赤字転落のホンダで吹き荒れる「内紛」の全内幕

赤字転落のホンダで吹き荒れる「内紛」の全内幕

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/06/20
No image

高い技術力とブランドイメージで世界に名を馳せたこの企業が、振るわない。商品・技術戦略の失敗だけが理由ではないようだ。社内の対立によって溜まってきた膿のほうが、どうやら根深いのだ。

二輪部門vs.四輪部門

ホンダの経営中枢にいた元役員はこう指摘する。

「今の経営体制ではホンダはいずれ経営危機を迎えます。トップの八郷隆弘社長にせよ、ナンバー2の倉石誠司副社長にせよ、経営をかじ取りする力量がない。

経営陣を総入れ替えする荒療治が必要だ。昨年の株主総会ではOBの一部株主が結託して解任動議を出そうとしていたくらいです」

ホンダが5月8日に発表した2019年3月期決算の売上高は前期比3.4%増加の15兆8886億円、本業のもうけを示す営業利益は12.9%減少の7263億円だった。

営業利益率は4.6%と、トヨタ自動車(8.2%)や、安価な軽自動車中心のスズキ(8.4%)の足元にも及ばない。

その要因は不振の四輪事業にある。ホンダの事業は、四輪、二輪、汎用エンジンや草刈り機などのパワープロダクツの3部門で構成されるが、売上高の最も多い主力の四輪が、'19年1~3月期決算で売上高2兆9128億円に対し、営業損益は530億円の赤字に陥ってしまったのだ。今後も収益性が大きく回復する見込みがない。

ホンダの四輪が赤字に陥ったのは、過剰設備と開発コストの高さによるものだ。国内で最も売れている「N-BOX」シリーズを抱える軽自動車部門でさえも赤字だというから驚く。

ホンダ低迷の構図はかつての日産自動車と全く同じだ。日産は過剰設備と高コスト体質に苦しみ、赤字体質から脱却できずに有利子負債を膨らませて経営危機に陥り、仏ルノーの傘下に落ちた。

この惨状にもかかわらず、ホンダはあちこちで内部対立を抱えている。

まずは稼ぎ頭の二輪事業と、赤字の四輪事業の対立だ。

いまホンダは、本田技術研究所内にある二輪の研究開発部門を切り離して、本社の二輪事業本部と一体化させることで意思決定の迅速化を図ろうとしている。追い上げてくるインド・中国メーカーに対抗するためだ。

ところが二輪部門の幹部は、「意思決定の迅速化を狙うならば、二輪事業部門をホンダ本体から切り離して分社化する手もあったはずだ」と語る。

稼ぎ頭の自分たちだけを分社化すればいい。この幹部は、「赤字転落した四輪とは一緒にされたくない。モチベーションが落ちる」とまで言うのだ。

中国派の専横

二輪と四輪の対立だけではない。四輪事業の不振の元凶の一つとされた北米事業の出身者「米国派」の幹部たちは、中国事業を長く手がけてきた八郷氏や倉石氏ら「中国派」が人事を専横していると不満を募らせる。

さらにはその「中国派」のなかでも、八郷氏と倉石氏の関係に軋みが生じ始めているというのだから、ただ事ではない。

今、ホンダ社内で何が起こっているのか。

「八郷体制」の力量不足は否めない。前任者の伊東孝紳氏(現取締役相談役)が無謀な拡大路線を敷いたことで、品質管理力が追い付かず、主力車「フィット」の大規模リコールの責任をとって退任。後任として'15年6月に八郷氏が選ばれた。

No image

Photo by GettyImages

当時、八郷氏は全く無名の存在で、社長就任が決まり、社内からも「八郷WHO?」といった声が出たくらいだった。その経緯について前出・元役員がこう解説する。

「伊東君は辞めるつもりはなかったが、伊東君を引き上げてきた川本さん(信彦元社長)に『お前、責任取れ』と一喝されて退任が決まった。

伊東君が『後任は誰にしましょうか』と川本さんにお伺いを立てると、『そこまでは関与しない』と言われて、同じ車体開発畑で自分の言うことを素直に聞く八郷君を選んだ」

40代の頃から将来の社長と言われてきた伊東氏は「暴君タイプ」だったのに対し、八郷氏は「聞く耳を持つ」ボトムアップ型の社長で、経営トップになっても自分が前面に出ることはなかった。

「伊東前社長が現場をすぐにどなりつけて社内が萎縮していたので、八郷さんはそれを反省して社員の自主性を促すことを重視していた。

役員同士もぎくしゃくした関係だったのが、八郷さんは役員同士でお弁当を食べたり、飲み会に行ったりして社内融和に徹していた」とホンダの中堅幹部は語る。

しかし、八郷氏の尻に火がついてきたのは昨年夏ごろからだった。温厚な八郷氏の眉間にしわが寄るようになり、いら立って語気を強めて部下に説明を求める場面が増えたという。

「俺が納得する新しい案を持ってこい」

昨年6月のある日、八郷氏が珍しく声を荒らげた。八郷氏が求めた案とは、コストを下げて商品力も落とさない自動車の新たな開発手法の導入計画のことだった。

自動車会社では、開発の上流段階から設計・部品の共通化を進めるコストダウン戦略がはやっている。

トヨタの「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」やマツダの「一括企画」と呼ばれる設計手法が有名で、こうした新たな設計手法の導入によって、開発部門の組織や仕事の進め方を見直し、車種によっては製造原価を30%下げたと言われる。

これに対し、ホンダは何も取り組んでこなかった。今年5月の決算発表の際、ようやく八郷氏が「ホンダ アーキテクチャー」を導入して開発効率を上げると発表した。他社より10年遅れて設計改革に取り組むことになった。

No image

「出る杭」を打つ管理職

八郷氏がいら立っていたのは、開発部門から正しい情報が自分に上がってこなかったからだ。ホンダの役員が言う。

「他社に比べてあまりにも収益性が低いので、八郷社長が現状を調べ直したところ、主力車種『アコード』と『CR-V』では部品の共通化率が金額ベースでわずか0.3%。

設計改革をしていると開発部門は言いながら、全くできていなかったことに怒ったのでしょう」

こうした設計改革だけに限らず、昨年4月から八郷氏は全社的な改革運動「SED2.0プロジェクト」を開始した。Sはセールス(販売)、Eはエンジニアリング(生産)、Dはディベロップメント(開発)を意味する。

100年に一度の変革期を迎えている自動車産業の中で生き残っていくために、発想や仕事の進め方を全社的に見直そうというものだ。

その活動ではトヨタに対しても今のホンダについての意見を求めている。改革運動を紹介する冊子で、原価管理についてトヨタOBが「ホンダにはトヨタがコンプレックスを持つ対象であって欲しい。トヨタは何するものぞという気概でクルマづくりをして欲しい」とエールを送っている。

これでは、もはやホンダはライバルではないと言われているに等しく、屈辱とも受け取れるが、社内に危機感を煽るために敢えて載せているのだろう。

しかし、これがホンダ社内では頗る評判が悪い。若手社員は「現場から改革案をたくさん出しているのに、潰しているのはむしろ経営上層部。特に倉石副社長だ。こんな冊子を作ること自体無意味だ」と指摘する。

別の中堅幹部によると、実際、設計の共通化を推進しようとしたら、「業務が効率化されるとポストが減って困る」と言って、改革案を潰しにきた管理職も多かったという。

ホンダの開発部門には、行き場のない技術者崩れの管理職があふれ、こうした管理職は、何の専門性もなく、上司の意向を探ることと無駄な会議が大好きで、自己保身のためだけにリスクをとにかく嫌い、「出る杭」を打つ傾向にあるという。

「こんな組織でヒット車が出るはずがない」(同前)

No image

Photo by GettyImages

社員の平均年齢を見てもホンダは45歳。意外にも39歳のトヨタよりも高齢化が進む。

八郷氏自身が「ホンダは今までと同じような生き方をしていたら老衰してしまうかもしれない。いまこそ、生まれ変わるくらいの気持ちで生活を変えることが必要だ」と訴えているが、それもむなしく響く。

現場には倉石副社長への批判が渦巻く。ホンダでは創業者の本田宗一郎氏が夢を語り、それを後ろから支えたのが副社長の藤沢武夫氏だった時代の名残が今でも残っており、管理部門は副社長が束ねる。現在は倉石氏がその任にある。ところが、倉石氏は八郷氏が社長になる直前の上司だ。

「2人は同期入社で仲良しだった。伊東君から社長就任の内示を受けた時は八郷君が中国統括会社の副総経理で、倉石君が総経理だった。

社長になるとは思っていなかった八郷君が、倉石君に相談したら『俺が支えるからお前、受けろ』と言ったそうです。そうした関係から倉石君のほうが力を持っており、陰の社長は倉石君です」と、ホンダOBは解説する。人事権は倉石氏が掌握している。

八郷氏、倉石氏ともに中国の経験が長いので、中国事業の出身者が出世する傾向が強まり、主流派だった「米国派」との対立が深まったという。

「これまでホンダを支えてきた北米事業出身者がポストを寄こせと言って社内で抗議しているようです。

4月1日付で倉石君が会長になる案もあったが、これでは益々米国派の不満が募るので、その折衷案として米国と中国の両方を経験した神子柴寿昭君が会長に選ばれたのではないか」(同前)

もともと八郷体制はワンポイントつなぎの「短命政権」との見方があり、ポスト八郷には三部敏宏常務が有力視される。三部氏は現在、本体社長への登竜門である開発部門で子会社の本田技術研究所社長の地位にある。

三部氏は開発部門の中でも改革派として知られた。しかし、「三部氏があまりにも早急に改革を進めるので、倉石氏が『あまり改革をやり過ぎると次の社長の目はないぞ』と言って改革をつぶした」(前出OB)。

ところがここにきて、「改革が全く進まないのは倉石君のせいではないかと八郷君が気付き始め、仲良しだった2人の関係にひびが入りそうな状況」(同前)だそうだ。

銀行も経営介入を意識

ホンダの決算発表はこれまで副社長が行うのが慣例だったが、今年は5月8日の決算発表に八郷氏が顔を出した。

決算発表の前に、八郷氏が自ら異例の「事業方針説明」を行った。その内容は主に四輪事業の強化策の発表で、売れない派生車種の削減と、過剰な生産能力の削減を展開していくことが強調された。

しかし、今年2月19日に発表した組織の見直しの際に説明したものとほとんど同じで新鮮味に欠けた。同時にホンダは、英国南部のスウィンドン工場やトルコ工場での生産終了も発表。一昨年には狭山工場の閉鎖も決めている。

だが社内には「英国やトルコの生産拠点を閉鎖しても、まだまだホンダの生産過剰問題は解決しない。内製している変速機の生産能力も過剰、いずれ人員整理に手を付けないといけないだろう」との見方がある。

No image

Photo by GettyImages

こうした事態にメーンバンクである三菱UFJ銀行も経営介入を準備しているとされる。

「三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行会長は以前、三菱自動車の担当を務め、現在はトヨタの社外監査役を務めるなど自動車産業に詳しい。平野会長がホンダの行く末を心配している」(ホンダ関係者)

三菱UFJ銀行はホンダ系下請け企業に資金を貸し込んでおり、四輪事業がさらに苦境に落ち込めば、下請けが疲弊するとの危機感も強い。

現役社員が語る。

「ホンダは『末期癌患者』のようなものと言っていい。将来に期待していませんし、30代、40代の若い社員も将来がないと絶望して自発的に転職しています」

内紛だらけの社内では、不満が渦巻き、空中分解寸前と言っても過言ではない。本田宗一郎が築き上げた「技術のホンダ」に危機が忍び寄っている。

「週刊現代」2019年6月1日号より

井上久男(いのうえ・ひさお)
64年生まれ。大手電機メーカーを経て、'92年に朝日新聞社に入社。経済部で自動車や電機産業を担当し、'04年に独立。著書に『トヨタ 愚直なる人づくり』(ダイヤモンド社)、『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(文春新書)など

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

経済カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
スシロー、超ハイテクな店舗の全貌...「回転すし総合管理システム」で顧客満足度を極大化
マックのハッピーセットの"図鑑"がすごい
あなたは本当の数字を知らない なぜ「アベノミクス」で景気回復が実感できないのか
気をつけろ! 日本株市場「大崩壊」の不気味すぎる予兆が出てきた
【ホンダ N-WGN 新型】開発責任者「大柄な方でも運転できるよう、しっかり造り込んだ」
  • このエントリーをはてなブックマークに追加