恋愛中毒:“妻”という安全地帯に甘んじる女に訪れた、独身男の誘惑

恋愛中毒:“妻”という安全地帯に甘んじる女に訪れた、独身男の誘惑

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  • 更新日:2017/08/18

人妻が恋するのは、罪なのか。

裕福で安定した生活を手に入れ、良き夫に恵まれ、幸せな妻であるはずだった菜月。

結婚後に出会った彼は、運命の男か、それとも...?

身も蓋もない、無謀で純粋な恋に堕ちてしまった女は、美しく、ひたむきに、強かに、そして醜く成長していく。

友人の強引な誘いで、独身のフリをして食事会に参加した菜月。達也から無遠慮なアプローチを受けるが...?

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「ねぇ、菜月さん、ものすごい俺のタイプなんだけど」

達也が囁くようにそう言ったとき、菜月は怯えにも似た苛立ちを覚えた。

こんなセリフを、きっと彼は毎晩のように多くの女たちにばら撒いているに違いない。

「今度、食事行こうよ」

彼の挑発的ともいえる物言いや立ち振る舞いに、下心を隠す気配は微塵もなかった。

滑らかな肌に、少年っぽさを残す整った顔立ち。商社マンというブランド力も相まって、29歳のこの彼は、こういった男女の場において、限りなく敵なし状態なのだろう。

言い換えれば、人妻の菜月が一番関わることのない人種だ。

「また、みんなで...」

菜月は曖昧な返事をして、居心地の悪さを隠すように時計に目を落した。時間は22時半を過ぎている。夫は遅くとも24時前には帰るはずだから、そろそろ自分も帰宅の時間だ。

「あの...申し訳ないんですけど、私はお先に失礼します」

「じゃあ俺、駅まで送っていく」

菜月が言うと同時に、達也まですかさず席を立つ。

「なっちゃん、今日は本当にありがとう!達也、よろしく~」

すでに酔いが回り、男との会話を楽しんでいる美加は、菜月の戸惑いに気づく様子はなかった。

達也の強引な態度に、菜月は警戒心を強めるが...?

“妻”という安全な場所に甘んじていた女への誘惑

「ねぇ、もう一軒行こうよ」

『ベンジャミン ステーキハウス 六本木』の薄暗い階段を登りながら、達也は自然に菜月の腰あたりを支えるように手を添える。

そこにいやらしさはなく、あくまで紳士的な振る舞いだとは思う。だが、こんな場面をもしも誰かに見られたらどうしようと、菜月は気が気でない。

「今日はちょっと...帰ります」

「いいじゃん、本当に一杯だけ」

達也のストレートな誘いを、菜月は適当にあしらう術を持っていない。長いこと“妻”という安全な場所に甘んじていたから、この種の強気な独身男への免疫がもうないのだ。

「ごめんなさい。実は私、今日来れなくなった子の代打で、本当は結婚してるんです」

我慢できずに思い切って真実を告げると、達也は「え、まじ」と一瞬キョトンとした表情を見せた。

「じゃあ、なんで今日来たの?旦那とうまくいってないとか?暇つぶし?憂さ晴らし?」

しかし次の瞬間には、彼は好奇心丸出しの少年のような顔になり、次々と質問を投げかける。

店の外にでると、深夜の六本木は、さらに人で溢れていた。湿度をたっぷりと含んだ真夏の熱気と、繁華街特有の毒々しい気配がそこらじゅうに立ち込める中、菜月はだんだん心細くなる。

「いや、そういうんじゃなくて、今日は美加にどうしてもって頼まれて...。私ちょっと急ぐので、タクシーで帰ります」

「ふぅん、まぁいいや。じゃあ送ってく」

菜月が逃げるようにタクシーを捕まえると、達也はなんと強引に、同じ車内に乗り込んで来た。

「え?みんなの所に戻らなくていいの?」

「菜月さんと話したいから、いい。家、どこ?」

時間はもう23時近い。抵抗する間も惜しく、菜月は「半蔵門のほう...」と、観念するように呟いた。

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タクシーが外苑東通りを青山方面に進むと、外はだんだんと静かになる。青山通りを右折すると、街はすっかり静寂な夜の空気を取り戻していた。

その気配につられるように、達也からは挑発的な態度が消え、「あー疲れた」などと言い、シートにもたれて目を軽く閉じている。

「達也くんは、お家はどちらなの?」

「俺?六本木」

菜月は、その不可解な行動に言葉を失う。彼は半蔵門まで自分を送り、そのままトンボ帰りでまた六本木に戻るのだろうか。

警戒心で身を固くしていた菜月だったが、達也はほとんど無言状態で、不自然な沈黙状態が続いた。運転手に道を指定する菜月の声だけが、車内に小さく響く。

「...なんか普通に、菜月さんともう少し一緒にいたかったんだよね」

自宅に到着する直前、達也は独りごとのように言った。

きっと、からかわれてる。

そう思いながらも、菜月は自分の顔が赤くなるのを止められなかった。

真面目な妻だったのに。何不自由ない女の、心が揺れ動く...?

注意深くあること、なんて、何の意味もない

「おかえり。遅かったね」

恐る恐る部屋の鍵を開けると、夫の宗一はもう帰宅してしまっていた。まだ家に着いたばかりのようで、ワイシャツ姿のままソファでテレビを眺めている。

「久しぶりに、美加と盛り上がっちゃって...」

美加と食事に行くことは、事前に伝えておいた。宗一を紹介してくれたのは彼女だから、信用も厚い。

夫は妻の遅い帰宅を特に気にも留めない様子で、テレビに気を取られている。菜月はホッと息をつき、素早く寝室のクローゼットに着替えに向かった。

広々とした、2LDKのマンションの一室。東南向きの角部屋で、千鳥ヶ淵の緑を存分に眺めることのできるこの贅沢な物件は、宗一の両親が結婚祝いに贈ってくれたものだ。

宗一は都内の勤務医だが、義父は名古屋で産婦人科を開業していて、土地柄のせいか、贈り物がいちいち派手なのだ。

もちろん感謝はしているが、横浜の中流家庭育ちの菜月は、少々気後れすることも多い。

着替えついでにメイクを先に落としてしまうと、これまでの緊張が一気に溶け、菜月は自分が安全地帯に戻ったことを知る。

―タクシー代なんていらないから、LINEおしえてよー

別れ際、現金を渡そうとする菜月に、達也は拗ねたような顔で言った。

二人を乗せたタクシーは、少し離れた場所に停めた。マンションの車寄せには、さすがにあの状況で近づけなかった。

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スマホの画面を見ると、さっそく達也から何件かLINEが届いていて、思わずドキリとする。夫以外の男性とやりとりすることも、ほとんどないのだ。

「なんか、菜月から美味しそうな匂いがするよ。何食べてきたの?」

気づくと、背後に眠そうな顔をした宗一が立っていた。菜月は慌ててスマホを鞄に戻す。

「えっと...イタリアン。何か混み合ったお店だったから、匂いついちゃったかな。シャワー浴びてくるから、先に寝てて」

妻の嘘を疑う様子もなく、夫は従順にベッドへ向かった。

彼がブランケットを被るのを確認してから、菜月は再びこっそりとスマホを取り出し、薄暗いリビングに戻る。

―今日は、疲れたな...。

静かに大きく溜息をつきながら、そっとLINEのトーク画面をひらく。

そこには達也から太ったウサギやブタのスタンプがいくつも送られてきていて、ついクスリと笑みがこぼれてしまう。

―かわいい。

そして、菜月が「今日はありがとうございました」と無難なお礼言葉を打つと、すぐに「いつ会える?」と返信が戻ってきた。

身体の奥が、小さく震えた気がした。

注意深くあること、なんて、何の意味もない。

出会ってしまって、囚われてしまったら、あとはそこにどれだけ踏みとどまれるのか、もう自分との我慢くらべに過ぎない。

でも大抵の女は、堰をきったような感情に抗うことなんて、たぶんできないのだ。

▶NEXT:8月19日 土曜更新予定
達也との距離が縮まる。夫と達也の間で、菜月の二重生活が始まる...。

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