小山薫堂さん「"愛と時間”で輝きが増す。それがラグジュアリー」

小山薫堂さん「"愛と時間”で輝きが増す。それがラグジュアリー」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/10/17
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2019年FRaU12月号「世界ときめく日本ラグジュアリー」特集号では「入浴体験ほど、ラグジュアリーなものはない」と、究極の湯の道「湯道」について語ってくださった小山薫堂さん。「偶然を出来事にできると世界はいきなり魅力的になる」という日常での考え方のヒントから、「愛され力のある商品こそがほんもの」「文化はモノを通さないと伝わらない」などラグジュアリーの本質、「日本ならではの慮(おもんぱか)る力」など、日本ならではのラグジュアリーについても、たくさんの心に響く言葉をいただきました。引き続きJapan’s Authentic Luxury(略称JAXURY)のテーマで、今回は、薫堂さんが近頃気になるラグジュアリーなことについて「愛着のあるもの」を通して語っていただきました。

そもそも『JAXURY』とは?
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愛着=愛され力のあるものがラグジュアリー

最近、僕は愛着という言葉を素晴らしいと感じることが多くなりました。
“愛を着せる”という日本語ってすごいと思いませんか?愛を着せかけたくなるもの、そういうものこそがラグジュアリーなんじゃないかなと。それは、逆に言えば愛される力のあるもの。愛の衣を着せれば着せるほど愛がコーティングされて、どんどん輝きを増していく。だから時間にも耐えうるし、経年優化でまた別の価値も生まれていくのだと思います。

ものの価値は数字では計れない「もの自身が持つ力」

ものの価値を決める評価軸は、広さや価格などの数字であることが多いけれども、本当はそういった数字では決してはかれない愛着度合いみたいな、そのものが持っている力によると思うのです。だから、同じものでも人によってその捉え方が異なることもあるはずです。例えば、父親から譲られた時計を大切に使っている人にとって、その時計はラグジュアリーだけれども、価格を評価軸とする人にとってそういう時計はラグジュアリーではないでしょう。それは、ワインの評価軸にも言えることです。

ワインと人の「巡り合い」を創る仕事、ソムリエ

「ソムリエほどずるい職業はないよ」と、よくソムリエに話すのですが、何故かといえば……ワインを飲んだ人が「美味しい!」と思う瞬間に立ち会える、いわばいちばん美味しいところを持っていく職業だから(笑)。でも、どの人に、どのタイミングで、どのワインを勧めるのがベストかということを判断するのがソムリエの力で、言い換えればワインと人を巡り合わせる力がある職業なのです。ワインの立場になって考えてみると、それがいかに大事なことかがわかりますよね。

ワインの価値の創造の割合としては生産者と同じくらいの責任を担っていると思います。だから、ずるいけどとても尊い職業。ものを作るわけではないけれど、消費者が感じる価値を大きく左右する職業ってソムリエのほかには思い浮かびません。ソムリエという職業は、ワイン側の立場に立って、巡り合いや出会いというものを創造していくという点で、非常にクリエイティブだと思います。そして、愛がある。ラグジュアリーとは、そのもの自体に魂を感じられるくらい、人が愛を注ぐことでもあると思うのです。

日常の中の非日常。触るだけで心地いい愛着ある茶碗

これは陶芸家、辻村史朗(辻村の「つじ」は、正しくは一点しんにょうです。以下※同)さんの抹茶茶碗です。普段、自宅や会社でお抹茶をいただくときに使っています。器の愛好家垂涎、海外での評価も高いという※辻村史朗さんの器は、※辻村さんの純粋な生き方を映し出しているかのようにあくまでもさりげない。手に馴染むというか、触っているだけで心地いいなあと感じる。そういうものっていいですよね。手にしたときの、この不思議な心地よさって、男性が好きな女性を触りたくなる感じに近いと思うんです(笑)。だって、その感じって理屈じゃなくて本能みたいなものでしょう?

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薫堂さんが手に取る様子がとても自然に感じられる、※辻村史朗作の抹茶茶碗。

お気に入りの茶碗が幾つかあって、「今日はこんな陽気だから黒楽にしよう」といった具合にその日の気分で選んでお茶をいただきます。ずっと触っていたいような、なんとも言えない心地よさに愛着を感じます。

受け取る喜び、送るワクワク感。 手紙ってラグジュアリー

僕は三カ月ほど前から、大好きな画家の黒田征太郎さんと文通をしています。作品のような絵葉書がいっぱい届いて、多い時は1日に4通届いたことも。超かわいいでしょう!手紙ってすごくいいですよね。時間を作って、相手のことを想いながら文を書き、切手を貼ってポストに投函する。手紙を受け取る喜びと手紙を送るワクワク感、手紙ってラグジュアリーだと思いませんか。

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日に四通も届くこともある、黒田征太郎さんの手紙。

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ペン画にクレヨン画にコラージュまで、楽しくて、まるで黒田征太郎さんの作品集!

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薫堂さんが贈ったお酒とその箱に、さらに黒田さんが描き、また薫堂さんのもとへ。

僕は何事も道具から入ることが多いのですが、手紙を書きたくなる道具として自分用の一筆箋を愛用しています。原稿用紙をオーダーしている、浅草の『満寿屋』で作った一筆箋で、こういう愛着のある一筆箋があると手紙を書きたくなります。「薫堂用箋」のほかに、数年前に脚を骨折して入院した際、「惚節庵」(こっせつあん)と名付けた病室で、お見舞いに来てくださった方にお抹茶をふるまったのですが、その時にも「惚節庵」という一筆箋を作り、病室から手紙を書きました。

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一筆箋も、書き慣れたマス目なら筆も進む。原稿用紙を薫堂さんが作っているのは、川端康成など名だたる文豪が頼んでいたことで知られる満寿屋。そこで作った「薫堂用箋」。骨折入院した折は「惚節庵」(こっせつあん)という一筆箋もつくり病室から手紙を書いた。

手入れして使い続ける「一生もの」を手に入れる喜び

それから、僕は最近、『EYEVAN』(アイヴァン)でべっ甲の眼鏡を買ったのですが、その値段はなんと、120万円。眼鏡の値段としては高いとは思いますが、一生ものの眼鏡を持つんだという決意が生まれて、代々受け継いでいくイメージで購入しました。これだけ思いを込めて買ったものは、絶対に丁寧に大切に使うはずだから。
べっ甲という天然の素材は、使うほどに微妙に色が変化して、磨けば輝きを取り戻し、何より修理できるのがいい。手入れをしながら長く使い続けることができます。シンプルなデザインで、これ見よがしな感じがなく、控えめなものを選びました。

代々受け継がれるものというと時計が思い浮かびますが、時計よりも自分の近くにあって、自分が見つめているものを共に見つめていると思うと、より一層、愛着を感じます。また、『EYEVAN』というブランドは、石津謙介さんが創設したヴァンヂャケットと山本光学が“着るメガネ”をコンセプトにスタートさせたアイウェアブランドで、デザイン性の高さや、本物を追求し、いいものを末長くというブランドの姿勢にも共感できます。

手に持ったときの柔らかさ、心地よさは※辻村さんの茶碗と同じで、常に触っていたいという気持ちになり、愛着がわきます。

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シンプルなデザインで派手さはなく静かに存在感を放つ、EYEVAN(アイヴァン)のべっ甲の眼鏡。

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「経年優化」で魅力が生まれ、愛着度合いが増す楽しさ。

これは、徳島の若い革職人さんが僕のために作ってくれた名刺入れです。僕が財布を持たず、名刺入れにクレジットカードとお札と領収書と名刺を入れて使っていることを知って作ってくれました。藍で染めた革は使い始めた頃は硬かったけれど使ううちにどんどん馴染んで、今はとても使いやすくて愛着があります。藍という天然の染料は人体に無害で、時間の経過とともに色が変化するのも魅力です。

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深く濃い藍色に染められた名刺入れ。色、質感ともにこれも経年変化が楽しみ。財布を持たない薫堂さんは、これ一つにカードもお札も入れて使う。

そしてこのポーチ、元は白いキャンバス地でした。とても使いやすくて長年使ううちにかなり汚れてしまったのですが、これも藍で染めてもらったらすごくカッコよく生まれ変わり、また使い始めました。愛を着せるためには時間も大切な要素で、長持ちするかどうかは大きいですよね。時間の経過によって輝きを失うものは決してラグジュアリーじゃないと思うから。長く向き合っても飽きない、飽きるどころか愛着度合いが増す、経年優化で新たな魅力が生まれるものなど、愛され力のあるものがラグジュアリーなのだと改めて思います。

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結果的に、フランス&日本の職人の技術力のコラボによってまだまだ使えそうなポーチ。

粋とは“和ませること”かもしれない

そして、愛され力のあるものに僕は「粋(いき)」を感じます。粋って、和ませることなんじゃないかと思うのです。ラグジュアリーなものって、それで威嚇したくなる人が多いし、そういうつもりがなくても「わあ、凄い!」「高そう!」などと思わせて、結果的に威嚇してしまうことだってあるはず。僕は、威嚇するどころかむしろ和ませたり、くすっと笑わせたりするものにこそ粋を感じて、とても愛おしくなるのです。

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インタビュー後、ふと見ると、薫堂さんの事務所内にある茶室「妙庵」(みょうあん)で、くまモンたちが談笑していました。左は、映画監督ソフィア・コッポラさんが描き、薫堂さんへ贈られた作品の掛軸。

PROFILE

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小山薫堂・こやまくんどう
放送作家、脚本家、ラジオパーソナリティー、京都芸術大学副学長。1964年熊本県生まれ。日本大学芸術学部放送学科在学中に放送作家として活動を開始。「料理の鉄人」「カノッサの屈辱」等、テレビ番組を数多く企画。脚本を担当した映画「おくりびと」は第81回米国アカデミー賞外国語部門賞を獲得。執筆活動のほか、地域・企業のプロジェクトアドバイザーなどを務める。また、2025年大阪万博のエリアフォーカスプロデューサーに就任。「くまモン」の生みの親としても知られる。代表を務める京都「下鴨茶寮」が『ミシュランガイド 京都・大阪+岡山 2021』で一つ星を獲得。

構成/齋藤素子
撮影/渡辺充俊(講談社)

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