東大、東北大...国立大学で進む「雇用崩落」の大問題

東大、東北大...国立大学で進む「雇用崩落」の大問題

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/09/22
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これが国立大学の現状か…

筆者はこれまで、日本各地の大学で起こっている「非常勤講師・職員の雇い止め」問題をレポートしてきた。今後、大学は職員の雇い止めをさらに進めていくことは想像に難くない。

今回は、なぜ大学が「雇い止め」を進めているのか、そして、その安直な方針が今後の大学運営にどのような影響を与えるかについて記したい。

2015年5月、日本国内の大学関係者が驚愕する、ある報告書が作成された。執筆者は、国立大学協会政策研究所の豊田長康所長。「運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究」と題されたこの報告書には、国からの大学運営費交付金が年々削減されたことに連動して、国立大学で書かれた論文の数が減少していることを明らかにしたのだ。

OECD加盟国で論文数が減っているのは日本だけであることも示されているうえ、2012年時点での人口当たりの論文数は最も少ないという。

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【PHOTO】iStock

「これが日本の国立大学の現状か…」

多くの大学関係者は「日本の教育は落ちるところまで落ちてしまうのではないか」と強い危惧を覚えたという。

国が国立大学に支出する予算は年々削減される一方で、さらなる論文数の減少が懸念される。しかし、問題視すべきは論文数の減少だけではない。筆者はこれから大学で起こる「教職員数の急減」が、大学運営により深刻な影響を及ぼすと考えている。そしてそれは、大学のレベルの低下にもつながるだろうと危惧している。

国立大学の雇用はいま崩壊の危機にある。その背景を、国の大学政策と、大学が抱える問題から探ってみる。

筆頭格は東大・東北大

現在、全国86の国立大学法人で働く非常勤教職員は、約10万人いるといわれている。筆者は、そのうちの多くの教職員が、2018年4月以降雇い止めとなる可能性があることを、東京大学のケースを中心に伝えてきた。(<東京大学で起こった、非常勤職員の「雇い止め争議」その内幕>http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52605

きっかけは2013年4月に施行された改正労働契約法。簡潔に言えば「5年以上同じ非正規労働者を同じ職場で雇う場合、本人が希望すれば無期労働契約にしなさい」とする条文が新たに加えられたことにある。

現在、多くの職場がこの法律への対応を余儀なくされている。日本国内の非正規労働者は約450万人いるとみられており、企業の対応はまちまちだが、法改正から5年が経過する2018年に向けて、各企業では、非正規雇用労働者の無期雇用への転換を進める動きが活発になっているのは間違いない。

にもかかわらず、なぜか大学は世間の動きに反して「無期雇用化」に非常に消極的で、国立大学の多くが、非常勤教職員の無期雇用への転換を拒んでいることが表面化している。

しかも大学の雄である東京大学と東北大学が、その先頭に立っているのだから驚くほかない。

猶予はあと半年…?

現在、東京大学には非常勤教職員が約8000人いる。大学はその大半を原則5年で「雇い止め」にする方針を、8月7日に開かれた組合との団体交渉で明確にしている。

一方東北大学は、准職員と時間雇用職員約3200人を、2018年から2020年にかけて雇い止めにする方針を示している。いずれも改正労働契約法を意識してのことだ。

2つの大学とも、非正規職員を無期雇用にする代わりに、2018年度から無期雇用できる新たなポストを作り、公募するという。

東京大学が新設するのは、専門的で高度な業務を担当する「職域限定雇用職員」。東北大学は3種類の「限定正職員」を新設し、9月9日から、すでに一部で試験を始めている。非正規職員も希望すれば受験できるので、「無期雇用への転換を促す改正労働契約法の趣旨に反しない」と両大学は主張する。

しかし、この新しいポストの採用人数は明らかになっていない。受験には部局の推薦などが必要なケースもあり、必ずしも全員が受験できるわけでもない。

特に東京大学が公募する「職域限定雇用職員」では、採用は予算の裏付けがある部局に限られている。過去にも同じような制度が新設されたが、その時もほとんどの職員が採用されなかった、と20年以上働く女性職員が証言する。

「東大での非常勤教職員の雇い止めは2009年頃から始まりました。その時にも『特任の職員』という制度を新設するので、継続して働きたい人は受験してくださいと言われました。しかし、どの部局も予算がなく、結局ほとんど募集はありませんでした。その時の経験から、今回の公募も、自分が働く部局では募集がないのではと、多くの非常勤教職員が不安を抱いています」

つまり、職域限定雇用職員などの新たなポストは、無期雇用への転換を拒否したと言われないように、大学側が体裁を取り繕うだけの策にすぎない可能性があるのだ。

東京大学と東北大学に対して、組合側は希望する教職員全員を無期雇用に転換するよう交渉しているが、いまのところ大学側は雇い止めの方針を変えていないという。

いうまでもなく両大学は日本の教育機関のなかでもトップクラスに位置する。この両学校で雇い止めがまかり通ると、他の国立大学も同じ対応を採り、大学で「雇い止めの雪崩」が起こる可能性があるのだ。

雇い止めが始まる2018年4月まであと半年あまり。このままでは全国の国立大学で、雇用の大崩壊が起きかねない。

きっかけは法人化

なぜ東京大学と東北大学は、非常勤教職員の無期雇用への転換を阻もうとしているのか。その理由として、2004年に行われた国立大学の法人化の影響が考えられる。

国立大学法人化は、国立大学を国による制約から解放し、自由かつ創造的な教育や研究を行うことを目的にしていた。構想当初は、法人化によって、国民的、人類的な課題に応える大学を創造するという理想が語られていた。

しかし、実態は全く違った。『危機に立つ国立大学』(クロスカルチャー出版)などの著作で国立大学法人のあり方に警鐘を鳴らしている北海道大学の光本滋准教授は、現状を次のように指摘する。

「国立大学の法人化は、大学経営の自由度を増すためではなく、予算の使用方法や人事などについて法人化前よりもさらに厳しい統制を国から受ける、独立行政法人制度がベースになっています。要するに、行財政改革の一環で行われたのです。

国からの統制を強める大学の法人化は、国会で審議した際に強い批判を浴びました。そのため政府は、大学の学問の自由を守るためとして、いくつかの約束をしました。

6年ごとに定める中期目標を、大学が自主的に設定できること。大学の評価を、他の独立行政法人と同様に行うのではなく、大学にふさわしい方法で実施すること。組織を改編・廃止する場合は、大学が自らの判断で行うこと。そして、国が十分な財政を保証すること。政府がこれらの点を約束したうえで、法人化はスタートしました。

ところが法人化されると、政府は約束をすべて反故にしました。国立大学に天下り官僚を送り込み、政府の強い統制下に置いたのです。それから10年あまりが経過したいま、教員養成大学と学部に対し、定員削減や他大学との統合などを迫っているのが現状です」

2015年6月に、当時の下村博文文部科学大臣は「教員養成系および人文・社会科学系学部」の廃止や、社会的に要請の高い分野への転換に積極的に取り組むことを求める「決定」を全国の国立大学法人に通知した。この「決定」は各大学の評価結果とは何の関係もなく、国立大学法人法に反した、違法性がある「命令」といえる。

日本学術会議は下村大臣の決定を批判。日本経団連も「即戦力を有する人材を求める産業界の意向を受けたものであるとの見方があるが、産業界が求める人材像は、その対極にある」と異例の声明を発表した。大学関係者も産業界も国の方針に懸念を表明したのだ。

しかし政府は、批判を受け止めることもなく、いまも下村大臣の「決定」を変えていない。去る8月1日に開かれた文部科学省の有識者会議では、教員養成系の大学と学部が最初のターゲットとされ、各大学は2021年までに縮小や統合の結論を出すよう強く迫られている。

削減される「運営費交付金」

さて、法人化によって大学にもたらされたのは、財政難だ。

法人化以前の国立大学の予算である「国立学校特別会計」に入れられていた、国の一般会計からの繰入金は、法人化後は「運営費交付金」に引き継がれた。これは、当初は「使途を限定しない」として、大学が自由に使える資金のはずだった。

ところが、「運営費交付金」の額は2010年度までは毎年約1%ずつ減額されたのだ。それ以降も新たな方式が採用されたことにより、交付金は年々減らされている。

その一方で、減額分をカバーするためと称して、「特定運営費交付金」や「プロジェクト補助金」などの名目で予算が計上されるようになった。

「特定運営費交付金」は、使途が決められた、いわばひも付きの予算である。「プロジェクト補助金」にいたっては、使途が限定されるだけでなく、プロジェクトの総額の一部が補助されるだけ。足りない分は大学が「運営費交付金」から持ち出しをしているのが実情だ。

たとえば東京大学の2016年度の交付金と補助金の状況を見てみると、運営費交付金は740億7700万円で、前年よりも41億8000万円減少。施設費・補助金は94億5400万円で、51億5000万円あまり減少している。

おそらく東京大学は、他の大学に比べて「特定運営費交付金」や「プロジェクト補助金」といった競争的資金を最も獲得しやすい大学だろう。それでも1年でこれだけの減額になっているのだから、ほかの大学はそれ以上に悲惨だろう。

この結果、大学が自由に使える金が減っているばかりか、法人化前の国の一般会計からの繰入金に含まれていた教職員の人件費が、「運営費交付金」で賄えなくなってしまった。その減少分をなんとかしようと、そのために人件費の削減が進められているのだ。

東京大学でのケースをみると、全費用のうち人件費は43%となっている。支出の大きな割合を占め、「最も手を付けやすい」人件費が、今後も削減されていくのは間違いない。

法人化で急増した非常勤教職員

法人化以降、全国の国立大学は人件費を抑えるため、正規の職員ではなく非常勤の教職員を多く雇うようになった。そして、彼らは雇用の調整弁として利用される。

東京大学の非常勤教職員で最も人数が多いのは、「短時間勤務有期雇用教職員」と呼ばれるパート教職員だ。パートといっても、フルタイムの非常勤教職員や、正規の職員と変わらない仕事に携わっている人も多い。

同大学の内部資料によると、パート教職員の人数は、法人化以前は1000人程度だった。それが2004年の法人化後に急増。2008年には3300人になり、2017年1月時点では5300人まで増えている。その8割は女性だ。専任教員や正職員が定年退職しても、大学が補充するための採用を行わず、パート教職員に置き換えてきたことが伺える。

この5300人の中には、長年東京大学で働いてきた人も少なくない。しかし、いまのままでは、2018年4月以降、ほとんどが雇い止めされてしまう可能性があるのだ。

さらに東京大学には1200人以上の非常勤講師が勤務しているとみられる。しかし、彼らに対しては「業務委託」という雇用形態を採っていて、労働契約すら結ばれていない。東京大学全体をみると、何ともちぐはぐな雇用形態である。

財政難を凌ぐため、正規の代わりに非常勤職員を多く雇い、そして更なる財政難に見舞われると、彼らを「雇い止め」にする。これでは「使い捨て」、と批判されても仕方がないのではないか。

非正規の教職員の雇用形態が複雑化しているのは、他の国立大学でも同様だ。その理由について北海道大学の光本准教授は「大学の経営陣が労働法規に無知であるため」だと指摘する。

「国立大学法人の経営者は、学部など内部組織の雇用には関知しないというスタンスをとっています。そのため、法律に無知な現場の使用者が、勝手な解釈で非常勤教職員を雇用し、仕事をさせていることもあります。教職員の雇用や労働条件について、守らなければいけない法律を、使用者と教職員がともに学ぶ必要があります」

東京大学をはじめ、多くの国立・私立大学と交渉にあたっている首都圏大学非常勤講師組合の志田昇書記長も、大学の労務担当者が労働法規を知らないケースが多いと話す。

「組合が指摘しなければ、経営陣・運営陣はそれが違法かどうかも理解していない。労務担当者が団体交渉で常軌を逸した発言をして、同席している大学側の弁護士が黙ってしまうこともあります」

結局、国立大学は、国に統制され財源を奪われるなかで、労働法に無知な幹部が違法性を自覚しないまま雇用を崩壊させようとしている。これが雇用崩壊の背景といえそうだ。

教職員の減少は何をもたらすか

さて、運営費交付金は今後も削減される予定だ。国立大学協会政策研究所の豊田所長は前述の報告書で、「運営費交付金削減による代償は、医学部の附属病院を除いては、すでに限界に達している」と述べている。国立大学法人はすでに、「交付金削減がそのまま大学機能や組織の縮小に直結するフェーズに入っている」というのだ。

この指摘は、発表当時多くの大学関係者に受け入れられ、「大学の危機」が叫ばれた。しかし、政府や文部科学省はこれに耳を傾けず、交付金が増額に転じることはなかった。このまま大学の予算が縮小していけば、大学側はさらに人件費の削減を余儀なくされるだろう。教職員が削減されれば、学問の継承や発展が困難になるのは明らかだ。

各地の大学では、退職した教員の補充ができずに、その教員が担当していた分野の研究や授業がなくなることも珍しくないという。授業科目を揃えるだけなら非常勤講師を雇うことでしのげるが、非常勤講師の待遇は劣悪で、若く優秀な研究者が育つ可能性は低い。

非常勤の教職員を大量に雇い止めすることは、長年研究を支えてきたスタッフを失うことをも意味する。しいては研究に支障が出ることだろう。研究に支障が出れば、冒頭でも指摘した日本の論文数のさらなる低下などにもつながるだろう。要は、大学教育の根幹が崩れることにもつながりかねないのだ。

大学はその点についてあまりに無意識すぎはしないか。

「現在の国立大学は、このままでは立ちゆかなくなることは確実なのに、経営層からは、問題を直視し抜本的な手を打とうとする動きが起こってきません。個別の国立大学が破綻することはもちろん、日本の学問全般の衰退という深刻な事態を招くことが危惧されます」(光本滋北海道大学准教授)

国立大学の非常勤教職員の雇い止め問題は、労働問題だけにとどまらない。日本の大学と学問の破滅につながっていく可能性がある。各大学の対応次第では、2018年4月までのこの半年あまりが、大学の将来にとって大きな分岐点になるかもしれない。

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