フェラーリ2000台を診た日本人が語り尽くす「赤の真髄」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/08/12

男なら一度は憧れるスポーツカーの最高峰・フェラーリ。熟練の職人がハンドメイドで仕上げる「赤い跳ね馬」は、圧倒的性能を誇る一方で扱い難さも天下一品だ。フェラーリを骨の髄まで知り尽くし、今夏『フェラーリ・メカニカル・バイブル』を著した日本屈指のメカニックが、めくるめく鋼鉄の迷宮へとご案内する。

「ロールス・ロイスとセット売り」の時代

私のキャリアは平成の年号とともにあり、フェラーリのメカニックを生業として、29年になろうとしている。その間、整備や修理、サーキットメンテナンスなど、触ったフェラーリの数は、のべ2000台超を数える。

今までの人生の半分以上はフェラーリのメカニックをやっていて、そのうちの半分くらいの時間は仕事しているわけだから、人生の4分の1はフェラーリをバラしたり組み立てたりに費やした計算だ。

学生生活が終わっていきなり強烈な時代のなかに放り出されたことが、私のフェラーリ人生の始まりだった。バブル真只中の1990年、新卒でフェラーリのディーラーに入社した。当時は、328最終型が新車で入手できるかどうかギリギリで、348デリバリー開始、テスタロッサ、F40が継続生産中。412は生産終了していたが一応カタログには載っていたという、そんな時代のこと。

いきなり思い出話で恐縮だが、当時のフェラーリが日に日にといってもよいほど、価格が高騰していくさまは凄かった。ディーラーの新車が一番安く買えて(といってもロールスとかとセット売りだったから、結局のところ支払い総額はかなりのものだ)、とくにF40は、新車が納車された直後に転売すると1億円は儲かってしまうという異常さだった。が、現在フェラーリの認知度が以前より上がっているのは、この時代のおかげとも言える。

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1987年に発表されたF40。当時は世界最速のクルマだった(Photo by Maurizio Cefariello/CC BY2.0)

その後、フェラーリを扱う工場3社で修業し、2007年末からは、アリアガレージにて工場長という立場でフェラーリを触り続けている。アリアガレージは、スーパーカーを専門に販売・修理する総勢16名の会社である。詳しくはホームページをご覧いただきたい(http://www.ariagarage.com)。

美しすぎるその姿

なぜフェラーリは魅力的なのか? どのような方法でフェラーリは、その魅力を実現しているのか? ここからは、このふたつの問いについて、考察していきたい。

まずは、ボディーのデザインから話をはじめよう。

フェラーリのデザインが素晴らしいことに異論はないだろう。トップクラスのデザイナーだけがデザインを許されるフェラーリ。上がってくるデザイン画は、さぞかし流麗なものであろう。

しかしフェラーリの真の凄さは、デザイン原画が優れているだけでなく、優れたデザインを、そのまま車の造形として作り上げてしまうことにある。よいデザインを実現するためならば、生産性、整備性、コストなどは多少犠牲にしても構わないという思想が根底にある。

たとえば、かつての12気筒ミッドシップは、キャビンからボディー後端までを極力短くするために、エンジンは駆動系とパッケージ化され、さらに限界まで前方に搭載されたため、エンジンを降ろさなければベルト交換できない。

いったい1台に何枚使われているか分からないほどのアルミのフィンを、手作業で貼り合わせて造形されたエアのインレットやアウトレットなどは、他のメーカーには決して真似できない。ゆえに、フェラーリは車デザインの頂点に君臨し続けることができるのだ。

百聞は一見にしかず。例を写真でご覧頂きたい。

1980年代デザインの象徴と言えるサイドフィン(テスタロッサ)

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テールランプ周辺の複雑な造形(F430)

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エンジンを「見せる」演出(F430)

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有機的なエアインレット。切り取ると車の一部には見えない(488)

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シフト操作スイッチ この造形を思い付き、本当に形にするのである。(La Ferrari)

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この造形を作り上げるために、どれだけの技術と情熱を注ぎこんでいるのだろうか(同)

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さらに、ボディーや内装だけでなく、細かな部品のひとつひとつまで隙がなくデザインされている。スイッチ類など、目に入りやすい小物はもちろん、普段は気が付かない箇所までこだわりは貫かれている。たとえば、サスペンションに使われている馬が刻印されたボルトなど。そんな美しい部品の集合体で車が出来上がっている。

最高時速300kmのために

スポーツカーでデザインの次に魅力になるのは、スピードである。ひとつの指標である300km/hを実現するには強力なエンジンが不可欠で、それが多気筒・高回転型ならば、速い上に独自性やステータス性も増す。

フェラーリがデザインの次に重視しているのは、言うまでもなくエンジンで、それも12気筒だ。12個のピストンが1秒間に150回も上下し、ガソリンのエネルギーを最近では700PS(馬力)以上のパワーに変え、最高速はゆうに300km/hを超える。これだけで男のロマンである。

12気筒エンジンはメーカー誕生の1940年代から存在し、資金不足、オイルショック、年々厳しくなる排ガス規制など、数多の苦難を乗り越えて、絶えることがなかった。デザインの本気度に負けず劣らず、エンジンもこだわり抜いている。

遅れて登場したV8(V型8気筒エンジン)は当初、512BB(Berlinetta Boxer)と308、テスタロッサと348などの関係のように、同時期の12気筒をスケールダウンした廉価版のイメージが強かったが、少ないパワーゆえ、どこでも全開にできる痛快さは、V8ならではの楽しみだった。

現在は、スペチアーレ(Speciale、特別仕様車) 以外で12気筒のミッドシップは生産されていないので、V8はミッドシップの運動性を活かし、12気筒とは違うキャラクターで定着している。昨今のV8のパワーは1世代前の12気筒同等にまで高められ、よりピュアなスポーツカーを追求している。

高回転・高出力というスペックだけではなく、ドラマティックに回転が上昇する演出がうまく、もっと回せと車の方から急きたてられるのもフェラーリエンジンの特徴だろう。

数値化できない高揚感

数あるスポーツカーのなかで、ゆっくり走ってもスポーツカーらしさを実現するスペシャル感の演出にかけて、フェラーリに勝る車はないと断言する。

仕事柄、フェラーリ以外のスポーツカーも運転する機会は多いが、いつも感じるのは、他社のスポーツカーは、ゆっくり街中を走っている時は普通の乗用車でしかないということ。特に日本車とドイツ車はそう思う。

では、具体的に何が違うのか?

まずは、エンジン音と排気音。これはスポーツカーとして、とても大事な要素だ。多気筒の高回転型エンジンに拘るだけでなく、エンジンの存在を主張する作り込みもされている。

低回転域でも、フェラーリサウンドが鳴り響くのだ。どの回転域でも、排気音はこもることなく、室内まで響いてくる。単に排気音が大きいというのではなく、意外にもゴムを多用し振動を吸収するマウント類や、実は多く使われているボディー吸音材などの効果で、余計なメカニカルノイズや振動を遮断した上で、純粋な排気音だけ抽出して聞かせているからだと思う。

ドライビング・ポジションも、まさにスポーツカーのそれだ。高く配置されたダッシュボードと低いシートポジションが相まって、運転席におさまると適度にタイト感があり気持ちが高ぶる。目線がとても低く、路面を近くに感じる。

多少重めのパワーステアリング、セミオートマシステム(F1システム)の独特な作動、マニュアルもシフトゲート付きのため、最初は難しく感じる変速など、操作系には癖がある。しかし、練習してこれらの操作がうまくできるようになると、楽しみは倍増する。こういった、ちょっと難しい動作を求めるあたりは、誰でも簡単を求める顧客第一主義の国産車とフェラーリを大きく隔てる部分だろう。

フェラーリは、数値化できないであろう運転時の高揚感を、車を設計・生産する上での、作り込みやセッティングの基本に据えているのだ。

意外と「普段使い」で乗りやすい

意外かもしれないが、一般的なスポーツカーのイメージよりも、フェラーリのサスペンションはソフトで、乗り心地がよい。最近ではメルセデス・ベンツの方が、体感でサスペンションの動きが固く感じられるくらいだ。比較的柔らかいスプリングを用いて、車高が低いためストロークは限られているが、そのなか最大限にサスペンションを動かす方向でセッティングされている。

あと特筆できるのが、意外に視界がよいこと。大体の車種でフロントと両サイドのガラスは、シートに座った時の肩位置よりも下まで伸びている上、Aピラーが細く、視界を遮る面積が少ない。ルーミーという表現がピッタリで、室内は明るく、後方以外は周りもよく見える。

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599GTBフィオラノの車内(Photo by getty images)

前進だけに限れば、目線が低いだけで視界の広さは普通の乗用車と大差ない。他メーカー、特にランボルギーニは上半身にも圧迫感があり、室内も暗く感じるのとは対照的だ。

下半身のタイトさで包まれた安心感をもたらし、ガラスエリアの広さで視界を確保し、上半身の開放感をもたらしている。その上でデザインも両立させているから、作り込みのレベルは相当高い。

「手作業」がコスト削減になる?

ここまではフェラーリのいいところばかりを書いてきた。しかし、長所は短所でもある。上記の魅力をきわめようと特化していった結果、犠牲になった部分もある。それは、ボディー関係の工作精度、部品の耐久性、整備性だ。

まずは、かつてのフェラーリに顕著であった、日本車とは異なる完成基準について説明したい。

フェラーリ社は、車種を絞り高額のスポーツカーだけ生産している、特殊な会社である。量産メーカーがイメージリーダーとして単発で発表する、売れば売るほど赤字になるスーパーカーとは根本的に意味合いが違い、それらと競合しながらも、スポーツカーに特化した会社として継続させる宿命を背負っている。

車種が少ないだけに、売れなかった時のダメージは大きく、スペチアーレを除けば、ニューモデルの投入は毎回背水の陣とも言える。高額スポーツカーの選択において筆頭であり続けることが、自身の存続に不可欠なのだ。

そのため、魅力の部分で述べた「分かりやすさ」は徹底して追求するいっぽうで、抜くところは抜き、限られた手間のなかで車を完成させていたと言えるだろう。

その傾向はF355以前が顕著で、昔ほど「抜く」部分に関して低い完成基準でOKにすることが、結果としてコスト低減方法になっていた。それらは、特に1980年代以前のモデルで、工作機械の加工精度、鋳物の品質、ボディーの手作り感などに見て取れる。1980年代以前のフェラーリは、人の手を多用することで原価低減を図っていたようだ。

たとえば、鋳物は砂型、ボディーは板から叩いて作るとすると、そうして製作された部品の原価は、乱暴な計算だが、材料代+人件費になり、大量生産と比べ設備投資の費用が圧倒的に少なくなる。

特に外装は、それを逆手に取り、たとえば、叩いて成形したアルミの外板や手貼りのFRPなど、軽量だが量産に向かない素材の採用や、何十枚ものフィンを並べて貼り付けたエンジンフードなど、製作に手間はかかるが、他のメーカーではできない手法や造形の多用が可能になる。

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複雑な形状のボディを手作業で削り出す(Photo by gettyimages)

熟練工による製作とはいえ、どうしても人の手で作る歪みがあり(それが魅力でもあるのだが)、量産メーカーの品質基準からすれば、問題ありとされるだろう。逆にいえば、量産メーカーがフェラーリのようなデザインの車を作ろうとしても、手作りに頼る部分の品質が担保できないことになる。もし品質を上げようとすると管理に膨大な手間が発生し、はてしなく原価が上昇するので、真似をしたくても出来ないはずだ。

こういった手法で、ながらく車両価格は抑えられ、12気筒は2000万円台後半、V8は1000万円台半ばという価格設定が、1970年代から2000年代前半まで続いた。ほぼ30年間にわたり、車両価格が大きく変わらなかったことは驚きである。

一方で、手作りのデメリットもある。面積が大きいボディー外板などの部品は、手作りでは精度が確保できず、組み立てながら辻褄を合わせる修正作業が多い。それゆえドアや脱着式のルーフなどの開閉部を完全に密封するには至らないことがあり、それが原因で不具合が起こる。

たとえば雨漏りや走行風が室内に侵入することで起こる風切り音。ボディーと取り付け部分のクリアランスが一定でないために起こる、ダッシュボードの軋みなど。

手作りの外装部品は、部品として完成した状態でも、大体同じような形をしているといった程度の仕上がりで、交換時には削ったり形を修正したりは当たり前という、量産車では考えられない膨大な手間が発生する。

こういった問題が解消されるのは360以降であるが、溶接痕を削り落してから塗装する箇所は、現在のモデルでも存在するので、昔ほどではないにしても手間はかかり、それがフェラーリの板金修理は部品代だけでなく工賃も高い原因となっている。

要は、手作業でしかなしえない造形で格好よいのだから、多少のことは仕方がない。補修も、組み立てた時と同様な職人技が必要ということだ。

「走行距離5万km」に達すると…

フェラーリのエンジンは、定期的にメンテナンスし、部品交換することを前提に高性能を実現している。性能を落として長寿命にするのではなく、部品のライフが短くなることには目をつぶった、レーシングカーの発想に近い。今までの経験からすると、360以前のV8で高回転を多用した場合、エンジン本体の圧縮落ちなどで分解整備が必要になる節目は、ずばり50000kmだ。一般的な乗用車では考えられない距離である。

理由は単純で、一般的な乗用車の1.5倍も高速回転するエンジン内部は、同じ走行距離でもピストンリング等の部品は、1.5倍以上のペースで摩耗するからだ。

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4.5リッターV8エンジン(Photo by getty images)

また、「高出力=発生する熱が多い」ので、エンジン周辺に使われている、ゴムや樹脂で出来た部品の寿命も短い。常用で8000回転オーバーの高出力エンジンを作るのは大変なことで、その引き換えで定期的な分解が必要なのは仕方がない、ということだ。

内外装の部品は、新車時の見栄えを優先し、後の耐久性まで考慮されてない素材を選択する傾向である。

代表的な例を挙げると、前後グリルやボディー下部など、艶消し黒で塗装してある部分、室内のスイッチ類、最近ではエンジンルームのカーボン部品など。いずれも新車時の美しい状態を保てる期間は短く、特に屋外保管すると劣化が激しい。艶消し黒の塗装やカーボン部品は白っぽく変色し、スイッチ類は表面の塗装が溶け出しベタベタになる。

最初の状態が端正で美しく、また目に付くところだけに、劣化した時のギャップは大きく、痛々しさは他メーカーの車の比ではない。

修復するには、一般的な車よりも早いサイクルで再塗装や高額部品の交換を伴い、これもメンテナンス費用が嵩む要因となっている。フェラーリは単なる道具ではなく、美しい工芸品でもあるので、最高の状態をキープしたいオーナーさんが多いということもあって、お金がかかるということもある。

また、使用環境の違いに対応できる幅が少なく、開発時の想定よりも高負荷になり、部品の寿命が短くなるケースも挙げられる。地方の高速道路をメインに走る環境の車は、走行距離の割には痛みが少なく、都市で渋滞が多い環境では、トラブルが多くなる傾向がある。

日本の夏は高温多湿で、道路は渋滞が多く平均速度も低い。そんな本来の想定を超えた環境で使われると、元々エンジンの発生する熱量が多い上、走行風によるエンジンルーム内の冷却が十分に行われず、熱に弱いゴムや樹脂部品の寿命をさらに短くしてしまう。

人生の伴侶になるクルマ

とにかくよく「フェラーリは壊れる?」と聞かれる。

ウィークポイントの大まかなところは上記で述べた通りで、確かに丈夫とは言えないのだが、誤解されている部分もある。本来は旧車扱いされるべきモデルが、現在の車と同じ感覚で扱われるため、壊れるイメージになっている例が多いのが、フェラーリならではの現象である。

2017年現在、F430の登場から丸10年以上、F355になると最終型以外は20年を超えている。20年超ともなれば、クラシックカーの領域に差し掛かる年数だ。普通の車なら、生産から10~20年も経てば、どのメーカーの車でもトラブルフリーは稀だろうから、故障を修理しながら車と付き合う時期である。

フェラーリは生産から10年超のモデルでも、デザインは色褪せないため、なかなか旧い車とは認識されない。が、機械部分は10年超に応じた消耗をしているので、相応のトラブルは発生する。この感覚のギャップが、「フェラーリは壊れる」というイメージを強くする要因だという気がしてならない。

他にも、業界の人たちがよく用いる、「フェラーリですから」という言葉は、フェラーリだから壊れて当たり前の印象を強めている。実際は、程度が悪いことを言葉だけで解決するための「フェラーリですから」なので、私は使わないようにしている。

フェラーリのオーナーに求められるのは、

「格好よさを極めた車の、格好よさ以外のデメリットを許容できるか否か」

長々と書いた割に1行で足りる結論だが、そこに尽きてしまう。

もし許容できれば、車でありながら人生の幅を広げてくれる友となり得るし、許容できないのに所有すれば、そのわがままぶりだけが目に付き、疲れてしまう。フェラーリはそんな車である。

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平澤雅信(ひらさわ・まさのぶ)1968年生まれ。現在、アリアガレージ工場長。フェラーリ専門店で30年近く、フェラーリの整備・修理に従事する。レース・メカニックにも携わる。フェラーリのメカニズムやトラブルの解説を懇切丁寧かつリアルに描いたHP「ハネウマナイネンキ」で公開し、高評を博す。趣味は、アンプ製作、神社探訪。

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