「前橋市に光を」ジンズ田中CEOの起業家精神に、再び火が付いたワケ

「前橋市に光を」ジンズ田中CEOの起業家精神に、再び火が付いたワケ

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/10/15
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「地方に何が足りないのかと言うと、刺激が足りないのです」

そう語るのは、20周年を迎えたアイウエアブランド「JINS」を手掛けるジンズの代表取締役CEO・田中仁。群馬県前橋市に生まれた田中は、1988年にジェイアイエヌ(現・ジンズホールディングス)を創業。2001年にJINSを立ち上げ、メガネ販売本数日本一のブランドへと躍進させた。

2014年、群馬県や前橋市の地域活性化を目的に自らの名前を冠した個人財団を設立すると、出身地でありJINSの創業地でもある前橋市を中心とした「地域貢献」に力を入れるようになった。

「刺激がない」ならつくればいい

田中は、前橋市が抱える課題についてこう語る。

「東京で働く地元の友人に、前橋に戻らない理由を聞くと『刺激がないから』という答えが返ってきます。中でも知的好奇心が旺盛な人たちは、アートや演劇、コンサートを楽しみたいと思ったときに、『地元では体験することができない』となってしまうのです」

そうした”刺激”を地方でも提供できないか。そう考えた田中は、前橋で創業したJINSだからこそできることを、と構想を練った。

そして試行錯誤を重ねること5年以上、2021年4月に新施設「JINS PARK」が完成した。アイウエアの販売に留まらないこの施設は、前橋市に新たな風を吹き込む存在となっている。

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4月に前橋市に誕生した「JINS PARK」/ ジンズ提供

世界の起業家の意識の高さに衝撃

田中が「地域貢献」を意識するようになった背景には、世界の起業家との出会いがある。そのきっかけとなったのは、2010年、優れた起業家を表彰する「Ernst&Young ワールド・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー」で大賞を受賞したこと。翌年に日本代表としてモナコ世界大会に出場した。

世界一の企業起業家を決めるこの大会では、評価項目の中に「起業家個人の社会貢献」があった。その内容を見た田中は、衝撃を受けたという。

「大会があったのは東日本大震災が起きた2011年。私も被災地に多少の寄付をしたのですが、世界の起業家たちの寄付への意識やその額を見て、自分の貢献なんて微々たるものだったのだ、と悟りました」

地価最下位の前橋市を変えたい

そして、50歳を迎える2013年に大きな転機を迎える。

「世界の起業家を見て、自分自身や会社のためだけにすべてのエネルギーを注いでいく人生でよいのだろうかと、と考えました」

そこで、個人財団を設立し、群馬県の起業を支援・促進する「群馬イノベーションアワード」や、社会人・学生を対象にした起業家育成スクール「群馬イノベーションスクール」などをスタートした。

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さらに、出身地であり創業地である前橋市に目を向けた。当時の前橋市は、地価が全国の県庁所在地の中で最下位。商店街には人っ子1人おらず、シャッター商店街の代表例として社会の教科書に載るほどだった。

田中は早速、創業300年超えの歴史ある旅館「白井屋旅館」の再生事業に取り掛かった。2008年に廃館となり、跡地にマンション建設の話が上がっていた同館だが、「何とかその建物を残したい」と購入。建築家の藤本壮介に設計を依頼し、約5年の歳月をかけて改修と新棟の建設を行った。

2020年12月には「白井屋ホテル」として開業。外観からロビー、各部屋に至るまでアートを体感できるホテルとして国内外から注目を集め、イギリスのトラベル雑誌『ナショナル・ジオグラフィック・トラベラー』や、アメリカのインテリア雑誌『Architectural Digest』で、2021年の世界のベストホテルに相次いで入選した。

「JINS PARK」とはなにか

今年4月に開業した「JINS PARK」は、次なるまちづくりの拠点となる施設だ。”PARK”と名付けた理由を、田中は次のように語る。

「サスティナビリティやSDGsの重要性が問われている今、企業もただ利益を求めるだけではなく、地域課題や社会課題に向き合う必要があると感じていました。ただ商品を売るだけではなくて、前橋の地域コミュニティの出会いのきっかけのハブになる、公共空間のような施設をつくりたいと考えました」

大通りに面した建物で、JINSのアイウエアショップにベーカリーカフェを併設している。建物の設計は「LOUIS VUITTON 京都大丸店」「丘のある家」などを手掛けた建築家の永山祐子氏が担当し、アイウエアショップ内の什器も永山事務所によるオリジナルデザインだ。

「お子さんのいる永山さんにコンセプト設計の段階から入っていただけたことで、子育て世代や子どもにも喜ばれるような店舗づくりにつながりました」

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「JINS PARK」の内観。腰掛けられる大階段が特徴的だ / ジンズ提供

特徴は「余白の多さ」という田中。店内に一歩入って目を引くのが、三角形の大階段だ。屋上テラスに続くこの大階段は、腰掛けて談笑ができるスポットになっている。前庭は、国道沿いの店舗によくある駐車場として使用するのではなく、公園のような芝生が広がるエリアに。地域住民がワークショップやイベントを行い、新たな交流を生む場を目指している。

今後は、地域の子供たちに向け、地元アーティストによるワークショップなどを開催予定だ。「テーマは、絵や身体パフォーマンス、彫刻などさまざまです。JINSの店舗を使い、地元クリエーターとのコラボレーションによって地域の子どもたちを元気づける。学校では教えてもらえない”生きる力”を、こういう場を通じて提供したいと考えています」

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「JINS PARK 前橋」について説明する田中

オープンからおよそ半年。コロナ禍でも想定以上に客足は伸びているという。

前橋市に続々と新スポットを生み出すことで、市民だけでなく県内外からの注目も高まってきた。建築ファンやアートファンをターゲットに、白井屋ホテルに宿泊し、JINS PARK 前橋に立ち寄るツアーを企画する旅行会社も出てきた。

店舗はブランドのストーリーを伝える存在に

JINS PARKを皮切りに、全国各地で同様の”地域コミュニティの創出”を目指した店舗の展開も進めている。

2021年9月には愛知県の「JINSイオンモール岡崎店」をリニューアルオープン。JINS店舗で日本一の面積を有する120坪の店内には、1500冊もの書籍と可動式のコミュニティスペースを設置した。田中は「各都道府県で代表的なお店をつくっていければ」と意気込む。

こうした地域密着型の店舗は、ブランドのストーリーを顧客に伝える役割も担う。ブランドのファンになってもらうには、世界観や価値観に共感し、コミュニティの一員になりたいと思ってもらう必要があるからだ。

「JINSはまだまだ、ブランドの本来の姿を伝えきれていないと思います。ただ『メガネを安く売っているお店』というのではなく、『人々の生き方そのものを豊かに広げ、これまでにない体験へと導きたい』という経営理念にも通じる思いを、もっとシャープに表現していく必要があると考えています」

企業と地域社会のつながりを構築したい

田中は、民間企業が地域貢献に取り組むメリットについて「思いのままに、思う存分クリエイティビティを発揮させられること」と語る。

「税金は所得や資産の再配分という役割が基本的な使い道だと思います。デザインという付加価値に対してはあまり税金(補助金)を使えない。そういう分野こそ民間の強みが出せる」

地域での活動において、参考にしている事例は「ない」ときっぱり。「やはり、起業家なので人真似ではなくてオリジナリティを追求したいのです。前橋への取り組みも、もし前橋の土地の値段が最下位ではなかったら手をつけなかったかもしれません。起業家精神に火をつけられたのだと思いますね」

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今後は、企業と地域社会のつながりを新しく構築していきたいという。

「これまでは、企業の成長と地域の成長は分断されていました。雇用を生み出すという面はあっても、企業の利益が地域に直接的な影響を及ぼすことはあまりありませんでした。JINSが地域にどう貢献していけるのか、追求していきたいと思っています」

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