聖マリアンナ医科大学と考える「アフターコロナ」時代、求められる日本の医療の形とは

聖マリアンナ医科大学と考える「アフターコロナ」時代、求められる日本の医療の形とは

  • Medical DOC
  • 更新日:2021/10/14
No image
No image

withコロナというべき時代がやってきたといってもオーバーではありません。私たち医療を受ける側から、最先端の医療の担い手である大学病院への理解を深めることが大事です。医療現場のリアルを知るべく、聖マリアンナ医科大学のトップ3対談が実現しました。

No image

聖マリアンナ医科大学
理事長
明石 勝也

1982年聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、米国ジョンズ・ホプキンス大学循環器科に留学。1995年より、聖マリアンナ医科大学第2内科学助教授、救命救急センター長を経て救急医学教授を務める、2005年4月より現職。

No image

聖マリアンナ医科大学
学長
北川 博昭

1980年聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、米国カリフォルニア州ロサンゼルス小児病院、ニュージーランドオタゴ大学附属ウエリントン病院などで勤務。2006年より聖マリアンナ医科大学小児外科教授、2017年院長職を経て2020年4月より現職。

No image

聖マリアンナ医科大学病院
大学病院長
大坪 毅人

1986年聖マリアンナ医科大学医学部卒業。東京女子医科大学消化器病センター外科講師などを経て、2004年より同大学外科学教授に就任。2020年4月より現職。

No image

進行役
フリーアナウンサー
内田 恭子

1999年慶應義塾大学卒業。2006年フジテレビを退社後、フリーアナウンサー、タレントとして活躍。

No image

ダイヤモンドプリンセス号の 乗客受け入れ

内田さん

新型コロナウイルスの診療開始したときの決意と葛藤につきまして、教えていただきたいと思います。まずダイヤモンドプリンセス号の乗客の受け入れにつきましてはどのような体制で迎えられましたか? 明石理事長からお願いいたします。

明石理事長

当時は大学病院長であった北川先生、そして、副院長であった大坪先生が、乗客を受け入れるべきか私のところに相談にやってきました。受け入れたらスタッフの命も危ない、それから他の患者さんは来なくなるだろうとか、色々と考えました。これは大変なことが起きるであろうというのは皆分かっていたわけですが、本当に困っている人がいるわけですので、もう私たちがやるしかないという非常に単純な動機で、受け入れを決断いたしました。本学の救急担当者たちは、普段から「なにかあったら本学で診ます」という姿勢でやってきていますので、いつも通りにやれるのではないかという信頼がありました。ただ、負担に感じてしまうスタッフがいるかもしれない、看護師とか事務の方とか、そこは心配でした。

内田さん

困っている方がいたら手を差し伸べる。その理念で乗り出したということですが、当時の病院長としては今ほど解明されていないウイルスに対して受け入れるということは大きな判断ですよね。

北川学長

教職員がついてきてくれるか、当初は不安でしたが、皆がついてきてくれることが分かると、非常に先に進みやすくなりました。マスク、手袋、何もなくなった時にどう戦えばよいかという問題に直面した時にも、世界各国の物流システムや国内の物流システムの情報を迅速に提供してくれたり、また、家族への感染を恐れて帰宅を控える教職員が発生した時にも、滞在できる部屋を迅速に確保してくれたり、様々な部署の教職員が一致団結してサポートしてくれました。このようなサポート体制を迅速に構築して対応したことが、最初の歯車を回す一つのきっかけとなったと思います。

内田さん

素早い決断でしたね。

北川学長

そうですね、困った人がいたら手を差し伸べるというキリスト教的人類愛の理念が教職員に染み付いていることを実感した最後の2か月でした。

明石理事長

聖書の中に「光は闇の中に輝いている」という言葉があります。あのとき、私たちが希望の光になれるという思いがありました。また、それが喜びでもありましたので、学内ネットワークを通じて教職員へメッセージを送りました。「世界中の人々が暗闇の中にいるのだから、私たちが希望の光になろう」と。

内田さん

当時副院長として支えられた、大坪病院長はどのような姿勢で臨まれたのでしょうか。

大坪病院長

ダイヤモンドプリンセス号へDMAT隊(Disaster Medical Assistance Team:災害派遣医療チーム)の派遣要請が出た時に災害担当の副院長であった私は、直ちに災害対策本部の設置を病院長にお願いしました。乗客を引き受けると他の患者さんが来なくなるのではという心配はありましたが、私たちがやるしかないという思いで臨みました。

内田さん

本当に素晴らしい一歩であったと思います。コロナ禍で医療従事者不足問題や感染者用の病床数の増加など、人材、製品、場所、情報という観点から様々な問題があったと思いますが、大坪病院長いかがですか。

大坪病院長

それが、実はあまり苦労しませんでした。災害対策本部を設置して以来、これまで経験したことのない問題が続々と現場から上がってきましたが、全部その場で決断し、素早く現場に戻すことができました。そのようにして実行に移したことが次の日にうまくいかない場合は、土日問わず災害対策本部の会議を開催し、訂正し、解決していきました。また、決まったことを直ちに教職員にメールで配信したり、会議をオンラインに切り替えることにより、病院全体で本気で取り組んでいることを教職員に伝えることができたと思っています。皆が同じ目的に向かってチームとして進んでいる時には、誰もできない理由を言わず、「なんとかします」という返事でどんどん問題が解決できましたので、あまり苦労を感じませんでした。1−2ヶ月間休みなく会議を開き、問題に対して迅速に対応してきたことで、病院全体が本気でやっているんだなとわかるなかで、私たちもできないなんて言ってられないなっていう考え方が皆に伝わったと思います。

内田さん

お話を聞いているだけで病院全体が一致団結して一つの課題に取り組んでいる姿勢がとても伝わってきます。明石理事長、これはやはり日頃の積み重ねがあったからなのでしょうか?

明石理事長

メンタリティの面ではそうであると思います。3〜4年前から法人を上げてIT化に関しては相当力を入れてきました。ITを担当する役員もおりますし、インフラが相当整備されていました。そのような環境が既に整備されていたからこそ、教職員全体に決まったことを直ちに伝達することができ、また、学生教育も遠隔に直ちに切り替えることができました。更にはホームページや学内のポータルサイトの情報もどんどん新しいものに更新されるという環境が既にできていて、最大限に活用されたことが非常に大きかったと思います。

新型コロナ感染症後外来の設立

内田さん

ありがとうございます。聖マリアンナ医科大学が現在行っている有名な施策、後遺症に対する感染症後外来について、なぜ世界的に注目されているのか、またどうして導入が早かったかということについて、大坪病院長からお話をいただけますでしょうか。

大坪病院長

コロナ感染後に後遺症に悩まれる患者さんが増えるだろうというような先見の明があったわけではありません。各種報道や2020年11月頃に発表された様々な後遺症をまとめたレポートを見て、これは絶対大学でやるべきであると思いました。しかも、診療科間の連絡が密なところでやらなきゃいけないと。そこで、総合診療内科を中心に約10の診療科に集まってもらい、協力をお願いしましたが、皆二つ返事で担当を決めてくれましたし、さらには、画像診断部や検査部の協力の下、メディカルコーディネーターが予約に関して午前中に必要な検査を組んで午後から診察という1回の受診で済むような今の形を構築してくれました。皆病院の方向性をわかってくれて、誰もできない理由を言わずに、やってくれました。本当にコロナを真っ先に診てきた病院だからこそできた動きだと思っています。

内田さん

コロナに対していち早く対応したからこそできた結果かと思いますが、北川学長いかがでしょうか。

北川学長

コロナをきっかけに色々な診療科が今まで以上にまとまって、色々なアイデアを出し、このような体制を作れたと思います。このようなところがコミュニケーション能力にも繋がってくると思っています。特に大学の壁が高いと言われないように、学生時代からコミュニケーションを学んでいかなければいけないと思いますし、そして、さらに知識もあって研究もできるという人が育つ土壌を作りたいと思っています。

内田さん

確かに後遺症で悩んでいらっしゃる方、そしてすごく恐れを抱いている方は多いと思います。そういった中で専門外来があるということは、明石理事長、大きいですよね。

明石理事長

そうですね。私たちは医科大学ですから、蓄積したデータを後世のために、そして今悩んでいる人のために、科学的に解析して纏め、報告することも責務であると思います。

No image

今後の社会における 大学病院の在り方

内田さん

大学病院の弱体化、および今後の社会における大学病院の位置付けについてお伺いします。医療体制が逼迫した原因の一つである病院の在り方について、明石理事長からお話をいただけますでしょうか。

明石理事長

ほとんどの国民の方には、大学病院は高度な医療の提供、研究、教育を行う場所だと認識されていると思いますが、残念ながら医療法上の法的位置付けがありません。また、卒後の医師の教育システム等が大幅に変わったことで、大学病院から若い医師がだんだん減ってきています。そういう意味では、大学病院の弱体化は現実問題として起きていると思います。大学病院をきちんと位置付けすることが日本の医師教育の原点だと思います。
また、市中病院と大学病院とでは働き方の違いが大きく、同じ形に定めるには非常に無理があります。そのことは皆がわかってきています。ですので、こういうコロナのようなパンデミックが起きた際には、大学病院が余剰な医師を派遣する能力を担うと、もう少しうまく回るのではないか思います。
いずれにしても、医療法上における大学病院の法的位置付けをきちんと決めることが日本の医師教育の原点であると思いますので、今後は国民の認識に沿った法的整備やルール化を進めていく必要があると思います。

内田さん

北川先生は学長という立場でご覧になって、いかがですか。

北川学長

大学病院の弱体化という問題で私たちが気をつけないといけないのは、魅力のあるところには人が集まり、労働環境が厳しいところは手薄になるということです。厳しい先に夢があれば、皆そこへ向かってくれます。大学もクリエイティブな面を持ち、研究面でも将来の夢が描ける魅力を有することが大事です。それがないと弱体化に繋がってしまうと思っています。

内田さん

そうですね。その辺り、大坪病院長はどうご覧になりますか。

大坪病院長

現在の診療報酬体系の中では、大学病院はフル稼働していないと赤字になってしまう状態です。今回のコロナのような予期せぬ事態が起こった場合に、どこの病院も対処できるような予備力がないと思います。ある程度余裕がないと不測の事態に対処できません。そういったことも踏まえて、特定機能病院等、あるいは地域の中核病院には、そのような不測の事態にも対処できるだけのある程度の余裕を持たせるべきであると思いますし、大学病院としてはそういった予備力を積極的に持ち、いざというときに対応できる仕組みがあると良いと思います。

アフターコロナの医療現場

内田さん

ありがとうございます。アフターコロナの医療現場の形についてこれから伺っていきます。AI、IoT、5Gなどのテクノロジーが変える医療の世界についてお聞きしていきたいのですが、明石理事長はどうご覧になりますか。

明石理事長

治療に使う医療機器のデジタル化やAI導入はどんどん進んでいくと思います。しかし、医療の仕組みや患者さんの様々な情報はデジタル化の恩恵からまだ遅れがあります。特に患者さんが病院に持っていてほしい自分の情報と私たち病院が必要だと思う情報との間にギャップがあります。アフターコロナの時代はお互いがなるべく100%の情報を共有できるような病院と患者の関係を構築すべきであると考えます。ここで活躍するのは新しい医療情報の仕組みやデジタル化だと思います。現在、私たちはデジタルヘルス共創センターを設立し、ここで新しい時代へ向けた医療情報の在り方を創り始めています。なるべく早く現実にしたいと思っています。

内田さん

大坪先生は病院長としてデジタル化などを積極的に取り入れるお考えでしょうか。

大坪病院長

はい。デジタル化の進歩に期待しています。医療がどんどん高度になるにつれて内容が細分化されてきて、一つの治療法が以前よりも進化した分、その治療の工程も増えました。正しく治療を行うためにたくさんの工程があり、一個間違えると医療ミスに繋がる。現在皆極めて大変で、毎日100点を取らなくてはいけないという状況にあります。私はITにその辺のことをモジュール化してもらい、医療現場のスタッフの負担を減らすようなことを期待しています。

内田さん

デジタル化は教育の面からも入ってくるかと思いますが、北川学長、どう思われますか?

北川学長

本学では、学生教育が非常にデジタル化されています。リモートで通学しないでいい代わりに、学生が授業の内容を何回も繰り返して見られるシステムを作りました。実技や臨床実習はリモートではなかなかできないので、今後はシミュレーションを使った教育が非常に重要になってくると思います。シミュレーションの機器は非常に高額ですが、色々な補助を使いながら、できるだけ学生が現実と同じようなことができるような教育を進めていけると良いと思っています。

内田さん

例えばそういったオンライン診療や受診行動の変化、リモート診断によるデジタルの導入については、明石理事長いかがでしょうか。

明石理事長

更に活用できると思っています。診療に関しては前からできたと私は思いますが、診療報酬等の問題が発想を狭めている気がします。例えば遠隔で手術を指導するとか、診療のサポートを医者同士でやるとか、使い道はまだまだ色々あると思います。コストも下がってきていますので、もっと平易に導入が可能になっていくと思います。“Don’t hesitate”ためらわずにどんどん使っていく姿勢が大事だと思います。

内田さん

大坪病院長は、そういったオンライン診療等は今後更に広がっていくものだと思われますか。

大坪病院長

はい。実はコロナ禍前の2020年の診療報酬改定で、オンライン診療については認められていましたが、次回の診療報酬改定の時には国の方が更に力を入れてくると思います。

No image

これからのヘルスケア

内田さん

コロナ以降、「予防」を意識する日常となり、今後はどのようにヘルスケアは変化していくのか、明石理事長からお伺いしてもよろしいでしょうか。

明石理事長

今回のコロナのような不測の事態に対する仕組みを、大学病院の役割や法的位置づけを含めて、今後皆が力を合わせて考えていくことで良い方向に変化していくと思います。また、今後はパーソナルヘルスデータの利活用により、ヘルスケアが進むことで医療費が下がり、延いては皆が幸せになると良いと思います。

内田さん

北川学長、ヘルスケアに関して大学病院ならではの強みというのは?

北川学長

今後の医療は、地域で連携して大学の周りの色々なシステムを利用しながら、健康で長く病院にかからない時間を作れるよう目指して指導をすることが大事です。

内田さん

大坪病院長、人々の健康に関する関心度が大幅に変化したと思いますが、いかがですか?

大坪病院長

若年者と高齢者、二つに分けて考える必要があると思います。若年者が病気にならない対策、健康増進をするために、病院として病気にならないためのセミナー等を開催することが必要だと思います。同時に入院している高齢者の対策として治療によって日常生活動作を低下させないような対策も今後非常に重要になってくると思います。

内田さん

高齢化社会になるにつれて更に必要になりますよね。

大坪病院長

今までの医師と病棟の看護師だけではなく、栄養士やリハビリ、あるいは薬剤師等のあらゆる職種の人間が高齢者を後支えすることが大事です。

内田さん

ありがとうございます。それでは最後に、アフターコロナの時代に聖マリアンナ医科大学は法人として、大学として、病院として、それぞれどう変わっていくのでしょうか。まず明石理事長からお願いいたします。

明石理事長

より良くなるためには、先程少しお話ししたように、毎日のことを丁寧に丁寧にやっていくということがまずは肝心です。また今後、診療にも教育にもデジタルが活用されると思いますが、そういう中でスピリチュアルなところはとても大事であると思います。それはきっと私たちの姿勢であると思います。学生にも患者さんにも働く人たちにも、私たちが正しい姿勢を見せ続けることが大事だと考えます。デジタルはツールにすぎません。一番大事なのはスピリチュアルであると、本学の中ではより強い伝統にして残していきたいと思っています。

内田さん

北川学長はいかがでしょうか。

北川学長

学生には発展途上国や無医村に行っても診療ができるくらいの技量を持ってほしいです。その上でITを使ってより安全に正しい治療が短時間ででき、より安全な医療を提供できるような教育を次の50年でしっかり植えつけていかないと、機械頼りで終わってしまうと思いますので、両方のバランスが取れた学生の教育が非常に重要であると考えています。

内田さん

大坪病院長はいかがでしょうか。

大坪病院長

病院を中心として良い街にしたいです。医療を通して、特に高齢者に対しては情報連携を強化することで、地域全体が医療機関として機能し、その中で大学病院としてできることをやっていきたいと思います。私たちの病院があることで、あそこの街に住むと安心だよと言われるようにしていきたいと考えています。

内田さん

今後が益々楽しみになってきました。今日はどうもありがとうございました。

編集後記

コロナ以前とコロナ以降で、人々の日常が一変しました。医療の現場においてはさらに著しい変化が起こり、対処法は刻一刻と進化しています。医療を受ける側もあらゆる情報に目を向け、知識を増やしていくことが大事です。個人の力、地域の力、できるかぎり理解を深めて、医療従事者の方々に協力していきたいですね。

Medical DOC(メディカルドキュメント)

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加