「人生100年時代」のまやかし。年金は繰り上げてこそ価値がある

「人生100年時代」のまやかし。年金は繰り上げてこそ価値がある

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/11/04
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「100年時代は繰り下げがお得」への異論

「あんた、年金のことでネットにぐじゃぐじゃ書いているらしいわね。しかも、個人情報までさらして。恥ずかしいからやめてよ」

普段は年金のことにまったく関心のない妻から、僕はある日そう言われた。

10月にマネー現代に書かせていただいた記事「65歳まで年金保険料を払うと「元が取れるのは97歳」の衝撃」は、大きな反響をいただいた。

10月末までにフェイスブックで、いいね!+シェアされた数は4000件以上。それほど記事は読まれているようだ。読者の皆さんがいかに年金問題に関心を寄せているかが伝わってくる。

第4次安倍内閣の成立とともに、政府は「全世代型の社会保障」に向かうことを改めて宣言した。目指すのは、70歳まで安心して働ける社会で、企業に対しても今後、70歳までの雇用延長を働きかけていくという。

その際、枕ことばとなっているのが、「人生100年時代」である。一度しかない人生。僕だって100年を生きてみたい。ただし、社会保障が本当に対応していただけるのなら……。

現在の日本の平均寿命は、男性が81.09歳、女性が87.26歳(平成29年簡易生命表)。100歳以上の長寿者は、6万9785人(平成30年住民基本台帳)だ。まだまだ「人生100年」は遠く感じるが、20年先の時代ではより近づいてくる。

平成29年4月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口」によれば、22年後の2040年、男性の平均寿命は83.27歳、女性は89.63歳となり、100歳以上人口は30万人(合計特殊出生率1.44の場合)を超えるという。

たしかに、かなりの人が人生100年を生きられそうなイメージになってくる。

だから、100歳以上生きても安心なようにと、原則65歳からの年金についても、繰り下げ受給ががすすめられている。

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photp by istock

メディアでは、「70歳まで繰り下げると、年金が142%も増える」という見出しが躍り、逆に「1年繰り上げると6%の減額」「5年繰り上げると30%も損する」という記事があちこちで目につく。大合唱だ。

「人生100年時代だし、繰り下げで少しでも多くもらおうか……」という人もいらっしゃることだろう。だが、この秋に年金受給者となった山田さん(63歳=仮名)の選択は真逆だった。

9月に退職し年金受給手続きをとった山田さんは、現在63歳。大手家電メーカーともう1社にまる40年勤めた方である。

「私の場合、厚生年金(報酬比例部分)については、1年前に受給年齢に達していたので、老齢基礎年金を繰り上げてもらうことを考えて退職したのです」

年金事務所は「繰り上げ」を考え直せと促した

山田さんは、年金受給年齢が平成37年に一律65歳となる際の移行措置対象となる世代。つまり、昭和30年4月2日~昭和32年4月1日に生まれた世代であり、この場合、厚生年金の報酬比例部分については62歳の誕生日から得ることができる。

本来、年金を繰り上げ受給する際は、会社員などの場合、65歳から得られる老齢厚生年金も合わせて繰り上げなければならない。

だが、山田さんの場合は移行措置で、65歳以前の年金である特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)は62歳から受給資格を得ていた。このため、繰り上げるのは、65歳からの支給となっている国民年金相当の老齢基礎年金部分だけでいい。この点も繰り上げを決めた理由だ。

つまり、

「老齢基礎年金部分を24か月繰り上げたのですが、そもそも満額でも年に77万円。学生時代に支払っていなかった期間もあるので、おおよそ年に70万円の年金となります。これが、1か月0.5%×24か月、つまり12%減額されて、生涯61万6000円ほどと変わります。年に8万円ほどで、月にすると7000円の差なら、いまのうちからもらっておこうかとなりました」(山田さん)

この結果、ざっくりいうと、山田さんの今後の年金額は月額20万円ほどになる。65歳まで待ったとしても21万円になる程度の差だった。

ところが、年金事務所の対応は、繰り上げの再考を促すものだったという。

「年金事務所では、“本当にいいんですか? 2年繰り下げると、年に12%も年金額が減りますよ。一度手続きをとると、変更はできません。だから、生涯減額となるので、あまりお勧めできないですね”と繰り返すのです。それで、実際どれくらい損をするのか試算してもらうと、私の場合、減額されるのは想定どおり年に8万円ちょっとでした。

しかも2年繰り上げても、79歳8か月までの総受給額は、65歳から受給した場合とまったく同じということもわかりました。ほぼほぼ80歳だし、そこから先が損すると言われても、先の人生があるのかどうかもわからないしね……」 (山田さん)

つまり、2年繰り上げの場合も、65歳からの通常受給の場合でも、得られる年金累計額の損益分岐点は、79歳8か月ということがわかる。

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繰り上げ受給の場合、60歳からに繰り上げても、63歳からとしても、受給開始後16年8か月までに受け取る総額は、その年齢時点に65歳からの本来受給で得られる累計額と同じになる設計となっている。ようするに、繰り上げは16年9か月経過後から、本来受給より損となる仕組みだ。

補足すると、老齢基礎年金を繰り上げ受給する場合、1か月繰り上げるごとに給付率が0.5%ずつ減額される。1年繰り上げると6%と減額され、2年繰り上げの場合では12%。5年繰り上げて60歳から得ようという場合は、30%の減額となる。数字を並べてみると、たしかに給付率の下げ幅は小さくない。

対して、繰り下げ受給の場合、1か月繰り下げるごとに給付率が0.7%ずつ増額となり、1年繰り下げると8.4%増額される。2年繰り下げの場合では16.8%、5年繰り下げて70歳から受給する場合は42%も増え、年金年額70万円だった人ならば、99万4000円の受給額となる。

年下配偶者「加給年金」の説明はなし

62歳で会社員を辞め、働きながら「特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)」を得始めた僕の場合も、年金事務所で相談の際は、繰り下げたケースの説明も受けた。

「特別支給の報酬比例部分は繰り下げの制度がありません。請求しなければ、権利がなくなるだけなんです。でも、65歳前に報酬比例部分を得ていた方も、65歳からの本来の老齢厚生年金は繰り下げられます。沢田さまの場合ですと……」
と、年金事務所では繰り下げることで得られる増分について、とても丁寧に説明していただいた記憶がある。

ただし、繰り下げにより失う可能性のある老齢厚生年金の「加給年金」についての説明はなかった。加給年金とは、会社員や公務員などの厚生年金や共済組合の加入者が受けられる一種の家族手当のような制度で、僕が65歳になった時点で、65歳未満の配偶者(僕の場合は妻)がいる場合に、受給額にプラスされる年金だ。

なぜ年下の配偶者がいると得られるのか、その制度が築かれた背景はよくわからない。が、少なくとも単身者には無関係な年金だ。その仕組みは複雑で制約も多いが、僕の場合では、妻が65歳になる時点まで、月に3万円ほどが加算される。

ところが、65歳からの老齢厚生年金を繰り下げている間に、配偶者が65歳を迎えてしまうと、加給年金は得られなくなる。たとえば、妻が3歳年下の僕の場合、68歳になると妻は65歳だ。

仮に3年繰り下げると、加給年金の受給資格が消えてしまう。だが、この点の説明はまったくなし。正直いって、複雑な年金制度のなかでも、加給年金の仕組みは特に複雑である。日本年金機構のホームページでも説明はしているが、これで本当にわかるのだろうか。

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「教科書に書いてあることをすべて信じない。なぜかと疑っていくことが重要」という、ノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑先生(京都大学名誉教授)の言葉もある。先の山田さんも、年金事務所の「繰り上げは損」を一概には信じなかったという。

100年生きられる男性は100人に1~2人!?

「みんな、人生が有限であることを忘れている気がするんです。だから、平均寿命が延びているからと、雇用延長を歓迎し、少しでも長く働いたうえで、年金を繰り下げることが得だと感じてしまうのではないでしょうか」

そう話し、さらにこう続けていた。

「だって、早く受け取ったところで、80歳時点の受け取り総額はほとんど変わらないんですよ。90歳、100歳まで生きてもらえれば、500万、800万と違ってくるのでしょう。それが得といわれれば、得かもしれない。でも、そこは予測不能。いまの国の誘導は、年金を遅らせばこれだけ有利という啓蒙をしているけれど、私のいた会社の諸先輩方も、平均寿命を迎える前に亡くなる方はけっこう多いんです。だから、90歳、100歳まで生きる男性に自分がなれるとは思っていないのです」(山田さん)

70歳までの雇用継続に対しても、山田さんの考え方は懐疑的だ。聞けば、山田さんの仕事人生は、営業の現場でストレスをため、神経をすり減らして働いてきた40年でもあったという。

「責任あるマネジメントに気力、体力を削って働き続けてきました。が、この先、若い頃と同じ働き方はできません。だから、退職したのです。第一、企業という組織に60歳、70歳がごろごろいるようでは、組織の新陳代謝もはかれない。企業には若い力が必要なんです。

もちろん、健康でストレスなく70歳を迎えても働けることは素晴らしいこと。そういう仕事を今後見つけていきたい。その仕事探しの、糧になるのが年金の繰り上げでもあるのです。それに、健康寿命のこともあるじゃないですか。だから、健康ないまの生活に年金を充てたいのです。早く受け取れることがいちばんのメリットです」(山田さん)

「健康寿命」とは、厚生労働省の研究班が推計している、「介護を受けたり寝たきりになったりせずに日常生活を送れる期間」をさす。2016年の推計では、男性は72.14歳、女性は74.79歳とされる。男女ともに平均寿命に対して、9年~12年ほどが、「生活に不自由のある期間」であることを示している。

となると、安倍内閣の「人生100年時代」も鵜呑みにはできない。100歳以上の人生を生きる人たちが今後増えることはよくわかった。そのうえで肝は、「どのくらいの確率で、私たちが100年を生きられるか」ということである。

厚労省や、総務省の公表資料からひも解くと、今年2018年に100歳を迎える人は、3万2241人(男性4453人、女性2万7788人)。いずれも、1918年生まれの人たちだが、その年の出生数179万1992人から導くと、実際に100年を生きる人の確率は、実に1.8%。うち、男性は0.49%。つまり、1000人に4~5人しか、100年を生きられないということだ。3万人近くが100歳を迎えた女性の場合でも、3.167%。多いといっても、100人に3人ほどである。

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現在の日本の総人口1億2600万人に対する構成比では、100歳以上はわずかに0.1%である。日本の将来人口推計では、この比率が2040年には、0.3%と3倍となる。その推移からすると、2040年に人生100年を迎えるであろう人も、現在の3倍くらいにはなるだろう。男性では100人に1~2人、女性で10人に1人弱。これが「人生100年時代」の本当の実像のようである。

今後の少子化により、年金原資が減っていくのはもはや避けられないだろう。だから、働き手を増やす施策とともに、年金受給開始の時期はさらに繰り下げられ、そのうえで受給額も減額されるのは必至であろう。だとすれば、政府が喧伝する「人生100年時代」もまやかしのお題目と感じてしまう。

防衛策は「得られるものはできるだけ早く得る」ことだ。繰り上げてでも得る。そう感じてしまうのは、僕だけなのだろうか――。

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