この夏、ゾッとする読書体験を求める方に。『私の家では何も起こらない』/佐藤日向の#砂糖図書館

この夏、ゾッとする読書体験を求める方に。『私の家では何も起こらない』/佐藤日向の#砂糖図書館

  • WEBザテレビジョン
  • 更新日:2022/08/06
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佐藤日向 / ※提供写真

声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像作品や舞台俳優としても幅広く活躍する佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本から受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。

「今年の夏、なにかゾワっとした経験ありましたか?」

夏の後半に差し掛かると、必ず現場で聞かれる質問だ。何か興味がそそられる話がないものかと頭をめぐらせるが、嘘をつくわけにもいかず、いつも私は悔しさを滲ませながら「ないです」と答える。そんな"視える" "感じる" 経験をしたことがない私も、本を通してゾワっとする経験をした。

今回紹介するのは、恩田陸さんの『私の家では何も起こらない』という作品だ。本作は9編で構成された短編ホラーである。丘のうえに佇むひとつの屋敷を取り巻く人々の物語。最初の「私の家では何も起こらない」では、屋敷にどんどん蓄積されていった過去の住人たちの"想い出"が、登場人物のふたりによって会話口調で語られる。全編を通して、登場人物の話し方や世界観が日本的ではなく、西洋のような雰囲気があり、話によってはグリム童話のような展開もある印象だ。

基本的に、作中では屋敷に住んでいた人や屋敷の奇妙な出来事を経験した人たちのモノローグで物語が紡がれていくため、終始説明もされないまま誰かの頭の中を覗いているような感覚になる。そのため全てを理解できないモヤモヤがやがて気味悪さへと変わり、最終的には屋敷そのものに恐怖を覚える構成となっていた。所謂、日本の夏によく見かけるジャパニーズホラーとは全く違うジャンルの、屋敷にフォーカスを当てたホラー作品であり、得体の知れない何かが憑いていることだけは漠然とわかる作品だった。

私の印象だと日本人は洋館や古い屋敷に怖い印象を持っているイメージがなく、井戸のある家や日本家屋がジャパニーズホラーではよく用いられている気がする。本作の、日本とは違うどこかの国にある屋敷を、文章を通して体感することは、これまでの読書体験とは全く違うものであった。ホラーばかりではなく、最後の方にはハートウォーミングな気持ちになる短編もあり、読了後に「この屋敷は生きているんだ」と思えた。見方によっては怖いという感情が先行してしまいがちだが、先入観を一回無くしてみると、大体の物事は何かを成すために行動を起こしていることの方が多いように感じる。

本作でいうと、他人にとっての認識は関係なく、大切な想い出が棲みついているのに、取り壊されるわけにはいかないという強い意志を屋敷そのものが持っているように私は感じた。そう考えながら読むと、本作の印象はガラッと変わるかもしれない。まだまだ暑い日々は続くが、本作の屋敷のドアを叩いて新しい寒さを是非体感してほしい。

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