「痴漢をなくしたい人VS痴漢冤罪を訴える人」の対立構造が起こる理由

「痴漢をなくしたい人VS痴漢冤罪を訴える人」の対立構造が起こる理由

  • サイゾーウーマン
  • 更新日:2017/09/16
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満員電車で起こることの多い痴漢。しかし、痴漢のニュースが報じられるたびに、「冤罪かもしれない」「痴漢を疑われたら人生の終わり」という意見もネット上で飛び交っている。なぜ、これほどまでに痴漢冤罪の話題が持ち上がるのか? 『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)の著者で精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏と弁護士の三浦義隆氏に、痴漢と痴漢冤罪、どちらも防ぐことはできないのか、語り合ってもらった。

(前編はこちら)

■痴漢だけ冤罪を問題視しているのは、ご都合主義

――痴漢のニュースが取り上げられるたび、ネット上では「痴漢をなくしたい人VS痴漢冤罪を訴える人」の対立構造が見られます。どちらもあってはならないことですが、なぜ必要以上に冤罪を恐れる人がいるのでしょうか?

斉藤章佳氏(以下、斉藤) 痴漢冤罪をWeb上で訴えるチームがあるのかと思うほど、私が痴漢に関する取材を受けた記事が出ると、必ずといっていいくらいコメント欄が荒れます。そして、いつも同じような内容のコメントが書き込まれるのです。

三浦義隆氏(以下、三浦) 殺人や強盗などの事件でも冤罪は起こっていますが、そういう疑いをかけられるのは、例えば日頃から素行が悪かったり、不良との交友関係がある人なのだろうと思われがちです。実際は必ずしもそうではないのですが、疑われるような行動をしていなければ冤罪に問われることはないと思っている人が多いと思います。ただ、痴漢冤罪に関しては電車に乗っているだけで巻き込まれる可能性があることが明らかですから、そこが怖いのだと思います。

冤罪はあってはならないことなので、痴漢冤罪に対して騒ぎ立てるのはいいと思うんです。でも、私がちょっとおかしいなと思うのは、ほかの種類の犯罪については、弁護士のような特殊な人種を除くほとんどの人は、容疑があって逮捕されたという報道が出た段階から、容疑者を犯人と決めつけて、社会的制裁を加える側に率先して回っているわけじゃないですか。でも、痴漢だけは冤罪を問題視する。そういうご都合主義なことでいいのか、とは思います。

別に痴漢についてだけ冤罪が起こるわけではなく、それは日本の刑事司法や捜査機関全体の問題なのですから、全体を変える以外に痴漢冤罪を減らしていく方法はないと思うんです。

――そもそも、痴漢冤罪はなぜ起こるのでしょうか?

三浦 痴漢を被害者や周囲の乗客がなかなか検挙できない理由も、痴漢冤罪が起こる理由も、基本的には同じ構造だと思っています。まず、痴漢の起こりやすい満員電車があることですよね。

満員電車は偶然に体が触れることもあり、「偶然」で言い訳の立つような範囲もあるので、普通の人が痴漢をしてしまう。それが、だんだんと大胆な行為になっていくわけです。人が密集しているので、誰がやっているのかも、なかなか特定することができない状況です。冤罪も、悪意のでっち上げよりは、被害者や目撃者が犯人を取り違えたことによるものが多いと思われます。満員電車をなくせば、痴漢も痴漢冤罪も大幅に減らせると思うのですが、それができるのかどうかという話ですよね。

斉藤 性犯罪者は幼少期からそういう性癖があったとか、もともと性欲がコントロールできない変態的な嗜好がある人だろうと思われています。しかし、この本にも書きましたが、痴漢で最も多いのは「四大卒の家庭持ちでサラリーマン」という、いわゆる普通の男性たちです。最近注目すべきなのは、外国人の痴漢加害者の相談が増えてきたことです。海外から日本に出向してきた優秀なエンジニアなど、それなりにエリートの人の痴漢事件をめぐる相談があるのですが、その人たちも、やはり何回も繰り返しています。

彼らは自分の国に満員電車がないので、他の性犯罪も含めて、やったことがないんです。それが、日本の満員電車に乗るというライフスタイルになってから、痴漢行為を始めています。痴漢を含む反復する性的逸脱行動は、学習された行動です。慣れない日本での生活の中で、本人が環境に適応するためのストレスへの対処行動(支配欲や優越感の充足)として選択したのが、痴漢だったというわけです。性犯罪は特殊な人がやっているというイメージが根強いですが、実は大多数はそうではないと認識を改めてもらいたいと思います。

三浦 痴漢加害者は、もともと特殊な性癖の人ではないというのは、おっしゃる通りだと思います。しかし、これは弁護士としてではなく、男性としての素朴な感想ですが、私も普通に性欲はあります。でも、その自分の性欲の延長線上に痴漢があるとは、どうしても思えないんですよね。

ネット上では「男の性欲というのはコントロール困難なものであって……」というところから、派手な服を着て男の部屋に行く女性が悪いなどと、被害者を非難する声が多い。すると、その人たちは自分の性欲の延長線上に性犯罪があると思っていて、自分も機会があればやってしまうという意味なのかなと、非常に不思議に感じるんですよね。

――痴漢をなくすためには、どうすればいいと思いますか?

斉藤 当院に来る性加害者は、自分の痴漢行為や性犯罪を「逮捕されなければ、おそらくずっと続けていた」と言います。加害者やその家族にとって、逮捕というのはもちろん望んでいない出来事ですが、我々には、そこを治療の動機づけの最大のチャンスとして生かしていく視点が求められています。

本来は、一次予防教育と再犯防止教育をセットで行えるのが望ましいのですが、現状ではなかなか性犯罪の一次予防は難しいです。これからこのあたりの取り組みや研究を性教育分野の専門家とともに協同していきたいと考えていますが、それよりも今は、どうすれば再発防止できるのかが当面の課題かと思います。

三浦 逮捕されるまでやめられないというのは、おっしゃる通りだと思います。痴漢を繰り返して一度もバレたことがなく、周りの誰にも知られていないけど、「これはいけない」と思って、自主的にやめようという人はあまりいないでしょうね。

斉藤 痴漢ではないですが、露出や盗撮、のぞき、下着窃盗といったいわゆる非接触型の性犯罪の人も来ます。接触する性犯罪の場合は顕在化し逮捕されるケースが多いのですが、接触しない性犯罪だと相手に気づかれずに行為を行うことができるのです。こうなると治療につながる機会がなく、膨大に潜在化しているケースがあります。年に1〜2人くらい、「このままでは逮捕されるかもしれない」と自らの危機感から来院するレアケースもあります。

三浦 逮捕自体が初めてという人は、その前の段階で常習性はあったのかもしれませんが、初犯として起訴猶予で終わるケースも結構あります。私が担当する痴漢の案件も約半数は逮捕が初めてという人なんですよ。その後の追跡調査をしているわけではありませんが、初犯でやめている人もかなりいるだろうと推測はできます。

冒頭のお話にあった通り、失うものの多い人が、かなりいるじゃないですか。「次やったら、本当におしまいだぞ」という状況に追い込まれたとき、そこでやめている人も、ある程度いるのだろうと思います。痴漢の再犯率が高いという話にしても、再犯率というもの自体が、一回裁判の手続きにのって有罪になり、前科がついた人を対象にしています。痴漢だと犯人は起訴猶予になることも多いですから、実は前科1犯になる時点でもう「再犯」の場合が多いんですね。そうすると、それはかなり犯罪性の進んだ人で、再犯率が高いのも無理ないのかと思いますね。

斉藤 犯罪傾向の進んだ人の再犯率が高いという点については、私も同じ意見です。これは、ほかの刑事政策や犯罪心理学の領域でも、前科前歴がなく、これから事件を起こす可能性のある潜在的な層と、初犯の方に関しては、罰による問題行動の修正に比較的効果がある層だと言われています。クリニックに来ているような、かなり常習性のある人に対して、罰や監視のみによる行動変容はあまり効果がないというのは、その通りです。

――痴漢だけでなく、同時に冤罪もなくすには、何か良い方法はあるのでしょうか?

三浦 容疑者を検挙して有罪にすることを国家が行っている限り、冤罪はついて回る問題です。痴漢がなくなれば痴漢冤罪もなくなるというのは当たり前の話ですが、実質的にはあまり意味のないことです。冤罪をなくすためには、単純に裁判所が厳格に事実認定をすればいい話ですし、そこからさかのぼって捜査機関も、全件微物鑑定するなり、供述頼みではないきちんとした固い立証を心がけることです。どれも、痴漢に限った話ではないですよ。

斉藤 痴漢に関しては、おそらく東京都と公共交通機関が本気になったら、満員電車をなんとかできると思います。自殺予防のためのホームドアは、多くの予算をかけて、ほぼ整いつつあります。でも、痴漢防止に関して目に見える対策は特に何もなく、鉄道会社も乗客に自衛を任せるだけにとどまっているように見えます。これは、痴漢対策に予算を投入することで、どれくらい経済的な損失を防げるのかを考えたとき、自殺予防のホームドアほどはメリットがないからだと思います。

また、満員電車をなくすには、働き方の改革が必要です。朝と夜のラッシュ時の混雑をもう少し緩和するためには、日本人の働き方自体を変えていくような政策なり施策が必要です。週に何日か自宅でも仕事できるようにするとか、ワークライフバランスの問題とも関連してきますね。

三浦 企業側に何かインセンティブを与えないと、難しいでしょうね。

斉藤 そうでしょうね。当院もそうなのですが、職員は朝9時頃から夜6時頃までの勤務時間に合わせて出退勤します。他業種や公務員も同様です。小池百合子都知事を中心に、2020年の東京オリンピックまでに、日本人の働き方改革を手始めに、痴漢問題を含む満員電車対策をどうしていくかという切り口の話をしていけば、建設的な議論になるかと思います。
(姫野ケイ)

斉藤章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。アジア最大規模といわれる依存症治療施設である榎本クリニックにて、アルコール依存症を中心に、ギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなど、さまざまなアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。また、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』(ともに金剛出版/共著)、『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)がある。その他、論文多数。

三浦義隆(みうら・よしたか)
千葉県弁護士会所属。おおたかの森法律事務所。主な取り扱い分野は、離婚、労働、相続、交通事故、債務整理、刑事等。

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