「地方巡業」の増加で、力士が壊れてしまうかもしれない

「地方巡業」の増加で、力士が壊れてしまうかもしれない

  • ITmedia ビジネスオンライン
  • 更新日:2017/09/15
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大相撲秋場所の熱戦が連日、両国国技館で続いている。しかし、やはり幕内力士がこれだけ不在となると今までよりも盛り上がりにかけてしまう感は否めない。

3日目の12日には大関高安と西前頭4枚目宇良が前日の取組で負傷し、休場が決まった。今場所は白鵬、稀勢の里、鶴竜と3横綱が昭和以降で初めてそろって初日から休場という異常事態。3横綱と1大関の休場も18年ぶりだ。初日から休んでいる西前頭二枚目碧山と西前頭十二枚目佐田の海、そして宇良を加え、これで幕内力士の同時休場は7人となり、公傷制度が廃止された2004年以降では最多タイの人数に達してしまった。

なぜ、ここまでケガ人が増えてしまうのだろうか。確固たる因果関係は残念ながら証明できないが、関係者の話を総合すると、これは近年の地方巡業数の増加とあながち無関係ではないように思われる。

地方巡業とは春から冬の年間4度行われる本場所とは別の興行のこと。基本的に春は関東、夏は東北、北海道、秋は中部、近畿、冬は九州で行われ、過去にはインドネシアのジャカルタ、モンゴルのウランバートル、米国のロサンゼルス、ハワイなど海外で開催されたこともある。

本場所が行われることのない地域での開催によって大相撲の醍醐味を体感してもらい、普及を図ろうというのが、その狙いだ。力士たちによって普段の取組では禁じ手とされている技をショー感覚で披露される「初切(しょっきり)」が行われることも多々あり、本場所とは違った余興も楽しめる舞台として人気を集めている。

この地方巡業の数が近年の大相撲人気の復活とともに激増していることは数字を見ても明らかである。14年に37日間だった地方巡業数は翌15年で64日間に大幅アップ。60日間以上の開催は01年以来で、同年の61日間をも上回った。昨年は75日間にまで増え、70日間以上の開催は実に22年ぶりとなった。

力士会が待遇改善を要望する動き

日本相撲協会が17年3月31日に発表した16年度決算によると、経常収益から経常費用を差し引いた額は約6億4000万円のプラスで2年連続の黒字となった。前年の15年よりも約3億9000万円増の黒字となり、この内訳として巡業数の増加も1つの要因となって興行収益は前年比で約7500万円アップとなったことが明らかにされている。

確かに収益増加にはつながっているが、この地方巡業数の増加は力士たちの過密日程に歯止めがかからず拍車をかけているのも事実だ。これだけタイトなスケジュールになると休養期間はほとんどなく、仮に何らかのケガをかかえてしまってもリハビリに費やす期間は限られてくる。目に見えて大きな負傷であればまだしも軽度であれば、そう簡単に休むわけにはいかない。地方巡業に穴を開ければ「地方のファンをなめている」「どうせサボっているのだろう」などと猛烈なバッシングを浴びるのがオチだ。

無論、軽度の負傷を我慢しながら強行出場し続ければ、それが後に大ケガを招く危険性もある。本来ならば本場所こそが力士たちの要とならなければならないはずだ。しかしながらこのような危険と背中合わせのハードスケジュール化が、その足かせとなりつつあることは憂慮されるべき事態と言っていい。

地方巡業が力士たちにとって厳しい環境であることは、あまり知られていない。新幹線や飛行機など公共交通機関を利用するだけでなく、狭い車内に押し込められてのバス移動は巨漢の力士たちにとっては我々の想像以上にこたえる。「本場所に向けて体調を万全に整える意味でもあらゆる面でハードな地方巡業に行くのではなく、稽古をしたい」との思いを本音として抱く力士も当然ながらいる。

15年12月には十両以上の関取で構成する力士会が日本相撲協会巡業部へ待遇改善を求める提案書を提出したこともあった。過密日程などで忙殺されがちな巡業における稽古の質の向上を主な目的とされていたが、そこにはいわば年々タイトになっていくスケジュールをいま一度見直して欲しいという要望も込められていたのは明白だ。

この要望書には移動時間の短縮に加え、稽古の手順を番付の東西交代制に切り替えて休養を取りやすくする環境を整えることや、巡業手当の増額及び稽古を怠った力士に対する手当ての減額などが明記されていた。力士会が協会に待遇改善を要望する動きは過去を振り返ってみても極めて異例。それだけ、力士会の不満が募っていた証拠である。

大相撲の環境が大きく変化している

17年6月末に行われた力士会の会合に協会側の尾車事業部長(元大関琴風)が参加した。協会幹部が力士会に参加することは非常に珍しいケースで、近年の過密日程化などに不満を募らせて待遇改善を求める力士たちの動きに協会側が神経を尖らせているフシも見え隠れする。この場で力士会側からは巡業開催地への移動や日程面などに対してあらためて考慮してほしいとの要望が出されたというが、それが反映されるかどうかは正直不透明だ。

もしかすると昔を知る大相撲ファンの中からは「地方巡業は今から23年前に70日間以上、開催されていたのだから今の力士たちが過密日程うんぬんを理由に文句を言うのは腑抜けだ」などとイチャモンを付ける人が出てくるかもしれない。だが今と昔は大相撲の環境面が大きく変化している点も忘れてはいけない。

外国人力士が隆盛を誇る今、力士たちは以前よりも大型化している。パワー一辺倒の相撲を取る力士も増えつつあり、それに対応する意味でもトレーニングやコンディショニング調整、そして稽古に没頭する時間は昔よりも格段に必要だ。

あえてタブーの面に触れれば「八百長の根絶」という部分も近年の環境の変化として絡んでくるだろう。協会側はかつて人気低下の大きな要因となった11年の八百長問題発覚以降、それまでタブーとされていた事項に真剣に取り組んでいる。

問題発覚前にも一部週刊誌などで「元力士○○が八百長を告発」という話題が掲載されるケースが幾度となくあったが、それも今は昔。「7勝7敗の三役力士がほぼ決まって千秋楽に勝ち越す」という“奇妙な流れ”の取組も昨今、見られない。これら過去の出来事はあくまでも「疑惑」だが、そういう疑わしき取組にも目を光らせる協会側の強い姿勢によって近年の大相撲は「ガチンコ」の勝負が人気再興の大きな柱となっている。

ケガと背中合わせとなっている過密日程

相撲協会関係者からも「昔がどうこうということではなく、今の力士たちは周囲の目もあって以前とは比べられないほどに『真剣勝負』という意識を必要以上に持たなければならない環境下だから常に全力で手を抜くことなく取組もうとしている。

疑いをかけられたくないからケガを恐れて動きをセーブすることもしにくくなるだろう。そうなれば本場所の一番一番がよりハードになるのは明白。ケガと背中合わせとなっている過密日程の改善を求めるのは当然と言えば、当然かもしれない」との声も上がっている。

どん底から一丸となって人気絶頂期を迎えた今だからこそ、日本相撲協会はこのマイナス面を警鐘ととらえて日程や待遇面を見つめ直し、長期的ビジョンを持ってプラス材料へと転じさせることが必要だろう。

臼北信行(うすきた・のぶゆき)氏のプロフィール:

国内プロ野球、メジャーリーグを中心に取材活動を続けているスポーツライター。セ・パ各12球団の主力選手や米国で活躍するメジャーリーガーにこれまで何度も「体当たり」でコメントを引き出し、独自ネタを収集することをモットーとしている。

野球以外にもサッカーや格闘技、アマチュアスポーツを含めさまざまなジャンルのスポーツ取材歴があり、WBC(2006年第1回から2013年第3回まで全大会)やサッカーW杯(1998年・フランス、2002年・日韓共催、2006年・ドイツ)、五輪(2004年アテネ、2008年北京)など数々の国際大会の取材現場へも頻繁に足を運んでいる。

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