「田舎の開業医になんか、嫁ぐんじゃなかった...」東京を諦めきれない元・港区女子の後悔

「田舎の開業医になんか、嫁ぐんじゃなかった...」東京を諦めきれない元・港区女子の後悔

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  • 更新日:2019/08/31

−“女”の幸せとは、結婚し、子どもを産み育てることである。

そんな固定概念は、とうの昔に薄れ始めた。

女たちは社会進出によって力をつけ、経済的にも精神的にも、男に頼らなくてもいい人生を送れるようになったのだ。

しかし人生の選択肢が増えるのは、果たして幸せなことだろうか。

選択に結果には常に自己責任が伴い、実際は、その重みで歪む女は少なくない。

この連載では様々な女たちの、その選択の“結果”をご紹介する。結婚願望が強い美香(34歳)不本意にデートを繰り返す人妻・真弓(32歳)産後鬱に陥った由里子(33歳)育児と仕事の両立に悩む会社役員の麻里キャリアを逃した高学歴女・佳代(35歳)結婚しない選択をした友里恵を紹介した。

今回は、「やはり東京に残るべきだった」と語る沙耶(32歳)のお話。

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「SNSって残酷ですよね。それぞれの生活レベルも、センスも、日々の充実度も…何もかもが如実に現れてしまう。こんなものがなければ、知らないままでいられたはずなのに」

香川県高松市の、とある喫茶店にて。

手入れの行き届いた髪、美しいフレンチネイルを施した爪。左手薬指には、大粒のダイヤが光る。圧倒的なセレブ妻オーラを放つ美貌の女…高岡沙耶は、そう言って深々と息を吐いた。

同じ店内を見渡すと、溢れているのは、お世辞にも美しいとは言いがたい所帯染みた主婦やママ友の群れだ。

しかしそんな中、沙耶の周りだけがスポットライトを浴びたように輝いている。

彼女が地元の人間でなく、そしてここ高松での生活に馴染んでいないことは、一目で明らかだった。

沙耶は死んだ魚のような目で周囲を見渡すと、諦めたような、怯えたような声を出した。

「インスタで、東京の友人たちが話題のレストランやカフェにいち早く足を運び、ブランドの新作片手に完璧なポーズを決めているのを見ると…どうしようもなく心が焦ります。ここじゃそんな生活、無理だから…」

「このままでは腐ってしまう」と語る沙耶。彼女が高松へ移り住んだ理由とは

沙耶が東京を捨て、高松へやってきたのは2年前。彼女が30歳の時だ。

高松で代々開業医を営む6歳年上の医師と見合い結婚をしたことがきっかけ。

「私自身はもともと大阪の出身なんです。ただ高校生の頃から東京への憧れが強く、大学はあえて周囲の反対を押し切り都内の女子大に進学しました。最初は知り合いなんて誰もいなかったけど、社交的な性格に助けられましたね。すぐに学内でも派手なグループに属するようになり、必然の流れでいわゆる港区女子になっていました」

沙耶は当時、両親からの仕送りで大塚のマンションに暮らしていた。

授業の合間に学校近くのカフェでアルバイトをしたこともあったが、早々に六本木に繰り出すようになると、地道なアルバイトよりよっぽど、誘われるがまま飲み会に参加し、タクシー代をもらった方が稼げることを知ってしまう。

実家から援助があるとはいえ一人暮らしでお金のなかった沙耶は、友人の紹介で女子大生を売りにしたお店にも手を出した。

都内の有名大学に通う女子大生が働き、客層も悪くなく手っ取り早く稼げるこの仕事。皆けっして公言はしないが、早熟な女子大生の間では人気のアルバイトだったのだ。

「アルバイト先にやってくる、若くして余裕のある男性といえばITや飲食系の経営者か、外銀マン。少し年上になれば一流企業勤めのサラリーマンもいたけど…この時の経験から、私は結婚するなら経営者か外銀マンだって心に決めていたんです」

大学卒業後、沙耶は某ハイブランドに販売スタッフとして入社。

職場近くで暮らすため、家も恵比寿に引っ越した。自分の給料だけでは難しかったが、優しい両親がしばらく仕送りを続けてあげると言ってくれたのだ。

しかし女性ばかりの職場は想像以上に陰湿で、それでなくても見た目の派手な沙耶は、お局たちから目の敵にされてしまったという。

「あの頃のことは、もう振り返りたくないですね。とにかく早く結婚して仕事を辞めたい。そればかり考えていました。今から思えば、その焦りが私の判断を鈍らせたのかもしれません」

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経営者か、外銀マン。

そのどちらかをターゲットにして婚活に励んでいた沙耶だったが、何人かお付き合いには至るものの、なかなか結婚というステージに進まない。

相手にその気がまるでなかったり、既婚者だったり、逆に沙耶の方が今ひとつ本気になれなかったり。

しかし社会人4年目の26歳のとき。ついにこの人だ!と思える相手が現れたという。

「10歳年上で、芸能人なんかがお忍びで通う高級レストランのシェフでした。料理の腕だけでなくビジネスセンスもあって、カフェ形態の店舗をプロデュースしたり、コンビニスイーツの監修をしたり。芸能人でいうと田中圭みたいな母性本能くすぐるタイプの見た目で、年上だけど可愛いところもあったりして」

おそらく沙耶は、彼のことを本気で愛していたのだろう。

懐かしさに目を細めながら語るその表情は、これまでになく柔らかい、艶のあるものだった。

しかし次の瞬間、沙耶は不意に声のトーンを下げる。

「私もなぜ気がつかなかったのか自分でも不思議なんですけど、付き合って2年が経ったある日…彼の家で鉢合わせしたんですよ。ええ、そう、浮気相手に。しかも私に隠れて半年以上も関係を続けていたって聞かされた時は、頭に血が上って、どうにかなってしまいそうでした」

−私と彼女、どちらを選ぶの−

沙耶はその場で、彼にそう迫った。するとその質問に彼は、あろうことか浮気相手の名を口にしたのだ。

28歳で本命彼氏を別の女に奪われてしまった沙耶は、一大決心をする

そんなわけで、沙耶は28歳で再び振り出しに戻った。

華やかな顔立ちで、モデル級とはいかないまでも男好きのするスタイルをもつ沙耶であるから、その後も言いよってくる男性はもちろんいた。

しかしシェフの彼のカリスマ性、ビジネスセンスを超える男性となると難しい。

あれも違う、これも違うと選り好みをしているうち、あっという間に20代が終わっていった。

「ついに30歳の誕生日を迎えた時、実家の両親がお見合い話を持ってきたんです。相手は高松で代々続く開業医の跡取り。特に母が“沙耶ちゃん、開業医の妻が一番の勝ち組なんよ”ってしきりに私を説得してきて…」

沙耶自身も30歳を超え、周囲が自分に向ける目が変わってきていることを感じとっていた。

これまで自分がターゲットとしていたような、イケてる経営者や外銀マンが、どこからか湧いて現れた20代の若い女子にさらわれていく。そんな場面にも度々遭遇した。

地方の開業医などこれまで眼中になかった沙耶。しかし母が「代々続く開業医の妻が一番の勝ち組」「いくら稼いでいても成金は水物」などと話すのを聞いているうち、そうなのかもしれないと考えを改めるようになったという。

「最初は渋々でしたが…実際にお見合いの席で会ってみたら、思いがけず“いい人”だったんです。見た目も許容範囲だし癖もなくて…ピュアで育ちの良い男性という感じ」

高岡秀則と名乗るその男性を前に沙耶は、ときめいたわけではなかったが、不思議な落ち着きを感じたという。

「東京の婚活市場で見てきた男性とは違う安心感を感じたというか…。高松という狭い地域の話ではありますが、地元の名士の家柄で、何不自由のない生活が待っているのは明らか。色々あって消耗していた当時の私には、救いの手のように思えたんです」

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両親の強い勧めもあり、沙耶は半ば勢い半分で高松の開業医・高岡との結婚を決めた。

東京で共に婚活をしていた女友達には「高松?」と怪訝な顔をされたりもしたが、そんな時も相手が代々続く開業医だと話せば皆「ああ…」と一斉に口を噤んだ。

高岡家の方も、36歳にもなって彼女の影もない息子を心配していたのだろう「東京からこんな美人さんがお嫁にきてくれるとは…」と沙耶を歓待。

義両親は影で「早めに子どもを…」と話しているようだが、マイペースで優しい夫は「沙耶ちゃんのペースでいい」と言ってくれる。

高岡家に嫁いでしばらくの間は、ストレスフルだった職場からも婚活戦線からも解放され、東京では考えられないほどの広い敷地に建つ豪邸で、沙耶が存分に開業医の妻としての立場に酔いしれていた。

しかし目新しかった生活にも慣れてしまうと、次に沙耶を襲ったのは激しい後悔だった。

高松で新生活を始めた沙耶を襲った、激しい後悔とは

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「もちろん、生活という面では何の不自由もありません。また夫は口うるさいタイプでもなく、ハイブランドにも疎いから買い物も好き勝手にできますしね。でも…」

沙耶はそこで一度言葉を切る。そしてゆっくりと、地元の暇そうな主婦たちが集う、どうにも垢抜けない喫茶店を見渡した。

「いくら素敵なバッグを持っても、綺麗なお洋服を着ても、出かける先がこんな場所じゃぁ...」

そんな風に呟く沙耶が携えているのは、日本には数個しか入荷しなかったというデルヴォーの新作ミニバッグ。そして足元は、エルメスのオラン。

しかしこのバッグの価値をここにいる何人が理解しているだろう。このサンダルがエルメスのものだと、一体何人がわかってくれるだろう。

沙耶は再び、小さく諦めの息を吐く。

「開業医って休みがなくて、夫婦での旅行も全然行けないんです。今は子どもがいないから、義両親に睨まれない程度に一人で出かけたりもしていますが、子育てが始まったらそれも無理でしょうね」

代々続く開業医の妻が一番の勝ち組だ。そう言った母の言葉を否定する気はない。ある一面では、確かにその通りであるとも感じているからだ。

しかし沙耶は東京から遠く離れたここ高松で、一人寂しくSNSを眺めるたび、こう思わずにはいられないという。

−田舎になんか嫁ぐんじゃなかった。私だってここに来る前は、彼女たちなんかよりずっと、キラキラ輝いていたのに−

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なぜ別れない…?モラハラ夫に耐え忍ぶ妻の言い分

▶明日8月26日(月)は、人気連載『立場逆転』

~高校卒業後15年。再会した2人の女の人生は、180度違うものとなっていた…。女のプライドをかけた因縁のバトル、続きは明日の連載をお楽しみに!

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