「トランプ劇場」が露わにした“中央”の空虚さと二大政党制の無意味さ(粉川哲夫)

「トランプ劇場」が露わにした“中央”の空虚さと二大政党制の無意味さ(粉川哲夫)

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  • 更新日:2021/01/14
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大統領選挙での敗北をなかなか認めなかったドナルド・トランプ。1月7日(日本時間)、そんな彼の扇動を受けたトランプ支持者らが米議会議事堂を占拠し、警官隊と衝突。双方に死者を出す惨事となった。

『メディアの牢獄』(1982年)や『もしインターネットが世界を変えるとしたら』(1996年)などの著書を持つメディア論の先駆者として知られ、かつてニューヨークに居を構えていたメディア批評家の粉川哲夫。

「2016年の選挙の少し前から、ずっとトランプの動向を観察し」つづけてきたという彼は、この「トランプ劇場」の終焉をどう見たのか──。

空転に終わったトランプの「クーデター」

アメリカの大統領選挙は、1月7日(日本時間)の上下両院の認証式を経て、有権者による投票どおりにジョー・バイデンが第46代の大統領に決まり、終結した。が、今回は、これで1月20日の「就任式」へ向かうというわけには行きそうになく、米国大統領選挙史上類を見ない事態に直面している。要するに「トランプ劇場」が続演になったのである。

日本時間の1月7日の午前4時過ぎ、YouTubeの『C-SPAN』(アメリカのニュース専門ケーブルテレビ)で認証式のライブを見ていて、トランプ支持者のテッド・クルーズが、パッショネイトな身振りで「選挙に不正があった」ことを説いていたが、この人、牧師の息子のせいか、しゃべりが説教調になるので、ちょっとコーヒーを淹れに席を外して戻って来ると、画面に「休憩」のテロップが出ていた。

全米50州の代表が5分ずつ発言するので休憩を入れながらやるのかと思い、ほかのサイトに切り替えたら、リポーターが切羽詰まった口調で議事堂内に「暴徒」が乱入したと報告し、やがて、彼らが窓を破り、次々と議事堂内に入っていく映像が見えた。ほかのサイトでは、すでに、ロビーで警備官と揉み合っている映像も流れている。なるほど、トランプがやるのではないかと言われていた「クー(COUP)」とはこれかと合点した。英語の「クー」は、通常、軍部などが起こす「クーデター」の意味だが、民衆を動員して起こす「クー」もあることを知ったのである。

こういう騒動は、「左翼」の間では「革命」と呼ばれる。共和党のマルコ・ルビオは、「これは第三世界スタイルの反米アナキーだ」とツイートしたが、実際、これまで権力に反発する人々が憧れる「革命」はおおむねこのスタイルで始まった。

There is nothing patriotic about what is occurring on Capitol Hill. This is 3rd world style anti-American anarchy.
— Marco Rubio (@marcorubio)
January 6, 2021
from Twitter

大統領の邸宅や議事堂にデモ隊が乱入し、権力が終焉したのである。おそらく、トランプはそういう例を意識していたのだろう。軍によるクーデターができなければ「民衆」を煽る手だ。が、この手法は、もう「第三世界」でも古過ぎる。

発端は1月7日(日本時間)の朝、トランプがワシントンで「セイブ・アメリカ」集会を行い、「議事堂に行き、わが共和党員を元気づけよう」と煽ったことにある。

US election: Trump tells protesters in DC “we will never give up, we will never concede” | FULL

やがて、それを聞いたトランプ派の聴衆だけでなく、ツイッターやフェイスブックで情報を得た者たちが続々と議事堂の周囲に集まった。その映像は、認証式が始まる前からSNSのライブで流されていた。それが乱入にまで進むようには思えなかったが、かなり周到な準備をしていた者もいたようで、窓ガラスを破る道具、上階から吊るすロープ、拳銃や爆発物まで用意されていたことがわかった。

結果は、議事堂の警備官に撃たれた4名の犠牲者(※編集部注:原稿執筆時点。のちに警官1名の死亡も確認された)には気の毒だが、他愛のない「革命ごっこ」に終わり、あとには、扇動者トランプへの批判と不審が高まり、トランプが狙った「認証式」の阻止にはまったくつながらなかった。最後まで盲従者に徹すると思われていた副大統領のマイク・ペンスですら、「あなたは勝てなかったのです。暴力は勝てません。自由が勝つのです。そして、ここは依然として人民の家なのです」と語り、明らかにトランプを批判した。

目下一挙に高まっているのは、トランプを弾劾裁判にかけるという案である。あと2週間足らずの就任期間しかないにもかかわらず、今あえて裁判にかけるのは、この調子では今後トランプが何をやらかすかわからないという不安からである。移動のときには常時(係官が)携行している核爆弾の起動装置を、押せなどという大統領命令でも下すようなことがあったら大変だというわけである。憲法修正第25条に基づいて辞任を求めるという案もあるが、この場合はペンスが超短期の大統領になる。 むろん、トランプは辞任しはしないだろう。とすると逮捕もありか?

ドナルド・トランプは“役者”ではなく“独裁者”だったのか

私は、2016年の選挙の少し前から、ずっとトランプの動向を観察し、「雑日記」に書いてきた。それは、Netflixなどが目につくようになり、劇場映画がつまらなく感じ始めて、ふと対象をアメリカ大統領選挙に変えたところから始まったのだが、私の関心は、アメリカ政治の分析ではなく、あくまでもヤジウマとしての好奇心であり、トランプという道化的な「役者」への関心だった。

ずっと思っていたのは、この「トランプ劇場」には「演出家」がおり、彼自身、自分が「役者」であることを意識し、道化や狂気や勝手や大人子供のキャラを演じているのではないかということだった。実際、スティーブ・バノンやケリーアン・コンウェイのような「演出家」や、先頃トランプが恩赦で救ったポール・マナフォートやロジャー・ストーンのような「悪役」にも事欠かなかった。だから私は、「トランプ劇場」のドラマトゥルギーは、プロレスやカジノの興行形式なのだと信じて疑わなかった。

しかし、最近になって、私はその考えに疑問を抱くようになった。あるいは、トランプ自身が変わったのかもしれないが、2020年の「コロナ感染」以後の彼は、まったく「演技」性を欠いている。「道化社長」を演じているのではなく、「独裁者」になり得ると信じているかのようだ。

トランプは、コロナに罹り抗ウイルスカクテルを摂取して別人になった、トランプはコロナに罹って死に、その「ボディ・ダブル(代役)」がすり替わった──という陰謀論的なジョークもあるが、それよりも前々から言われていた「老人性せん妄症」ではないかという説を信じたくなるような変わり方である。

それが、私の中でより強まったのは、1月2日にジョージア州の州務長官ブラッド・ラッフェンスパーガーおよび選挙関係の責任者に対して電話したときの発言である。個人的な電話ではなく、ホワイトハウスとジョージア州との関係者が通話する電話会議のようなものだが、その内容が『ザ・ワシントン・ポスト』に公開された。

Trump berates Georgia secretary of state, urges him to ‘find’ votes (Audio)

おそらくジョージア州側がこれを1月6日にある上院議員欠員2名の選挙に対する圧力と取り、公開に動いたのだろう。何せ、ラッフェンスパーガーとは、トランプがジョージア州の大統領選挙では不正があるから再集計しろという訴えを起こしたとき、「ならばやりましょう、しかも全部手作業で再集計しましょう」と請け負い、不正がなかったことを短期間に確証させた根性の人物である。共和党員であるにもかかわらず、選挙は選挙だという「正義」は貫いたので、一気に「男を上げた」。

ニュースでは「ジョージア選挙への恫喝」といった見出しが躍るが、この録音を聞くと、トランプは「ありがとう」を何度も繰り返しており、脅しというよりも「老いの繰り言」のように聞こえる。しかも、彼が繰り返し言うのは、自分が勝っているはずなのに不正で票を失ったということばかりであり、上院議員選のことなどそっちのけである。

たとえば、彼は「今日、重さにして3000ポンドの票がシュレッダーにかけられたという報告を受けたが、そうなのか?」「(ジョージア州)コブ郡では数十万の票がシュレッダーにかけられたという噂がある」などという言い方をする。誰がそういう「報告」をしたのかも「噂」の出処も言わない。そもそも、不正をやったと想定している相手に「噂があるが本当か?」などと聞いて、「はい」という答えが得られると思っているのだろうか?

ホワイトハウスとはその程度の場所だった

トランプについての批判的な評伝『世界で最も危険な男(TOO MUCH and NEVER ENOUGH)』(小学館/2020年)を書いた彼の姪にして心理学者のメアリー・トランプは、「絶対に負けていない」「身を引かない」と言いつづけているトランプに関し、『VICE NEWS』でのインタビューで、彼の特性を「gaslight」という心理学用語で説明している。

“I don’t think [Donald Trump] ever accepted the truth of the loss," Mary Trump told VICE News. "I don't think he’s psychologically or emotionally capable of that.” https://t.co/5awDVFpfF9
— VICE News (@VICENews)
November 27, 2020
from Twitter

「ガスライト」とは、人を騙すために自分を「狂人」に見せることだが、しかし、トランプ問題をひとりの人物の「狂気」や特性の問題に還元することはあまり意味がない。なぜなら、人は誰しも、その特性や独異性を尊重するならばみな「狂人」であり、「正常」とは、各「狂人」が便宜上付き合っているヴァーチャルな領域に過ぎないからである。

トランプ劇場を通じて明らかになったのは、むしろ、国会というような「中央」は空虚であり、二大政党というようなものは個々人にはなんの役にも立たず、そして、大統領は別に特別の政治家でなくても1期ぐらいは務まるということである。この間の「中央」のドタバタ劇の傍らで、今、アメリカの各州では「中央」の形骸化とは裏腹の動きがある。それが、今回のジョージア州での上院議員選挙の結果にも見られる。コロナ禍も「中央」では解決のしようがない。そういう時代なのだ。

【追記】
1月8日の夕方になって、編集の森田さんから、トランプが最終的な「敗北宣言」を出したと知らされ、映像を観た。が、それは、まるで悪さをして叱られたワルガキがしょげながら惰性で模範原稿を読んでいるだけのスピーチで、もし、これが「トランプ劇場」の最終場面だとすると、この「劇」は、段取りの悪いただのドタバタ劇だったことになる。そうであれば、なおさら、ホワイトハウスとはその程度の場所だったということにもなる。

Tweets by realDonaldTrump

粉川哲夫

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