北極圏「冷戦」、ロシアとノルウェーが競う島

北極圏「冷戦」、ロシアとノルウェーが競う島

  • WSJ日本版
  • 更新日:2017/10/12
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【バレンツブルク(ノルウェー)】北極圏のスバルバル諸島にある炭鉱の町バレンツブルクでは、学校の授業がロシア語で行われ、食料品の値段はルーブルで表示され、旧ソ連時代の大きな看板が「われわれは共産主義を目指す」と告げている。

だが、ロシアの国費が投じられているこの町は、実際にはノルウェーの領土だ。そしてノルウェー政府が補助金を出している炭鉱は、数十キロ離れた別の場所にある。

スバルバル諸島が置かれた特異な状況は、北極圏を巡ってエスカレートするロシアと欧米の対決姿勢の火種となりつつある。

北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるノルウェーと、ロシアがそれぞれ、採算の合わない炭鉱を資金面で援助しているのは、氷に覆われた群島に築いた戦略的な足場を守るためだ。複数の国が締結した1920年の条約でノルウェーの主権が認められたが、他の国々もここで商業的利益を追求することを許された。それ以来、主要プレーヤーとして両国が競い合っている。

ノルウェーは12日、スバルバル諸島での石炭生産への資金投入を続けるかどうかの決定を下すことになっている。ロシアが同諸島において冷戦時代以降で最大規模の軍備増強を行い、北極圏でのプレゼンス強化に努めるなか、今週の決定によってはノルウェーの支配力が弱まる可能性がある。

ロシアの炭鉱が浮き彫りにするのは、ウラジーミル・プーチン大統領がコストを度外視して力の誇示に突き進んでいることだ。ロシアは欧米の経済制裁が自国経済を圧迫しているにもかかわらず、ウクライナ東部で軍事力を行使し続けている。また日本との領土問題を抱えるクリル諸島(千島列島)など、遠く離れた領地を守るためにも資金を費やしている。

「外国の領土で赤字企業を運営するのは恐らく普通のことではない」。こう話すのは、炭鉱とバレンツブルクの町そのものを運営するロシア国営企業Arktikugolを率いるアレクザンダー・ベセロフ氏だ。同氏はプーチン大統領の肖像画が壁に飾られたオフィスで「政府はここに国益があると考えている」と述べた。

ロシアと欧米諸国は北極圏で勢力争いを繰り広げている。海氷の融解によって潜在的な商業チャンスが開かれたのに加え、国外での影響力拡大に余念がないプーチン氏の姿勢が背景にある。

ベセロフ氏は北極圏がロシアの世界的な立場と経済を強化するために重要だと指摘。豊富な石油埋蔵量が見込まれることを理由に挙げた。ロシアは北方艦隊を増強し、この付近で大規模な軍事演習を実施したほか、スバルバルに最も近い群島の軍事基地を改修した。

ジム・マティス米国防長官をはじめ米政府当局はロシアの動きに懸念を強め、米国は北極圏でより強固な戦略を展開する必要があると述べている。NATOは北極圏の海事を担う人員や装備が不足していることが弱点だと指摘している。

「スバルバルはノルウェーの一部であり、従ってNATOの一部である」とイエンス・ストルテンベルグNATO事務総長は9日に述べた。「よって、もちろんNATOの安全保障がすべてスバルバルにも適用される。石炭採鉱についてはノルウェー当局が決める問題である」

米国はこの問題について見解を示していない。

ノルウェー政府は新たに潜水艦を購入する計画で、ロシア国境の兵力を増員している。

ただ、1人当たり国内総生産(GDP)が世界有数の水準にあるノルウェーでは、スバルバルの炭鉱に資金援助を続けるかどうかが議論の的となっている。支援続行の決定をすれば、物議を醸すだろう。コストの問題だけでなく、環境問題への意識の高さを自認するノルウェーの国民性もある。

「不合理な行為にどのくらいの資金をつぎ込めるか、そしてロシアの北極圏での活動に対抗する必要性をわが国がどのくらい感じているか、その兼ね合いの問題だ」。ノルウェー国際問題研究所のエネルギー部門責任者インドラ・オーバーランド氏はこう指摘する。

ノルウェー政府はどちらに傾斜しているかの手がかりを示していない。

一方、ロシア当局者によると、同国では全く議論が起きていないという。

スバルバルを巡ってはすでに激しい応酬が起きている。ロシアのドミトリー・ロゴジン副首相は2015年に現地を訪問した写真をツイッターに投稿し、ノルウェーの反発を招いた。同氏はロシアのクリミア併合後にノルウェーへの入国が禁止された。

今年5月にはノルウェーがNATOの会議をここで主催し、ロシアの怒りを買った。

ベセロフ氏は、ロシア国営企業Arktikugolがノルウェー政府に納めた税金は地元のバレンツブルクではなく、スバルバル諸島最大の町で主にノルウェー人が住むロングヤービーエンにつぎ込まれていると主張する。さらに、主にノルウェーから来る観光客の輸送に同社がヘリコプターを使うことを認められないことにも不満を訴えた。ノルウェー政府は10日にコメントすると述べた。

地政学的な緊張は、この島々に暮らす労働者や家族にはまだ波及していないようだ。

「人々は良好な関係にある。温かい友情を交わしている」と話すのは、ここで観光の仕事をしているモスクワ出身のエレナ・マラコワさん(36)だ。

北極点から約1300キロに位置するスバルバル諸島は不毛の地で、太陽が昇らない冬季の数カ月は気温がマイナス20度まで下がる。

炭鉱作業員は比較的高額の給与に引きつけられてこの地に移り住む。バレンツブルクの400人の住民には医療サービスや学校、低価格の住宅なども提供される。

両国は最近、観光業に力を入れ始めた。

ロシア住民が多く住む地域では、観光客の数が過去4年間で倍増した。観光業による収入は昨年240万ドル(約2億7000万円)に達し、炭鉱業を上回った。Arktikugolは昨年800万ドルの政府補助金を受け取っている。

バレンツブルクにはリニューアルしたホテルや地酒醸造所があり、炭鉱ツアーが行われている。ゴーストタウンと化したピラミデンの町は「旧ソ連の野外博物館」という触れ込みだ。町の中心部では 最高指導者だったウラジーミル・レーニンの胸像が氷河を向いて立っている。

ノルウェーは大学を開設し、閉鎖された炭鉱を利用して博物館と映像アーカイブを兼ねた施設にした。昔の炭鉱作業員の山小屋は改修して宿泊施設とし、倉庫はレストランとして営業している。

それでもノルウェーの政治家や学識者は、炭鉱がなくなれば同国の存在感は低下すると認める。「率直に言ってノルウェー人が定住した目的は、スバルバルでノルウェーの主権を誇示するためだった」とノード大学の政治学者トルビョルン・ペデルセン氏は話す。

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