来日トランプに安倍首相がどうしても「護衛艦かが」を見せたい理由

来日トランプに安倍首相がどうしても「護衛艦かが」を見せたい理由

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/05/21
No image

一昨年の「捲土重来」

25日に二度目の来日をするトランプ米大統領。米国の大統領として初めて海上自衛隊の護衛艦を視察する方向で調整が進んでいる。

白羽の矢が立ったのは空母に改修される「いずも」の2番艦「かが」。視察を主導しているのは首相官邸だ。

なぜ、安倍晋三首相はトランプ氏に「かが」を見せたいのか。

来日時、自衛隊の艦艇を視察した外国の首脳は英国のテリーザ・メイ首相ただ一人である。2017年8月31日、横須賀基地で「いずも」を視察した。

案内した当時の小野寺五典防衛相は、旧日本海軍の巡洋艦「出雲」が明治時代に英国で建造されたことを紹介し、続けて「日露戦争はそのおかげで勝つことができた」と述べた。すると、メイ氏は「我が国と日本は長きにわたり協力してきた」と応え、日英の「準同盟」を確認した。

これまで、日本政府が来日した外国の首脳に自衛隊の視察を求めることはなかった。それが一転して積極的になったのは、安倍首相が提唱した「(自由で開かれた)インド太平洋構想」の道具として護衛艦が使われていることが大きい。

「インド太平洋構想」とは、インド洋と太平洋でつないだ地域全体の経済成長をめざし、自由貿易やインフラ投資を推進する構想のこと。だが、本丸は安全保障面での多国間協力にある。法の支配に基づく海洋の自由を訴え、 南シナ海で軍事拠点化づくりを進める中国を封じ込める狙いが込められている。

その第一歩として海上自衛隊は、米国とインドの2ヵ国による共同訓練「マラバール」に毎回参加することとし、「マラバール」は日米印の3ヵ国共同訓練に格上げされた。

3ヵ国共同訓練となって最初の「マラバール」は、2017年7月10日から8日間にわたり、インド南部チェンナイ沖で行われた。

中国の周近平国家主席が提唱した経済・外交圏構想「一帯一路」のうち、洋上の「一路」の途上にあるのがチェンナイ沖で、中国の潜水艦を想定した対潜水艦戦などが実施された。

メイ氏が視察したのは、この訓練に参加し、帰国して間もない「いずも」だったのである。

No image

「いずも」を視察する英国のメイ首相(Photo by gettyimages)

「マラバール」には米海軍、インド海軍とも空母を参加させており、中国側が「脅威」と受けとめる空母打撃群を構成するには、空母タイプの護衛艦「いずも」の派遣が重要だった。

これにより、「日本防衛」にとどまっていた自衛隊が「インド太平洋」にまで進出し、対中包囲網の一角を担うことになった。「専守防衛」を踏み越えかねない危うい方向転換だが、自衛隊の積極活用は安倍首相が目指す「積極的平和主義」の具現化といえる。

その「成果」を誇示するために、わざわざメイ氏を「いずも」に招待したのである。

メイ首相は「いずも」視察の答礼として、2017年12月、訪英した小野寺氏を就役したばかりの英海軍の新鋭空母「クイーン・エリザベス」に招待した。

そして昨年8月には、英海軍の補給艦を南シナ海に派遣し、米国が駆逐艦などを南沙諸島、西沙諸島に派遣する「航行の自由作戦」に英国も参加することを表明した。

つまりメイ首相の「いずも」視察は、英国を「インド太平洋構想」に引きずり込んだ原点とも言えるのである。

実は安倍首相は、2017年11月にトランプ氏が初めて来日した際、「いずも」に招待し、「強固な日米同盟」を演出する腹積もりだった。しかし、トランプ氏の日程の都合が合わず、幻の計画に終わっている。

捲土重来が二度目の来日となる今回なのだ。

「自立の努力」をアピールしたい

視察先が「いずも」でなく「かが」なのは、現在「いずも」は「平成31年度インド太平洋方面派遣訓練部隊」として護衛艦「むらさめ」とともにインド太平洋に派遣されており、日本を不在にしているためだ。

「かが」は広島県の呉基地に配備されており、横須賀基地まで回航してトランプ氏の乗艦を待つことになる。28日が予定されている。

安倍首相がトランプ氏を「かが」に招待する目的は2つあるとみられる。

ひとつは、前述した通り、「強固な日米同盟」を誇示することである。「かが」は「いずも」と同様、4月から適用された新「防衛計画の大綱」で空母化が決まっている。

空母は打撃力そのものであり、先制攻撃を可能にする強力な武器だ。大綱は「日米同盟の一層の強化には、わが国が自らの防衛力を主体的・自主的に強化していくことが不可欠」と記しており、その防衛力強化のシンボルが空母なのだ。

「いずも」「かが」の空母化により、「日本は米国の軍事力に頼っているだけではない。自立の努力をしている」というところをトランプ氏にアピールできると考えているのではないだろうか。

改造され、空母になる「いずも」「かが」を「マラバール」に参加させれば、日米印3ヵ国の空母が出揃うことになる。また、恒例化しつつある「インド太平洋方面派遣訓練部隊」に参加させれば、中国に軍事的圧力をかけ続けることにもなる。

「いずも」「かが」の空母化ほど、米国の対中戦略に貢献するツールはないのだ。これらの艦艇を安倍首相が「トランプ氏に見せない手はない」と考えたとしても不思議ではない。

No image

護衛艦「かが」(Photo by gettyimages)

2つ目の狙いは、護衛艦の空母化には搭載する戦闘機が不可欠となる。政府は米国製のF35戦闘機を105機追加購入することを決め、そのうちの42機を空母に搭載できるF35Bとすることも決めている。

F35の追加購入は、2017年のトランプ氏の初来日時、安倍首相が口約束した内容を実行したものだ。

このとき、日米首脳会談後の共同記者会見で、トランプ氏は「非常に重要なのは、日本が膨大な武器を追加で買うことだ。完全なステルス機能を持つF35戦闘機も、多様なミサイルもある」と具体的品目を挙げて購入を迫った。

これに対し、安倍首相は「日本は防衛力を質的に、量的に拡充しなければならない。米国からさらに購入していくことになる」とあうんの呼吸で応じ、トランプ氏が列挙したF35や新型迎撃ミサイルのSM3ブロック2Aなどを購入することを挙げた。

米国から輸入することになるF35の購入費は安く見積もっても総額1兆2000億円。米国の対日貿易赤字を削減する有力材料がF35なのだ。

そのF35が載ることになる「かが」を視察するトランプ氏に「米国からの武器の大量購入」を日本側が説明しないはずがない。

メイ首相を防衛相が案内したのとは異なり、今回はトランプ氏を安倍首相が案内するのではないだろうか。

そうなれば、「いずも」「かが」の空母化により、(1)軍事力強化による自主防衛の努力、(2)インド太平洋における日本の影響力強化、(3)米国の対中戦略への貢献、(4)米国製武器の大量購入による対米支援、をまとめてアピールできるのは間違いない。

米製兵器の「爆買い」もアピール

特に米国製武器の大量購入は、4月から始まった日米の自由貿易協定(FTA)交渉を側面支援する材料と日本側はとらえているのではないだろうか。

米政府から対外有償軍事援助(FMS)で購入する米国製武器は、第2次安倍政権以前は毎年500億円から600億円程度だったが、第2次安倍政権では1000億円、4000億円と増え続け、2019年度は7013億円に達した。

米政府に巨額の武器購入費を支払い続けた結果、防衛省は国内の防衛産業に支払うカネを工面できず、購入した武器の分割払いを5年から10年へと引き延ばす特別措置法をつくり、今国会では同法の期限を延長した。そこまでして米国製武器の「爆買い」を進めているのが安倍政権なのだ。

トランプ氏による「かが」の視察は、そうした日本側の涙ぐましい対米追従を強調し、結果的にFTA交渉で米国に強硬策に出ないよう懇願する場ともなるのだろう。

No image

4月にF35A戦闘機が墜落した事故は、いまだ捜索が続いている(Photo by gettyimages)

安倍政権が日本の立場ばかりに目を向けている間に、中国などで騒ぎが起きていた。5月3日から9日まで、南シナ海で実施した海上自衛隊、米海軍、インド海軍、フィリピン海軍の4ヵ国訓練に注目が集まっているという。

海上自衛隊は前述の「平成31年度インド太平洋方面派遣訓練部隊」の「いずも」「むらさめ」を参加させた。

香港で発行されている週刊誌「亞洲週刊」の毛峰東京支局長は「4ヵ国訓練の意図をめぐり、中国ばかりでなく、香港、台湾、欧州でも話題になっている」と話す。

4カ国の共同訓練はシンガポールで5月9日から13日まで開催された拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)とともに実施された多国間訓練に合わせて、これに参加する艦艇が集まり、実施したものだ。

海上自衛隊は、2018年には南シナ海で自衛隊単独の対潜水艦訓練に踏み切っているが、毛氏は「去年は自衛隊だけだった。今回は米海軍、インド海軍が南シナ海まで進出してきた。日本政府は訓練の意図を説明するべきだ」と話す。

訓練の意図は、インド太平洋構想にもとづき、多国間が連携して中国を封じ込めるため、圧力をかけることにあるのだろう。そうだとすれば、日本政府は中国に意図を説明できるはずがない。

トランプ氏による「かが」の視察は、日本政府が米国に「日本の努力」をアピールする場となるのは間違いない。同時に関係正常化へ向けて動き出した中国との関係を再び悪化させ、東アジアに緊張をもたらす「諸刃の刃」となるのだろう。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

中国・韓国・アジアカテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
治安が良いはずの日本で「なぜ日本人は暴力的になっているのか」=中国メディア
“徴用工”めぐる仲裁委きょう期限、韓国“開催応じない”構え
200万人香港デモ、市民の怒りに火をつけたエリート官僚の傲慢
貿易摩擦にファーウェイ禁輸措置、「中国当局がパニック状態」=米メディア
“北朝鮮の報告書”、中国とロシアが公表を阻止
  • このエントリーをはてなブックマークに追加