米トップCEOたちがようやく気づいた真の企業目的

米トップCEOたちがようやく気づいた真の企業目的

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  • 更新日:2019/08/26
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(iStock.com/flySnow/Purestock)

「株主最優先」を社是としてきた米大企業の経営者たちの間で、過去の経営理念を見直し、これまで以上に従業員への利益還元や社会貢献を重視する“覚醒”の動きが出始めた。名だたる億万長者たちも所得格差是正のための「富裕税」新設の重要性を訴えており、今後アメリカの企業カルチャーの変革につながるか、大きな関心が集まっている。

アップル、ペプシ、フォード、ウォルマートなどアメリカの代表的企業経営者で組織する「Business Roundtable」は19日、従来の経営理念からの脱皮をめざした「企業の目的について」と題する異例の声明文を発表した。

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(Fokusiert/gettyimages)

事前配布されたプレスリリースによると、同組織はまず「1978年以来、適切な時期にそのつど『コーポレート・ガバナンスの諸原則』を発表してきたが、とくに1997年以後の毎回の文書では、『企業の根本的存在目的は株主への奉仕にある』として、株主最優先主義を支持してきた」ことを初めて率直に認めた。その上で、同日付の文書について「今回の新たな発表は、過去の一連の声明にとって代わるものであり、企業責任についてひとつの最新基準を提示したものである」と意義づけた。

181社のCEOが署名した「新声明」は具体的に、以下のような点を強調している:

われわれはアメリカの会社が顧客の期待に応えあるいはそれを乗り越える伝統をさらに推進していく

従業員投資にコミットする。すなわち彼らに公正な報酬と大切な恩典を保証し、訓練と教育を通じて激変する社会に対応できる新たなスキル開発を支援する

われわれのサプライヤーたちともフェアに、そして公正な取引につとめるとともに、企業目的達成のために、大小を問わず他社とも良きパートナーとして協力していく

地域コミュニティを支援していく。企業が活動する地域コミュニティの住民に敬意を払い、あらゆる業種を通じ持続可能な方策により環境保全に取り組んでいく

企業に関わるすべてのステークホルダーはかけがえのないものであり、われわれは自社、地域コミュニティそしてわが国の将来の成功に向けて、ステークホルダー全体に価値を届けられるよう邁進する

「新声明」発表に当たり、 「Business Roundtable」議長を務めるJPMorgan Chaseのジャミー・ディモンCEOは「アメリカン・ドリームはまだ存在するが、すり切れかかっている。新たな経営諸原則は、すでに多くの雇用主が従業員そしてコミュニティに投資しているように、すべてのアメリカ人に資する経済への揺るぎなきコミットメントを反映したものだ」として、その価値を高く評価した。

ただ、盛り込まれた内容自体、世界ではとくに目新しいものではない。わが国では多くの大企業がはるか以前から、「経営理念」や「社是」として掲げてきたものばかりだ。

たとえば、 三菱商事の場合、1920年以来の「企業理念」として①物心ともに豊かな社会の実現とかけがえのない地球環境維持に貢献②公明正大で品格ある行動を旨とし、活動の公開性、透明性を堅持③全世界的、宇宙的視野に立脚した事業展開―を「三綱領」として高らかに謳いあげている。

住友商事は創業400年来の「事業精神」と銘打って①信用を重んじ、確実を根本理念とし、盤石のもとに繁栄をめざす②自らを利するとともに、国家を利し、社会を利する事業展開―の2本柱を前面に打ち出している。

三井物産も「Mission, Vision, Valuesから成る経営理念」を掲げ①大切な地球、そこに住む人びとの夢あふれる未来つくりに貢献②世界中のお客のニーズに応えるグローバル総合企業を目指す③フェアで謙虚で社会の信頼に誠実に応える―などを盛り込んでいる。

いずれの場合も、目先の利益追求だけを企業目的とし、「株主最優先」を強調するような
狭隘な文言はどこにも見られない。

このような格調高い経営理念は、他の多くの一流企業にとっても同様だろう。

この点では、日本の会社は、世界最強国を自認するアメリカよりはるかに先進的であり、今日に至るまで、社会的意識も格段に高いものになっているといえよう。

対照的にアメリカの場合、1929年の大恐慌をきっかけに一時は、失業救済と社会復興が最優先課題とされたものの、その後は今日に至るまで、弱肉強食の「利潤追求第一主義」が企業存在目的の主流となってきた。

ニューヨーク・タイムズ紙はこの間の事情について、次のように論じている:

「シカゴ大学のミルトン・フリードマン教授が、『ビジネスの社会的責任は増益にある』と提唱して以来、あらゆるコストを払ってでも最大限の利益をもたらすことが企業の役割だとする哲学が、ウォール街を席巻することになった。

1980年代には、こうした風潮に悪乗りして企業乗っ取りが横行し、企業が発表する四半期ごとの収支報告に異常なほどの関心が集まった。フォード財団のダーレン・ウォーカー会長も、『シカゴ経済学』は投資家たちの脳裡に深く浸透し、CEOたちの思考パターンとして定着した、と認めた通り、ビジネス・ラウンドテーブルでも、1997年以来、経営者としての究極義務は株主に対するものだとの考えが、公式ドクトリンになった。

しかし、2018年に至り、これがもはや時代錯誤のものであり、気候変動との戦いへのコミットメントも含め、社会的責任を求める声が高まった」

高額所得者の間で「富裕税」支持者が拡大

一方、これとは別に、アメリカの名だたる億万長者たちの間からは、大きな社会問題となりつつある所得格差是正や環境保護などのために、一定以上の高額所得者層に対する「富裕税」新設を求める声が上がり始めている。

国際的な投資家ジョージ・ソロス、ウォールト・ディズニー財団のアビゲイル・ディズニー、「フェイスブック」共同創始者クリス・ヒューズ各氏らアメリカを代表する富豪家19人は去る6月24日、共同署名した「公開状」をネット上で発表、「新たなる税収の次のステップは中間所得、低所得のアメリカ国民からではなく、資金面で最も恵まれた階層から来るべきである」として、来年の大統領選挙を念頭に民主、共和の党派を問わず全候補向けに「富裕税」の新設を提唱した。

「公開状」は、

アメリカはわれわれの資産にさらに税金を課す道徳的、倫理的、経済的責任があり、「富裕税」は気候変動対策、経済改善、国民の健康改善に資することになり、ひいては民主主義とデモクラシーの強化につながる

提案では、われわれの資産のうち5000万ドルまでを非課税とし、それ以上の資産に対し1ドル当たり2セントを、10億ドル以上の資産に対しては1ドル当たり1セントを課税する

この新たな課税により向こう10年間で3兆ドルの税収を生み出すと推定される

新課税措置はアメリカの最富裕ファミリーの中のわずか7万5000人を対象とすることになるが、そこから得られる収入によって、クリーン・エネルギー開発、国民皆保険創設、学生ローン軽減、インフラ整備、低所得者層向けの税控除を支援することが期待される

などと述べている。「タイム」誌の報道によると、こうした大胆な提案は過去にも一部の富裕資産家から出されたことがあるが、所得ではなく資産に対する連邦政府による新課税は合衆国憲法で明記されていないことから、反対グループによる「違憲」訴訟の可能性も指摘されており、これまで実を結ぶまでには至らなかったという。

しかしその後、高額所得者の間で「富裕税」支持者が拡大しつつある。

CNBCテレビは去る6月12日、年収5000万ドル以上の高所得者を対象に意識調査を実施した結果、回答者のうち60%が「富裕税」の新設を支持した、と報じた。また、年収500万ドル以上の階層では「全回答者の3分の2」が支持表明したという。

こうした流れを受けて、来年大統領選の候補者の中にはすでに「富裕税」新設を選挙スローガンとして前面に打ち出す候補も少なくない。

最も意欲を見せているのが、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)だ。

ウォーレン議員は去る1月、「超富裕者税(ultra millionaire tax)」と銘打った課税構想を発表、5000万ドル以上のすべての個人資産に対し毎年2%を、10億ドルを超す資産に対しては1ドル当たり3%の課税する考えを明らかにした。

カリフォルニア大学バークレー校のガブリエル・ザックマン経済学部教授の試算によると、この構想が実現した場合、全米家庭の0.1%に当たる7万5000世帯が新たな課税対象となり、今後10年間で2兆7500万ドルの増収が期待できるという。

こうした「富裕税」構想についてはその後、具体的内容は異なるものの、バーニー・サンダース、ベト・オルーク、ピート・ブティジェッジ各候補らも遊説先の演説でたびたび言及しており、今後、スーパー・リッチを自認する共和党のトランプ大統領相手に有権者を巻き込み、さらに白熱した議論が展開されていくものとみられる。

ただ、問われるのは、大企業経営者による「社会責任への回帰」が来年に向けたたんなる政治PRに終わるのか、それとも将来を見据えた企業カルチャーの変革につながるかどうかだろう。

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