転換に次ぐ転換が必要。ビニール傘から学ぶ組み合わせの極意

転換に次ぐ転換が必要。ビニール傘から学ぶ組み合わせの極意

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/05/03
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フレンチの巨匠ジョエル・ロブションがいちばん感動した日本料理は「たこ焼き」だった、という話がある(真偽は定かではない)。たこ焼きのまんまるの形に驚き、つくり方を知りたがったらしい。シェフという人種は、人をあっと驚かせる新鮮な仕掛けや食材の組み合わせがないか、常日頃から目を皿にして探しているのだろう。

東京・広尾にあるマルゴット エ バッチャーレの加山賢太シェフが発案した「キャビア最中(もなか)」も、一般人には思いも寄らない絶妙な組み合わせだと思う。ブリニ(そば粉入りパンケーキ)に包むのとは違うキャビアの新しい食べ方を考えていた加山さんは、明治屋でレジ横の陳列棚に並ぶみたらし団子や最中を見てピンと来て、急いで最中の皮を取り寄せたそうだ。

「企画」を考えるのも同じこと。AとBを掛け合わせたらどうなるか。CをDの用途や方法論として考え直したらどうなるか。僕は年がら年中考えている。そのためには億劫(おっくう)がらずにどこにでも足を運び、人に会い、その話に耳を傾け、新しい料理を出されたら嬉々として食べる。大事なのはフットワークの軽さと好奇心。活躍しているシェフほど、生産者に会いにいったり、他店の料理を食べにいったりしているので、これは絶対に正しいと思う。

「人を慮る心」がここにもある

昨年(2020年)、京都市の情報発信拠点「京都館」の館長を務める僕のところに、京都市から「ふるさと納税の返礼品を考えてほしい」という依頼があった。そこで、京都芸術大学の准教授であり、京都伝統文化イノベーション研究センターのセンター長も務める酒井洋輔さんに協力をお願いし、YouTubeチャンネル「京都館会議」も開設して、返礼品のアイデアを練っている。

例えば、芸能界屈指のカレーマニアである小宮山雄飛さん(ホフディラン)が開発する「京やさいカレー」。京都のレストランの協力をあおぎ、持参すると店の裏メニューが食べられる「京都裏メニュー丼(どんぶり)」。そんななかで異彩を放つのが、「京都100年かるた」だ。

これは京都芸術大学空間演出デザイン学科に所属する学生が1年次の「新しい京都の地図をつくる」という課題からヒントを得たもので、京都で100年以上続く老舗や場所を学生自ら取材をし、その魅力や本質を伝えるかるたを制作している。それを完成させたら、立派な返礼品になるのではないかと。

さて、その「京都館会議」で、僕と酒井准教授も老舗を数軒、取材した。そのうちの1軒が、京和傘「日吉屋」。5代にわたり、和傘を製造している老舗で、茶道裏・表両千家御用達の本式野点傘をはじめ、番傘、蛇の目傘、羽二重、舞傘等の製造卸販売を行っている。

酒井準教授は、芸舞妓がせっかくの美しい着物姿に安いビニール傘をさしているのが残念だとずっと感じていたそうで、和傘をベースにしたビニール傘をつくれないか、ふたりで直談判したのだった。僕はそこで和傘の構造をまじまじと見て感動した。和傘の骨は1本の竹からできている。つまり、職人が竹を均等に割って骨をつくっているのだ(だからきれいに畳める)。

ビニール傘というのは、物との向き合い方を雑にさせ、心の隙を表面化させる格好の品だ。一方、和傘でも洋傘でもいい傘なら愛着がわくし、大事にするだろう。しかも蛇の目傘というのは開き具合を2段階に調節できる。理由は「人とすれ違う際に小さくできるように」。そのような他者を慮る心が江戸時代からあるのだ。雨や雪があたったときの音も心地よい。外に行くのが楽しみになる、それが和傘の魅力だ。

ここで面白い話がひとつ。けなしてしまったビニール傘も、日本の”発明品”だった。1721(享保6)年創業、煙草(たばこ)商を営む武田長五郎商店が、約100年後に雨具商に転身。刻み煙草の湿気を防ぐために箱の裏側に貼っていた油紙を使って畳める雨具(いまでいうレインコート)をつくり、江戸幕府御用達にまでなったという。

第2次世界大戦後は、進駐軍の使っていたテーブルクロスに目をつけ、ビニール製の(綿の傘にかぶせる)傘カバーを開発。さらにビニールそのもので傘をつくることを発想し、1958(昭和33)年に乳白色のビニール傘の原型が完成。

1964年、東京オリンピックで来日したアメリカ人バイヤーから「ニューヨークで販売したい」と言われ、透明なビニール傘が生まれた。商売でも時代でも、常に一歩先んじるには発想の転換に次ぐ転換が必要だと、ビニール傘に教えてもらった次第です。

今月の一皿

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blankで出される「キャビア最中」にはゆずピールをしのばせており、キャビアの塩気のあとに爽やかな香りが広がる。

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都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。

小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。エッセイ、作詞などの執筆活動や、熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わっている。

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