御朱印帳メーカーに聞く一大ブームの舞台裏

御朱印帳メーカーに聞く一大ブームの舞台裏

  • @DIME
  • 更新日:2017/08/13
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御朱印帳というものが、若年層に浸透している。

日本の寺社仏閣を参拝した際にもらえる印章を「朱印」というが、参拝客にとっては一生に残る記念である。また、全国の寺や神社を回ることは壮大なアドベンチャーでもある。日本という国は、世界地図で見る以上に広い。

そして御朱印帳の浸透は、日本古来の宗教文化や伝統工芸が見直されてきたという証明でもあろう。

■地域を越えた販路拡大

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今回取材したのは、香川県綾歌郡宇多津町に本社を置く株式会社マツオカ。小松印刷グループの企業であるが、最近では霊場巡礼用品を手がける一大メーカーとしてその知名度を高めている。

御朱印帳とは言い換えれば「宗教グッズ」であり、一般的な製品とはまた違うものだ。

そもそも、「ひとつのメーカーが大量生産した御朱印帳を全国普及させる」ということ自体が例のないことである。寺にしろ神社にしろ、必ず「祭祀圏」というものがある。キリスト教での言い方に変えれば「教区」だ。そして宗教施設とはその地域の「集会場」でもある。

だからこそ寺社で使われる物品は、その土地の商人や職人が用意するのが普通だ。檀家制度が強固であった昔なら、尚更である。「よそ者の商品」は絶対に使わない。

だがマツオカは、すでに全国区への販路に乗り出している。よく考えたら、これはすごいことだ。

■中小の寺社に目をつける

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日本人の誰もがその名を知っている寺社は、今でも「御用商人」から物品を仕入れているという。

問題は、そこまで規模も知名度もない寺社だ。資金力に乏しい霊場などは、自前で御朱印帳を作成することが難しい。そういう事情があり、御朱印帳を大量生産することのできる印刷メーカーが頼られる。

マツオカから見れば、中小の拠点を次々に攻略しているということだ。

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また、数年前にNHKが「御朱印ガール」についての番組を放映してからか、若者の間で御朱印帳が注目され始めた。それと同時に、御朱印帳自体のデザインも変化した。表紙に版権物のキャラクターを描くようになったのだ。

もちろんそれは、版権の持ち主に無許可でやるわけにはいかない。そういう点でのノウハウを知っているという意味でも、印刷企業には大きなアドバンテージがある。

■紙の「偉業」

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先述の通り、マツオカの本社所在地は香川県。四国地方といえば、八十八ヶ所巡りを連想する人も多いのではないか。

日本最大の巡礼地を眼前にする企業だから、そこから作り出されたものは妥協なき完成度を誇る。

マツオカの御朱印帳は雁皮紙を使用している。これは和紙の代表格とも言えるものである。丈夫で虫害に強く、数百年という単位での保存が利く。西洋で長らく使用されてきた酸性紙は100年程度で劣化してしまうため、たとえば19世紀イギリスの科学分野での大躍進を示す史料などが次々と失われている。一方で日本史関連史料にそういう問題が生じないのは、ひとえに「紙の強さ」があるからだ。

ところが、現代の日本で生産される雁皮紙は、その原料を専ら輸入に頼っている。それを手がける農家がなくなった、ということだ。

だが一方で、和紙というものが近年再評価されている。ユネスコ無形遺産に和紙の手漉き技術が登録されたこともきっかけのひとつだが、やはり和紙が持つ驚異的スペックに日本人自身が気づいたということが一番大きい。

もともと紙は中国人の発明で、その目的は文書の永久保存だった。中東やヨーロッパでは石版、粘土板、羊皮紙が記録媒体として使われてきたが、それらは重くて携帯ができないという致命的欠点がある。パピルスというものもあったが、これは折ると割れてしまう。

その点、紙は軽量かつ折り畳むことができる。西暦751年に当時の唐朝とアッバース朝が中央アジアの覇権を繰り広げた「タラス河畔の戦い」は、唐の製紙法がイスラム世界へ伝来するきっかけになった。それ以降、アッバース朝支配下の地域では数学や化学、医学、哲学などが大発達を遂げた。優秀な記録媒体があるのとないのとでは、学術研究に絶大な差が出るのは当然だ。

我々現代人は数字を表記する時に「Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ」ではなく「1、2、3、4」と書く。それは紙を手にしたアッバース朝の学者が、インド数学を改良し体系化させたからである。

そんな偉大な道具を、凝り性の日本人は極限までチューンナップした。

■日本人が紙に与えた「耐久力」

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日本人が考えたのは、「毎日頻繁にめくっても壊れにくい」という性質だ。

保存用文書に使われる紙は、いつまでも劣化しないようにしなければならない。だが「毎日めくる」ということは想定外だ。記録を取り出す時にたまにページを開く程度だから、そのあたりの耐久力はそれなりで構わない。

だが日本人は、それで満足しなかった。紙の耐久力を上げることで、それから作る書籍を「人々が日々接するもの」にしてしまったのだ。

御朱印帳は、当然ながら「頻繁にめくる書籍」である。しかも携帯が前提のものだから、すぐに破けてしまう紙では話にならない。

社会のデジタル化が進み、もはや紙は用無しになると発言する知識人もいる。だが、伝統的製法の和紙に関してはその需要は今後伸びていくと考えるべきかもしれない。和紙の傑出した丈夫さは、今も人々の営みを支えているのである。

1冊の御朱印帳には、我々の先祖が築き上げたあらゆる文化が凝縮されている。

■目指すは関東

マツオカの今後の目標は「関東への販路を広げること」である。

現状、マツオカは西日本の寺社との連携はあるが、関東となると話は違ってくる。首都圏では「マツオカの御朱印帳」はメジャーな存在ではないという。

しかし、たとえば東京23区内にも古い歴史を持った寺社はたくさんある。「巡礼地としての東京」は、今後大いに注目されるはずである。

週末は御朱印帳片手に、霊場巡礼へ出かけてみよう。

【参考】
株式会社マツオカ(小松印刷グループ)

取材・文/澤田真一

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