うどん屋さんが経営している鉄道

うどん屋さんが経営している鉄道

  • 週刊女性PRIME
  • 更新日:2017/09/15
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水間鉄道の車両

大手町や新宿、梅田などでは、ランチの選択肢に恵まれている。中華料理屋は多数あり、インドカレーも珍しくなく、イタリアン、韓国料理、タイ料理など、世界中の味が楽しめる。

紀州鉄道の写真はコチラ

贅沢な話だが、これだけの選択肢があっても、食べたい店が思いつかないことがある。そんなときに無難なのが、そば屋の「そじ坊」や、うどん屋の「杵屋」あたりだろう。期待することもないが、後悔させられることもない。

「そじ坊」と「杵屋」は、どちらもグルメ杵屋という東証一部上場企業によって運営されている。この会社の子会社には、面白いことに、水間(みずま)鉄道という鉄道会社がある。

水間鉄道は5.5kmほどの小さな鉄道で、南海電鉄の貝塚駅から延びて、水間観音駅までを結んでいる。関西空港の近くで、水間観音は割と大きな寺院なので、ぶらりと散策するには適している。一方で、大勢の観光客が押し寄せるところでもないため、水間鉄道の経営は苦しい。

グルメ杵屋の連結決算を見ると、バスと鉄道を合わせた運輸事業(水間鉄道)は、2014年度までは黒字だったが、2015年度、2016年度は赤字に転落している。

2016年度を見ると、運輸事業が2200万円の赤字で、レストラン事業が7億8000万円の黒字である。「そじ坊」や「杵屋」が、赤字の水間鉄道を補っているのが実態だ。ちなみに、水間鉄道の駅には、グルメ杵屋の子会社であるにも関わらず、そば屋やうどん屋があるわけでもない。

外食は、不振店舗を退店させる事業であり、ましてグルメ杵屋は上場企業である。赤字の水間鉄道を維持するのは簡単ではないはずだ。

グルメ杵屋が水間鉄道を子会社にしたのは、平成18年のことである。水間鉄道は、バブル期の投資の影響もあって、事実上の倒産となった。その後、会社更生法を申請し、グルメ杵屋の支援で経営再建を果たしたというわけだ。バブルの崩壊は、「うどん屋さんが経営する鉄道」という珍事を生んだことになる。

そんなことを噛みしめつつ「そじ坊」や「杵屋」で食事をしたら、ぶらり散策で水間鉄道に乗るといい。水間鉄道も妙に味わい深く感じられるだろう。

不思議な鉄道会社は他にもある。

高速バスを運行するWILLERグループは、2015年から、旧北近畿タンゴ鉄道の鉄道運行を担っている。第三セクターの北近畿タンゴ鉄道は、上下分離されて、“下”は第三セクターのままだが、“上”の鉄道運行は公募することになった。そこに異業種のWILLERグループが参入したのである。こうして、北近畿タンゴ鉄道は京都丹後鉄道に変わった。

この鉄道は地元の足であると同時に、天橋立への観光にも利用され、観光列車も運行している。

WILLERが高速バスで急成長したのは、インターネットによるマーケティングが大きい。それが、WILLERが公募で選ばれた理由の一つだったようだ。観光を担う鉄道であるが故に、マーケティングは不可欠である。

リゾートホテルもローカル鉄道を運営!?

異業種の会社が営む鉄道事業としては、紀州鉄道がある。紀州という大きな地名を背負っているが、紀州鉄道は、和歌山県御坊市を走るわずか2.7kmの私鉄だ。

紀州鉄道の沿線も散策に適していて、古い街並みが楽しめる。ただし、水間観音の周辺よりもローカルなので、利用者は非常に少ない。

そんな紀州鉄道は、会社としては御坊市のローカル企業ではなく、会員制リゾートクラブやホテル運営をしており、事業は全国に広がっている。ちなみに、軽井沢にはコテージをもっており、その名を『紀州鉄道 軽井沢ホテル 列車村コテージ』という。

地図などで『紀州鉄道 軽井沢ホテル 列車村コテージ』を見つけると、

「軽井沢に、紀州鉄道という鉄道が走っているのか?」

と、誤解してしまうが、鉄道が走っているわけではない。

なぜ、会員制リゾートクラブやホテル運営をする会社が、和歌山県の小さなローカル鉄道を運営しているのか?

鉄道会社としての看板が利用客に安心感を与えているとの解釈が有力だが、その効果は疑問だ。紀州鉄道は全国的には無名の鉄道会社であり、それを有名ブランドのように使っているのが、不思議でもあり、不気味でもある。

いずれにせよ、リゾートとローカル鉄道というギャップは面白い。軽井沢のリゾートホテルを思い浮かべながら、紀州鉄道に揺られて、御坊市の古い街並みを散策すれば、あまりにも地味だが、それがまた楽しい。

文)佐藤充(さとう・みつる):大手鉄道会社の元社員。現在は、ビジネスマンとして鉄道を利用する立場である。鉄道ライターとして幅広く活動しており、著書に『鉄道業界のウラ話』『鉄道の裏面史』がある。また、自身のサイト『鉄道業界の舞台裏』も運営している。

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