娘のために未承認薬を個人輸入。患者会を立ち上げ、ドラッグ・ラグ問題に取り組む【神経芽腫体験談】

娘のために未承認薬を個人輸入。患者会を立ち上げ、ドラッグ・ラグ問題に取り組む【神経芽腫体験談】

  • たまひよ ONLINE
  • 更新日:2022/11/25
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上の写真は、一乃さんが日常で服用している薬。

浦尻一乃さん(21才)は2006年12月、5才のときに小児がんの神経芽腫を発症しました。治療により一度は寛解したものの、10才のとき再発。再発治療後、日本で未承認の薬を個人輸入して使いました。お母さんのみゆきさん(52才)は、患者会の立ち上げを提案し、共同代表を務めています。未承認の薬を使う親の気持ちや、小児がんの薬のドラッグ・ラグ問題への取り組みなどについて聞きました。

初発の治療後、レチノイン酸の使用を主治医に否定され、使わないことに

一乃さんが16年前に発症した神経芽腫は、交感神経節や副腎髄質にある神経の細胞にできるがんです。脳腫瘍を除いた小児期にできる固形腫瘍の中で最も多い病気ですが、日本での年間の発症数は約200人で、子どもの病気の中ではそれほど多い数ではありません。

みゆきさんが「レチノイン酸」という再発予防用の薬があることを知ったのは、初発の治療後、同じ病棟にいたお母さんからの情報でした。

「私もそうでしたが、大半のお母さん・お父さんは、子どもが発症するまで神経芽腫という病名すら知りません。だから初発時は、ほとんど情報がないまま入院します。診断がついたあとも、今のようにインターネットですぐに情報が検索できる時代ではありませんでした。
一方、再発した子どもを持つ親は、寛解、再々発予防の可能性につながる情報を必死になって集めながら入院します。レチノイン酸のことを教えてくれたお母さんも、お子さんが再発での入院だったので、神経芽腫の情報をたくさん持っていて、貴重な情報をいろいろ教えてくれました」(みゆきさん)

レチノイン酸はもともとニキビの飲み薬として開発されたものですが、欧米では神経芽腫の再発を防ぐ効果があることが大規模な臨床試験で証明されており、再発予防の標準薬として使われています。しかし日本では承認されていないので、使用を希望する場合は個人輸入するしか方法がなく、もちろん保険は適用されません。

「初発時の退院前に、主治医にレチノイン酸の使用について相談しました。そのときの答えは『毒にもなるかもしれない薬をすすめることはできない』でした。私と夫も国が認めていない薬を使うことへの怖さがありました。薬のせいで一乃の命が奪われてしまうかもしれないって。そして、せっかく一乃に笑顔が戻ったのだから、リスクを冒すようなことはやめようと、夫婦で決めました。再発はしない、と自分に言い聞かせていたんです」(みゆきさん)

服用期間の指針がないレチノイン酸。やめたら再々発しそうで怖い・・・

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再発の治療を行いながら小学校5年生に進級した一乃さん。

しかし一乃さんが10才とき、定期検査で腫瘍が見つかり、再発していることがわかりました。

「レチノイン酸を使わなかったから再発したわけではなかったかもしれません。でも、再発を予防する可能性がある薬を知っていたのに使わなかった、そのせいで一乃を再び苦しい思いをさせることになってしまったと、自分を激しく責めました。と同時に、今回の治療が終わったら絶対にレチノイン酸を使うと決めていました」(みゆきさん)

8時間に及ぶ大手術で腫瘍を取り除いたあと、抗がん剤治療と放射線治療を受け、一乃さんは2012年7月10日に退院の日を迎えます。
退院後はレチノイン酸を使いたいと、そのときの主治医に相談したところ、「試してみたいのならフォローはします」という言葉が返って来たそうです。

「個人輸入するとはいえ、書類に病院名を書く欄があり、使用する量も医師に決めてもらう必要があるので、病院の賛同が得られないと、輸入することもままならないんです。初発時と主治医は変わりましたが、同じ病院だったので、4年の間に、日本国内でもレチノイン酸に対する考え方が違ってきているのかなと感じました。退院後に行う定期検査も、レチノイン酸を服用していることも踏まえて、状態を観察してもらえることになりました」(みゆきさん)

レチノイン酸は入手できたものの、添付文書に神経芽腫の再発予防で使用する際の用法・用量の記載はありません。そのため、「どの時点でやめるべきなのか、よくわからないまま服用を続ける人も多い」とみゆきさんは言います。

「アメリカでは6カ月をめどにやめるのがスタンダードなようですが、当然ながら日本には指針はありません。服用をやめたら再発してしまうのではないかという恐怖心から、服用を続けてしまうんです。一乃の場合は、『やめる時期は家族で決めてください』と主治医に言われました。

一乃には腎障害や腸障害などの合併症もあるので、レチノイン酸の副作用ではないかもしれませんが、身長が成長曲線から徐々に離れてしまい、小学校6年生のときには極端に外れてしまいました。一乃自身が周りのお友だちとの顕著な違いに生きづらさを感じ始めるようになっていたので、娘と相談してレチノイン酸の服用をやめました。服用期間は1年半でした。薬代はトータルで40万円弱かかりました。

でも、12才のとき寛解と診断され、現在まで再々発はありません。もちろんレチノイン酸を使ったことだけが理由ではないかもしれません。でも、レチノイン酸の服用を決断してよかったと考えています」(みゆきさん)

小児がん患者会ネットワークから、小児がんの薬に関する要望書を国に提出

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「神経芽腫の会」の小児がん啓発活動の「レモネードスタンド」でレモネードを販売する14才のころの一乃さん。隣にいるのはみゆきさん。

子どもの命を守るためには、子どもを苦しめている病気の正しい知識を得ることと、ドラッグ・ラグおよび未承認薬の解決が欠かせないと痛感したみゆきさん。神経芽腫は小児がんの中では多い病気とはいえ稀少疾患なので、神経芽腫の子どもを持つ親同士のネットワークが必要だと考えたそうです。

「同じような思いを抱いていたお母さんに患者会の立ち上げを提案し、2014年3月に『神経芽腫の会』を発足しました。2022年10月現在、150人弱の方が会員登録しています」(みゆきさん)

神経芽腫の会は会員の交流会や、小児がんの啓発活動である「レモネードスタンド」も行っていますが、小児がんの薬の問題を解決するための活動も積極的に行っています。

「欧米では再発予防効果の臨床データがあって普通に使われているレチノイン酸が、日本では患者の家族が自分で動かないと使うことができません。また、欧米では30年以上前から神経芽腫の治療に有効とされている小児MIBG内照射療法は日本では保険適用外治療のため、高額の医療費がかかります。こうした状況を変えるために、神経芽腫の会では、レチノイン酸と小児MIBG内照射療法に対しての要望書を国に提出しました。

しかし、このような現実は神経芽腫に限ったことではなく、小児がん全体に言えることです。神経芽腫の会は小児がん患者会ネットワークに参加しています。また、私は医療者、患者・家族、製薬企業も含めた社会全体と協力しながら、小児がんの薬の開発促進を目指す、小児がん対策国民会議の薬剤開発促進ワーキンググループに、患者会の立場から参加しており、小児がんの薬のドラッグ・ラグや未承認薬の問題解決に向けた活動に参画しています」(みゆきさん)

小児がん患者会ネットワークは、2022年10月6日、小児科医でもある自見はなこ内閣府大臣政務官に、11日、加藤勝信厚生労働大臣に、小児がんの薬の開発を進め、欧米とのドラッグ・ラグの解決を求める要望書を提出。その内容は、
①小児の治験を成人と並行して行うことを義務づける法制度の整備
②海外で有効とされる薬の早期承認
③がん遺伝子パネル検査で薬が見つかった場合に小児でも使えるようにする
④日本で開発された薬は最初に日本で使えるようにする
というものでした。

「要望書を提出する際、神経芽腫の薬剤のドラッグ・ラグと未承認薬のこと、晩期合併症のことなどをじかにお話しし、生存率の向上はもちろん、晩期合併症が軽減される薬剤が1日も早く子どもたちに届くよう、最善最短のアクセスができる制度の見直しや、法制度の必要性をお伝えしました。

欧米では使える薬があり、そのおかげで助かる子どもがいるのに、日本ではその薬が使えずに亡くなる子どもがいます。たとえ個人輸入ができたとしても、未承認薬を使う経済的負担や不安はずっとつきまといます。また寛解した子どもも、治療後の長い人生を、晩期合併症を抱えながら生きていなかければいけません。1人でも多くの子どもが笑顔で人生を楽しめるようになってほしい。これは国、規制当局、医療従事者、製薬企業、患者・家族が協働して対策を講じなければ実現できません。そして最終的には国がどう動くのかによるので、これからも患者家族の声を伝えていきたいと思います」(みゆきさん)

【富澤先生より】小児がんのドラッグ・ラグ問題は、医療従事者、患者団体、製薬企業、行政が共に行動する必要が

小児がんのドラッグ・ラグは、この10年余りで再び拡大傾向にあります。その最大の原因は、新薬の承認の前提となる小児がんに対する臨床試験の数が、欧米と比較して圧倒的に少ないことにあります。そこには、患者数が少ないこと、製薬企業の開発負担が大きいこと、小児がんの治験実施体制や研究予算、法制度の整備が不十分であることなど、さまざまな要因があります。
ドラッグ・ラグの解消には抜本的な制度改革が必要であり、医療従事者だけではなく、患者団体、製薬企業、行政の4者が一緒に考え、行動を起こすことが必要です。世界中どこの国でも、同じ病気にかかってしまったら、等しく治療の機会が提供されるべきです。そのような社会の実現に向けて、私たち医療従事者も患者さんとそのご家族とともに、声を上げていくことが必要です。

お話・写真提供/浦尻みゆきさん(神経芽腫の会共同代表) 監修/富澤大輔先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

医学の知識がないママ・パパが、わが子のための薬を個人輸入で取り寄せ、使うことには、大きな不安と負担が伴います。そんな事態を少しでも早く改善するために、今後国が取る対策が待たれます。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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