京都祇園の人気芸妓が引退  セカンドキャリアは「花街文化の良さ」発信

京都祇園の人気芸妓が引退 セカンドキャリアは「花街文化の良さ」発信

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  • 更新日:2021/11/25
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紗月(さつき)/1994年、大阪府生まれ。中学を出た後、祇園甲部の「つる居」に所属し、2011年に舞妓デビュー。15年に芸妓になった。写真は芸妓のころ(伊東宏明さん提供)

京都で最大の花街、祇園甲部でこの秋、ひとりの芸妓(げいこ)が引退した。「一見(いちげん)さんお断り」で知られ、伝統やしきたりを大事に守り抜いてきた花街とて、コロナ禍と無縁ではない。

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今月1日、秋晴れの京都・花見小路を歩く着物姿の女性がいた。祇園きっての人気芸妓だった紗月さん(27)だ。

芸妓が円満に花街を去る際は「引き祝い」と呼ばれ、ふだん芸妓や舞妓(まいこ)の着物を着付ける男衆(おとこし)とともに、世話になったお茶屋などに御礼を告げて回る。

「ホッとした気持ちと、ほんまに終わったのかって気持ちとがありますね。ちょっぴりさみしいなあって」

あいさつ回りを終えた後、花見小路の喫茶店で向き合った彼女は、マスク越しにそう話した。

現在、京都には五つの花街がある。そのなかで、祇園町にある祇園甲部の規模がもっとも大きく、100人近い芸妓や舞妓が所属する。紗月さんは祇園甲部で、客から払われる花代が最も多い「売花奨励賞」の1等を、舞妓時代から7年続けてとった。

伝統やしきたりを重んじる花街にあって、SNSを積極的に活用したり、ファンと海外へ撮影ツアーに出かけたり、新しい試みに挑戦してきた。NHKで彼女の1年間に密着した番組も放送され、知名度では京の花街を代表する芸妓のひとりとなった。

その紗月さんが引退すると聞き、にわかに信じがたかった。

筆者は過去に2度、紗月さんにインタビューした。まだコロナがやってくる前の19年2月、当時24歳の彼女は自らを育ててくれた祇園町への感謝を繰り返し述べ、「少なくとも30歳までは全速力で走り続けたい」と語っていた。

花街の魅力とは?とたずねたときは、こんなふうに答えていた。

「中学を出た(ばかりの)女の子が、伝統文化を背負ってる自覚を持ってお座敷に出てること自体、とても独特で魅力的な世界だと思います」

「うちは、舞妓さんをちゃんと見守ってくれる屋形(置屋)さんやお茶屋さん、お料理屋さんがいてっていう、この街の雰囲気が好きどす。人のあったかい部分が見える町やなって」

2度目は昨年10月。コロナの影響は重く、芸舞妓が宴会で客をもてなし、芸事の成果を披露する場であるお茶屋も、春先から休業や営業の自粛を迫られていた。明治から続く京の春の風物詩、祇園甲部の芸舞妓らによる公演「都(みやこ)をどり」も中止となった(今年も中止)。

このとき彼女は「(営業)自粛が明けてやっと入ってくる宴会だったり、お仕事だったりのありがたみを、すごく感じるようになりました」としみじみ語った。

休業期間は自らを見つめ直す時間になったと前向きにとらえ、「やっぱりこの街が好きなんやなって、すごい思います。祇園が好きで、芸妓が好きで」と、「芸妓・紗月」を育んでくれた街への感謝を再び口にしたのだった。

あれから約1年。何が引退を決意させたのか。

「う~ん、全部をコロナのせいにはしたくはないんですけど、でもやっぱり大きかったなあ」

宴会で毎日人に会うのが仕事なのに、会えない。白塗りの化粧の上からマスクを着けるなど、接客スタイルも変わった。新たにあつらえた着物や、舞の稽古の成果を披露する場もない。徐々に営業が再開されても、どこか心に「もやもや」があった。

ちょうどそのころ縁あって、結婚すると決めた。

引退の意思を告げると、屋形の女将(お母さん)も喜んでくれた。舞の師匠である京舞井上流の五世家元、人間国宝の井上八千代さん(64)からは「胸を張って、堂々と元芸妓と言えるように。何かあれば手伝ってほしい」と声をかけられたという。

「本当に楽しく舞妓や芸妓をさせてもらって、ただただ感謝しかないです」と紗月さん。

コロナ禍で始めていた新たな取り組みが、着物販売サイト「京都きもの市場」のユーチューブチャンネルで、京都の伝統工芸の職人らを自ら訪ね、インタビューするシリーズ企画だ。もともと小さなころから着物好きだったことが、この世界に入ったきっかけのひとつ。

しばらく充電した後は、セカンドキャリアとして、花街や京都の伝統文化の良さを伝えていきたいと思っている。

長年の支援者のひとりは「宝塚の元トップは、卒業後も宝塚とうまく共存共栄している。次のステージでは、花街や京都文化の魅力を伝え、興味を持ってくれる人を増やす存在になってくれたら」と、今後に期待を寄せている。(本誌・佐藤秀男)

※週刊朝日  2021年12月3日号

佐藤秀男

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