「1万円の幻のケーキ」シェフが明かす認知度アップの秘策

「1万円の幻のケーキ」シェフが明かす認知度アップの秘策

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2019/07/21
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「幻のケーキ」。レストラン「été(エテ)」のオーナーシェフ・庄司夏子のつくるマンゴーのケーキは、そんな異名を持つ。

上質な紙を使った黒い箱と、ばらの花のようにカットしたマンゴーの盛り付けは、まるでジュエリーのような見た目だ。1台約1万円という高めの価格設定だが、数カ月先まで予約がうまっている。香港でのイベントでこのケーキを披露すると、SNSを通じて瞬く間に世界中の食通のあいだで話題になった。今では、国内外のトップシェフや著名人が彼女の店に訪れている。

男性が大多数を占める料理の世界で、女性シェフはごくわずか。しかも、庄司はまだ29歳という若さだ。自らの力で道を切り拓く女性たち「SELF MADE WOMEN100」を紹介する連載企画。7月25日発売のForbes JAPAN9月号でも特集するこの企画で、今回は人気女性シェフの「世界で認知される」秘策に迫った。

──まずはマンゴーのケーキについて教えてください。とても独創的な見た目が話題を呼んだ要因と思いますが、どのようにして考え出したのですか。

まずは、見たら3秒で「été」のケーキだとわかる他にはないものを作って、世の中に認知してもらおうと思ったんです。そのためには、センセーショナルなものにしなくてはいけない。だから、一見、ケーキとわからないものにしたかったんです。そこで思い浮かんだのが、ジュエリーのようなケーキでした。

──ケーキが有名ですが、庄司さんの肩書きはパティシエではなくシェフですね。「été」も、実はケーキ専門店ではなく、1日1組、4席のみのプライベートレストラン。ただし、ケーキを買った人しかレストランの予約ができない、というかなり独特なスタイルをとっていらっしゃいます。どのようにして、今のやり方にたどり着いたのですか。

私自身が、はじめはお金がなくて人を雇うことができなかったので、自分ひとりでまわしきれるお店にしようと思ったのがきっかけです。お客様を待たせずに常に最高の状態で料理を出し、自分でサービスもして、お客様にちゃんと満足していただくためには規模を小さくするしかありません。そこで、1日1組、4名に絞りました。特徴のあるスタイルですが、人件費や設備投資をカットして初期投資を安くできるので、若くして独立したい人にはおすすめの方法です。

もともと、ハイエンドのファッションブランドのような世界観をレストランで実現したいという気持ちがありました。ブティックに行くと、単に商品を買うだけではなくて、丁寧な接客を受けて、包装する待ち時間はテーブルに通されたりして、最高の時間を体験できますよね。自分のレストランも、ブティックのようにすべてが最高の空間にしたいと思っているんです。

ただ、はっきり言って、それでは経営が成り立ちません。そこで、まずはケーキを有名にして収入を確保しようと決めて、レストランの宣伝はせずにケーキに専念しました。1年くらいでケーキが有名になってくれたので、次に、完全紹介制で、うちの1万円もするケーキを買えるお客様を想定した客単価でレストランを始めました。

──ケーキを有名にしていくためには、どんな工夫をされたのですか。

まず、国内での認知度をあげるために努力したのが、マンゴーのケーキだけを世間に出し続けることでした。料理人の多くは、旬の食材を使った料理やデザートを紹介しようとするものです。でも、私はオープンしてから1年は、どんな媒体で紹介してもらうときも、どこの催事に出店するときも、常にマンゴーのケーキだけを出し続けました。自分のレパートリーにぶどうやいちごのケーキもあったけど、いつも同じ品物を露出していたほうが、人の記憶に残りやすいと思ったんです。

極端な話ですが、催事で「ぶどうのケーキを出してください」と百貨店側から依頼されても、「マンゴーも一緒に売っていいですか?」と聞いていました。そもそも、看板商品にマンゴーを選んだのも、通年で使えるから。日本で一年中手に入って、かつ、いつでも味も香りも良いフルーツを選んだんです。

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海外でも話題になった1台約1万円のマンゴーケーキ。

海外進出で意識したのは、海外のフーディーにマンゴーのケーキを食べてもらい、SNSで写真を発信してもらうことでした。最初のチャンスとなったのは、ヴィッキー・ラウさんという女性シェフとの出会いです。

独立から2〜3年経った時期に、香港にある彼女のお店で食事をして仲良くなり、香港で一緒に料理のイベントを開かせてもらいました。イベントには海外の食通たちが集まり、SNSで私のマンゴーケーキもどんどん発信してくれたんです。おかげで、海外での認知度もあがっていきました。

──ケーキが有名になり、今ではレストランの営業にも力を注がれていますが、これからどんなことを実現していきたいと考えていますか。

規模を拡大していくことが成功とする考え方もありますが、私は、その逆です。5年続けてみた自分の体感としては、どんどん狭めることで、「最高」のサービスに近づいていく気がしています。

「été」に入るためには、わざわざ予約してケーキを買わないといけません。しかも、そのケーキは1万円以上もします。だからこそ、お客様はスペシャルなときや、大事な人に渡すときのために買ってくれるはずです。そのケーキがインビテーションになり、今度はレストランの予約ができるようになる。簡単に来られるお店ではないからこそ、お客様は大切な人と来ようとしてくれます。

スペシャルな体験をしたいと思っている人たちに向けて、私の口からきちんと料理の本質を伝えたい。お客様にとっても、私にとっても、意義のある空間をつくっていくこと。これが、私にとっての、「最高」です。

──オープン後、一番記憶に強く残っている嬉しかったことや、わくわくした瞬間を教えてください。

お店をオープンして2〜3年経った頃に、お客様から「なっちゃんが若くてよかった。私、死ぬまでなっちゃんのおいしい料理が食べられるわね」と言われたことです。24歳で独立したので最初は苦労しかなかったけれど、そのときに初めて、若くてよかったなと思いました。

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マンゴーケーキをつくる、レストラン「été(エテ)」のオーナーシェフ・庄司夏子

──これまでで最も苦労したのはどのようなことでしたか?

資金調達です。経営方針や料理について自分で全部管理したかったので、誰かにオーナーになってもらうことは最初から考えていませんでした。でも、貯金もなかったし、若すぎたので世間的な信用もなくて銀行からお金も借りられなかった。

最終的には日本政策金融公庫から開店に必要なお金を全額借り入れたのですが、承認を得るまでにすごく時間がかかりました。はじめは断られてしまったけど、税理士さんと一緒にもう一度お願いして、最後は、「これを売ります」とマンゴーのケーキを持って行ったんです。それでやっと、「確かにこれはすごいね」と、納得してもらえて。書類だけで勝負していてはだめだな、と実感しました。「これで勝負します」という決意を、実物を見せながらお願いすれば、お金を貸す側も納得してくれるんだな、と。

──料理の業界に対して感じている課題や、ご自身で実現していきたいものがあるとすれば、それはどんなものですか?

料理人の多くは、休みもほとんどなくて、修行期間中は収入も少ないので自由に使えるお金もありません。でも、修行しているときこそ色々なお店や土地に足を運び、実際に自分で料理を食べて、さまざまなものを体得することが必要です。最近では私も人を雇えるようになってきましたが、自分のお店では、なるべくスタッフが自分の勉強のための時間やお金を確保できるようにしています。料理業界全体が、少しずつそんなふうに変わっていくといいなと思っています。

庄司夏子(しょうじ・なつこ)◎1日1組4席のプライベートレストラン「été(エテ)」のオーナーシェフ。高校卒業後、2007年からミシュラン1つ星の代官山「Le jue de lassiette (ル ジュー ド ラシェット)」で修行を積み、2009年、南青山「florilege(フロリレージュ)」のオープニングから携わり、後にスーシェフとなる。2014年、24歳で「été 」をオープン。同店は3年連続でSilver award を受賞し、世界のレストランランキングの1つOADにおいても日本人女性シェフとして初めてランクインした。

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