日本で承認は20件だけ「AI医療機器」普及させる策

日本で承認は20件だけ「AI医療機器」普及させる策

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2023/01/25
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AI医療機器を普及させるための策とは?(写真: Graphs / PIXTA)

「人工知能 (AI)が人間の病気を診断するなんてありえない」

私がAIの研究を始めたばかりの2017年ごろ、よく医師仲間から言われた言葉です。

「AIを活用した医療機器」と聞くと、どのようなものを思い浮かべるでしょうか?「人工知能」という言葉からロボットのようなものをイメージする人もまだまだ、多いかもしれません。

AI医療機器が実際、現場でどう使用されているのかと言うと、医師の診断・診療サポート面での活用がメインになります。医師も人間です。人間である以上、知識、経験はもとより、体力や精神面などでどうしても診断、診療に限界があります。だからと言って、発見が難しい疾患を見逃したくない、判断が困難な診断や治療法を誰かに相談したい……。そのような医師たちの願いを補助する存在が、AI医療機器なのです。

実際にヘルスケアにおけるAIの活用は世界中で注目を集めており、市場は2020年時点で約1兆円、2030年までに約26兆円産業になるという民間の試算もあるなど、急成長を続けています 。

肺がんの可能性を見つける

日本で開発が進むAI医療機器には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。エルピクセル社が開発したAIソフトウェア『医用画像解析ソフトウェアEIRL Chest Nodule』は胸部X線画像から肺結節候補領域を検出し、該当部分に赤いマークを表示します。

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『EIRL Chest Nodule』胸部X線画像

医師による読影と、ソフトウェアを用いた場合を比較すると、放射線科専門医で9.95%、非専門医で13.1%の感度が上がることが認められています。

また同社ではAIソフトウェア『医用画像解析ソフトウェアEIRL Aneurysm』も開発しています。MRA画像から、動脈の瘤状の変形に類似した候補点を検出し、マークをつけることで、より精度が高い診断へとつなげます。

加齢に伴い患者数が増える、心房細動でも、検出をスピーディに行うAI医療機器の開発が進んでいます。

心房細動とは、心臓の心房が小刻みに震えて、血液を全身にうまく送り出せなくなる不整脈の一種のこと。血栓(血のかたまり)を形成しやすく、その血栓が脳の血管に運ばれて詰まると、脳梗塞を起こしてしまいます。

心房細動は長時間心電図検査などによる早期診断・治療により予防が可能となりますが、非専門医にとっては発見が難しく、心電図解析に多くの手間と時間を要する課題がありました。

カルディオインテリジェンス社が開発・販売する、長時間心電図解析ソフトウェア『SmartRobin AI シリーズ』では、心電図データをクラウド上にアップロードするだけで、24時間分の心電図波形を約5分で自動解析を行い、心房細動を特定します。

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カルディオインテリジェンス社が開発・販売する、長時間心電図解析ソフトウェア『SmartRobin AI シリーズ』

また、波形データ上で心房細動を色分けして表示するため、非専門医でも一目で心房細動がわかる仕様になっています。すでに多数の医療機関に導入され、長時間心電図検査における課題解決、不整脈診断を補助しています。

AIで「早期胃がん」の診断も

また日本人男性で9人に1人、女性で19人に1人がかかる「胃がん」も、AIサービスの開発が急がれる分野です。弊社AIメディカルサービスでは、早期胃がんの診断を支援するAIを開発しています。

胃がんは初期の段階で発見できれば恩恵は大きく、90%以上の確率で完治できますが、進行してしまうと命に関わる事態となりかねない「絶対に見逃してはならない疾患」だといえます。また胃がんの早期発見は経験豊富なベテランの内視鏡医師でも困難な場合があります。

「早期胃がんの診断支援内視鏡AI」は、医師が胃がんの診断の可能性がある病変を見つけた際、内視鏡の画像をAIに読み込ませると、病変が腫瘍性(がんもしくは前がん病変)なのか、そうでないのかの確信度(簡単に言うとAIがどの程度そうだと思っているかを示す値)を表示してくれます。患者さんに対して、さらに精密な検査を行うかどうかなどの判断材料になります。

ここまで、複数の事例を挙げましたが、日本の医療現場において、AI医療機器はどのくらい実用化されているのでしょうか。

正直なところ、まだまだ少ないのが実情です。2022年3月末の時点で、製造販売が承認されているAI医療機器は20件にとどまっています。なぜ、実用化が進まないのでしょうか。

大きく分けて2点の課題があると考えています

1つは、AI医療機器を世の中に出すには、「製造販売承認審査」を通過する必要があります。AIを開発できたとしても、直ちに医療現場で使えるわけではありません。審査に1年以上かかるケースもあり、承認後もバージョンアップごとに審査が必要なため、スタートアップを含めて、誰でも簡単に参加できるような市場ではありません。

また「製造販売承認審査」は、AI医療機器によって使われ方や効果効能が異なることもあり、共通の基準で審査しているわけではありません。開発の指針を明確にしづらい事情があります。

とはいえ、AI医療機器の発展のためには、より柔軟で合理的な審査プロセスの確立、迅速化が不可欠だと思います。

保険適用が進んでいない

もう1つは、AI医療機器への保険適用が進んでいない、という点です。日本の医療機関の半数以上は赤字経営だと言われています。厳しい経営状況のなか、AI医療機器を新たに導入してもらうためには保険という形で国による後押しが必要だと考えます。

以上の問題を解決するため、さまざまな取り組みも走り出しています。2019年5月には「AIを活用した医療機器の開発と発展を目指す協議会(略称:AI医療機器協議会)」が立ち上がりました。現在16の企業が参加し、政府や行政に対して、AI医療機器を社会実装するうえで実際に直面している現場の課題を提言しています。また、政府も「DASH for SaMD」と呼ばれるプログラム医療機器の実用化を促進する戦略を打ち出すなど、後押しをしています。

日本の平均寿命は男性81.5歳、女性87.6歳。世界有数の長寿国であり、医療レベルは世界でも高く評価されています。先人たちが質の高い医療体制を築き上げてきてくれたことが、実はAI医療機器の開発において大きなアドバンテージになっています。

日本には信頼できる膨大なデータも

AIの開発には「教師データ」と呼ばれる、AIが学習するためのデータが必要なのですが、このデータの質が悪いとうまく機能しないAIになってしまいます。信頼できる膨大なデータがある、という点で日本は世界において一歩リードしています。

この業界は立ち上がったばかりの黎明期。まだまだ、課題も多いですがAI医療機器は日本を代表する産業に大化けするポテンシャルも秘めています。「失われた30年」などと言われ、経済成長の鈍化が叫ばれる日本ですが、AI医療機器産業が現状を打破する突破口になる日が来るかもしれません。

(多田 智裕:AIメディカルサービスCEO)

多田 智裕

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