日本人が知らない「創造的破壊」の正しい活かし方

日本人が知らない「創造的破壊」の正しい活かし方

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/11/30
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資本主義の力を使ってサステイナブルで平等な成長を実現する方法とは(写真:metamorworks/PIXTA)

経済成長論の権威であり、フランスをはじめ、世界最高峰の大学で教鞭をとるアギヨン教授が行った連続講義をまとめた書『創造的破壊の力:資本主義を改革する22世紀の国富論』の邦訳がついに出版された。

コロナ後の厳しい世界で、私たちが資本主義を改革し、その力を持続的で平等な成長と繁栄に結び付けるにはどうすればいいかを示した本書の一部を、抜粋・編集して紹介する。

資本主義を放棄してはいけない

広く世界を見渡せば、不平等の拡大、企業利益の極端な集中、雇用不安定の増大、劣悪な公衆衛生、環境破壊といった問題がある。これらは数十年前から議論されてきたことだ。

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経済システムそのものの根本的な改革が必要ではないのか、いやもっと言えば資本主義を放棄すべきではないのか……。

本書の主張は、資本主義にまさるシステムを探すよりも、資本主義をより適切に運営すべきだというものである。創造的破壊の力を活かせばそれは可能だ。

創造的破壊には、何よりもまず、成長を生み出す驚くべき力がある。200年足らずの間に想像を超える繁栄へと社会を導いてきたのは創造的破壊にほかならない。

本書は経済史を通して世界を見る旅に出る。この旅では、創造的破壊というレンズを通して経済成長の謎を探っていきたい。

創造的破壊は資本主義の原動力

創造的破壊とは、新しいイノベーションが次々に生まれて既存技術を時代遅れにし、新しい企業が絶えず既存企業と競争し、新規雇用と事業が続々と創出されて既存の雇用と事業に置き換わっていくプロセスのことである。

創造的破壊は資本主義の原動力であり、無限の再生を可能にするが、同時にリスクや混乱ももたらす。よって適切な規制や指導のあり方を学ばなければならない。

本書の目的は大きく分けて3つある。

第1は、世界の経済成長プロセスに伴う歴史上の大きな謎を解き明かすことである。

19世紀の産業のテイクオフ、技術革新のビッグウェーブ、長期停滞、不平等の拡大、国家間の生活水準の収束と乖離、脱工業化と産業構造の変化などを取り上げる。

第2は、先進国におけるイノベーションと経済成長をめぐる課題を改めて論じることである。

イノベーションと創造的破壊は、持続可能性の実現や不平等の削減と両立するのだろうか。

創造的破壊が市民の雇用や健康や幸福に与えかねない負の影響を防ぐことはできるのだろうか。情報技術(IT)や人工知能(AI)の革命は人間にとって脅威なのだろうか。

第3は、政府と市民社会の役割を改めて考え直すことである。

イノベーションと創造的破壊を促し、ひいては国をゆたかにするために、それぞれはどんな役割を果たすべきだろうか。資本主義の行きすぎから経済と市民をどのように守るべきだろうか。

闘う楽観主義

創造的破壊を成長の原動力と評価したシュンペーターでさえ、資本主義の未来について悲観的だった。

資本主義が発展すると、やがて大企業による中小企業の吸収や駆逐が起き、不完全競争に陥る。企業家の意欲は減退し、官僚と既得権益が幅を利かすようになるという。

一方、国家と資本主義の規制について論じた本書の最後は楽観的な結びの言葉で終わる。ただし「闘う楽観主義」であることを付け加えておかなければならない。

マルクスの有名な言葉にもあるように、「哲学者たちは世界をさまざまに解釈してきたにすぎない。重要なのは世界を変えることだ」。

国のゆたかさを表す新しいパラダイムがなぜ必要か

この問いへの答えは単純明快である。既存のパラダイムは大きな変化を表すにも成長や繁栄の謎を解くにも不十分だとわかったからだ。

理論的な理由からも実証的な理由からも、新しいパラダイムの開発が待ち望まれる。

まず、理論的な理由を説明しよう。1980年代末までは、経済成長は資本蓄積によって実現するという学説が支配的で、これは新古典派モデルと呼ばれた。

エレガントなソロー・モデル

中でも最もエレガントだったのは、ロバート・ソローが1956年に開発したモデルである(ソローはこの功績によって1987年にノーベル経済学賞を受賞した)。

シンプルでエレガントなソロー・モデルは、経済成長を解明するあらゆる試みの出発点となっている。

ごくおおざっぱに言えば、このモデルが描くのは生産に資本を必要とし、資本ストックの増大がGDPを増やすような経済である。ではどうやって資本は増えるのか。家計の貯蓄によって、である。

貯蓄は生産すなわちGDPの一定比率に等しいとされている。となれば、この経済はきわめてうまくいくように見える。貯蓄によってファイナンスされた資本が増えるほど、GDPは増える。GDPが増えれば貯蓄が増える、という具合になるからだ。

言い換えれば、この経済は資本蓄積の効果のみで持続的な経済成長を生む。とくに技術の進歩は必要としない。

だがここに悩ましい問題が生じる。収穫逓減(ていげん)である。たとえば生産要素の1つである機械の投入量を増やしても、それに伴う生産量の増分は投入量の増加とともに減少する。よって貯蓄の増え方も減り、したがって資本蓄積の増え方も減る。

こうしてある時点から経済は停滞し、成長しなくなる。ソローがみごとに説明したとおり、持続的な成長を生み出すためには、技術の進歩によって機械の質を向上させる、すなわち生産性を向上させることが必要だ。

ただしソローは決定因となる技術の進歩について、とくに何がイノベーションを促し何が阻むかについて、十分に分析していない。

新古典派モデルには答えられない問い

次に実証的な理由だが、いま述べたように、新古典派の成長モデルは長期的な成長の決定因を説明できない。成長プロセスをめぐる一連の謎の解明はもっとできない。

一部の国はほかの国より速いペースで成長するのはなぜか、一部の国の1人当たりGDPは先進国の水準に達するのに、ほかの国はいつまでも低水準にとどまるのはなぜか、また途中で足踏みしてしまうのはなぜか。

以上のように理論、実証いずれの面でも既存のパラダイムは不十分だ。そこで私たちは、まったく新しい分析の枠組みを開発したいという誘惑に駆られたわけである。

創造的破壊のパラダイム

創造的破壊のパラダイムに基づく成長モデルは、オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが提唱した次の3つのアイデアから着想を得ているため、シュンペーター理論に基づく成長モデルと呼ばれることもある。ただしこれまで厳密にモデル化され検証されたことはなかった。

3つのアイデアの第1は、イノベーションと知識の普及が成長プロセスを支えるということである。

長期的な成長は、新しいイノベーションの開発者が過去の知識の蓄積すなわち「巨人の肩の上に乗って」積み上げたイノベーションの結果として実現する。この見方は、技術の進歩なしには長期的な成長は起こり得ないというソローの結論とも一致する。

知識の普及と体系化があって初めて、イノベーションは次のイノベーションを生み出すようになる。巨人の肩の上に乗ることができなかったら、シジフォスの神話のように毎回ふもとから同じ山を登らなければならない。

第2は、イノベーションの創出にはインセンティブと知的財産権の保護が欠かせないことである。

イノベーションは社会的プロセス

イノベーションがもたらす超過利潤を追求する企業が果敢に投資を、とりわけ研究開発投資をするからこそ、イノベーションは創出される。よって利益の確保を可能にする要素、とくに知的財産権の保護にはイノベーション投資を促す効果がある。

逆に、知的財産権が保護されないとかイノベーションの利益に懲罰的な課税が行われるなど利益が脅かされるような状況では、イノベーション投資は進まない。一般に、イノベーションは制度や政治によるインセンティブがプラスなら促進され、マイナスなら減退する。この意味でイノベーションは社会的なプロセスだと言える。

そして第3のアイデアは、創造的破壊である。

新しいイノベーションは過去のイノベーションを陳腐化させる。別の言い方をするなら、創造的破壊による成長は、新しいものと古いものとの衝突を恒常的に引き起こす。よって既存企業とりわけ大企業は、自分たちの守備範囲への新規参入を阻止するか、せめて遅らせようと戦い続けることになる。

こうしたわけだから、創造的破壊は成長プロセスそのものにある種のジレンマをもたらす。一方で、イノベーションに報い、イノベーションの意欲を高めるには超過利潤が期待できなければならない。

だがその一方で、その超過利潤が将来のイノベーションを邪魔するために使われてはならない。

資本主義を資本主義者から救う

先ほど述べたように、シュンペーターは資本主義の未来について悲観的だった。資本主義は、新しいイノベーションを阻もうとする既存企業の企てを抑えられないがゆえに衰退するという。

だが私たちは、このジレンマを乗り越えること、言い換えれば資本主義を適切に規制することは可能だと考えている。

ラグラム・ラジャンとルイジ・ジンガレスの著作のタイトルを借りるなら、「資本主義を資本主義者から救う」〔邦訳『セイヴィング キャピタリズム』慶應義塾大学出版会〕ことはきっとできるはずだ。

(フィリップ・アギヨン,セリーヌ・アントニン,サイモン・ブネル)

フィリップ・アギヨン,セリーヌ・アントニン,サイモン・ブネル

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