姿勢を示している。

だが、日本が関係改善の前提と位置づけている徴用工・慰安婦判決問題では歩み寄りがみられない。日韓は1日、局長級協議を行ったが進展はなかった。日本政府は日本企業や政府の韓国内資産に対する強制執行を行わない保証を求めている。

複数の関係筋によれば、韓国側は、韓国政府が賠償を肩代わりする「代位弁済案」について原告の元徴用工や元慰安婦、遺族らの感触を探っている。一部の原告はこの案を受け入れる考えを示しているものの、受け入れを拒む原告もあって、膠着状態に陥っているという。

今となっては、文在寅政権が掲げた「被害者中心主義」が自分の足を引っ張る結果になっている。韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相は3月31日の記者会見で「日本が2015年の(慰安婦)合意精神に従い、反省して誠意ある謝罪をすれば、問題の99%は解決される。日本の決心によっては容易に解決することもできる」と語った。

これは、言い換えれば「自分たちの解決案を後押ししてほしい」という意味だが、日本側は「慰安婦合意が最終的な解決だと納得したのは、韓国ではないか」(政府関係者)という反応だ。

文政権の急速な「レイムダック」も

そして、ソウル市長選での大敗は、文在寅政権の急速なレイムダックを引き起こすことになる。文在寅政権の支持率は今なお、3割を超えており、歴代大統領の同時期のそれよりも高い数値を保っている。これはコアな進歩(革新)支持層がまだ崩壊していない証拠だが、今後は、大統領選に向けた与党内の候補者選びに焦点が移る。

そうなると、コアな進歩(革新)支持層を失いたくないため、彼らが好む、日本に厳しい政策に再び舵を切る可能性がある。少なくともこれ以上、日本に譲歩することを、与党は嫌がるだろうし、文在寅政権がそれを望んだとしてもできない状況に追い込まれていくだろう。

文在寅政権が最大の関心を示した南北関係も厳しい。北朝鮮は、伝統的な非核化外交に回帰する姿勢を示しているバイデン米政権との交渉に期待感を持っていない。米朝関係が進まない以上、制裁の緩和はありえず、南北関係を進展させる考えもない。だから、朝鮮労働党の金与正(キム・ヨジョン)宣伝扇動部副部長が3月30日に発表した談話で、文在寅大統領を「米国産のオウムと称賛しても差し支えない」と揶揄する事態に至っている。

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金与正氏(photo by gettyimages)

そればかりか、北朝鮮は米中関係の悪化を利用して、中国に接近する姿勢を示している。中国は中国で、日米韓防衛協力を強化させてはならないとばかり、韓国に対して米軍の高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の追加配備や日米が主導するミサイル防衛への参加を拒むよう迫っている。

どちらも、北朝鮮のミサイル攻撃を防ぐためには必要不可欠な要素だ。韓国も地政学的な要素もあり、中国の意向は無視できないところだが、安易に接近し過ぎると、それこそ、北朝鮮の「赤化統一」への野望を誘発させることにつながりかねない。

韓国大統領府元高官は、現在の文在寅政権の心境について「できれば、南北政策をずっと推進したい。でも任期は後1年しかない。米韓関係を最悪の状態にして次の政権に引き継ぐわけにもいかない。この2つの考えの間で苦悩しているはずだ」と推測する。そして「自分のやりたいことは発信し続けるものの、結局は何の成果も得られず、米国について行かざるを得ない結末を迎えるのではないか」と語った。

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