うつ病患者100万人超えの韓国に漂う若者の鬱屈

うつ病患者100万人超えの韓国に漂う若者の鬱屈

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  • 更新日:2021/04/08
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若年層の精神疾患の増加に関して、文在寅政権を批判する声も上がる(写真:ロイター/アフロ)

(田中 美蘭:韓国ライター)

日本では、2020年からのコロナ禍による影響と思われる未成年や若年層、特に女性の自殺が増加傾向にあると報道されている。韓国でも似たような傾向にあり、20代を中心とした若者の精神疾患,とりわけうつ病の急増が顕著だ。精神疾患も自殺も要因は様々だが、1年以上にわたる新型コロナの影響が少なからず影響を与えていることも否めない。

4月6日、韓国の主要メディア東亜日報に「100万人を超えたうつ病患者」という記事が掲載された。国民健康保険公団が前日に発表したデータによると、精神的な不調で病院の診察を受け、「気分障害」と診断された人は2020年に101万6727人を数えた。100万人を超えたのは2020年が初めてとのことだ。

気分障害とは気分の状態が安定せず、高揚と落ち込みが一定期間続く症状でうつ病、躁うつ病とも呼ばれる。日本では、気分障害はこの2つが合わさったものという定義がされているが、韓国では単にうつ病と呼ばれている。

記事の中で紹介されている事例として、23歳の患者のケースを見てみよう。2020年10月、初めて就職した会社を職場の雰囲気に馴染めず退職した後、転職活動をしたものの上手くいかず、退職後2カ月ほどすると、無気力な状態に陥り、加えて夜に寝つくことができない不眠症状も現れ始めたため、メンタルクリニックを訪れたところうつ病と診断されたとのことであった。

また別の事例では、カナダに留学中だった20歳の学生のケースとして、新型コロナの世界的な感染拡大により、休学を余儀なくされ韓国に帰国。オンラインでも授業は受講できるものの、先行きがまったく見えない状況の中、家にこもっているうちに食欲不振や動悸の症状が出たため、2020年夏にやはりメンタルクリニックを受診し、うつ病の診断が下されたという。現在までカウンセリングと薬物治療を継続している。

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中高年の問題だったメンタルヘルスが若年化

注目すべきことは、うつ病と診断された人のうち20代の若年層の占める割合が17万987人(16.8%)と最も多かったことだ。東亜日報の記事には、20代の精神疾患患者の推移をグラフ化したものが掲載されている。それによると、2014年の患者数は6万1850人で、この6年で約2.7倍も増えたということになる。

同じ問題を取り上げた聯合ニュースには、性別や年代別のデータなどより詳細なデータが示されている。2020年にうつ病と診断された101万6727人のうち、男性は34万5000人、女性は67万1000人と、女性が多いということがわかる。年代別では20代を筆頭に60代が14.6%、30代14.2%、40代13.5%、50代13.4%と続く。

これまで、40代以上の精神疾患はたびたび注目されており、韓国でメンタルヘルスは「中高年の問題」と認識されることが一般的だった。その中で、さらに若い20代にもこの傾向が広がっているというのは衝撃的である。

2020年6~8月にかけて韓国のケーブルテレビチャンネル「tvN」で放映された「サイコだけど大丈夫」。日本をはじめ海外でもNetflixで人気を博した韓国ドラマである。心に傷を持つ男女の主人公と自閉症である男性主人公の兄を軸に、田舎の精神病院に入院する患者たちがそれぞれ事情を抱えながらも生きていく姿が丁寧に描かれている。

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「サイコだけど大丈夫」のワンシーン。主人公のキム・スヒョンとヒロインのソ・イェジ(写真:Everett Collection/アフロ)

このドラマの中で、精神病院で保護師として働くキム・スヒョン演じる男性主人公が「精神病院の数は増え続けている」と言うセリフがある。

韓国で精神疾患を専門とした病院を見る場合、総合病院的な規模のものは「精神病院」という名称のものが多く、個人経営規模では「メンタルクリニック」や「精神健康医学科」といった名称で呼ばれることが多い。韓国では街中の雑居ビルのすべてにクリニックが入居したものが多く見られる。最近では、メンタルクリニックが入居している場合が多く、新規に開業するケースも増えている。

実際に周囲でも、「メンタルクリニック」で受診を受けている、あるいは受けたことがあるという人は多い。受診する事情は様々であるが、特に週末などは受診を受ける人でクリニックが混み合っていることも珍しくない。

近年、韓国では国民のメンタルヘルスが社会問題として注視されている。最近では、小学校から高校で毎年児童・生徒の健康調査の一貫として心理テストが実施されたり、メンタルヘルスの他に発達障害に関する相談窓口を学校や自治体などに設けたりするなど、メンタルヘルスの管理や心理的不調における早期発見の必要性と理解度も高まりつつある。

それに加えて、メンタルクリニックの敷居が低くなりつつあることも、入院治療を受ける必要がない場合、あるいは障害者認定されない程度の障害も含め、カウンセリングや投薬治療などで通院する人が増加している理由だ。

前述のドラマ「サイコだけど大丈夫」のように精神病院を舞台に様々な精神疾患を抱えた患者たちがドラマでクローズアップされているのを見ると、現在の韓国ではメンタルヘルスの問題は誰にでも起こり得るということを表している。

韓国の若者に漂う閉塞感はコロナ前から

2020年は新型コロナの感染が数カ月ごとに拡大と小康状態を繰り返し、病院への通院を控える人が増えた。その中で、精神病院やメンタルクリニックを受診した人の数は前年比5万3488人増で、20代の受診が著しく増加している。これらの調査結果と傾向を踏まえ、専門家からは「コロナ禍」を指摘する声が相次ぐ。

報道された専門家の声を集めてみると、「若い世代にうつ病の増加傾向が見られるのは社会的要因によるストレスの影響があるものと考える」「社会に進出する20代の若者たちが就職難など初めての挫折を経験したことによるショックが喪失感や不安感にもつながり、他の世代よりも多く出ている可能性がある」といった意見が多い。新型コロナによる社会の混乱が、特に若者たちに不安を与えているという面もあるだろう。

2020年2月下旬より急激に感染者数が拡大した韓国では、3月の新年度のスタートが延期となり、段階的に学校への登校が再開されたのは5月に入ってからだった。飲食店など店舗も休業や時間制限をたびたび余儀なくされるなど生活は混乱した。

誰にとってもこの1年は今まで経験したことがない苦労の多い1年だったが、特に若者や子どもたちにとっては当たり前にできていたことができなくなり、進路など計画していたことを断念せざるを得ない状況に追い込まれた者もいたことと思う。若者たちの貴重な1年が失われたことへの心労は計り知れない。

コロナ禍の以前より、低迷する経済や就職難によって既に若者の間では閉塞感が漂っていた。それが、さらに深刻なものとなり、具体的な数字として表れたのではないだろうか。

若年層のうつ病が増加していることに対しては、文大統領のこれまでの政策の失敗や責任を問う声や批判が多い。

若者が希望を持てない韓国社会という現実

今回のソウル・釜山の市長選挙では若年層からの支持獲得のためにどの候補も地域経済の活性化や雇用の促進、就活者や失業者への支援といった公約を掲げている。だが、世界規模で新型コロナによる影響で経済や雇用の問題が起こっている中で、これらを立て直すのは容易ではない。しかも、2021年はさらに経済や失業率が低迷するという見方もある。

ただ国を批判するだけでは何の解決もできないのも事実だ。若年層が希望を持てず、精神を病んでしまいがちな社会であるという現実を受け入れていく必要がある。また、これは日本でも指摘されているが、自殺やうつ病に対する報道をただ伝えるだけでは、不安を助長するだけになりかねない。国だけでなく、自治体、教育機関との連携など様々な工夫や取り組みを地道に重ねていく必要性がある。

田中 美蘭

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