山形国際ドキュメンタリー映画祭2017、大賞はポーランドの新人女性監督の手に!

山形国際ドキュメンタリー映画祭2017、大賞はポーランドの新人女性監督の手に!

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  • 更新日:2017/10/17
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見事に大賞に輝いた『オラとニコデムの家』は、ポーランドのセロックに住む小さな家族の物語。離れて暮らす母親の代わりになって大酒のみの父親と自閉症の弟の面倒をみる14歳の少女、オラの孤軍奮闘の毎日を見つめる。そこからは大人になれない大人を前に、大人にならざる得ない少女の悲痛な心の叫びとそれでも前を向く心の強さが心を打つ。受賞したアンナ・ザメツカ監督はこの作品が長編デビュー作となる新鋭。本当に受賞するとは思っていたようで受賞作に自身の作品名と自分の名がコールされると「信じられない」といった表情で立ち上がり、受賞の言葉では「もう言葉がありません。この場にいられるだけで幸せと思っていたのに、大賞をいただくなんてなんていっていいのやら……。山形国際ドキュメンタリー映画祭は私の中で1番重要な映画祭。ほんとうに名誉です。いまはもう胸がいっぱいで何も言えない。クルーとともにオラとその家族にも感謝したい」と喜びを語った。

一方、もうひとつの主要部門、アジアの新進気鋭のドキュメンタリストたちがしのぎを削ったアジア千波万波の部門の最高賞、小川川紳介賞は、チャン・ジーウン監督の『乱世備忘-僕らの雨傘運動』が受賞した。同作は、2014年9月から2ヶ月半以上続いた、香港の民主的な選挙を求める雨傘革命を、一般の学生たちの視点から記録。警官との対立や衝突といった雨傘革命の動向を追いながら、そこに参加することを決意した学生たちの日常生活や心模様に目を向けている。アジア千波万波部門の審査員を務めたフィリピンの映画文化人、テディ・コー氏はこの作品を「抵抗の精神を押し広げ、理想を追い求める若者たちが今の社会に対して抱く不安を受け止めた作品は、法制、自由、そして寛容な社会を築くために、抑圧する権力と無関心の風潮に対して、勇気をもって最前線で立ち向かった」と称賛した。受賞したチャン監督は感無量といった様子。受賞スピーチでは、「この賞をいただいて最高に幸福であると同時に自分を恥じています。なぜなら、いま香港で運動を率いた学生たちが有罪判決を受けて刑務所に入っているからです。私は2014年のあの時に出会った学生たちの顔を忘れることができません。ここにいらっしゃるみなさまをはじめとした世界の人々が、香港の政治的な動向に関心を寄せ、彼らを応援していただければと思います」と学生たちに思いを寄せた。

また、インターナショナル・コンペティション部門の審査員を代表してスピーチに立ったチリのイグナシオ・アグエロ監督は総評で「審査員のひとりである監督の七里圭くんが“ドキュメンタリーの大海で出て、私はメタメタにされるかもしれない”と事前に語っていましたが、彼の言葉通り、我々はここ数日、歴史とアイデンティティ、政治と紛争、移民と亡命とったテーマを描き、愛の想い出や溶解していく自己など、多種多様なドキュメンタリーの大海原を、ときに深く沈みながら航海してきました。波伝谷からカラブリア、ブロンクスから再びアジアへもどり、リオデジャネイロからプラハといった世界の各地を漂流してきました。その風景は美しいものから不穏なものまで、その手法は対象に長期にわたり寄り添い取材したものや、過去の出来事を再現したものまで、カメラワークも静止から時に激しい水流のように揺れ動くものまで実に様々ですが、いずれも綿密かつ広範なリサーチに基づくもので、私たち審査員にとってこの航海は大変なものではありましたが、それ以上に幸せな素晴らしい時間でした」といずれの作品も力作であったことを明言。「山形国際ドキュメンタリー映画祭は30年近い歴史の中で、アジアにおいて最も権威ある映画祭としての地位を築き上げてきました。その高い水準は世界のドキュメンタリー映画界においてこの上ない高い評価を得ています。豊かで温かい体験をさせてくれたことに感謝している」と映画祭に感謝の意を述べた。その一方で、アジア千波万波部門のテディ・コー氏も「この一年半ぐらいで世界は大きな変化の只中にあります。フェイク・ニュース、オルタナティブ・ファクト(もう一つの真実)、独裁主義の影が忍び寄っている時代においては、そういった不穏な動きに対する真実の力がより必要とされている。今まさにドキュメンタリー・フィルムの原点に帰り、技巧に頼らず、現実と対峙し、真実を映し出す重要な役割をドキュメンタリーは担っているのではないだろうか」と今回の山形国際ドキュメンタリー映画祭がドキュメンタリー映画の重要性を痛感する場になったとの言葉を残した。

12日の受賞作一挙上映をもって会期を終える山形国際ドキュメンタリー映画祭2017だが、主要部門以外のプログラムも盛況。中でも日本のドキュメンタリー映画界を代表する映画監督、今は亡き佐藤真監督をクローズアップした特集“あれから10年:今、佐藤真が拓く未来”。は、若い作り手や観客が数多く見受けられ、深く印象に残った。それはある意味、日本のドキュメンタリー映画界の歴史がしっかりと受け継がれ、新たな作り手が生まれる可能性を想像させるに十分な光景だったことを付記しておく。

なお、各賞は以下の通り。

インターナショナル・コンペティション部門
ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)
『オラとニコデムの家』 監督:アンナ・ザメツカ

山形市長賞(最優秀賞)
『カーキ色の記憶』 監督:アルフォーズ・タンジュール

優秀賞
『孤独な存在』 監督:シャー・チン
『私はあなたのニグロではない』 監督:ラウル・ペック

特別賞
『激情の時』 監督:ジョアン・モレイラ・サレス

アジア千波万波
小川紳介賞
『乱世備忘-僕らの雨傘運動』 監督:チャン・ジーウン

奨励賞
『人として暮らす』 監督:ソン・ユニョク
『あまねき調べ』 監督:アヌシュカ・ミーナークシ、イーシュワル・シュリクマール

特別賞
『パムソム海賊団、ソウル・インフェルノ』 監督:チョン・ユンソク
『翡翠之城』 監督:チャオ・ダーイン/ミディ・ジー

市民賞
『ニッポン国VS泉南石綿村』 監督:原一男

日本映画監督協会賞
『あまねき調べ』 監督:アヌシュカ・ミーナークシ、イーシュワル・シュリクマール

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