飛行時間の増加で疲弊する乗員・乗客 「ロシア上空回避」はいったいいつまで続くのか

飛行時間の増加で疲弊する乗員・乗客 「ロシア上空回避」はいったいいつまで続くのか

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  • 更新日:2022/05/20
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フィンエアーはロシア上空を飛行できなくなったことで影響が大きい(画像:シカマアキ)

日本~ヨーロッパ間のルートが大幅変更

ロシアによるウクライナへの武力侵攻は、日本をはじめとする東アジア諸国とヨーロッパを結ぶ旅客および貨物の発着便に、多大な影響を及ぼしている。冷戦時代以降、ロシア上空を飛行するルートが一般的となり、距離・時間とも最短だった。しかし現在、飛行時の危険などを回避するため、多くの航空会社がロシア上空を迂回する飛行ルートに変更。ロシアの南を飛行する「南回り」、また北極圏を通過する「北回り」の各ルートでの運航となっている。

【画像】北極圏を通過する「北回り」ルートを見る(11枚)

ロシアがウクライナに侵攻した当初、各航空会社はいったんほぼ全便を欠航に。その後、通常より少ない便数で、より飛行時間のかかる迂回ルートに変更して運航再開した。ロシアとウクライナによる戦争はこう着状態にあり、先行きはいまだ不透明だ。通常ルートでの再開は早期的に見込めないとして、2023年3月までの欠航をすでに決めた航空会社や路線もある。

同じ日欧間でも、航空会社や路線、また往路と復路でルートが違うケースも見られる。中には、直行便だけでなく経由便として運航する航空会社も。いずれにしても、通常より飛行時間が長くなってしまい乗員乗客ともに負担が増えている。価格高騰が続く燃料を考えても厳しい。航空券の運賃も高止まり状態が当面続きそうだ。

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JL41便、NH1923便、羽田発ウィーン行きの「南回り」ルート(画像:FlightAwareより抜粋)

大半の航空会社は「南回り」

ロシア上空の迂回ルートとして、ロシアの南を飛行する南回りルートを選択する航空会社が多い。ただ中には、北極圏を通過する北回りルートをあえて選ぶ航空会社もある。

日本航空(JAL)は、東京(羽田)~ロンドン線、ヘルシンキ線、パリ線の3路線で、日本発の往路は北回り、ヨーロッパ発の復路は南回りといった具合に、行き帰りで違うルートで運航する。JALは当初、往復ともに過去に運航実績のある「ポーラールート」と呼ばれる北回りで運航していたが、2か月あまりでその方針を変更した。

JALがロンドン線、ヘルシンキ線をまず運航再開した背景には、JALと提携関係にあるブリティッシュエアウェイズやフィンエアーの存在が挙げられる。JALにとっては、他のヨーロッパ各都市への乗り継ぎがスムーズにしやすいこと、機体整備などで協力してもらいやすいなどのメリットがあったのだ。

一方、全日本空輸(ANA)は、ロシアの侵攻当初から往路、復路とも南回りでの運航にした。外資系航空会社では、エールフランスやKLMオランダ航空(KLM)、ルフトハンザドイツ航空も南回りだ。ただ、フィンエアーの成田~ヘルシンキ線、スイスインターナショナルエアラインズの成田~チューリッヒ線などは、JALと同じく日本発が北回り、ヨーロッパ発が南回りと往路と復路でルートを分けている。

どちらのルートでも、飛行時間が増えることには変わりはない。JALの羽田~ロンドン線の場合、以前の所要時間は羽田発ロンドン行きが12時間40分、ロンドン発羽田行きが11時間55分だった。現在では、それぞれ15時間40分、16時間30分かかる。復路を南回りにすると、飛行時間を1時間半ほど短縮できるというが、それでも通常より3~4時間ほど多く時間がかかる状況だ。

飛行時間が増えると、搭載する燃料の量が増える。それに伴い、搭載できる貨物の量が減る。コロナ禍では貨物需要は非常に高い。また、乗員の連続勤務時間が労働に関する法律に抵触する国もある。

そのため、ANAは羽田・成田~フランクフルト線の往路をオーストリアのウィーン経由、JALの成田~パリ線がアメリカ・シアトル経由として、一時期設定された。KLMはコロナ禍より便数を減らし、成田と大阪発着で往路・復路ともに韓国・ソウル(仁川)経由で、運航を継続中だ。

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韓国の仁川国際空港第2ターミナル。2022年4月撮影(画像:シカマアキ)

欧州行き「南回り」に搭乗

飛行時間が増えると、乗客乗員ともに負担が間違いなく増える。

筆者は2022年4月、ヨーロッパへ向かうのに、KLMの大阪発アムステルダム行きに搭乗した。ソウル経由で合計17時間20分。ちなみに、以前のロシア上空を通過する直行便だと11~12時間だった。

大阪からソウルまでは約1時間半。この区間での機内はとてもすいていた。ソウルでいったん降機して保安検査を受け、約2時間の乗り継ぎ時間を経て再び搭乗。韓国人が多く、大型機のボーイング777-300ER(最大乗客数408人)がほぼ満席となった。

ソウル~アムステルダム間の所要時間は、約14時間。機内食は2回、その間に映画を見たり寝たりしてもまだ到着しないのは、やはり長い。満席のエコノミークラスだと相当辛い。ヨーロッパが遠くなったことを実感した。ちなみに、ソウル経由は乗員の勤務時間調整や給油などが、変更理由として表記されていた。

以前のロシア上空を飛行できた頃は、例えば、日本と北欧の間で直行便を運航するフィンエアーだと、最短9時間30分だった。「最もヨーロッパに近い航空会社」として当時、主に中高年の参加者が多い旅行会社のツアーなどで人気が高かった。

現在、フィンエアーは成田~ヘルシンキ線のみ運航し、所要時間は約13時間。成田以外の大阪、名古屋、福岡、札幌の各路線は2023年3月末までの欠航が決定済みだ。他社も含め、東京~ロンドン線、フランクフルト線のようなビジネス需要が高い路線以外は、しばらく厳しい状況が続きそうだ。

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JALロンドン便でも使用されているボーイング777-300ER(画像:シカマアキ)

アンカレッジ経由は再実現せず

ロシア上空の迂回ルートを余儀なくされる事態は、過去の冷戦時代にさかのぼる。

当時、日本~ヨーロッパ間の路線はアメリカ・アラスカ州のアンカレッジ空港を中継するのが一般的だった。そのため今回も「アンカレッジ経由が復活するのでは」との臆測が飛んだ。

しかし現在のところ、アンカレッジを経由する路線はゼロ。現在の進化した航空機は、日本~ヨーロッパ間を直行で飛べる航続距離の性能を備えている。途中で給油や中継をした場合、スタッフを配置したり給油設備を整えたりする必要もある。しかも、アンカレッジで乗り継ぎする旅客はそう多くはない。中継せずに一気に飛ぶ方が効率的なのだ。実際、シンガポール航空のシンガポール~ニューヨーク線(18時間30分、約1万6000km)のノンストップ便も運航されている。

今後の見通しは、ウクライナ情勢次第だ。ただ、その情勢はいまだ収束する気配はない。ロシア上空を迂回する現状は少なくとも数年、さらに数十年と続く可能性もある。

ビジネスや一時帰国といった需要が高い路線を中心にいくらかの発着便は運航されるものの、コロナ前の水準に戻ることは当面ないだろう。レジャーの需要は世界情勢に左右され、運賃が高止まり状態では旅行もしづらい。飛行時間が長くなると、体力的にも厳しい。

飛行ルートは、現在の南回りと北回りが当面は併用されるだろう。ANAは4月末に羽田発ウィーン経由フランクフルト行きの南回りを今後、北回りで羽田発フランクフルト行きの直行便とすることを発表した。飛行時間は偏西風の影響を受けて変わる。往路をJALと同様に北回りで直行すると、3時間ほど短縮されるという。この傾向は他社、他路線も続くことも考えられる。

シカマアキ(旅行ジャーナリスト)

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