古賀茂明と望月衣塑子が徹底考察...なぜ、菅首相は国民に寄り添うことができないのか

古賀茂明と望月衣塑子が徹底考察...なぜ、菅首相は国民に寄り添うことができないのか

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/01/14
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菅義偉首相は1月13日、既に発令している首都圏4都県に加え、大阪、京都、兵庫、栃木、愛知、岐阜、福岡の7府県を対象に新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言の再発令を決定した。東京都内の新型コロナウイルスの感染が確認された人は初めて2000人を超え、急速な拡大が止まらない状況だ。新年を迎えたばかりだが、戸惑いや不安は広がる一方だ。

本記事では、元内閣審議官、元経産官僚の古賀茂明氏と、菅首相の官房長官時代に“天敵”として知られた東京新聞の望月衣塑子記者が、日本のただならぬ現状と2021年以降の先行きについて、議論を交わした。

新型コロナウイルスが再び猛威をふるうなか、政府への不安材料は数えきれず、ポスト菅も定まらない。これから、日本はどこへ向かおうとしているのかーー。

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とうとうメッキが剥がれてきた

古賀:歴代3位の高支持率でスタートした菅政権ですが、日本学術会議をめぐる対応やコロナ対策の拙さなどから、支持率が急落しています。ここに来てメッキが剥がれてきたという印象は否めません。

望月:昨年9月の自民党総裁選では主要5派閥が早々と菅支持を打ち出し、投票前から菅勝利の流れが確定してしまった。それでメディアも菅政権誕生を前提とした報道を連発するようになったんです。しかも、その内容がパンケーキおじさんとか、秋田から集団就職で上京し、苦学の末に政治家になった叩き上げとか、菅首相にプラスイメージになるような報道ばかり。菅政権が歴代3位の高支持率でスタートダッシュを切れたのは、メディアのそんな菅プッシュの報道ぶりが寄与した面も大きかったと思います。

古賀:報道の役割のひとつは政治権力を監視すること。なのに、当時の報道は菅政権の誕生を祝うような内容のものばかり。本当に異常なムードでした。

望月:その直前の安倍前首相の辞任を伝える報道も異様でした。いまでもはっきり記憶しているんですが、昨年8月16日に、「首相の病状が悪化し、明日午前8時半から9時の間に渋谷区富ヶ谷の私邸を出発し、慶応大学病院に入院する」という情報が永田町関係者から届いたんです。

政治記者ならまだしも、一社会部記者にすぎない私のもとにこんな生々しい情報が入るなんておかしい。何か思惑があるはずと疑っていたら、案の定、翌日から安倍同情論一色の報道があふれ出すことに。満身創痍でやむなく辞任する安倍さんが気の毒だという論調が支配的になり、4割を切っていた支持率がわずか2週間ほどで20%前後もアップしてしまった。官邸がメディアを利用して、辞任する安倍さんの花道を用意周到に準備したのでしょう。

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古賀:辞任間際の安倍前首相の支持率アップ、そして菅政権の高い支持率での発足は、マスコミコントロールという点でつながっている。テレビ局へ「選挙期間における放送の公平中立」を求める文書を送ったり、政権に批判的な番組やコメンテーターをモニターするなど、安倍政権は気に入らない報道に露骨に圧力をかけ、メディアをコントロールしてきました。そうした中から安倍忖度という言葉も生まれた。

でも、その実体は安倍さん一人の圧力ではなく、当時の今井尚哉首相秘書官、そして菅官房長官の3人による圧力、コントロールなんです。私の印象では、現場の記者たちを強く支配していたのは、安倍さんというより、今井氏と菅氏でした。安倍さん退陣が決まった瞬間から、安倍氏の力をバックにしていた今井氏の力はなくなり、その瞬間から菅氏が安倍政治が確立したマスコミ支配の後継者となったのです。

メディアが菅首相誕生前から菅忖度報道を続けたのはそういう背景がありました。首相就任後、内閣記者会の正式会見の要求に応じず、懇談会と称するパンケーキ朝食会を開いた菅首相を、メディアがパンケーキおじさんと持てはやしたのはその象徴でしょう。

一国のリーダーとして自分のことば、肉声が求められる

望月:菅首相は安倍前首相と同様、会見は基本的に事前に集めた質問を一社一問させるだけの対応で、記者の参加もコロナ感染防止を理由に人数を絞っています。メディア対応に大きな変化はありませんね。とはいえ、官房長官と違い、総理はその一挙手一投足に大きな注目が集まります。官房長官時代に菅さんが多用してきたありきたりの読み上げ会見、答弁では通じません。

今後の会見ではかなり苦戦することになるだろうなと予測していましたが、現在は、会見前に官邸報道室側が、記者から事前の質問取りを必死に行い、山田真貴子内閣広報官が『追加質問はお控え下さい』『お一人様一問とさせて頂きます』など、安倍前首相時代の“台本会見”をなぞるようなことを繰り返しており、まともな質疑に全くなっていません。

テレビなどに出演し、コロナ対策やってる感をアピールしているものの、番組で『年末年始陽性者数少なくなるだろうと思っていた』と、本音を言ってしまったり、今後の見通しを聞かれても『仮定のことは考えないですね』と、言ったり、危機管理能力のなさを露呈してしまっている。本人は良かれと思ってやってるのでしょうが、結果的にテレビに出て発言すればするほどに、支持率が低下していくという負のスパイラルにハマってしまっているように見えます。

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古賀:会見だけでなく、政策面でも菅首相は苦戦しています。たしかに、政権発足直後からデジタル庁設置や携帯電話料金の値下げ、ハンコ廃止など、矢継ぎ早に独自政策を打ち出して一定の成果を出すなど、その実行力は評価されてもよい。ただ、国家観や政治哲学が希薄な分、その政策が思いつきの羅列で断片的なものになっているという印象です。

とくにびっくりしたのは、総裁選で示した政権構想に各国の政治リーダーが血眼になって取り組んでいるグリーン関連の施策がまったくなかったこと。それを見た時、、菅首相は政策の全体が見えていないと痛感したんです。自分の目についてこれはやろうと思ったらそれをやり切る実行力はあるけど、全体像が見えてないから、本当に重要なことが実施されない。あるいは手を付けても後手に回ってしまう。

政策への自画自賛

望月:菅首相がこだわるGOTOキャンペーンもそうなんでしょうか?

古賀:菅首相は自己の業績として、総務相時代に手がけたふるさと納税をしきりに自慢しますよね。でも、この税制は本来の政策目標である地方創生に寄与していません。ふるさと納税で地方創生が実現したという声はほとんど聞こえてきません。なのに、その政策を自画自賛する。そこから見えてくるのは、菅首相のナルシストぶりです。政策の内実よりも「強大な官僚組織を敵に回して戦う」自分の姿に酔っている。そんな印象を受けます。縦割り打破というキャッチフレーズも、「官僚との戦い」を美化していますね。宣伝に使われる官房長官時代の「成果」も、大した話じゃなくて、それくらい官房長官の権限があればできて当然という程度のものばかりです。

菅首相は、ふるさと納税制度に欠陥があると指摘した官僚を左遷させたのもそのコンテクストで見るとわかりやすい。「官僚との戦い」で相手の「首を取った」と勝ち誇っているわけです。本人にとっても「やっている感」だけは十分で、周囲も改革者と評価してくれることを期待しているのです。安倍前首相のナルシストぶりも異常でしたが、菅首相はそれ以上にナルシストの傾向があるのかもしれない(笑)。

だからこそ、自分の政策を否定する者は許さず、徹底して干しあげる。GOTO継続に最後までこだわったのも、二階氏への遠慮とか、観光業界との癒着という要因もありますが、それ以上に、自分がコロナを抑えて経済を回してみせる。正義は自分にあり、それを評価してほしいという気持ちが強すぎたからだと考えています。

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望月:支持率の急落さえなければ、菅首相はGOTO政策を続行していたでしょうね。それほど首相にとってはやりたい政策だった。でも、そんな姿勢ではコロナ感染拡大に的確な対応、目配りはできません。GOTO一時停止の決断も遅すぎます。そのため、年末年始の書き入れ時にGOTO中止となり、宿泊施設や飲食店は打撃を受けてしまった。本来なら、事前にコロナ対策をしっかり行い、書き入れ時に人の移動制限を緩めて消費を促すなど、コロナ感染の全体像を見ながら対応をコントロールしないといけないのに。

自民党内で「菅おろし」の可能性

古賀:GOTO一時停止を表明する一方で、菅首相が「人類がコロナに打ち勝った証しとして、東京五輪を成功させたい」と意気込んでいることも気がかりです。国民はコロナ感染が拡大する今の状況を何とかしてほしいと訴えているのに、それに答えず、夏の五輪でのコロナ勝利にこだわっている。はたして菅首相はコロナ危機の全体像を見渡せているのか、切実な国民の声に寄り添えているのか、とても心配です。

望月:支持率が急落する菅政権の現状は、麻生政権の末期と似ているの指摘があります。リーマンショックの悪影響で就任直後の解散総選挙を見送り、追い込まれ解散の末に大敗し、野党に転落した麻生政権と同じ道を歩みかねないという見立てです。ただ、旧民主党への期待が高まった2009年時と違い、いまは野党の支持率は一ケタどまり、一方の自民党は4割台の支持率をキープしている。だから、いきなり総選挙で大敗、野党に転落のリスクは低い。

となると、自民党は下野の心配なく党内抗争ができるわけで、このまま菅内閣の支持率が思わしくない場合、党内で「菅おろし」が始まるかもしれません。実際、自民党を取材すると、「菅首相は表情が暗すぎてダメ」、「菅首相が顔では選挙に勝てない」という声をよく聞きます。

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古賀:たしかに、菅さんと麻生さんは単なる政策批判だけでなく、やる事なす事、日々の言動が批判の対象になるという点で似てきている。麻生さんはマンガばかり読むとか、漢字を知らないなど、政治以外のシーンの言動が批判を浴びたけど、菅さんもネット番組で受け狙いで「ガースーです」とあいさつしただけで炎上した(苦笑)。

安倍前首相は桜スキャンダルで厳しいか

望月:「菅おろし」が吹き荒れた場合、だれが次の総理総裁候補として浮上してくると予想しています?

古賀:河野太郎行革担当相に注目しています。三度目の登板を期待する声もあった安倍前首相は桜スキャンダルでさすがに厳しい。昨秋の総裁選で二位につけた岸田文夫前党政調会長も党内で全く支持が伸びない。地方で人気の石破氏も派閥の会長を降りて、すぐに復活とはならない。その他に名前が挙がる人たちは皆小者ばかりです。となると、短期間でハンコ廃止を実現するなど、実行力が高評価されている河野さんが浮上するしかない。

ただ、いくつか条件があって、河野さんが脱原発など、菅首相とは違う政策の対抗軸を打ち出し、それが有権者だけでなく、自民党内でも一定の支持を得るということが必要になります。河野さんは菅内閣の閣僚で、いくら手柄を立ててもそれは菅首相の功績になってしまいますから。

また、国民の人気があると言っても、今くらいではまだまだ不十分。「人気爆発」という状況まで持って行かないと、石破氏の二の舞になりかねないので、そこまで行けるかがカギです。同じ神奈川県選出で人気者の小泉進次郎環境相の支持を取りつけ、河野・小泉のKKコンビを組めれば、河野さんはまちがいなくポスト菅の最右翼に浮上するでしょう。

解散総選挙の時期としては通常国会の終了直後が有力かも。五輪終了後の予測も根強いですが、その時は五輪にともなう人的移動で変異種が国内に流入し、コロナ感染がぶり返している可能性が高く、そうなれば選挙は厳しい。通常国会を閉じた直後の6月なら、気温上昇でコロナ感染もかなり落ち着き、ワクチン接種も進んで、国民の間に安心感が広がるかもしれない。選挙の条件が整います。

2021年の日本に望むこと

望月:結局、2021年もコロナ次第ということ。何とかコロナ感染が収まって、明るい兆しが出てくるといいですね。友人との食事やイベント、会合など、この1年ろくにできなかったことが伸び伸びと行える年になってほしいと心から思います。政治への注文もあります。コロナ禍によって非正規雇用の人々が失業して困窮するなど、これまで見えにくかった日本の経済格差が焙り出されました。そうしたコロナで打撃を受けた人々がふたたびコロナが流行した時にしっかり守られるセーフティネットを今年中に構築してほしいんです。

古賀:私は2021年が日本のグリーン元年になってほしい。菅政権が「50年カーボンゼロ」を宣言したことで、原発の再稼働、新設を求める声が出ています。再生可能エネルギーの導入が進まないと、同じくCO2を排出しない原発からの電気に頼らざるを得ないからです。ただ、日本最高の5115ガルを記録した岩手宮城内陸地震に対応する形で、住宅会社が4000~5000ガルの揺れに耐える住宅を販売する一方で、原発の耐震性が軒並み1000ガル以下という今まで知られていなかった「不都合な真実」が法曹界に認識されつつある。

ということは、今後、原発関連の裁判では稼働差し止めの判決が出る可能性が高い。そうなれば、嫌でも電源確保のために風力や太陽光など、再生可能エネルギーの導入を増やすしかない。その意味することは、日本にとってのグリーン元年です。今年がそんな年になってほしいと念願しています。

古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。東大法学部卒。元経済産業省の官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官など改革派官僚として活躍したが、当時の民主党政権と対立し2011年に退官。テレビ朝日「報道ステーション」コメンテーター、大阪府市統合本部特別顧問など政策アドバイザーとして活躍。新著に『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)がある

望月衣塑子(もちづき・いそこ)1975年生まれ、東京都出身。新聞記者。慶應義塾大学法学部卒業後、東京中日新聞社に入社。千葉支局、横浜支局を経て社会部で東京地検特捜部を担当。経済部などを経て社会部遊軍となり、官房長官記者会見での鋭い追及など、政権中枢のあり方への問題意識を強める。著書『新聞記者』(角川新書)は映画化され大ヒットとなった。昨年7月に佐高信氏との共著『なぜ日本のジャーナリズムは崩壊したのか』(講談社)を上梓

(構成・文/姜誠、写真/村田克己)

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