W杯目前で散った北アイルランドに見る、厳しくも奥深い欧州サッカー

W杯目前で散った北アイルランドに見る、厳しくも奥深い欧州サッカー

  • Sportiva
  • 更新日:2017/11/15

「この大会で我々はすばらしい結果を残した。ハンガリー・フットボールにとって大きな一歩だ。しかし、またすぐに次の戦いが待っている。ワールドカップ予選はまた別の、そして難しい戦いになるだろう」

昨年、44年ぶりのユーロ出場を果たし、本大会でもベスト16に進出したハンガリー代表のベルント・シュトルク監督が口にした、そんな言葉を思い出す。

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スイスを追い詰めるも、W杯出場を逃した北アイルランド

フランスで行なわれたユーロ2016は、伏兵の躍進が目立った大会だった。

本大会の出場国数が2012年大会の「16」から「24」に増え、大会前にはレベル低下を危惧する声もあったが、むしろ大会を盛り上げたのは、いわば規模拡大の恩恵を受けて出場権を獲得した国々だった。

初出場でベスト4進出の快挙を成し遂げたウェールズをはじめ、ベスト8進出のアイスランド、ベスト16進出のハンガリー、北アイルランドと、久しぶりに、あるいは初めてメジャートーナメントに出場した国が軒並み勝ち上がった。こうした機会に縁がなかったサポーターも、ここぞとばかりにフランスに大量集結。前年にパリで発生した大規模テロが暗い影を落とすなか、彼らは大会の盛り上げに一役買った。

だからこそ、今回のW杯予選でもこうした国々の動向が注目された。ユーロでの躍進をステップに、彼らは久しぶりの、あるいは初めてのW杯出場を手にできるのではないか、と。

しかし、ヨーロッパの出場枠は、開催国のロシアを含めても14カ国にすぎない。ユーロの24カ国に比べると、W杯は格段に狭き門である。

上記の”伏兵国”のうち、9組に分かれて行なわれた予選グループを1位で勝ち抜き、出場権を獲得できたのはアイスランドのみ。ウェールズ、ハンガリーはあえなく予選敗退に終わった。特にウェールズは、ホームでの最終戦で引き分け以上ならばプレーオフに進出できたが、アイルランドに0-1で敗れ、土壇場で夢絶たれた。世界的スターであるFWガレス・ベイルを擁し、大陸選手権で4強入りを果たした国でさえ、手が届かない。ヨーロッパからW杯に出場することの難しさを、残酷な結末は物語る。

そんななか、”ユーロ躍進組”の最後の砦ともいえる存在となっていたのが、北アイルランドだった。

北アイルランドは、予選グループでドイツに1位を譲ったものの、チェコ、ノルウェーとの競り合いを制し、2位を確保。スイスとのプレーオフへ駒を進めた。ホーム・アンド・アウェーの2試合で勝利できれば、1986年メキシコ大会以来の本大会出場。32年ぶりとなる夢の実現まで、あと一歩のところに迫っていた。

現地時間の11月9日に北アイルランド・ベルファストで行なわれたプレーオフ第1戦は、スイスが1-0で先勝。そして、雌雄を決する第2戦が11月12日、スイス・バーゼルで行なわれた。

スイスが勝利した第1戦、唯一の得点はPKによるものだった。そのPKにしても、シュートが腕に当たったという判定はかなり微妙なもので、北アイルランドにとっては不運な結果ではあった。

しかし、試合内容はスイスが優勢だったのもまた事実。スイスは予選グループを9連勝で勝ち進みながら、最終戦でポルトガルに喫したただひとつの敗戦によって、出場権をその相手に譲っていた。

当然、このプレーオフでも”最強の敗者”を有利と見る向きは多かった。しかもスイスは、この試合を前にホームゲーム9連勝と、地元での圧倒的な強さを誇っていた。確かに微妙なPKではあったが、両者の力の差を考えれば、最終的な勝敗において大きな意味を持つことはないだろう。それが大方の予想だった。

ところが、試合は意外な展開を見せた。

スイスが立ち上がりからボールを支配して攻め続けるものの、なかなか決定機を作り出せない。強引に持ち込んでシュートを放っても、ことごとくDFにブロックされてしまう。

朝から断続的に降り続く雨でぬかるんだピッチに、思うようにパスをつなげないスイス。対する北アイルランドは、重馬場にも運動量がまったく落ちず、白いユニフォームを泥だらけにしながら激しくボールに寄せ、赤いユニフォームに体をぶつけた。

すると、波に乗れないスイスがイージーミスを増やし、次第に試合の流れはカウンターで反撃に転じる北アイルランドへ。後半に入ると、さらにその流れは加速し、一方的と言っていいほどに北アイルランドが次々とスイスゴールへ迫った。

特にMFジョージ・サヴィルとDFクリス・ブラントという、ふたりのレフティが連係する左サイドからの攻撃は精度が高く、何度となくチャンスを作り出した。最強の敗者も、ゴール前でボールをはね返すのが精一杯。そんな時間が長く続いた。

しかし、結局は北アイルランドも決め手を欠き、スコアレスドロー。スイスはホームゲームの連勝こそ9でストップしたものの、4大会連続となるW杯出場を決めた。スイスのヴラディミル・ペトコヴィッチ監督も安どの表情を浮かべ、「選手はすばらしい成果をあげた。今日だけでなく、予選全体を通じて彼らが示してきたものに誇りを感じる」と選手たちを称えた。

終わってみれば、北アイルランドにとっては、不運なPKが最後まで重くのしかかった。結果論とはいえ、スイスに1点のアドバンテージがなければ、この試合でもっと焦りが生まれていたかもしれないし、結果が違うものになっていても不思議はなかった。32年ぶりの大舞台まであと一歩だった北アイルランドにとっては、悔やまれる判定だったに違いない。

とはいえ、言うまでもなく、北アイルランドの健闘は称賛に値する。チームを率いたマイケル・オニール監督も「結果は残念」としたうえで、こう語った。

「今日は何も得られなかったが、選手たちが私や母国にもたらしてくれたものは、本当に素晴らしいものだった。我々はワールドカップ出場という夢を実現させるために、最後の最後まで勇敢に戦った」

記者会見に臨む指揮官も、傍らで見守るスタッフも、質問をする地元記者も、どこか誇らしげに見えたのは気のせいばかりではないだろう。

結局、ユーロ躍進組の最後の砦は破られた。ユーロに続き、夢をかなえたのはアイスランドだけとなった。ユーロで少々結果を残したからといって、簡単にW杯へは行かせてもらえない。そこにヨーロッパ予選の厳しさがうかがえる。

だが、長い間(あるいは一度も)、W杯に出られていないからと言って、彼らは決して弱小国ではなかった。世界的なスター選手はおろか、ヨーロッパの主要リーグでプレーする選手さえ数少ないにもかかわらず、それでもW杯常連国を追い詰めるだけの力を持っていた。そして彼らのようなチームが、選手が、しのぎを削っているからこそ、ヨーロッパのサッカーはレベルが高く、奥が深い。

翻って、アジアはどうか。確かに、全体的な底上げは進んでいる。とはいえ、4年前に比べて明らかに力が落ちている常連国が、あっさりとW杯に出場してしまうのも現実である。

そこに一定の安堵や喜びはあるとしても、あまりに大きな彼我の差を目の当たりにするにつけ、彼の地の厳しさはうらやましくも映る。

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