スタートアップの「使える、使えない」は自分目線

スタートアップの「使える、使えない」は自分目線

  • WEDGE
  • 更新日:2020/11/20
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今回は、観光客向けの24時間対応の多言語AIチャットボット(自動応答システム)で躍進するビースポーク(東京・渋谷)の創業者であり、CEOの綱川明美さんに取材を試みた。綱川さんは投資銀行などを経て、2015年にビースポークを1人で創業。

主力サービスのチャットボット「Bebot(ビーボット)」は宿泊施設、駅、空港、自治体など外国人が集まる施設を訪れた訪日人の外国語の質問やリクエストに対し、リアルタイムに多言語で対応する。観光案内、施設案内、交通案内の他に災害時の情報も提供している。快適で、安全な生活のサポートを意図したサービスだ。

2020年現在、成田空港や仙台空港、富山県、三重県、米国タンバ国際空港、ウィーン国際空港、富士急行(高速バス、富士急行線)、ホテルニューオータニ、ホテルオークラ東京ベイ、東京ステーションホテルなどで多数利用されている。利用者は現在、国内で1日4万人に及ぶ。

日本とアメリカにオフィスを構え、社員は約40人。国籍は日本、アメリカ、カナダ、ドイツ、フランス、ロシア、ポーランド、アゼルバイジャン、マレーシア、ベトナム、インドネシア、インドなど多岐にわたる。

(maxsattana/gettyimages)

経営者として、コスパを常に考える

私は会社員の頃、使えない部下でした。その理由はいくつかあるのですが、1つは上司の言うことをあまり聞かないタイプだったのです。自信家だったのだろう、と思います。2つめは仕事を時々、選ぶことがありました。興味がないと積極的にはしなかったのです。選ぶことができない立場を正確には心得ていなかったのかもしれませんね…(苦笑)。

3社に勤務しましたが、いずれの会社も私や他の社員には野球で言えば、ホームランのようなアウトプットを求めてはいないようでした。むしろ、コンスタントに同じクオリティにすることを期待していたと思います。時々、ホームランを打ったのかもしれませんが、頻繁にヒットを打つタイプではなかったのです。実は今、経営者である私も社員にコンスタントに同じクオリティでアウトプットすることを求めています。

5年前から会社を経営し、人を雇う側になりました。ふだんは立場上、「使える、使えない」といった言葉は使いません。今回の取材に合わせて言えば、私が思う「使える」社員はこちらが求める期待以上に働いてくれる人です。

「使えない」社員は、期待に達しない人だと思います。まさに会社員の頃の私でしょうね。例えば、ある社員が一つの仕事を終えます。私が確認し、「ここをこんな具合に直してほしい」と頼んだとします。ところが、「修正の意図がわからない」といった対応をされると、私の認識との間に大きな差が生じます。ディスカッションをしても、前になかなか進めない時があるのです。

現在は40人程の社員がいますから、全員とのコミュニケーションは難しい状況です。経営者として、コスパ(コストパフォーマンス)を常に考える必要があります。例えば、4つのことを社員にお願いしたとします。決められた時間になっても、2つしかできていないと知った時のショックが大きいのです。頭の中で、巻き戻しをするわけです。「あの時の説明が足りなかったのだろうか」とぐるぐるぐるぐる考えるのです。そのことに30分かけると、その間に本来するべき仕事やできたであろう仕事ができなくなります。この場合は他の信用できる社員の人に「〇〇さんの対応をお願いね」と任せます。

経営者として、常にコスパを意識します。心の中で、社員の年収で言えばあるところにラインを設けています。それよりも低い年収の人の仕事に何かの問題があっても、必要以上には細かく指摘はしません。仕方がない、と言い聞かせています。どこでミスコミュニケーションが発生したんだろう?と考え始めると、本来予定していた仕事が時間内に終わらなくなるからです。

ライン以上の年収を払う社員の仕事に大きな問題があった場合、その時点で5分間は「どうしてこうなったのだろう」などと思いをめぐらします。それ以上は考えません。とりあえず、カレンダーに記録をして、目の前に仕事に取りかかります。そして一段落した後、今後のことも含めて対策を考える時間を作るようにしています。

クリスティーン大先生になりたいな…

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綱川明美さん

使える社員? 全員の戦闘能力が高いのですが、特にものすごく高い社員は今、納品部門の責任者をしている女性、やよいちゃん!創業直後に入社した「社員第1号」で、当時20歳。アメリカ帰りの日本人であっても、日本語が多少たどたどしかった。大丈夫かなと少し不安に思ったのですが、採用しました。とても素直なタイプで、他の社員がアイデアを出すとまず同意をしてくれます。「いいね、おもしろいね、やろうよ」という感じで取り組むのです。

彼女を雇って2週間程経った後にタスクをお願いしたところ、アウトプットに驚いたのです。もしかしたらすごいんじゃないかと思い、いろんな仕事を頼むようになりました。その4∼5年後に入社した社員には彼女の凄さが伝わらない場合があるようです。私のように「天才!」と思う人もいれば、そのようには見ない人もいます。その差は、コミュニケーションの差でもあるのだろうと思います。彼女ときちんとコミュニケーションすると、凄さがわかるのです。

チームマネジメントで最も大切なのは、現在の会社の規模ならば、経営者である自分と気が合うかどうかだと考えています。仕事をする能力はもちろん必要ですが、ふだんから当たり前のようにいろんなディスカッションや相談できることが大切なのです。そうでないと、ブレストし合う時にもいいアイデアが浮かんでこない。「気が合う、合わない」とは、互いにコミュニケーシションを気持ちよく、納得してできるかどうかだと思うんです。

例えば、アメリカ人の女性社員で、CTO(最高技術責任者)のクリスティーン。夫を連れて来日してくれました。世界的に知られる企業に勤務していたこともあり、ビジネスの考え方がとても合理的。一方で、心が暖かい。仕事に厳しいのですが、コミュニケーションが柔らかい。だから、厳しい感じが全然しない。私がこれをしようよと言うと、「いいよね!こんなリスクがあるからこうしよう」と返してくれます。コンストラクティブで、生産性の高い会話ができるのです。

こんなにコミュニケーションが上手ければチームがまとまり、みんなが慕ってくれて気持ちよく働くんだ、とよくわかりました。チーム力をいかにアップするかを教えてくれたのが、クリスティーン大先生!クリスティーン大先生になりたいな…。

会社員の頃の上司にも素敵な人がいました。女性の部長の野々垣さん!仕事には厳しい。クオリティが高い!話していることの1つずつが正しい。本当に努力したら報われることを教えてくれた気がします。当時も今も憧れで、私の中では、スーパースター!部下たちをやる気にさせるのは、とにかく上手な人でした。

部下との関係づくりやチームマネジメントを考える管理職の人は、コミュニケーションを見つめ直すことが大切ではないでしょうか。「使える、使えない」は、最終的には自分目線だと思います。相性が良いかどうか…。それ以上でもそれ以下でもない。だからこそ、コミュニケーションを見つめ直し、相手に与える印象を含めて考えるように心がけてはいます。

必要以上には期待しないことも大切ですね。例えば、上司と部下がいるならば部下がその立場にいるのは何か理由があるからです。部下に期待をするならば、その枠の中にするべきでしょう。創業の頃は「なぜこんなことができないんだろう」と悩んだ時期もあります。

会社が成長すると、もっと大きな問題が生じるのです。初期の頃にぶつかった問題が、大したことではないと思うようになります。気にしてしまうこと自体が問題だと感じるようにもなりました。時間軸が進むと、もっと危機的な問題が出てくるんですよ。私自身がマインドをスイッチしないと成長できないんです。上司と部下の関係にも言えることだと思います。

ビースポークのホームページ

吉田典史

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