睡眠時間が世界一短い日本人に必要な〝睡眠負債〟解消のための5か条

睡眠時間が世界一短い日本人に必要な〝睡眠負債〟解消のための5か条

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  • 更新日:2017/11/13

■連載/阿部純子のトレンド探検隊

慢性的な睡眠不足を指す「睡眠負債」。日本人の睡眠時間は世界で一番短く、背景には長時間労働、夜の会合、長時間の会議、上司が帰らないと帰りにくいというさまざまな要因があり、結果的に睡眠が犠牲になっている。睡眠時間6時間未満が平成20年には3割ほどだったが、この10年の間に4割まで高まってきた。睡眠負債がたまるとうつ病の発生、がんの発症率を高めたり、認知症の予備軍となるという研究結果が出ている。

睡眠負債による影響や対処法など「脱・睡眠負債」を考えるセミナーが日経新聞社主催、エアウィーヴグループの協賛で開催された。医師・医学博士でスタンフォード大学教授の西野 精治氏の基調講演、フィギュアスケーターの浅田 真央さん、エアウィーヴ会長兼社長の高岡 本州氏らが出席したパネルディスカッションなどセミナーの様子をリポートする。

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◆知らないうちに蓄積されていく「睡眠負債」が与える影響とは

スタンフォード大学医学部教授で2005年より同大学の睡眠・生体リズム研究所所長を務める西野氏は、概日レベルや睡眠、覚醒調整に関わるメカニズムを、分子、遺伝子レベルから個体レベルまで幅広い視点から解明を行っている。

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睡眠障害も米国と日本では違いがあり、日本人の特徴として睡眠時間が短い「睡眠不足」、睡眠時間は取っているが満足感がない「主観的睡眠不足感」が多い。実際の睡眠時間と理想の睡眠時間の差が大きいのが現代日本人の実情で、夜10時台に就寝する人は、60年代は7割程度だったのに対し現在では2割程度で、どんどん眠らない社会になっている。

睡眠は脳と体に休息を与え、記憶を整理して定着させる、ホルモンバランスを調整する、免疫力を上げて病気を遠ざける、脳の老廃物を取り除くといった役割を果たしている。睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠が繰り返されるが、慢性的な睡眠不足だと、最初にやってくる一番深い睡眠時に分泌される成長ホルモンへの影響、感染症リスクの上昇、認知症、精神疾患の原因などを引き起こす要因になる。

アメリカで2002年に約100万人を対象に行った調査では、平均睡眠時間に近い7時間寝ている人の6年以内の死亡率が一番低く、短時間も長時間も死亡率が高くなっている。特に女性の短時間睡眠の場合、肥満度が高いことがわかった。2013年の睡眠障害とがんの発症の調査をみると、重症では睡眠障害がある人は、ない人の3倍近くのリスクがあると報告されている。不眠があるとうつ病、不安障害といった精神疾患のリスクも高まることが判明した。

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睡眠時に呼吸が停止する無呼吸症候群をみると、気道が狭いアジア人は痩せている人でも、女性、子どもでもリスクがある。10秒以上の停止を1回と数えるが、1時間で15回以上起こる場合は治療の必要がある。無呼吸症候群があると、心筋梗塞、脳血管障害は4倍、心臓冠動脈障害は3倍、高血圧は2倍にリスクが高まる。

よい睡眠を取らないと、成人の場合は生活習慣病、免疫不全、がん、認知症、精神疾患、アルコール・薬物依存などのリスクが高まり、子どもでもADHD様症状や不登校などで学業や運動能力の低下が懸念されるようになる。

慢性の睡眠不足が負債のように増えていく「睡眠負債」は、自覚がないままたまっていくのが特徴で、睡眠負債はパフォーマンスにも影響を与える。学業とスポーツの両立で睡眠時間が少なくなりがちなスタンフォード大のバスケットボール選手での検証では、選手を1日10時間無理やりベッドに入れてパフォーマンスの変化を調べると、運動能力が向上することがわかった。

また毎日14時間強制的にベッドに入る実験では、平均睡眠時間よりたった40分少ない睡眠負債でも、長年睡眠不足が続くとその負債の解消には3週間かかるということがわかった。さらに何時間寝てもいい状況下でも8.2時間しか眠ることができず、いわゆる寝だめはできないこともわかった。

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睡眠不足は1~2日だけ睡眠量が少なく2~3日寝れば回復するという概念だが、睡眠負債は慢性の睡眠不足であり自分でも気づかずに積み重なっていくもの。徐々にたまっていくので、眠気などは慣れが出てきて本人もこんなものかと思ってしまうが、パフォーマンスの低下やさまざまな疾患の原因になるリスクがある。働き盛りの40代のようにもともと疾患のリスクが高くなるときに、睡眠負債の負荷をかければよりリスクが上がってしまう。

睡眠負債のひとつの目安は、週末など早く起きなくてもいい日に、平日と比べてどのくらい多く寝るかということで判断できる。差が2時間以上の場合は睡眠負債が疑われる。つまり、週末に“寝だめ”として長く寝る人はその時点で睡眠負債がある可能性が高い。平日は忙しくて睡眠時間が確保できない場合は、睡眠の質を高めて対処するしかない。

深部体温(体の中の体温)が下がると同時に、手足が温かくなる状態が入眠としてはとてもいい条件。それには半身浴、全身浴の入浴習慣が効果的で、入浴をうまく使えば睡眠を誘発する。温泉とさら湯で比べると温泉は炭酸ガスが入っていて熱の取り込みがよく体温が上がりやすく、上がった体温がより下がる傾向がある。こうした時に寝つきが良くなり深い睡眠が得られる。とくにお年寄りやスポーツ選手は炭酸泉がおすすめだという。

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マットも睡眠に影響を与えることがわかった。高反発は空気を多く含んで通気性がよく、高反発で寝た場合は体温下降が非常にスムーズで、体温が下がったときに深い睡眠を得られる。また高反発は寝返りがしやすいので、寝返りするときに覚醒しても再び入眠しやすい。

マリア・シャラポア、錦織圭、宮里美香など多くのトップアスリートを輩出しているスポーツアカデミー「IMGアカデミー」では西野氏の指導のもと、エアウィーヴを使用して睡眠の質と運動パフォーマンスがどのように影響を受けるのか研究が行われた。立ち幅跳び、40m走、コーナーにポストを立ててそれにタッチしてタイムを計るスタードリルで敏捷性を調べると、高反発で寝た場合はすべてのテストで敏捷性に優位性が出るという結果になった。

寝る前のスマートフォンも睡眠に影響を与えると言われる。夜にライトを浴びる、照度、長さなどの問題もあるが、むしろ脳が興奮する方の弊害が大きい。ゲームや不愉快なメールなどを見たことで寝られなくなる。眠る前は基本的に脳のスイッチをオフにする、つまりぼーとして何も考えない方が入眠にはいい。

年を取ると睡眠時間が短くなる、睡眠の質が下がるというデータは多くあるが、アメリカの大規模疫学のデータをみると、むしろ若い人は4~5時間の睡眠時間でも無理が効いて病気のリスクは低いが、お年寄りの睡眠時間が短い場合は、さまざまな疾患のリスクが高くなり、単純に年だから短い睡眠時間でいいというものではない。せん妄や夜の徘徊は睡眠のリズムに問題があって、昼間にできるだけ動いて太陽の光を浴びるなどの改善するとよくなることもある。

睡眠負債は生活で改善できることを知っていただきたい。日本人の長時間労働は個人だけの問題ではないので、企業、政府への働きかけも大事になってくると思われる。

まとめ・睡眠負債解消のための5か条
【習慣編】
1・規則正しい生活を心がける
2・就寝前はリラックス
3・体温調節は良質睡眠の要(入浴、運動、寝具)
【リズム編】
4・目覚めたら朝日を浴びて体内時計をリセット
5・良質の睡眠は朝からの行動で決まるので生活にメリハリをつける

◆パフォーマンスと睡眠の関係性

西野教授とフィギュアスケーターの浅田真央さん、高岡社長の3人によるパネルディスカッションではパフォーマンスと睡眠の関係性について語られた。

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浅田さん「私の場合、緊張した日はたくさん寝られることが多い。平均睡眠時間は8時間。休日でもいつもと同じ時間に目覚ましをかけなくても目が覚める。寝ることで体の疲れも取れるし、朝はすっきりスタートして1日がんばるぞという気持ちになれるので、睡眠は大事だなと思う」

西野氏「毎日同じ時間に起きるのは、睡眠負債がないということでアスリートにとってはとても大事なこと。ケガの予防や回復にも睡眠が大切になる。眠いと思う時は体が助けを呼んでいる状態なので、私自身も眠たい時に寝るという形に変えた。昼間イライラする、集中力がない、寝つきが悪い、熟眠感がない、夜に目が覚めるというのは睡眠負債だからというのではない。週末に多く寝るというのが睡眠負債の目安となる。寝だめの本来の意味は、これから睡眠が取れない状況になるので前もって寝ておくということ。普段から十分な睡眠をとっているときは人も動物もそうだが、ある一定以上の時間は寝られない。寝だめと思っているのは慢性の睡眠不足があるからだと考えた方がいい」

浅田さん「睡眠で気を付けていることとしては、就寝する3時間前には食事を終えるようにしている。19歳からエアウィーヴを使っていて、私の場合はエアウィーヴを使うのが睡眠をよくする条件。腰が弱く起きたときに腰が重かったり、痛みがあったが、エアウィーヴに変えたら以前と比べてはるかに腰が楽になったのが実感できたので、それから手放さなくなった。海外のホテルだとベッドがまったく違うので、海外遠征のときはベッドではなく床に直接エアウィーヴを敷いて寝ていた」

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浅田さん「試合の前日は、全部失敗するか、逆に全部成功する夢を見ることが多かった」

西野氏「眠っているのに脳波は起きているような状態だったため、夢はレム睡眠時に見ているといわれていた。しかしその後の研究でノンレム睡眠のときにも夢は見ているとわかった。ただレム睡眠時はよりリアルな夢を見る。夢を見ていたと感じるのは、起きる前に夢を見ていたかどうかによることが多く、つまり明け方にレム睡眠があったということなので、正常な睡眠パターンを取っているということになる。夢を見ることは決して悪いことではない」

浅田さん「海外に行ったときは気合で時差ボケを克服していたが(笑)、バンクーバーのときは日本にいるときから現地の時間に合わせて夜中の2時から練習を始めていた。時差は体のリズムなので、2~3日ではなかなか治らず、日程がない中でそういった練習方法をしていたが、これがよかったのかどうかはわからなかった」

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西野氏「時差ボケは体温のリズムが変わることで起こるが、昼間は高揚しているので観光はできるが、夜は体温が上がっているので眠れなくなる。7時間時差があると1日に1時間しか適応できていないことになり、結局時差ボケを克服するには7時間時差では、1週間かかることになる。アスリートの場合は種目によって異なるが、体温のリズムで考えると7時間だったら1週間前に現地に入る必要がある。それが無理なら現地に入る前にその時間に合わせて食事や練習時間をするのが望ましい。浅田さんの方法は正しかったが、ベストはやはり事前に現地に入って調整するということだろう」

浅田さん「寝つきはよく睡眠時間もきちんと取っているが、昼間も30分ほど昼寝をすることが多い」

西野氏「昼寝を30分する人はしない人よりも6分の1ぐらい、1時間未満は半分ぐらい認知症の発生率を抑えることができる。しかし1時間以上寝ると逆に2倍ほどに増えてしまうというデータがある。

最近はスマホアプリで睡眠を自己管理する人も増えてきた。睡眠障害がある人の診断は専門クリニックで脳波の検査や呼吸のモニタリングなど特別の検査室で機械をつけて行い、費用も掛かり、繰り返しできない。また普段と同じ睡眠状態ではないこともある。長期的に睡眠の状態を見るにはアプリはそれほど正確でなくてもある程度の状況を把握できるし、睡眠を改善しようという動機付けにもなる。ただし医療情報としては、英語でいう“ジャンキー”なデータが入っているとすべてダメになってしまうので、ジャンキーなものを除いてきちんとしたデータがあれば、ヘルスケアの領域でも睡眠のモニタリングは無視できないものだと思う」

【AJの読み】睡眠で悩む人が多いと実感

会場となった日経ホールには多くの人が集まり、西野教授の話に熱心に耳を傾けていた。それだけ睡眠で悩む人が多いということだろう。自分も入眠が悪く寝つくまで1時間以上かかり、途中覚醒も多く慢性的な寝不足で睡眠外来に通っているが、予約しても急に入る仕事でほとんどキャンセルしていて検査さえできていない状態。まずは仕事最優先の生活から改めなくてはいけないとは重々承知しているが、なかなか改善できないのが現状だ。土日も子どもの部活があり毎日6時起きで、平均睡眠時間は5時間ほど。休日の寝だめができないので睡眠負債かどうかは不明だが、睡眠不足はたまる一方で、そのうち借金で首が回らなくなるかもしれない。

文/阿部 純子

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