“悪運”を“幸運”に変える方法。S・ソダーバーグ監督が語る『ローガン・ラッキー』

“悪運”を“幸運”に変える方法。S・ソダーバーグ監督が語る『ローガン・ラッキー』

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  • 更新日:2017/11/17
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本作の主人公は、タイトルにもなっているローガン家の3兄妹。この一家はつねに不運の連続で、高校時代にアメフトのスター選手だった長男ジミーは怪我が原因でプロの道を断たれ、携帯電話の料金もまともに払えない日々を送っている。弟のクライドはイラク戦争に従軍するも左腕を失い、妹のメリーは驚異的なドライビングテクニックを持っているがなぜか地元の美容院に勤めている。ジミーはいつも“不運は連鎖する”と言うが、ある日、彼は炭鉱での勤務中に、職場の隣にある巨大なカーレース場の売上金が金庫に流れていくエアシューターのパイプを発見。人生の一発逆転を狙って、現金強奪作戦を立てるが、計画のカギを握る爆破のプロ・ジョーは超クセ者、仲間に加わったジョーの弟たちは超ボンクラで、他にも次から次へとトラブルが舞い込む。

劇映画の世界を離れてドラマの世界で活動していたソダーバーグ監督は、新人脚本家レベッカ・ブラントから脚本を渡され、監督してくれる人を一緒に探して欲しいと頼まれたにも関わらず、数週間後、自分で監督したいと手をあげた。「小規模で“わかる人だけわかればいい”映画をつくるのは簡単なことだ。しかし、幅広い層に届く題材でありながら良質で、自分が楽しんで監督できて、自分の個人的な想いを反映できる題材には抗えない魅力があるんだよ」。こうして、ソダーバーグ監督の“映画界復帰作”がスタートした。これまで通り、自身で監督し、撮影も編集も手がけ、アメリカでは自分が設立した新会社で配給も行った。

本作はソダーバーグ監督がかつて手がけた『オーシャンズ11』同様、厳重に守られた金庫に挑むチームの姿を描くサスペンスだが、異なる設定と展開が用意されており、両作とも私たちが暮らす社会の経済や情報のあり方が後景に描かれている。ソダーバーグ監督は「誤解してほしくないんだけど」と前置きした上で「僕はずっと“貨幣”というコンセプトに魅了されているんだ」と笑顔を見せる。「貨幣は人間が勝手に発明したもので、物体やサービスやアイデアの価値を計る尺度になっていて、その文化の“金銭的な価値の決め方”をよく見ると、その社会の文化哲学が透けて見えると思うし、時には物語を語る重要な基盤にもなるんだ。金銭的なプレッシャーがかかっている人、要はお金がない人は、ふだんなら絶対にしないような行動をしてしまう場合がある。それから、金(Gold)の価値が市場で上下するのを見るのも面白いんだ。そもそも金に何か価値が備わっていたわけではなくて、人間が勝手に金塊が本来もっていたよりも大きな価値をもたらしたりする。つまり、僕は“静止した概念”が面白いんだと思う。世の中は常に動き続けているのに、人々は貨幣を使って、金塊には価値があって、結婚指輪は疑いもなく左手の薬指にする。みんなが疑問をもたずにいる変わらないアイデアに興味を持つんだ」

ちなみに本作に登場するローガン家の面々は、ダメ人間でヘマばかりしているが、監督曰く「お金がない状況でも尊厳とアイデンティティを失わない」人々で、“金庫から大金を手に入れる”ことだけを最終目標にしていない。では彼らの真の目標は何か? サプライズが続く作品のため、多くは明かせないが、本作もまた過去のソダーバーグ作品同様、多くの人が疑問をもたない考えや、我々が気にも留めていないような経済システムの“裏”をかく展開が待ち受けている。

さらにソダーバーグ監督は、タイトルのもうひとつのフレーズ“ラッキー”にも個人的な想いがあるようだ。本作の主人公ジミーは才能があり、娘を愛する優しい人間で、かつては将来を有望視されるも、現在は悪運が重なって冴えない日々をおくっているが、ソダーバーグ監督もかつて“冴えない日々”をおくっていたことがある。彼はデビュー作でカンヌ映画祭の最高賞を史上最年少で受賞し、将来を有望視されていたが、その後の作品は商業的にパッとせず、監督の表現を借りると“誰も観ていない映画を5本発表した後”に転機が訪れた。

「ある日、ユニバーサル映画の当時のトップだったケイシー・シルバーさんが僕に電話をかけてきたんだ。彼は僕に初めて脚本の執筆を依頼してくれた人で、過去には僕の映画を配給してくれたこともあったんだけど、エルモア・レナードが原作で、ジョージ・クルーニーが参加する映画の企画を追いかけた方がいいと脚本を送ってくれたんだ。当時の僕は他の有名監督が拒否した企画しか回ってこないような状況だったから、脚本を読んで面白かったけど“監督はしません”って答えたんだ(笑)。でも、ケイシーさんは“バカなこと言うなよ。ミーティングだけでもしようじゃないか”って」

この企画こそがソダーバーグ監督に初の商業的な成功をもたらし、現在につながるキャリアの出発点になった1998年の『アウト・オブ・サイト』だ。「撮影中はすごくナーバスになったよ。もし、この映画で失敗したら、僕のキャリアは大変なことになるってわかってたからね。でも、低予算でつくるインディーズ映画の精神はキープして撮影を進めたよ。僕もジョージ(・クルーニー)もポテンシャルはあるけど、それを出し切れていない存在だと周囲の人が思ってくれていた時期だったし、僕もジョージも“もっと多くの人に観てもらえる映画に関われるはず”と思っていたから、お互いを必要としていたんだろうな。だから、今でもあの映画には愛情があるんだ」

キャリアが低迷していた時期にかかってきた1本の電話を機にソダーバーグ監督は復活を遂げ、2年後にはアカデミー監督賞を受賞。その翌年、クルーニーと再び合流して『オーシャンズ11』を発表する。「僕はすごくラッキーだったと思う。僕はいつだって人に会う時には“自分とまた会いたくなるように相手を扱うべきだ”って教わって育ってきた。ケイシーさんだって、僕がすごく嫌なヤツなら電話してこなかったと思う。そんな出来事がこれまでにも何度かあったよ。以前に知り合いだった人が、偶然にそこにいてくれたおかげで次につながったりね。それはラッキーだったんだと思う。この映画で描かれているのも同じことだよ。ローガン家の人たちはそれまで運というのは“悪運=バッドラック”だと思っていたけど、ジミーたちはそれを“幸運=グッドラック”にするんだ」

本作は、小さな街に匹敵するほどの規模をもったレース場から現金を強奪する作戦を描くドラマだが、その根底にあるのは、愛すべきダメ人間が失敗しまくりながら“悪運”を“幸運”に変えようと七転八倒する物語だ。だから結末を迎えても、すべての謎が解けても再び映画を観たくなる。劇中のキャラクターがとにかく愛すべきヤツらだからだ。「編集中に“もっとカットしてスピードアップできないか?”って言われたけど拒否したよ。みんなが映画を観て、ここにいる人たちに思い入れを持ってくれるように彼らのドラマをちゃんと語って準備をする必要がある。僕の仕事は俳優とキャラクターを守ることだからね」

『ローガン・ラッキー』

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