中国「ジャック・マー失踪」の全舞台裏...じつは習近平の“自爆”で、中国経済が「大ピンチ」へ!

中国「ジャック・マー失踪」の全舞台裏...じつは習近平の“自爆”で、中国経済が「大ピンチ」へ!

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/01/14
No image

ジャック・マー「失踪」の舞台裏

中国ではこの数か月、アリババをはじめとするインターネットプラットフォーム企業が「独禁法違反」のターゲットになって、厳しく取り締まられている。

特に、アリババ、テンセントに対して昨年暮れに50万元の罰金が科されたことは額こそ低いが、見せしめ的な効果は大きく、一部ではアリババやその傘下のフィンテック企業・アント・グループの国家接収の前触れではないか、という憶測まで流れた。

ロイターなどの報道では、11月のアント・グループの上海・香港同時上場が急遽中止になったときに、アリババ創業者で大株主の馬雲(ジャック・マー)がアントの国有化を当局に提案していた、という話もある。また、11月以降、馬雲の動静が不明で、失踪と騒がれている。

No image

「失踪」と騒がれているジャック・マー photo/gettyimages

多くの人たちが民営保険企業・安邦保険の元CEOの呉小暉がしばらく「失踪」したあとに、詐欺や職権乱用で懲役18年の判決を受けて投獄されたときのことを思い出していた。保険は公的管理下におかれ実質国家に接収されることになった。

中国はなぜ急に独禁法強化の方策を打ち出したのだろうか。

じつは、この方針は昨年12月の党中央経済工作委員会で打ち出された八つの重点工作のひとつでもある。

具体的には(1)国家戦略科学技術パワーの強化、(2)産業チェーン、サプライチェーンの自主コントロール能力の増強、(3)内需拡大戦略の起点の堅持、(4)改革開放の全面推進、(5)種子と耕地問題の解決、(6)市場独占禁止の強化と資本の無秩序な拡張の防止、(7)大都市住宅の突出した問題を解決、(8)二酸化炭素排出量のピーク問題とカーボンニュートラル達成に向けた取り組み、だ。

新華社報道によれば、「市場独占禁止を強化し、資本の無秩序拡張を防止する。市場独占禁止、不正当競争禁止は、社会主義市場経済体制をよりよくするものであり、ハイクオリティー発展の内在要求を推進する」という。

力を持ちすぎたから…

中国としてはプラットフォーム企業のイノベーション発展を支持し、国際競争力の増強を掲げ、また公有制経済と非公有制経済の共同発展もうたっているのだが、同時に「法律工作をインターネット領域にまで伸ばさなくてはならず、インターネットが法外の地であってはならない」と強調しており、インターネットプラットフォーム企業やフィンテック企業が、他業種よりも法の束縛がゆるく、不公平に優遇されているという見方が党内にあることがうかがえる。

No image

習近平が動いたワケ photo/gettyimages

エネルギーや電信分野の国有企業寡占のほうが市場独占という意味では深刻だが、そちらはむしろ共産党政権として数社の大手国有企業による寡占を推進し、民営や地方経営企業を接収したり再編したりしている。一方で民営フィンテック、テクノロジー企業、インターネットプラットフォーム企業が独禁法違反として取り締まられるのだから、不公平の定義自体が共産党の都合で判断されている。

習近平政権の狙いは、党中央による経済のコントロール強化であり、市場をコントロールするためには大手国有企業の市場寡占は有利だが、民営プラットフォーム企業が力を持ちすぎることは不利である、ということなのだ。

引き金となった「事件」

アントの上場の急な中止は、銀行が受けるさまざまな資本規制や金利上限規制を受けずにきたフィンテック企業に対して、新たな規制をかける法律の準備が進められていることを受けてのものだろう。

この法律ができれば、アントには規制にひっかかる部分が出てくるとみられている。だが、こうした制度上の変化の流れ、というのはアント側も当局側も了解していたわけで、おそらくは水面下で交渉が重ねられてきたはずだ。

なので、上場の急停止の本当の理由は、習近平の馬雲(ジャック・マー)に対する見せしめ的処罰ではないか、とみられている。

10月24日に上海で行われた金融フォーラムの場で、馬雲が「監督を恐れないが、古い方式の監督を恐れる」「中国にシステミックリスクがないのは基本的にシステムが存在しないからだ」と、強烈な皮肉を交えた中国政府への批判を行ったことが引き金だったというのが、海外メディアの共通認識だ。

おりしも中国の債務バブルがいつはじけるとも限らないリスクを前に、既存金融機関の再編整理が始まっている中で、アントの事業で大儲けしているアリババ・馬雲の放言は見過ごせなかったということだろう。

中国当局はこうしたフィンテック企業への監督強化の第一歩として2019年に、アリペイ、ウィーチャットペイのチャージ資金を、人民銀行の当座預金に預けることを義務付けた。これまでは、こうしたチャージ資金はアリババやテンセントが自前で運用して少なからぬ利益を上げていたが、その利益を政府が接収した格好となった。

みずからの権力を脅かす「敵」

馬雲(ジャック・マー)の大胆な批判発言は、中央政府がじわじわとインターネットプラットフォーム事業やフィンテック事業にかける規制や圧力に反発したものと思われる。

利用者10億人をこえるアリペイとEC市場の半分以上のシェアをかかえる天猫サイトなどを擁するデジタル経済圏の支配者の一人であるという自信、自負がひょっとすると、こうした恐れを知らない発言につながったのかもしれない。

馬雲はもともと反逆児的性格があり、2003年にアリペイ事業を始めるときに、金融分野に一民営企業が入り込むことで共産党からにらまれるかもしれないと噂がたったことに対し、「アリペイのために投獄されてもいい」とまで言ったといわれている。当時、共産党中央幹部の怒りを和らげるために中南海に日参している馬雲を新華門付近で見かけた、といった話を出入りの関係者知人から聞いたことがあった。

No image

胡錦涛時代には許されたが photo/gettyimages

当時の胡錦涛政権も、また金融、インターネット方面に利権をもっていた上海閥も、だが馬雲を利用して自らの利権を拡大し、蓄財に励むことを選んだ。アリババのイノベーションに法整備が追い付かず、事実上放任になったといってもいい。

その無法空間に生まれた自由を利用して、馬雲はアリババ帝国を築いたのだった。

だが、習近平は江沢民や胡錦涛とは違い、経済や文化分野を含めたすべてにおいて党中央の指導力を発揮し、自分のコントロールの及ばない存在を許せない性格だった。デジタル金融とEC市場の支配者であり、海外からも信望がある有能でカリスマ性をもつ企業家リーダー・馬雲の存在自体が、自らの権力を脅かす敵であると思い込んでいるふしもあった。

アリババだけの問題ではない

アントの上場停止のあとは、アリババの独禁法違反による立件と調査が発表され、アリババの香港株はその日一日で9%の暴落をみた。馬雲(ジャック・マー)は11月以降、その動静が途絶え、年明けて1月3日までに、「馬雲財団」がプロデュースした企業家コンテスト「アフリカビジネスヒーローズ」の審査員であった馬雲の名前がホームページから消え、審査員が外されていることが発覚。欧米メディアが「馬雲はどこにいった?」と騒ぎはじめた。

ネットでは、プライベートジェットで深圳、香港経由でシンガポールまで逃げた、といった根拠なき噂までながれていたが、それよりも、次に馬雲の名前が表ざたになるときは経済犯容疑者になっているのでは、という予測を言う人のほうが多かった。

いずれにしろ、アリババはこれまでのアリババでは無くなるかもしれない、と固唾をのんで成り行きが見守られている。

おそらく、この動きはアリババだけでなく、インターネットプラットフォーム経済全体の雲行きを示している。テンセント、百度、美団、拼多多……こうしたプラットフォーム経済全体に党中央の指導強化がおよび、いくつかの企業は国有化されたり、あるいは国家機関が最大株主になったり、あるいは人事権を共産党が握る形でのコントロール強化が進むのではないか。

なぜ、そこまで経済プラットフォーム企業がターゲットになるかといえば、もちろんフィンテック企業の影響力が中国の金融政策にとって見過ごせないほど大きいということもあるが、それ以上に、この新興分野はAIとビッグデータを駆使した膨大な情報量と解析力をもち、しかも海外ユーザーも多い国際企業だからだろう。

アメリカも動き出す

たとえば、アリペイやウィーチャットのプラットフォームを共産党が接収すれば、中国が人民元国際化への道の切り札と期待をよせるデジタル人民元がEC市場を通じて国際社会での利用がスムーズに広がるし、こうしたプラットフォームの蓄積する個人情報、消費動向は世論操作や政治宣伝、統一戦線工作などを含めた情報戦にも役立つかもしれない。

今まで、この分野が、さほど厳しい監督も受けずに放任されていたことは奇跡だったかもしれない。

だが逆にいえば、アリババやテンセントがデジタル経済圏の覇者となったのは、中央政府の放任の結果、自由があったからだった。その自由さに、外国企業も引き寄せられ、彼らに投資し、多国籍な活力ある企業に成長した。今後、民営企業の自由が奪われていき、企業の利益、消費者の利益よりも党の利益を優先することを義務付けられるようになれば当然、その活力は奪われていく。自由のないところにイノベーションは生まれ得ないだろう。

No image

アメリカも動き出す photo/gettyimages

また米政府は、アリババ、テンセントが解放軍関連企業として投資禁止対象にするかどうかを検討中だが、かりに今まで、積極的な解放軍協力企業ではなかったとしても、今後はそうなっていくことは確実だ。

バイデン政権になれば、対中ハイテク企業への制裁方針は変わるという期待もあろうが、中国のハイテク企業は以前よりももっと共産党に支配され、西側自由社会にとっては警戒すべき存在になってゆく。中国デジタル企業の多国籍なイメージは消え、共産党傀儡企業イメージに変わっていけば、海外の技術者や投資家たちも距離をとらざるをえないだろう。

数年前、「中国ハイテクすごい」「深圳すごい」と持ち上げられてきた民営ハイテク企業、インターネットプラットフォーム経済にとっての冬の時代が始まる。

では、春はいつなのか。私は習近平独裁が終わらない限り、やってこないと思っている。新型コロナや大統領選の混乱から米国のパワーダウンが予想よりひどいので、冬は思いのほか寒く長いかもしれない。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加