池脇千鶴の皺や脂肪まで肉体を入れ込む役作りに感動! 函館3部作『そこのみにて光輝く』

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2021/02/22

こんばんは!宮下かな子です。

映画館で上映している映画、観たい作品が沢山あり、時間を見つけては通って刺激を受けている毎日です。

今年のキネマ旬報ベスト・テンの受賞作品も発表されましたね! 今、日本映画が盛り上がっている気がしていて、とても嬉しいです。最近『ヤクザと家族』『花束みたいな恋をした』を観たのですが、この2つの映画でそれぞれ主演をされていた綾野剛さん、菅田将暉さんが、2014年度キネマ旬報ベストテン1位の呉美保監督『そこのみにて光輝く』(14年)に、ちょうどダブルで出ていらっしゃる! と発見しまして。今回はこの作品をご紹介することにしました!

ずっと昭和の作品をご紹介してきたので、読者の皆さまも驚かれていると思いますが、私自身も何だか緊張しております(笑)。楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。

〈あらすじ〉
トラウマを抱え、職に復帰出来ずにいる主人公達夫(綾野剛)は、前科者だが天真爛漫な青年•拓児(菅田将暉)と、拓児の姉・千夏(池脇千鶴)と出会う。家庭を支えるため水商売で働く千夏に、達夫は次第に惹かれていき……。

舞台は北海道の函館市。原作者である佐藤泰志さんの出身地で、佐藤さんの原作で映画化されている『海炭市叙景』『オーバー・フェンス』と合わせて、〝函館3部作〟とも呼ばれています。映画の中の函館は、観光地の煌びやかな通りから一本脇道に逸れたような街並み。函館、という観光地として想像できる地域だからこそ、あえて生活感のある風景が、リアリティーを持たせてくれます。

その街並みからも離れ、海辺にぽつんと佇む廃れた一軒家に、拓児と千夏、そして病で寝たきりの父親と看病する母親の4人が暮らしています。まるで家そのものがこの4人家族のよう。潮風に晒されているしょっぱさと、海に行った時の、乾いてもベタベタ纏わりつく、あの嫌な質感が肌で感じられて、もうぴったりなんです!

出演されているのは、主演の綾野剛さんをはじめ、池脇千鶴さん、菅田将暉さん、高橋和也さん等、お名前を聞いただけで安心感と期待が高まるような役者さんがずらり。語りたいことは沢山あるのですが、今回大変恐縮ながら〝私のなりたい女優像〟について考えさせられるきっかけとなった、千夏役の池脇千鶴さんをメインにお話していこうと思います。

千夏は、昼間に塩辛の加工工場で働きながら、夜はスナックの一室で身体を売り家庭を支えている女性。親の介護や世話もしながら、拓児の勤め先の社長と不倫関係を続けていて、不遇な環境を1人で背負い込んでいます。人生において何かを諦めていて、心が渇ききっている状態。しかし彼女自身ではどうすることもできず、ただ今日を生きるために生きているようで、観ていて本当に苦しくなります。

彼女のその沼底に沈んでいるような生き方が、気怠そうな口調や態度をはじめ、手入れのされていないボサボサの髪型や化粧っ気のない顔、露出の多い服装等から感じられるのですが、池脇さんの肉体からも満ち満ちていて……! 短いショートパンツや胸元の広いトップスから肉付きの良い身体が見え、夜の仕事での生活の不規則さがリアルに感じられるんです。加えてそれが男性たちを包み込む、彼女の包容力をも表現しているようで。

初めて達夫が家に来た時、千夏はチャーハンを作るのですが、むちむちした二の腕の後ろ姿と、達夫の戸惑う表情が交互に映し出されていたり。

達夫や不倫相手の中島と身体を重ねるシーンも多くあり、池脇さんは惜しげもなく曝け出し、真っ向から役にぶつかっています。艶めかしさと、不安や孤独を抱える男性を包み込む優しさが、肉体からひしひしと感じられるのです。

池脇さんが全身全霊で表現されている姿を感じた時、何だか涙が出てきてしまって。ただ細くて綺麗な女優さんには、絶対にできない表現がそこにはあって。女優さんって憧れられるような存在だと思うのですが、やっぱり役を演じる時は、その役の人物の生きてきた証を、例えば皺だったり、脂肪だったり、そういう肉体からもちゃんと表現できる女優になりたいなって、そう思いました。

主人公・達夫が、千夏になんとなく惹かれていくことから物語は進んでいくのですが、私はこの〝なんとなく惹かれるポイント〟をしっかり描いているところが素敵だなと思ったんです。夜の仕事をし不倫をし、親の介護もし、お付き合いするにはちょっと難しい女性じゃないですか。

でも作品中には、そんな千夏の可愛らしい一面が、沢山散りばめられているんです。

例えば、達夫に海に誘われた時。部屋からわざわざ麦わら帽子を持ってきて、鏡で被る姿だったり。達夫の家の玄関を出る時に、ほんのちょっぴり声色を変えた「じゃあ、終わったら電話して。じゃね。」と微笑んで髪をかきあげる仕草だったり。スナックのママに「女の顔して」と言われ「もとから女ですけど」と反論する場面があるんですけど、その時の表情は、本当に女の顔なんですよね。

ところどころ垣間見える女の千夏に、思わずきゅんとするんです! そのさりげない入れ込み方、匙加減がなんとも絶妙! 女の魅力を、この凄まじい生活環境の中でみせられるって、本当に難しいことだと思いますが、見事に表現されています。

達夫との出会いから心が動き出した千夏。そんな千夏が最も美しいのは、やはりラストシーン! 人生に光が差し込んだ千夏、達夫、拓児だったのですが、ある事件をきっかけに再びどん底に突き落とされます。ただ普通に生きたいだけなのに、それさえも叶わず、まだ沼底から抜け出せないのです。

絶望の中涙する千夏が海辺へ歩いていき、ふと後ろを振り返ると、目の前に真っ直ぐな瞳で見つめる達夫と、その後ろで輝く太陽。太陽に照らされた千夏のアップが映し出され、涙を流しながら微笑むんです。劇中、基本的に曇り空でどんよりしているのですが、ここではあたたかいオレンジ色の光が2人を照らしています。決してハッピーエンドではないのですが、きっと千夏にとって、達夫が光となってくれるのでないかと思わせてくれる、美しいシーンです。

この池脇さんの表情は忘れられない……! 闇に閉ざされた人生だとしても、一瞬でも輝きはある。それが、他の人には気づかれない瞬間だとしても。その愛おしい瞬間が映像で見られたような、そんな気がしました。

クレジットが流れる前に、『そこのみにて光輝く』の手書きのタイトルが出てくるのですが、それが何だか胸に残るんですよね。後から調べてみて、原作者・佐藤泰志さんの原稿の文字を使用していたことを知りました。真っ黒な背景に浮かぶ、波の音と白く角ばった独特の文字。佐藤さんは、41歳で自ら命を絶ち、その後、約20年の時を経て、作品が映画化し世に広く知られました。映画の登場人物達と同じように、佐藤さんの魂の叫びがこの文字から聞こえてくるようで。

先が見えなくて、もがいて、苦しくて、それでも生きなきゃいけなくて。千夏をはじめ、登場人物全員が必死に生きています。それは、佐藤さん自身の想いも、この映画にのせられているように感じます。

そして登場人物全員に共通しているのが、誰かを想って生きているということ。家族を想う千夏、そんな千夏を大切にしたいと自分を変えていく達夫、破天荒ながらも姉ちゃんを想い、思わぬ方向へ進んでしまう弟の拓児。そして不倫相手の中島の「(家族を)大事にしてっから、おかしくなんだべや!」と言う悲痛な叫びもとても印象に残ります。登場人物其々の想いが、丁寧に、誰も悪人でない描き方をされているので、すごく重たい映画なんですけど、全員の幸せを願いたくなるのです。

今回は千夏を演じた池脇さんをメインにお話しましたが、他の役者陣ももう本当に素晴らしくて、まだまだ語りたりないくらい! 役の人物からも、そして役者自身からも尋常じゃない熱量が、画面越しでも感じられ衝撃を受けます。私もこんなお芝居がしたーーーい!! と、心で叫びました。エネルギー溢れる想いと、美しい一筋の光を、是非皆さまにも感じて頂きたいです!

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