「1回燃え尽きると上げるのは大変」 朝原宣治、東京五輪後のモチベーション維持の難しさ理解

「1回燃え尽きると上げるのは大変」 朝原宣治、東京五輪後のモチベーション維持の難しさ理解

  • THE ANSWER
  • 更新日:2023/05/26
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五輪に4度出場した朝原宣治氏。目標としていた大きな大会後のモチベーション維持の難しさについて語った【写真:Getty Images】

朝原宣治氏インタビュー、陸上男子100メートルの現状を分析

五輪に4度出場し2008年北京大会の陸上男子4×100メートルリレーで銀メダル、世界選手権に6度出場するなど、朝原宣治氏は長年にわたり日本の短距離を牽引してきた。そんな陸上界のレジェンドが、一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)と大阪大学が開催したシンポジウム「スポーツを通して考えるみんなの月経」に登壇。イベント後に「THE ANSWER」の独占インタビューに応じた。

今日では解説者としても活躍する朝原氏。折しも6月1日からは日本選手権が開幕する。8月の世界選手権などの代表選考を兼ねた大会だ。さらには来年のパリ五輪も遠くはない。今日の男子短距離をどう見ているのか、話を聞いた。(取材・文=松原 孝臣)

◇ ◇ ◇

近年、陸上の男子100メートルはハイレベルな争いが繰り広げられてきた。そのなかで長年、大きな壁と言われてきた10秒を切る選手も次々に現れた。

「桐生祥秀選手が台頭して、アイコン的な存在になっていた彼が9秒台を出した。それを見ていた若い選手たちに刺激を与えて、というのがあります。また自分で言うのもなんですけど、僕たちが北京オリンピックの4×100メートルリレーでメダルを獲っているのを桐生選手たちは見ているんですね。そういう意味では象徴的な人たちが結果を残すと、必ず若い選手たちに刺激がいって、その選手たちが成長する。とてもいい流れで来ていました。

そこに東京オリンピックという本当にいい目標があったのも重なって、強い選手たちがたくさん出てきた。それが9秒台が4人(桐生、サニブラウン・ハキーム、小池祐貴、山縣亮太)にもなったことにつながっていると思います」

一昨年の東京五輪では100メートルに山縣、多田修平、小池。この3人に加え、4×100メートルリレーメンバーとして桐生とデーデー・ブルーノが参加した。

昨年の世界選手権100メートルでは、サニブラウンが同選手権で日本初となる決勝進出を果たしたのも脚光を浴びた。

そしてパリ五輪を来年に控え、大舞台を視野に選手たちも加速していく時期でもあるが、朝原氏は日本男子短距離陣の現状を語る。

「東京オリンピックを目指してやってきて、疲弊している選手たちが出てきているのはたしかです。特に桐生選手や山縣選手、多田選手、小池選手もそうです。年齢を重ねてきたのもあって、休憩をとったり山縣選手のように手術を経てパリを目指して、という感じだと思います」

日本選手権で見たい「予想外の選手の成長」

疲弊は身体的なものだけではない。

朝原氏自身、五輪に4度出場しているが、4度目の北京大会についてはこう語る。

「2004年のアテネが32歳で、終わってからは今後のことを考えようと思って大学院に行ったりし始めました。いったん陸上漬けのところから抜け出して、気持ちにゆとりを持ったり関係する人を広げていったりするのは選手にとって大事じゃないかと思います。ただ、北京へ向けてのモチベーションはあまりなく、その前年(2007年)が大阪の世界陸上だったので、それが自分にとっての大きなモチベーションでした。大阪が35歳だったので、それで引退しようと思っていました。

たまたま1年延ばして北京に出ましたが、やっぱりモチベーションを持ち続けるのは大変なんですね。気持ちがないと、きつい練習もできない。桐生選手もけっこう練習を積むタイプなので、1回燃え尽きるとそこから上がってくるのは大変だと思うので、去年休養して良かったんじゃないかなと思います」

手術を経て、山縣は大会に復帰。桐生は5月6日の木南道孝記念の予選で3年ぶりの10秒0台となる10秒03をマーク、復調を印象づけた。

「そういうベテラン組がいて、もう片方には柳田大輝くん(19歳。2022年世界選手権4×100メートルリレー代表)や本郷汰樹くん(24歳)、うち(大阪ガス)にいる坂井隆一郎(25歳。2022年世界選手権100メートル、4×100メートルリレー代表)もそうなんですけど、新しい選手も出てきている。ちょうどベテランと若い選手が混じり合う、いい感じなんじゃないかなと思います」

坂井は先の木南記念決勝で桐生を破り、優勝している。

そして日本選手権を迎えようとしている。

「ここから先が大事ですね。モチベーションを一時期失っている選手もいて、そのなかで良くなってきた選手、そうではない選手もいます。また伸びてきた若手が、まだベテランたちのレベルまでは行っていないのもちょっと不安ではありますが、東京に向かう時のように、いろいろな選手が伸びてほしいです。失礼な話なんですけど、ただ多くの人も思ったように一時期伸び悩んだ、小池選手のように、『まさかこの選手がこんなに速くなるとは、9秒台とは』というように、予想外の選手の成長を見たいですね」

日本選手権での成績のみならず、世界選手権の代表になるには「10秒00」の参加標準記録を日本選手権も含め期間内にクリアしておく必要がある。またワールドランキング制が設けられている現在、世界選手権に限らずパリ五輪へ向けてそれも関わってくる。

いずれにせよ、日本選手権は今後に向けての足がかりとなる舞台だ。

さまざまな世代の、それぞれの足跡を歩んできた選手たちの、記録と順位を目指した走りを楽しみにしたい。

(松原 孝臣 / Takaomi Matsubara)

1967年生まれ。早稲田大学を卒業後、出版社勤務を経てフリーライターに。その後スポーツ総合誌「Number」の編集に10年携わり、再びフリーとなってノンフィクションなど幅広い分野で執筆している。スポーツでは主に五輪競技を中心に追い、夏季は2004年アテネ大会以降、冬季は2002年ソルトレークシティ大会から現地で取材。著書に『高齢者は社会資源だ』(ハリウコミュニケーションズ)、『フライングガールズ―高梨沙羅と女子ジャンプの挑戦―』(文藝春秋)、『メダリストに学ぶ前人未到の結果を出す力』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。

松原 孝臣

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