恩師・原子朗先生追悼 大センセイの目にも涙??

恩師・原子朗先生追悼 大センセイの目にも涙??

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  • 更新日:2018/01/12
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大センセイの恩師の思い出は…(※写真はイメージ)

SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機の『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「本心」。

*  *  *

フロイトというおっさんが潜在意識を発見したキッカケは、人の言い間違えを聞いたことだそうだ。

ある人がある会の開会を宣言するときに、

「閉会を宣言します」

と言っちゃったらしい。

それを聞いたフロイトさんは、ああこの人、本心ではさっさと閉会したいと思ってるんだなと気づいた、というわけだ。

先日、大センセイの恩師である原子朗先生が逝去された。恩師などと呼べば、「お前なんぞを弟子にした覚えはない!」

と一喝されただろうが、勝手に師として仰いでいた。

学生時代、原先生の「表現演習」というゼミナールを履修していた。

ダダイズムの真似をした詩のごときものを書いては先生に読んでいただいていたが、高名な詩人だった先生は、汚いものにでも触るように原稿用紙の端をつまみ上げると、

「しかし、君は無知な男だなー」

と言いながら、木の洞(うろ)のような大きな目で、こちらの目をマジマジと見詰められるのだった。

ある時など、やはり原稿用紙の端っこをつまみ上げながら、

「これは詩というより、屁だな」

などと、教育者にあるまじき暴言を吐かれた。

原先生は詩人であったと同時に、会津八一という書家に書道を習った墨客でもあり、銀座の長谷川画廊というところで毎年、書画の個展を開かれていた。

この個展に行くのが、冷や汗ものであった。

ある年は、正面の壁に、

「養古素」

と書いた大きな額が飾ってあった。

「君、読めるか」

「えーっと、コソヲヤシナウ、ですかね」

「バカ、ようこそだ」

またある年には、女性を描いた墨絵の横に、

「母の※(白に八)」

と書き添えてあった。

「読んでみなさい」

「ハ……母のシロハチ」

「君は相変わらず無知だな。カオと読むんだカオと。こんな字も知らんのか」

大センセイ、個展に行くたびにいつの日か必ずこのおっさんに、「お前すごいな」と言わしたろと、なぜか大阪弁で決意を新たにするのだった。

原先生の訃報が届いたのは、七月の初旬であった。

ちょうど息子の昭和君が病気をしていたこともあって、通夜にも葬儀にも参加しなかった。いや、行けないこともなかったが、なんとなく行きたくなかったのだ。

しばらく経って、朝のニュースを見ながら食事をしているとき、唐突に妻太郎が言った。

「そういえば、原先生のお葬式行けなかったね。お墓参りだけでもしてきたら」

「いいよ、行かなくて」

「どうして?」

「死んじゃったって思いたくない」

自分でも意外なひと言だった。そして、こう言ってしまったとたんに涙が止まらなくなった。甘ったれと言われるかもしれないが、いつまでも、越えられない高い壁のままでい続けて欲しかった。

大正13年生まれの原先生は、男ばかり五人兄弟の末っ子だった。

上の四人の兄を戦争で亡くされたことを、個展の墨跡で知った。木の洞のような目をされていたのは、そのせいかもしれない。

ある年の個展に老いた釣り人の墨絵があり、短い言葉が添えてあった。

「釣れるのは悲しみばかり」

お墓参りにはまだ行っていない

※週刊朝日  2018年1月19日号

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