「息子の正幸氏を社長に」...パナソニック、経営混迷を招いた“創業家=松下家の世襲への我執”

「息子の正幸氏を社長に」...パナソニック、経営混迷を招いた“創業家=松下家の世襲への我執”

  • Business Journal
  • 更新日:2021/07/22
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パナソニック本社(「Wikipedia」より)

松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助氏の長女・幸子さんが2月22日、心不全のため大阪市守口市の病院で死去したと報じられた。99歳。夫は松下電器の2代目社長の正治氏。喪主は長男でパナソニック特別顧問の正幸氏(75)。

幸子さんら幸之助ファミリーの歴史を、改めて振り返ってみよう。丁稚奉公から身を起こし、億万長者になった松下幸之助氏は「経営の神様」と賞賛された。その幸之助氏を“神格化”し、家電業界の雄として君臨した松下電器は、同時に幸之助神話に呪縛された。松下電器にとって松下家は「神の一族」だった。

松下電器の新任の取締役は、真っ先に松下家に就任の挨拶に出向くのが慣例だった。上座に幸之助氏のむめの夫人、長女の幸子さんら一族が居並び、取締役は「おかげさまで、就任させていただきました」と礼を述べ、祝いの杯を受ける。時代錯誤としかいいようのない儀式だが、松下家の人々にとっては取締役といえども使用人でしかなかった。

幸之助氏は1989年4月27日、94歳で亡くなった。松下家の人々は、一族の総領となった幸之助氏の長女の幸子さんの夫の正治氏を先頭に立て、正治・幸子夫妻の長男・正幸氏の社長就任を何度も試みた。1990年代には、大政奉還を迫る松下家と世襲に反対する経営陣との暗闘が続いた。松下電器の歴代社長にとって、最重要の仕事は世襲経営を阻止することになった。端的に言えば「正幸氏を社長にしないこと」だ。

世襲経営の封印

正幸氏は1945年生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業して松下電器産業に入社。洗濯機事業部長などを経て、86年、40歳の時に取締役に就任。常務、専務を経て96年に副社長となる。正幸氏を副社長にした森下洋一社長は「(正幸を)社長にしようとした」(松下電器の元役員)。正治氏に社長にしてもらった恩義に森下氏が応えようとしたため、といわれている。

正幸氏が“ポスト森下”の有力候補となった。これに松下電器の重鎮・山下俊彦相談役(当時)が激怒。97年7月15日夜、大阪市内で開かれた関西日蘭協会のパーティーの席上、「創業者の孫というだけの理由で松下正幸氏が副社長になっているのはおかしい」「年内にしかるべき措置をとりたい」とぶち上げた。

山下発言が導火線となり、猛烈な世襲批判が社内外から巻き起こった。正治氏は「松下家だから社長になれないというのはおかしな理屈」と猛烈に巻き返し、森下社長も同調した。松下電器には企業の自律性が残っていた。正幸氏が社長になることはなかった。

最大のヤマ場は2000年の社長人事だった、と言い伝えられている。森下氏は、最終的に中村邦夫氏を6代目社長に指名し、世襲問題は決着した。森下氏の英断と賞賛された。正治氏は名誉会長に退き、正幸氏は副会長に祭り上げられた。

世襲経営は封印された。その総仕上げが、08年、松下電器からパナソニックへの社名変更である。社名から松下の名前が消えた。12年、正治氏は99歳で死去。正幸氏は17年、代表権を返上するなどして、松下家の影響力はほぼなくなっていたが、「パナソニックが松下家の会社だった時代が長かった」のは歴然たる事実である。

パナソニック改革の象徴

副会長の正幸氏は19年6月27日開催の定時株主総会で取締役を退任し、特別顧問となった。18年3月、パナソニックは創業100周年の節目を迎えた。これを期に「正幸氏が退任を自分から申し出た」とされる。創業家出身の取締役がいなくなるのは創業以来初めてのことだった。正幸氏の取締役退任はパナソニック改革の象徴でもある。

正幸氏の功績とされているのが、彼が洗濯機事業部長になった折、「御曹司に恥をかかせられない」ということで松下は「愛妻号」という、とても頑丈な製品を世に送り出したことだ。「愛妻号」は白物家電の傑作といまだにいわれている。

正幸氏の長男・幸義氏は11年春、パナソニックに入社している。慶應義塾大学卒。しかし、今や松下家の影響力はない。再び、松下家がパナソニックに君臨することはなさそうだ。

正治氏と幸子さんが、あれほど執念を燃やした正幸氏の社長就任は果たせなかった。松下電器の1900年代の経営の迷走は、松下家、とりわけ幸子さんの「息子の正幸氏を社長に就けたい」という我執から引き起こされたものであるという声もある。

(文=編集部)

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