韓国の高倉健!? 世界的名優となったソン・ガンホの愛すべき人柄

韓国の高倉健!? 世界的名優となったソン・ガンホの愛すべき人柄

  • 集英社オンライン
  • 更新日:2022/06/23

是枝裕和監督が、韓国を舞台に養子縁組のテーマを描き話題を呼んでいる映画『ベイビー・ブローカー』が6月24日(金)に公開される。カンヌ国際映画祭で高い評価を得て、主演のソン・ガンホが韓国人初の最優秀男優賞を受賞。この映画で描かれている韓国の現状を考察しつつ、同国で最も尊敬され愛されている俳優ガンホの実像に、俳優の井之脇海の証言をはさみながら迫る。

猥雑で魅力あふれる是枝・韓国ワールドに一気に引き込まれるオープニング

映画『ベイビー・ブローカー』は、クリーニング店を営む男(ソン・ガンホ)と民間団体で働く男(カン・ドンウォン)のふたりが、違法な方法でより高額な養子縁組をまとめようと、赤ん坊を連れて旅をし、そこに生みの母と後を追うふたりの女性刑事が加わるロードムービーだ。

冒頭は、韓国ドラマではおなじみの、電信柱に電線が張り巡らされ、古びた街灯と微妙な幅のゆるやかな坂道が続くであろう街角が描写される。さらに土砂降りの雨音の中、俳優ソン・ガンホと監督の表現のキャッチボールがいつ始まるのか、緊張感が走り画面の隅々まで目が離せない。

息を飲む私の前でソン・ガンホがするりと物語に入り込み、芝居を始める。時に、そのスピードに追いつけず、戸惑い、苛立ち、変化を理解できず腹を立て、それから笑い出し、泣きそうになった。

彼の芝居を追い掛けながら、以前読んだソン・ガンホの記者会見やインタビューでの言葉をいくつも思い出していた。そのことに触れる前にまず、是枝裕和監督について考察したい。

是枝監督は、何故韓国で撮影したのか

日本でも話題の“赤ちゃんポスト”の物語を、「なぜわざわざ韓国で」と思う観客は多いはずだ。私も、そのひとりだった。その疑問に答えるには、日韓の映画製作の現状の違いを知る必要があるだろう。

韓国映画界は政府の締め付けを嫌い、自由に映画製作ができるようにと、今から半世紀前の1973年に半官半民のKOFIC(韓国映画振興委員会)を釜山に設立している。また、作り手側の人材育成を第一責務と考え、1984年には韓国国立映画アカデミーを開校。同校はアカデミー作品賞『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督を始めとして、一流映画人を輩出している。

映画製作費の差も見逃せない。現在の日本の国家文化予算は韓国の約9分の1だ。そして、海外では禁止されている大手映画会社直轄の映画館経営が日本では合法であり、興行収入の約8割を大手3社が独占している。更に、日本の文化庁の映画予算が年間20億円、韓国映画振興委員会KOFICの予算は400億円と、大きな差がある。ちなみに韓国ではチケット税を財源としており、興行収入の3%を映画関連行政機関でプールして再分配しているのだ。

予算や製作環境などが日本よりも遥かに優れている韓国映画界。是枝監督が韓国で映画を撮ったのは必然であるし、今後日本の監督が同国で映画を撮るという流れが加速する可能性もある。実際に、今年のカンヌ国際映画祭で韓国映画は高く評価された。

次に韓国社会の現状を考察する。

日本と異なる養子縁組事情

物語の内容をよりよく理解するために、もうひとつ日本とは事情が異なる韓国の養子縁組に対する社会的認識も知っておきたい。

韓国の少子化問題は日本以上に深刻で、2022年現在、日本の合計特殊出生率1.66%に対して韓国は0.81%。結婚年齢も日本より高齢化している。その背景には、20代~40代の非正規雇用者率が30%近い超就職難という現実がある。

そして1953年、朝鮮戦争直後に一気に増加した孤児も大きく関係している。その時代から子供たちを貧乏の中で苦労させるよりはと、裕福な家庭への養子縁組を許容する文化が生まれた。現在もこの流れは続き、養子縁組という「善意」と、「金」の間に矛盾はないと考えている人は多いようで、養子縁組斡旋は主に民間団体に任されている。

こうした韓国での養子縁組事情をふまえつつ、この映画を通して、「善意」と「金」の間に本当に矛盾がないのか、誰の正義が正しいのかといった、「社会」「家族」「命」を描いてきた是枝監督ならではの演出を楽しんでもらいたい。

韓国で最も愛されている俳優ソン・ガンホ

さて、是枝監督が本作の主役にと切望した、韓国で最も有名なソン・ガンホという俳優は、そもそもどんな人物なのだろうか。

ソン・ガンホは1967年1月17日生まれの55歳。24歳からさまざまな地方劇団の舞台に立つも長く芽が出ず、600万人以上を動員した大ヒット作『シュリ』(1999)で初めて、一般の観客にも認知されるようになった。

その後は順調にキャリアを重ね、ガンホの人気と実力を不動のものにした作品が、日本でも大ヒットした2003年の『殺人の追憶』である。さらに、韓国最大の悲劇と言われる光州事件での実話を元にし、アカデミー外国語映画賞に選出された『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017)で国際的にも高く評価されるようになった。

2019年の『パラサイト 半地下の家族』では、世界各国の映画祭で主演男優賞を受賞。さらに2020年ニューヨーク・タイムズ紙が選ぶ「21世紀の最も偉大な俳優25人」では、アジア人俳優として最高の6位に選ばれている。

韓国では、ソン・ガンホを知らない人はいないともいえる絶対的な人気を誇り、国内外で数えきれないほど演技賞を受賞している、国民的名優なのだ。

一男一女の父で愛妻家。息子は元水原サムソンブルーウィングス所属の人気サッカー選手のソン・ジュンピョンだ。

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俳優・井之脇海へのアドバイス

名優・ガンホの人間像を深く知るため、雑誌『ELLE JAPAN』でソン・ガンホと対談した俳優・井之脇海に話を聞いた。

「僕はこれからも俳優を続けたいです。そのためのアドバイスを下さい」と問う井之脇に、ガンホはこう答えたという。

「演技が面白くて仕方がないという俳優もいるだろうが僕は、やればやるほど“難しい”。演じたくないと思うことがある。理由を考えると“演技に自信がない”からかなあ。『パラサイト 半地下の家族』の中で僕が演じたギテクが息子に言った“ノープラン”、“将来の目標や社会的な成功の青写真を描くな”という台詞。誤解を恐れずに言うならば、俳優という仕事もそうあるべきで、“ノープラン”で状況に対して心を開いておく。すると心が豊かになり、よりよい俳優人生が送れると思うよ」

井之脇から話を聞いている途中、唐突に、彼に「ソン・ガンホはどんな色の人でしたか」と質問すると、一瞬考えたがすぐに、井之脇は「紫色のイメージ」と答えてくれた。

隣に座っていたマネージャーが、嬉しそうにこう付け加えた。

「“こんなに顔の小さい青年と一緒に写真を撮るのは恥ずかしい”と笑い、井之脇の年齢を聞いて“24歳? 息子と同じ歳だね。僕の24歳は演劇を始めた頃で、話なんてこれっぽっちもできないバカだった。そう考えると君は素晴らしいね”と、井之脇は褒めてもらいました」

この発言に、家族を愛し人を愛し、若者に心を寄せるフェアで豊かなガンホの人間性を深く感じた。そして、カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を授賞した際、挨拶の最後に、「2階で見ている家族も喜んでくれているでしょう」と嬉しそうに上を見上げたガンホの、優しい夫であり父親である笑顔を思い出した。

「捨てるなら産むな」

カンヌ国際映画祭の賞の結果が発表される前日。NHKのインタビューで是枝監督はこう語っている。「映画の冒頭で刑事が“捨てるなら生むな”と、ぼそっとつぶやく。たぶん映画を見始める前に多くの方たちもそのように思うのでは。そんなみなさんの考えを、映画を2時間見た後にどのくらい揺さぶれるかが今回、自分が勝負したところだと思う」

是枝監督の演出、そしてソン・ガンホの演技にあなたは何を思うだろう?

自分の中の善悪を強烈に問われる最新作『ベイビー・ブローカー』は必見だ。

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引用元

https://www.elle.com/jp/culture/movie-tv/a30415021/cfea-inowaki-songkangho-200109/

取材・文/小林禮子 協力/井之脇海

写真 ⓒ 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

第75回カンヌ国際映画祭

最優秀男優賞(ソン・ガンホ)/エキュメニカル審査員賞受賞

『ベイビー・ブローカー』(2022)上映時間:2時間10分/韓国

古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョン(ソン・ガンホ)と、〈赤ちゃんポスト〉がある施設で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。ある土砂降りの雨の晩、彼らは若い女ソヨン(イ・ジウン)が〈赤ちゃんポスト〉に預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。彼らの裏稼業は、ベイビー・ブローカーだ。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊がいないことに気づき警察に通報しようとしたため、ふたりは仕方なく白状する。「赤ちゃんを大切に育ててくれる家族を見つけようとした」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。一方、彼らを検挙するためずっと尾行していた刑事スジン(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)は、是が非でも現行犯で逮捕しようと、静かに後を追っていくが…。赤ちゃんポストで出会った彼らの、特別な旅が始まるーー。

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6/24(金)より

TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

■監督・脚本・編集:是枝裕和

■出演:ソン・ガンホ カン・ドンウォン ペ・ドゥナ イ・ジウン イ・ジュヨン

■製作:CJ ENM ■制作:ZIP CINEMA ■制作協力:分福

■提供:ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro. ■配給:ギャガ

https://gaga.ne.jp/babybroker/

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