大手通信キャリアに仲間入りする楽天、サービス開始の10月1日ははたしてどうなる?

大手通信キャリアに仲間入りする楽天、サービス開始の10月1日ははたしてどうなる?

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  • 更新日:2019/09/20
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■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議

スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は楽天の通信業務開始について議論します。

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楽天モバイルのネットワークは大丈夫?

房野氏:楽天モバイルが10月1日にいよいよMNOとして参入しますが、5000人限定の「無料サポータープログラム」というスモールスタートになりました。申し込みは地域限定で新規またはMNPという条件があり、応募者多数の場合は抽選。申し込んでも利用できない可能性があります。9月6日の発表会では料金プランは明らかになりませんでしたが、ほかと比べて楽天にはどんな強みがあって、どんな人がMNOの楽天に乗り換えると良さそうでしょうか。

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楽天モバイル「無料サポータープログラム」

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房野氏

法林氏:ドコモが2G回線を3G回線の「FOMA」に切り換えたときは、最初の半年間は抽選制だった。

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法林氏

房野氏:そうでしたっけ、覚えてないです。

法林氏:携帯電話専門媒体の編集部のメンバーや関係スタッフが全員申し込んだのに全員外れて、ふざけるな! 二度とドコモについて、記事に取り上げないぞ! なんて思ったものです(笑)。そうしたら業界関係者で当選した人がいて、折りたたみケータイもカメラ付きテレビ電話対応モデルもデータ通信端末も、全部丸ごと一式どうぞって貸してくれた。それで何とか記事にできた思い出がある。

石野氏:楽天は「ホップ・ステップ・ジャンプ」方式なので、ステップでWeb申し込みに対応し、ジャンプで店頭受付でしたっけ?

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石野氏

法林氏:最初は東京23区、名古屋市、大阪市、神戸市に住んでいる人だけ。5000人を超える場合は抽選だけど、場合によっては無作為に選びましたとかいいつつ、実はちゃんと選んでいるという可能性はある。怖い感じ。

房野氏:基地局の設置のスケジュールはきちんと消化しているんでしょうか。最初のうち、地方ではauの電波を借りて、都心部では自前のアンテナでやるということで進んでいますが、8月には基地局整備が進んでいないという指摘が総務省から入りましたね。9月初頭の発表会では目標通りと言っていましたが、本当に大丈夫でしょうか?

石川氏:ダメでしょう。だって2020年3月末までに3000強の基地局を作るといっているのに、2019年9月時点で600弱しか稼働していなかった。

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法林氏:もしかすると、直前になって一斉にドンってできる可能性はゼロではないけれど、普通はできない。

石野氏:あと、auから回線を借りるローミングエリアが、地下にも拡大していました。

石川氏:地下鉄は最初からローミングだと言っていたけれど、地下が知らぬ間に増えている。

石野氏:聞いたところによると、実は最初から決まっていたらしいです。言うほどの話じゃないってことで伏せていたとか。

法林氏:終電から始発の間しか工事できないので、地下鉄の工事は難しい。東京メトロや都営地下鉄が保守をする時間帯があるので、その合間にやる。今まで各キャリアさんたちが相当大変なことをしてやっているとおり、そんなに簡単にはできないんですよ。

石野氏:東京は地下街が結構多い。その辺が……。

石川氏:地下街もローミング対応なんでしょ?

石野氏:あれって全部じゃないですよね。

石川氏:いやー……たぶん対応すると思うけどな。

房野氏:地下は全部ローミングなんだと思っていました。

石野氏:どこまでやるのかな。あとビル内も。

石川氏:だったらもうauでいいじゃんって。本当に楽天は営業開始を避けるなら今しかないですからね。

房野氏:やめると言ってもいいんですか? それって可能ですか?

法林氏:いや、それはダメですよ。会社としてそれはダメ。

石野氏:もう引けないですよね。「やめる」っていうタイミングではなくなった。

石川氏:それか、始めて1か月で、「ごめん、年内でやめる」っていう。

法林氏:「ごめん、やめる」はできないですよ。相当、相当マズイ。

石川氏:でも、アイピーモバイルはやめるといって止めた。

石野氏:あれは会社が潰れちゃったから。

法林氏:楽天は生きているので。

石川氏:楽天モバイルがダメになっちゃえば言えるじゃないですか。

石野氏:そうなったら三木谷社長が首相に顔向けできなくなりますよ。

石川氏:「進むも地獄、退くも地獄」。

MNOの楽天モバイルに対応する端末が必要

房野氏:MVNOの楽天モバイルと契約している人は、そのままスライドするのでしょうか。それとも改めて契約し直すのですか?

石野氏:今年の3月14日以降に契約した人には、あるタイミングで自動的にSIMカードが送られてきて、自分で切り替える意思を表明したら切り替えられるようになる。

石川氏:ただ、楽天モバイルに対応した端末じゃないとダメ。対応する新製品が、9月6日に9機種(うちWi-Fiルーター2機種)発表されたけど、現時点(2019年9月上旬時点)で、対応するスマホは12機種しかない。既存端末もアップデートで対応するみたいだけど、その機種を持っている人はMNOの楽天モバイルに切り替えてもいいけれど、そうじゃない人は端末を買い換えなきゃいけないという問題がある。その端末代金をユーザーが負担するのか、楽天モバイルが負担してくれるのかはわからない状態。

法林氏:負担に関しては、それをキャリアがやっていいのかという問題がある。改正電気通信事業法的にいうと、一応、時限ですけど、端末の割引の上限は2万円。楽天モバイルは他キャリアからユーザーを持ってきたいけど、「端末代金はみんな自分で払ってね」という形になると少し難しいですよね。

石野氏:MVNOの楽天モバイルからMNOへの楽天モバイルへの移行は強制ではなくて、完全に自分の意志に委ねるといっている。MVNOの楽天モバイルだとエリアがドコモか一部auなので、普通に全国くまなく使えるわけです。今の楽天モバイルに満足している人は、そのまま使い続けた方がエリアはしっかりしているので、あわてて変えない方がいいかなという感じがする。今の楽天モバイルの通信速度と料金で満足しているのであれば、無理にMNOの楽天モバイルのネットワークに変えるメリットは、最初はないかな。

MNOの楽天モバイルの料金はどうなるのか

石川氏:料金的にはMNOの楽天モバイルの方が安くないと、たぶんユーザーはほかのキャリアから移らないと思うので、必然的に今の楽天モバイルより高い料金プランはありえないんじゃないかな。

法林氏:その割には、既存契約のユーザーを「スーパーホーダイ」に持っていくべくDMを送っている。2017年のスーパーホーダイ開始よりも前に契約している人は別プランの人がたくさんいて、それを新しいプランに変えさせようという意図は感じる。僕のところにもメールがきている。

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楽天モバイル「スーパーホーダイ」

石野氏:MVNOの楽天モバイルの料金は、Y!mobileとMVNOとの中間くらいの感じなんです。新規参入するとなるとY!mobileの料金を下回らないといけないだろうから、今の楽天モバイルの料金が1つの基準にはなるかなという感じがします。しかし、それだとインパクト不足な感も否めないなと。ネットワークのことも考えると、じゃあY!mobileでいいじゃんという話になってしまいかねない。ネットワークがないなりにプラスαを打ち出すことが必要な感じ。

石川氏:経営のことを考えると、支払う額は同じだけど容量が増えるみたいなところが落ち着きどころかな。1か月分のデータ容量を使い切った後は、今は1Mbpsだけど、その制限が緩いものじゃないと厳しいんじゃないかな。

石野氏:自社ネットワークが、当初は当然ユーザーがいないからスカスカなので、無制限で低い料金を打ち出すとか。

石川氏:自社ネットワークにつながったら無制限って、たぶん無理だと思うんだよね。明らかにユーザーの不公平感につながる。au回線を使う地方の人はずっと制限があり、都内でたまたま楽天の基地局が目の前にあったら無制限で使えるっていうのは明らかに不公平になる。けどまぁ、UQコミュニケーションズのことを考えるとありなのかな。

石野氏:うん、まぁ、アリかなとも思ったんですけど、ローミングエリアで大量に使われちゃうとauへの支払いがきつくなる。楽天とKDDI(au)が結んでいる契約にもよるので、使い放題で使いまくってもそんなに変わらないかもしれないし、容量単位でいくらという感じになっているとKDDIへの支払いがかさんでしまうことになる。KDDIとどういう交渉をしているかにもよるけれど、可能性はあるかなという気がする。例えば無制限で3000円とかだったら、予備回線として契約してもいいかなとは思うので、その価格設定次第かな。

房野氏:今のMNO3社から楽天モバイルに流れるような人って考えられますか?

法林氏:普通に考えるとないです。ほぼないです。

石川氏:そういう人は格安スマホの楽天モバイルを使っているだろうし。これから違約金の上限が1000円になって乗り換えしやすくはなるけれど、それ以前に乗り換えのメリットがあることをきちんと打ち出せるかとなると、結構厳しいんじゃないかな。

石野氏:Facebookでつながっている某社の人が、楽天の判明している基地局のマップをGoogleマップにプロットしているんですよ。1.7GHzだったら、この辺りは電波が入るかなみたいなことを書いている(笑) このセル間隔であれば、ビル内じゃなければ、そこそこつながるかなっていうコメントをしていました。

石川氏:ビルの中でさ、仕事している間はつながらないというのは、あり得ないけどね。

房野氏:1.7GHz帯だとビルの中は厳しいですか?

石川氏・石野氏:うーん……

法林氏:一般的に、700、800、900MHz帯じゃないと厳しい。初期のJ-フォンがつながらないと言われたのは1.5GHz帯しか持っていなかったから。もちろん無線のシステムが違うので一概に同じとはいえないけれど、周波数特性だけで考えると1.7GHz帯はビル内は結構厳しい。

石野氏:逆にいうと、都内だと外から入ってくる電波だけでは容量が足りないので、ビル内は各社とも基地局をばんばん置いているんですが、そこまで楽天がやるかというと、ちょっと消極的な感じ。なんですが、最悪、ビルの中はオフィスだと思えばWi-Fiでいいじゃんという割り切り方ができて、かつ料金がそれなりに安ければWi-Fi Calling(Wi-Fi回線を使って通話やSMSの送受信をする機能)が使えればいい。

石川氏:楽天のサービスにWi-Fi Callingの仕組みが含まれていれば、Wi-Fi環境では電話が使えるよね。ただ、それと完全仮想化ネットワークを組み合わせたときに、ちゃんと動くかどうか。

石野氏:Wi-Fi Callingは組み入れますよね、きっと。

石川氏:入れざるを得ない。

房野氏:MNOであれば、音声通話も重要になると思います。発表会では音声通話、SMS、ビデオメッセージなど、さまざまなサービスを「Link」というアプリで提供すると説明していましたが、音声サービスについては不安な要素もあるでしょうか。

石川氏:そうですね。

石野氏:Wi-Fi Callingが入ってくると、基地局でカバーできないエリアでも通話できるようになるので、ある程度、カバー範囲が広がる。

石川氏:楽天は無料通話アプリの「Viber(バイバー)」を持っているので、完全仮想化とViberとWi-Fi CallingとVoLTEを組み合わせて、それらがシームレスに動くようになればいい。LTEの電波がなくてもWi-Fiで通話できるとか、さらに海外に行ってもWi-Fi環境下であれば090の番号で電話できますってなれば、楽天の完全仮想化はすごいって話になると思います。それがLinkで実現できているかどうかが今回のポイント。

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楽天「Viber」

石野氏:やろうとしていることはそういうことですよね。

石川氏:そう、ネットワークの革命を起こすって言っているんだから、それくらいできればいいし、それがうまく動くかどうかのためのホップ・ステップ・ジャンプだったら納得する。ドコモ、au、ソフトバンクのメッセージサービス「+メッセージ」に関しても話をしていないってことがあったじゃないですか。楽天は、自分たちが作ったネットワークが、こんなに先進的だと言っていますけど、それが他キャリアとサービス連携がとれていないと、使えないという判断になる。

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「+メッセージ」

法林氏:ケータイ時代もそうだけど、基本的に1社でしかやらないもの、特にコミュニケーションサービスで単独のものは絶対に流行らない。必ず潰れるんです。+メッセージは3社共通仕様でやっていて、同じ仕組みで動いている。携帯電話番号であれば3社同じようにやり取りできるしスタンプも送れる。それに楽天が入らないなんてことになると、楽天のユーザーはコミュニケーションできないという話になっちゃう。

石川氏:+メッセージのユーザーは、今はあまりいないけど、今後、増えてきたときに、+メッセージのコミュニティから外れるってことは仲間はずれになること。コミュニケーションサービスが受けられない。

石野氏:今の仮想化ネットワークを活かせば、ViberもRCS(Rich Communication Services。SMSなどに代わって、スタンプや写真なども送れる高度化されたメッセージサービスの規格。+メッセージはRCSを実装している)に対応させて、Viber/RCSクライアントにすることもできなくはない。というか、それくらいはやってほしいなぁ。

法林氏:そういうのって作ればあるものなので。

石野氏:それくらいやってくれると信じています。

法林氏:ちなみに記事のバックナンバーを色々調べていたんですけど、イー・モバイルのときはドコモローミングをしているんだけど、ユーザーにはローミングの月額料金として105円が請求され、通話料は30秒22.05円、データ通信料は1パケット当たり0.0735円、SMSが5.25円を追加されていた。つまり、ドコモ回線につながっているときと、イー・モバイル回線につながっている時とで料金が違った。もしかしてこれを踏襲することになると割としんどいよね。「地下鉄に入った、よし、電話つながったけど、どんどんお金が加算されていく」みたいなことになっちゃう。

石野氏:それも最初の契約がどうなっているかによりますけど、一般的に考えるとそうなりますよね。

法林氏:例えば「月1000円払ってくれれば、ローミングも全部楽天がかぶります」ってことならすごいと思うけど、恒久的に続けるのはたぶん難しい。

石川氏:KDDIとしては、auユーザーが快適に使えることが大前提としてある。どう考えても楽天ユーザーがつながることによってauユーザーの満足度が下がることはしない。そう考えると、au以上の料金プランはローミングに関しては作れないだろうという気がするし、使い放題で安くなって楽天に行かれるってことはできないような設計になっていると思う。

石野氏:楽天がどこまで赤字に耐えるかによりますけどね。

石川氏:うーん……

石野氏:今の財務状況でどこまで赤字をかぶれるか。本気になったら、サッカー選手とか野球選手を放出していって資金は作れるかもしれませんが(笑)

心配事の多い楽天、情報開示も少なすぎる

法林氏:ローミングは色々と面倒くさい。単独のネットワークで動いている方が、やっぱりちゃんと動く。ローミングは確かに便利だけど、隣同士のローミングって難しいんです。海外にいってローミングできますというのとはちょっと違う。ネットワークを借りるといっても、隣接する場所、例えば東京の二子玉川みたいなところは、県境を越えた先ではauのネットワーク、だったらちょうど境目は楽天の回線なの? auの回線なの? どうなの? って不安になるよね。

石川氏:楽天が参入するって話が出た当初から、この座談会は批判的だったし、自分も表向き批判的に見えてしまう原稿だったかも知れないけど、批判的な姿勢を示したいがために原稿を書いているわけではなくて、本当に心配なんですよ。ここを強調したいんだけど、本当に、心の底から楽天のことが心配なんです。

法林氏:格安スマホが流行るときに、分からないことがあってドコモショップに行ったら対応してくれなかったといった人たちがたくさんいたわけです(MVNOと契約している場合、契約者ではないので、ドコモショップは対応しない)。それと同じで、楽天が始まる、料金が安いらしい、じゃあ契約しようということで自分の電話番号をMNPしたら、ずっとアンテナピクトが立たない。自分の家は圏外だったということが往々にしてあり得る。

石川氏:この業界でかれこれ20年くらい取材していますが、3キャリアがいかにネットワークで苦労してきたかって話を散々取材してきたんですよ。ソフトバンクもauもドコモも、都心部では特にトラフィックが多くて大変だという問題もあるし、1年の内の数か月間だけ富士山頂でも通信エリア化しなきゃいけないというので、富士山に登って取材もしたし。離島に行って、離島でどうやってネットワークを作るかも取材した。我々の感覚が麻痺しているけれど、これだけ当たり前のように携帯電話がどこでもつながるということは、本当はものすごく大変な何年もかけた努力の上に成り立っているもの。おいそれとMNOでやりますと言って、じゃあ競争力があって戦えるかといったら、それはなかったりする。

最近は楽天が心配だし不憫(ふびん)に思っています。政府の思惑で第4のキャリアとして周波数をもらったけれども、もらったことによって大変な茨の道が待っていたというのが、だんだんみんなわかってきたんじゃないのかなって気がしています。

本来、楽天には1.7GHz帯だけでなくて、もっとつながりやすい電波を渡さないといけない。800MHz帯とかのプラチナバンドもそうだし、5Gの3.4GHz帯とか28GHz帯もそうだけど、周波数をセットで渡してあげないと相当厳しいんじゃないかなと思います。

法林氏:2006年にソフトバンクがVodafoneを買収して参入したとき、3Gは2GHz帯しかなく、1.5GHz帯は第二世代のPDCで利用していた。それで困って孫さんが「プラチナバンド、プラチナバンド」と散々騒いて、ようやく空きができてもらって、なおかつイー・モバイルを買収して、ようやく他の2キャリアと多少は戦えるポジションまで来た。これだけの道具を持つのにそれだけの時間とコストがかかっているのに、いきなり1.7GHz帯1本で戦えるはずがないのが実際のところ。

石野氏:プラチナバンドがないことを何もアピールしていないんですよね。そこがちょっと分かっていない感じがする。

石川氏:ソフトバンクもそうだった。何も文句を言わずに買ってみたら、ボロボロのネットワークで、散々苦労した。

石野氏:ソフトバンクは最初からプラチナバンドのことを言っていましたよ。FOMAが800MHz帯に対応したけれど、ソフトバンクがいちゃもんを付けたせいで、端末だけ800MHz帯に対応してネットワークは始まらないって事件もあった。

法林氏:ソフトバンクは地方にたくさんアンテナを立てなきゃいけないけど、ドコモは1本で済んでいる、不公平だと総務省にかみついて、ようやく900MHz帯が割り当てられた。

石野氏:ソフトバンクは参入前から、Yahoo! BBのユーザーとかに、総務省に苦情を言えっていうメールを出して揉めたことがある。賛否両論はもちろんありますが、それだけ孫さんは通信ネットワークの構築に真剣だった。それに比べると……

法林氏:自社の不利な条件について、ちゃんと総務省に言うべきだと思うけど、楽天が文句を言わないのは分かっていないのか、それどころじゃないのか。孫さんは、ちょっと不穏な発言をしたことがあったけれど、言い分が正しいこともあった。周波数に関して、各社イコールのポジションを作りましょうということを言っていた。そういう話が楽天からは出てこない。

もう1つ。最初に免許を取ったときにはいいなと思う部分もあったんだけど、それから1年以上ずっと見ていてヤバいな思うのが、広報活動など、外部へのアナウンスがあまりにもなさ過ぎること。楽天は、自分たちが今置かれている厳しい環境を説明して、だから総務省さんなんとかしてくださいとか、メディアに対して「準備はしていますけどこういう形になります」ということを、ある程度明らかにしていくべきだった。それが全然できていないのが非常にマズイ感じ。事前の開示が少なすぎる。

基地局整備は仮想化できない

房野氏:こうなると従来キャリアからMNPする人は少なそうですが、MVNOから楽天に移る人はいるでしょうか。

法林氏:今のMVNOから移行するメリットがほぼない。MVNOは3社のネットワークを使っているので、普通にどこでもつながる。お昼とか厳しい時間帯もあるけれど、基本的にはドコモ、au、ソフトバンクのネットワークとイコールなので、つながりはする。面のエリアはちゃんとある。楽天は面のエリアがない状態。移行するメリットがほぼない。仮に今、MVNOと契約して1600円くらいで、なんとか3GBで収まっているとする。その人が、仮にMNOの楽天モバイルで月額500円、2倍の6GB、10GB使ってもいい料金プランが出たとしても、つながらないものは使えない。

石川氏:SNSで見たけれど、つながらないなら、逆にデータを消費しなくてラッキーだ、みたいなよくわからないツイートをしている人がいた。

法林氏:飛行機のWi-Fiで、遅すぎてデータが流れないので、結果容量制限の100MBを使い切れなかったということがあった。つながらないからデータを消費しないっていうのはあり得る話。

石川氏:ただ、この時代、つながらなかったらストレスでしかないですよ。

房野氏:そんな中、三木谷社長は9月初頭の発表会でも強気でしたね。

法林氏:イー・モバイルや、ソフトバンクがボーダフォンを買収したときもそうだけど、あの時代はケータイの時代なんですよ。データ通信の使用頻度も容量も今の数分の1程度の時代。使うタイミング、頻度が低かった。それがスマホの登場で、環境が劇的に変わった。

石川氏:しかもイー・モバイルはデータ通信推しだった。つながらない場合は場所を移動して使ったりした。PCはつながるところを探して作業しようかということも可能だけれど、スマホはポケットから取り出して、そのタイミングでつながらないことにはストレスになる。

法林氏:PCにデータ端末を装着して、カフェのこのへんだったらつながるって探して通信するって感じだった。でもスマホは、どこでつながるかを探しながら使ったりはしない。

石川氏:LINEのメッセージが届いて、返事を書いて、送ろうと思ったときにつながらないってあり得ないじゃないですか。

法林氏:相当厳しいと思います。今の3キャリアが作っているエリアがあまりにも充実している。そこまで言うんだったら、三木谷さん、ぜひ楽天のネットワークを使って東京で生活してみてくださいと。たぶん、できない。

石川氏:ビジネスチャンスを逃すよ。

法林氏:本当、それくらいだと思うので、相当、厳しい感じがする。

石川氏:この座談会で何回も言ったけれど、イー・モバイルが売りに出ているタイミングで買って参入すべきだった。あのタイミングはまだスマホがそれほど普及していなくて、「これからはモバイルインターネットの時代だ」なんて言われていた頃だった。あのタイミングで参入して、スマホなりを作っていたら全然環境が変わったのに。国が免許どうですか? といってようやく参入するというのが、まぁ楽天らしいという気がする。

法林氏:消費者のネットワークに対する要求レベルが、10年前に比べると格段に高くなった。相当考えてやらないと厳しいし、だからこそ、基地局の用地がほしいなら欲しいと、自分たちで会見を開いて言えばいいわけですよ。そういう情報発信をしないまま、この段階まで来ているから総務省に怒られるわけです。総務省に行政指導されているということは、全然ダメなんですよ。総務省が言うときは最後通告に近い。過去の例でもそう。楽天の情報発信力のなさが悪い。せっかくいい材料を持っているのに。

石川氏:そうですね。ネットワークで民主化を起こしたいというなら、新聞広告の1つでも出して協力してくれと。基地局でこういう要件で場所を探している、提供してくれれば月数万円払いますよとアピールすれば、そこに応援してくれる人はいっぱいいるだろうし、楽天ファンになろうかという人もいると思う。そういうことができなかった。

石野氏:それこそクラウドベースでユーザーがポチポチと申し込みできるとかね。

石川氏:あまりにも「完全仮想化」という仕組みに頼りすぎている感じがする。

石野氏:完全仮想化も、言い出したのは今年に入った2月のMWC辺りから。「ん? この仕組みって大丈夫なの?」と思うところがあった。色々急すぎる感じがしている。あのとき三木谷さんは自信満々だったじゃないですか。7月末からの「Rakuten Optimism 2019」のときに「徐々にスタート」と言い出して「おやおや、本当に大丈夫か?」と心配になった。で、「ホップ・ステップ・ジャンプ」という発言にトーンダウン……。

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「Rakuten Optimism 2019」

石川氏:おーっと? 大丈夫か? みたいな。

石野氏:どんどん弱気になってきた。

石川氏:決算会見でも、10月参入という話だったのが、10月1日が参入日になった。あの後、広報に確認したら、10月1日という人もいれば、まだ決まっていませんという人もいたりして、もやもやしていたんだよね。

房野氏:10月1日のスタートは、いわば5000人が参加する実証実験という感じですね。

法林氏:陣頭指揮する人の発言が強気すぎるのは、できていない証拠なんですよ。ネットワークはそういう意味で水物なので、難しい。

石川氏:期待値を上げすぎちゃったなと。

石野氏:そうですね。

法林氏:5Gと同じ。

石野氏:MWCのときの発表を聞いて、楽天はすごいって持ち上げる人も出たんですよね。ああいうのもよくない。期待値だけを上げすぎると、「VAIO Phone」の二の舞になる。

法林氏:完全仮想化は確かに面白い取り組みではある。それは認めます。仮想化のネットワークの技術を色々やってみようというのは、チャレンジとしては非常に面白いと思うし、他社も将来は考えなくてはいけないことなんだけど、それを最初から、一から技術も十分にこなれていない状況で、いきなり商用サービスをスタートしているのはリスクがある。初めてだからできることでもあるんだけど、リスクは大きい。

石野氏:いくらがんばっても工事する人は仮想化できない。

石川氏:どんなに仮想化といっても、最終的には人が汗かいて作るもの。そこはどうしようもない。

石野氏:電波のネットワーク構築って、かなりアナログなものですしね。

金融系サービスは期待できる

法林氏:ネガティブな話ばかりしても仕方がないので、10月の段階で乗り換えないにしても、プラス要素として、もしかしてあり得るかもしれないのが金融系のサービス。そこが楽天の強み。銀行はまだ疑問だけど、カード、証券あたりは強みになる。この辺に関して他のキャリアは今作り始めている最中だし、MVNOも慌ててそれをなんとかしようとしている。LINE証券の話もそう。お金のやりくりを自分たちでしなくてはいけない時代になるってことを考えると、すでに楽天はもう持っている。それは強みとしてある。でも、あくまでネットワークがつながっての話。そこは壁が厚い。がんばらないといけない。

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「楽天カード お買いものパンダデザイン」

石川氏:楽天は通信事業で勝負してはダメ。得意としているカードや通販とか、そっちでいかにお得さをアピールするか。とりあえずスマホを、使わなくていいから契約してくれたらポイントをいっぱい付けるとか、買い物にいっぱいポイントを付けるとかいうサービスで攻める。

石野氏:今の楽天モバイルもそんな感じ。使わなくていいとは言っていないですけど(笑)契約するとポイントアップ。

石川氏:そうやって契約者数を増やして、使ってもらわなくていい状態にしておいて、その間に地道にネットワークを使っていく。

石野氏:それはアリですよね。楽天モバイルと契約して、月額1500円以上払えば楽天カードのポイントが2倍とか3倍とかになるとかだと、じゃあ契約しておくか、みたいな感じはありますよね。

房野氏:楽天カードを持っている人は楽天と契約しましょうくらい言えますか?

石野氏:一般論として、そういう風に行く方向ではある。今、楽天経済圏で使っている人は変えてもいのかなって感じがします。

房野氏:つながらないかもしれないけど……。

法林氏:つながらないから。

房野氏:2台持つってことですね。

法林氏:楽天が発表会で「MVNOも継続する」って言ってたことを考えると、やっぱり禁じ手をやるんじゃないかとずっと思っているわけ。MVNOの楽天モバイルとMNOの楽天モバイルのSIMを2枚挿して使う。これはやらないでくれとドコモの吉澤社長は言っているし、総務省もあまりよく思っていないけれど、もしかしてそれをやるかもしれない。

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株式会社NTTドコモ 代表取締役社長 吉澤 和弘氏

房野氏:ユーザーは勝手に選べますよね。

法林氏:できます。

石川氏:そういった料金プランをあえて作ったりする可能性はある。ただ、それはMNOの立場としてどうなんだと言われるだろうけど。
アメリカがすごいなって思っていたのが、アメリカは通信大手のSprintとT-Mobileが合併したいといったときに、ちゃんと第4の勢力ができるように、Dish Networkに周波数を渡し、プリペイドユーザーを渡し、なんとか4極体制を作った。日本も総務省がもうちょっと楽天に甘い施策をしてもいいかなって気はちょっとする。だからデュアルSIMもOKにするとか。仮に楽天がiPhoneを扱うとしたら、SIMスロットにはMVNOのSIMを挿して、eSIMには楽天を登録して、DSDV(デュアルSIMデュアルVoLTE)で使えるみたいな感じになるといいかな。でも、そうなっても結局、都内はauローミングじゃないからダメなのか?

法林氏:メイン回線をMVNOにすればいい。

石川氏:2回線持つけれど、料金は1回線分と変わらずみないな感じだったらありかな……ありなのかな。

法林氏:本当にそんなことしたら、たぶん吉澤社長以外にも怒る人がいるだろうな。

石川氏:でもデュアルSIMだとみんなWin-Winな感じですよね。楽天はブランドイメージを損なわない、auやNTTドコモは回線使用料が入る、ドコモから楽天にMNPしたとしても、MVNOを使うんだからユーザーもそんなに痛手はない。

房野氏:やっても法律に違反しませんよね。独自端末の「Rakuten mini」はeSIM対応ですし。

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楽天モバイル「Rakuten mini」

法林氏:法律違反にはならないけど、場合によってはドコモが回線使用の契約を切る可能性がある。

石野氏:でも現行の法律だと、逆にドコモが怒られることになる。

法林氏:完全に契約を切ったらね。

......続く!

次回は、ファーウェイが正式に発表した「Harmony OS」について議論する予定です。ご期待ください。

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法林岳之(ほうりん・ たかゆき)

Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。

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石川 温(いしかわ・つつむ)

日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。

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石野純也(いしの・じゅんや)

慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。

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房野麻子(ふさの・あさこ)

出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。

構成/中馬幹弘 撮影/下城英悟

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