国際学会の論文統計から見えてくる半導体の将来動向

国際学会の論文統計から見えてくる半導体の将来動向

  • JBpress
  • 更新日:2018/04/25
No image

今年のVLSIシンポジウムはAIをメインテーマにして開催される(画像はイメージ)

半導体の国際学会の1つ、「VLSIシンポジウム」が、6月18~22日、ハワイのホノルルにあるヒルトン・ハワイアン・ビレッジにて開催される。「VLSIシンポジウム」は、ハワイと京都で隔年開催されており、昨年2017年は京都だったので、今年はハワイでの開催となった。

学会に先立って、記者会見が4月17日に東京で行われた。それによれば、今年の「VLSIシンポジウム」のテーマは、 "Technology, Circuits, and Systems for Smart Living (スマートな生活に向けた技術と回路、システム)" であり、機械学習、IoT、AI、ウェアラブル/埋め込み型デバイス、ビッグデータ、クラウドコンピューティングなど、“スマートな生活”に向けた様々なデバイス、回路、システムの新技術が取り上げられるという。

一言でいえば、今年のVLSIシンポジウムは、 “AI”をメインテーマとした学会となる。学会委員長を務めている慶応義塾大学の黒田忠広教授は、冒頭の概要説明で、「AIの進展を半導体産業として推進する発表が多数」あり、「AIの発展の原動力は半導体」であって、「VLSIシンポジウムはAIの将来を見定める絶好の機会」であることを強調した。

本稿では、まず、世の中に多数存在する半導体の学会において、「VLSIシンポジウム」がどのような位置づけなのかを説明する。その上で、「VLSIシンポジウム」等をはじめとする主要な国際学会の論文を分析すると、半導体の技術の将来動向がかなり正確に予測できることを論じる。それゆえ、VLSIシンポジウムなどの国際学会は、製造装置メーカーや材料メーカーのマーケティングの場として、極めて重要なであることを述べたい。

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

どんな学会があるか

半導体の主な学会の一覧表を図1に示す。その中で、ISSCC、IEDM、VLSIシンポジウムは、3大国際学会と位置付けられている。

No image

図1 半導体に関する主な学会

拡大画像表示

ISSCCは、回路の国際学会で「半導体のオリンピック」と言われ、論文採択率が30%とレベルが高い。IEDMは、デバイスの国際学会で、論文採択率が40%で、やはり狭き門である。VLSIシンポジウムは、回路とデバイスのシンポジウムが並行して開催され、やはり論文採択率は20~40%とクオリテイが高い。

ISSCCとIEDMが米国でのみ開催されるのに対して、VLSIシンポジウムはハワイと京都で隔年開催される。また、ISSCCは回路だけ、IEDMはデバイスだけの学会であるが、VLSIシンポジウムは回路とデバイスのセッションが同時並行で開催されるため、お得感がある。また、ISSCCとIEDMは米国で開催されるため、コストも時間もかかるが、隔年で京都で開催されるVLSIシンポジウムは、日本人にとって参加しやすい国際学会である(ただし今年はちょっと遠いハワイでの開催であるが)。

3大国際学会で主流となった回路やデバイスの動向は、今度は微細加工の国際学会に移行していく。SPIEはリソグラフィの国際学会で、毎年2月頃にサンノゼで開催される。またドライエッチングの学会としては、米国で行われるAVSと、主として日本で開催されるDPSがある。因みに、今年11月に名古屋で開催されるDPSは、40周年記念大会となる。

回路やデバイスの動向が、リソグラフィやドライエッチング等の微細加工に移行し、それが今度は、製造技術に関する学会へと移り変わる。例えば、配線の学会ADMETA、製造技術の学会ISSM、洗浄の学会UCPSSやINEなどである。

さて次節では、ISSCC、IEDM、VLSIシンポジウムの3大国際学会の論文を分析すると、何が分かるかを示したい。

トランジスタ(フロントエンド)技術の動向

筆者の師匠の1人である元東芝、元東京エレクトロン(TEL)の有門経敏氏が2017年6月29日、NTTデータ数理システム主催の講演会で、タイトル「論文分析セミナー」の講演を行った。そのデータのいくつかを紹介する。

有門氏は、TEL在籍中に、論文統計について相当、詳しい分析をされていた。その手法と分析結果を、上記セミナーで講演された。

論文統計には、「IEEE Xplore」というデータベースを使った。このデータベースを使うと、3大国際学会の論文はもちろん、ジャーナル論文も検索される。したがって、学会だけの論文統計よりも精度が高まると考えられる。

まず、1990~2016年までのトランジスタ周りのフロントエンドの技術動向を図2に示す。既に実用化された技術としては、2004年の歪みSi、2007年の高誘電体膜(High-k)/メタルゲート、2009年のゲルマニウム(Ge)、2011年3次元トランジスタ(FinFET)がある。

No image

図2 フロントエンドの技術動向

(出所:有門経敏「論文分析セミナー」(NTTデータ数理システム主催、2017年6月29日))

これらの論文統計から分かることが2つある。第1に、論文数が急増しピークを迎え飽和すると、その技術は実用化されている。第2に、新技術の実用化には、どれも論文が急増してから10年ほどの時間がかかるということである。

1つだけ、FinFETの論文数の挙動は、他の技術と異なる。2011年に実用化された後に、再び論文数が急増しているのである。これは、次のように解釈できる。

FinFETは、微細加工の寸法16/14nmから使われ始めた。その後、10nm、7nm、5nmと微細化が進んでいくが、その過程で、FinFETの形状、構造、材料の改善や改良案が次々と考案されている。3~2nm付近からSiナノワイヤという技術が使われるかもしれないが、それまでは、FinFETを延命するための開発課題が多数存在することから、論文数が急拡大していると思われる。

次世代技術としては、Siナノワイヤとインジウムガリウムヒ素(InGaAs)に代表されるⅢ-Ⅴ族の半導体がある。これらの技術はまだ論文数が急拡大するフェーズには入っていない。しかし、Siナノワイヤについては、2015年以降、論文数が増大する兆しが見える。もしかしたら急拡大する前兆かもしれない。もしそうなると、今後、実用化される可能性が高いと予測できる。

配線(バックエンド)技術の動向

次に、1990~2016年までの配線材料や配線間の絶縁膜などバックエンドの技術動向を見てみよう(図3)。バックエンドでは長らく、配線材料としてはアルミニウム(Al)が、層間絶縁膜としてはシリコン酸化膜(SiO2)が使われてきた。

No image

図3 バックエンドの技術動向(1)

出所:有門経敏「論文分析セミナー」(NTTデータ数理システム主催、2017年6月29日)

ところが、微細化が進むと、配線抵抗が増大するために抵抗の小さい配線材料として銅(Cu)がAlの代替候補になった。また、配線間の容量結合により信号遅延が起きることなどから、SiO2より誘電率が低い絶縁膜(Low-k)を使う必要が検討され始めた。

これらの開発のトリガーとなったのは、1997年のIBMショックである。Cuは取り扱いが難しい材料だったため、なかなか開発が進まなかったが、1997年にIBMがスパコン用チップの配線にCuを使用したことが分かり、世界中が一斉に開発を加速し始めたのである。

その後、CuもLow-kも論文数が急拡大した。そして、Cuは2003年頃に実用化され、Low-kは2005年頃に実用化された。

フロントエンドの技術動向で、論文数が急拡大してピークを迎え飽和すると実用化され、それには約10年かかると論じたが、その傾向はバックエンドでも当てはまることが分かる。

では、バックエンドの次世代技術には、どんなものがあるか。2017年のVLSIシンポジウムでIBMが、7nm以降の配線材料としては、Cuではなく、ルテニウム(Ru)やコバルト(Co)が候補になると発表していた。微細化が進み配線の断面積が小さくなると、Cuのグレイン等による電子散乱の影響で、信号遅延が起こることが予想されるからだ。

そこで、有門氏に依頼して、Cuに代わる代替材料の論文数の動向を調べていただいた。図3にはCuやLow-k以外に、新配線材料の論文動向も記載してある。これをみると、Ru、マンガン(Mn)、Coの論文数は、グラフの底を這いつくばっており、当分、実用化することはないようにも見える。

ところが、Ru、Mn、Coの論文数の合計を1つのグラフとして書いてみると、その合計の論文数は、ここ数年で増大しそうな兆しと見ることができる(図4)。

No image

図4 バックエンドの技術動向(2)

出所:有門経敏「論文分析セミナー」(NTTデータ数理システム主催、2017年6月29日)

ということは、今後、Cuに代わってRu、Mn、Coのいずれかが最先端の半導体の配線材料に使われるかもしれない・・・。などと思っていたら、2017年12月に行われたIEDMで、インテルが10nmの半導体の微細配線にCoを使ったという発表を行った(図5)。半導体の技術においては、インテルが使うと他社もそれを使い普及していくということが、これまで何度も繰り返されてきた。したがって、今後、Co配線が普及していく可能性が高い。

No image

図5 インテルが10nmノードのM0とM1にCoを使った

(出所:IEDM2017-674、インテル)

何のために誰が国際学会に参加するか

以上、3大国際学会の論文を分析すると、次にどんな技術が実用化されるかが予測できることを示した。

3大国際学会で登壇するのは、半導体の回路やデバイスの研究を行っている大学の研究者や、それらをビジネスにしている半導体メーカーの技術者たちである。しかし、これら3大国際学会を聴講するために参加しているマジョリティは、半導体製造装置メーカーや材料メーカーの技術者、マーケティング、営業などであると思う。というのは、3大国際学会の主流となった技術が、近い将来、実用化されるときに備えて、装置や材料開発のヒントを得たいからである。

例えば、半導体メーカーと装置メーカーの関係は、次のように変化を遂げてきている(図6)。

No image

図6 装置メーカーの役割の変遷

筆者が日立に入社する前の1970年代は、半導体メーカーが装置もプロセスも開発していた。80年代になると、装置を専門に開発して販売する、いわゆる「装置メーカー」が出現してきた。この時代は、装置メーカーが開発した装置を半導体メーカーが購入して、プロセスを開発していた。

そして90年代になると、装置メーカーが装置もプロセスも開発する時代になった。半導体メーカーは、基本プロセスが搭載されている装置を購入し、それをベースに最適プロセスを開発するというようになった。この結果、半導体のプロセス開発力の実権は装置メーカーが握ることになり、その反面、半導体メーカーのプロセス開発力は弱体化した。ただし、装置メーカーがどのような装置とプロセスを開発するかは、半導体メーカーからの情報に依存していた。

ところが、2005年以降は、装置メーカーが独自にマーケティングを行い、将来必要となると思われる新装置と新プロセスを開発し、これを半導体メーカーに提案するという時代になってきた。そして、この提案力が装置メーカーのビジネスの勝敗を決める大きな要素になったのである。

そのマーケティングを行う場所として、3大国際学会は、極めて重要である。だから、VLSIシンポジウムには、大挙して装置メーカーや材料メーカーが押し掛けることになる。

今年のVLSIシンポジウムは、AIがメインテーマである。そのAIにはどんな回路が考案され、どんなデバイスが登場するのか。そのデバイスを製造するためには、どんな装置や材料が必要になるのか。そのヒントを求めて、装置メーカーや材料メーカーが、6月18~22日に、ハワイに参集することになるだろう。

なお、4月17日に行われた記者会見では、注目発表として、回路関係12件、デバイス関係11件が報告された。その詳細については、明日(4月26日)配信するメルマガで紹介したい。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

IT総合カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
初心者でも安定飛行が楽しめる 超小型トイドローン
動作検知機能付きの超ミニサイズ〝サイコロカメラ〟が防水ケース付きで登場
北朝鮮が「スパイアプリ」を密かに配布、マカフィーが確認
スーツにもフィットするファッショナブルなスマートウオッチ5選
コカコーラの新型ドリンクマシン「Freestyle 9100」はアプリで味を調整できる!
  • このエントリーをはてなブックマークに追加