空前の大ヒットとなった前作から4年。満を持して続編が公開される『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』。
関西を牛耳る冷酷無慈悲な大阪府知事の嘉祥寺(かしょうじ)晃役を演じた歌舞伎俳優の片岡愛之助さんに、奥様の藤原紀香さんとの結婚後はじめての夫婦共演についてや、大阪愛を、たっぷり語っていただきました。
『翔んで埼玉』は大好きな作品

片岡愛之助さん/撮影 文藝春秋
──今作は、奥様の藤原紀香さんとの初共演も話題となっています。
どの辺りで話題になってるんですか? 僕は聞いたことないです(笑)。
でも、結婚後の「夫婦初共演」ということで期待して観に行かれたら衝撃的だと思いますよ。まさかこんな……! という「共演」なので、そこは楽しんでもらえるかなと思います。
──お二人は、今回の共演をどのように思っておられるのですか?
前作の『翔んで埼玉』は観ていましたし、大好きな作品だったので、お話をいただいたこと自体は、すごく嬉しかったです。最初は、「ひょっとしたら共演するかもしれないね」くらいだったのですが、実際に夫婦役でとオファーがあった時は、「仲良くいちゃつく夫婦役だったらやめておこう」と二人で決めていました。
メイク室に並んで座るのは不思議な感覚だった
──なぜ「仲良し夫婦」の役ではNGなのですか?

大阪府知事を演じた片岡愛之助さんはじめ豪華なキャスト陣が集結 ©2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会
敵対してバチバチの夫婦役だったら面白いからお受けしようか、という話をしていたら、まさに願ったり叶ったりの役どころがきたので、喜んでお受けしました。二人ともそのほうが、絶対面白い作品になると思ったんです。
ただ、一緒に絡むシーンが多かった(川﨑)麻世さんはやりにくかったかもしれないですね(笑)。でも何回か三人で食事に行ったりするなかで、仲良くなりました(笑)。

片岡愛之助さん/撮影 文藝春秋
──ご自宅では奥様とセリフの練習をすることもあったのですか?
しません、しません。長セリフの応酬もないですし、お互いそれぞれでセリフを覚えて、現場ではじめて合わせる、という感じでしたね。
ただ、メイク室に並んで座っているのは、不思議な感覚で、面白い経験をさせて頂きました。
「真のたこ焼きは語れない」

海外では原色の服を着ることもある、と片岡愛之助さん/撮影 文藝春秋
──愛之助さんは大阪の堺ご出身ですが、大阪自慢といえばやはり、映画にも出てきた、たこ焼きや肉まんといった「粉もん」ですか?
食い道楽の街ですから、食べ物は何より自慢ですよ。大阪はほかのまちに比べて、とにかく食べ物が安くておいしい。これは自信を持って言えます。
あとは僕の個人的見解になりますが、東京は洗練されていますが、大阪は洗練されすぎていないところがいいですよね。ほどよく都会でほどよく田舎なところに、帰省するたびにいつもほっこりするというか、安心します。
──片岡さんおすすめの大阪グルメも教えてください。

大阪愛を語ってくださった片岡愛之助さん/撮影 文藝春秋
いっぱいありすぎてどれをおすすめしたらいいのかわかりませんが、基本はやっぱり「粉もん」でしょうね。大阪って、たこ焼き店がたくさんありますが、だし汁に浸った「明石焼き」とだし汁のない「たこ焼き」の違いだけでなく、実は店ごとにそれぞれのたこ焼きの味があるんです。
生地も違うし、中の具も焼き方も、調味料もそれぞれの店によって少しずつ違う。だから、たまに「大阪でたこ焼き食べたけど、そんなにおいしくなかった」という方がいますけど、1軒食べておいしくなかったら、ぜひ別の店で食べ比べしてほしいです。ひとくくりに「たこ焼き」では真のたこ焼きは語れないので、他府県の方には、もっとたこ焼きの違いを知っていただきたいですね。

愛のある埼玉ディスも健在の本作 ©2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会
──たこ焼きは「大阪」と「それ以外」で区別するものだと思っていました。では、住む場所や出身地に対しても、映画のようなこだわりは少ないのでしょうか?
大阪の人は、そこまで気にしていないのではと思います。僕は大阪の堺市出身ですけど、別にそれを自慢しようとも隠そうとも思ったことがないですからね。強いて言えば、だんじり祭がある岸和田は、こだわる方が多いかも、というくらいでしょうか。
今作の『翔んで埼玉』では、埼玉県内の位置によって東京に近い・遠いと主張するシーンがありましたけど、僕ら関西人からしたら千葉県も埼玉県も東京もざっくり「関東」なので、どっちでもいいと思います(笑)。
東京はあくまで「出張」というスタンス

「東京は仮の住まいという思いがある」と片岡愛之助さん/撮影 文藝春秋
──先ほど、「東京は洗練されすぎている」とおっしゃいましたが、東VS西という意識はありますか? 関西出身者は、多かれ少なかれ、東京に対するライバル心や劣等感みたいな気持ちを持っているのでは?
僕はないです。ただ、大阪に生まれ育ってよかったというのは、いつも思っています。
歌舞伎の世界に僕を引っ張ってくれた恩師であり、養子に迎え入れてくれた父でもある秀太郎は、関西の上方歌舞伎の火が消えかかった時代もずっと大阪に居を構え、上方歌舞伎の再興に力を尽くしてきた人です。そんな父の背中を見て育ってきたからこそ、僕もずっと関西に居を構え、東京はあくまで「出張」というスタンスでこれまでやってきました。
最近は圧倒的に出張仕事のほうが多くなってしまいましたが、でもあくまで東京は仮の住まいという思いがあります。
そんな思いがあるからこそ、今回大阪府知事役をいただいたことはすごく嬉しかったですし、自分にとっての勲章みたいな気持ちです。

阪神ファンを公言する片岡愛之助さん/撮影 文藝春秋
──今年は野球でも18年ぶりに阪神タイガーズが優勝しました。再来年には大阪・関西万博も控えているなか、満を持しての本作公開で、いよいよ「大阪の時代」が来ているようにも感じます。
足音立ててきていますね~。駆け足で来てますよ! 僕はいつも、通天閣を見ると「ああ、帰ってきたな」と感じるんですけど、今回は、この通天閣もまさかの活躍をしてくれます。ぜひ劇場で、一緒に大阪の時代到来を感じていただけたら嬉しいですね。
文=相澤洋美
写真=橋本篤
メイク=青木満寿子
ヘア=川田舞
スタイリング=九(Yolken)
CREA編集部