日本の不動産を買い漁った外国勢が、一斉に日本人に売り浴びせて逃げ始める兆候

日本の不動産を買い漁った外国勢が、一斉に日本人に売り浴びせて逃げ始める兆候

  • Business Journal
  • 更新日:2018/06/12
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メディアでは、すでに平成バブル時に匹敵するほどの値上がりを見せている日本の不動産の現状について、「上がりすぎた」「もうバブルが弾けるのではないか」といった論調が強くなっている。

たしかに、最近の都内ではキャップレートが3%前半などという事例が珍しくない。長く不動産投資に関わってきた筆者からみても、何やら最近の取引は壮大なチキンレースが行われているようにも映る。

一方で、海外投資家による日本の不動産買いにはブレーキがかかるどころか「加速」している。彼らから見れば、まだまだ日本の不動産には「余力」があるということだ。「余力」という意味は、日本がこれから世界的にも大いに成長するだろうとか、オフィスやマンションの需要が大量に発生するだろうなどということとは関係ない。

彼らが見ているのは「イールドギャップ」というやつだ。

現在、政府と日銀の大幅な金融緩和政策の恩恵で、非常に低い金利での資金調達が可能となっている。また、国内ではもっとも安全な債券といわれる日本国債のレートは、10年物利回りで約0.05%という「豆粒」のような水準にある。

投資の世界では、自分の投資しようと考えている対象の利回りが、調達金利や世の中でもっとも安全性の高い金融商品の利回りに比べてどのくらい高いレートであるかを、投資する際のリスク判断材料としている。

この理屈でいえば、たとえば東京のオフィスビルを利回り3%で買ったとしても、日本での調達レートはおそらく1%以下。また日本国債のレートと比較すれば2.95%ものリスクプレミアムが乗っていると判断するのだ。リスクプレミアムとは、国債に比べたリスクと言い換えてもよいだろう。また調達金利との差額も2%以上の差があると判断して、「この投資は安全、大丈夫」とするのである。

●アービトラージ

このリスクプレミアムの幅は、そのときどきの世界情勢や今後の見通しに応じて「伸びたり縮んだり」する。現在はリスクプレミアムに対して「ポジティブ(積極的)=リスクプレミアムは小さくてよい」という状態にあるのが、日本に対する彼らの見方になる。

彼らがどうやって儲けるのかといえば、3%のキャップレートで仕入れた東京のオフィスビルの権利を、数カ月から2~3年後までの間に、キャップレート2.5%で買う投資家が出てくるとみて、その投資家に売却(出口=エグジット)することで利益を確保しようとしているだけなのだ。

このように3%で買って2.5%で売って儲けるようなやり方をアービトラージ(鞘取り)取引という。マネーゲームをやる人たちにとっては、ごく当たり前の考え方だ。

結局、彼らはこうした数字上でのゲームをやっているだけだ。チキンレースと呼ばれるのも、まだまだ今後もキャップレートは下がる(価格は上がる)かどうか、あたかも麻雀の卓を囲んでいるような光景なのだ。

金融資本主義というのはこんなものである。所詮、日本の将来やら何やらをまともに分析している姿など、筆者はこれまでほとんどお目にかかったことがない。むしろ、自分たちの投資を成功裏に終わらせるために、彼らはさまざまなフェイクニュースを拵えたりさえする。

そして、最後に誰かが「ババ」をつかんでこのマネーゲームは一旦「お開き」ということになる。「一旦」と言ったのは、ゲームはまたどこかで再開されるからだ。上がり切れば売り、下がり切れば買う、この単純な投資ゲームに付き合わされる真面目なビルオーナーやビル管理など実業を司る側にとっては、ある意味迷惑この上ない世界なのだ。

●東京五輪は「ニッポンいいね」の最大のスタンプ

では、これからの日本で彼らの動きはどのような方向に進んでいくのだろうか。

答えは残念ながら「売り」の方向へ行くのではないかとみている。もともと、インバウンドマネーは東京五輪開催が決定した2013年頃から積極的に日本に上陸するようになった。

政府やメディアはこれを、海外投資家が五輪開催によって日本を投資先として見直す動きになったと胸を張ったが、実は別の2つの要因が大きかったのだ。

ひとつは、リーマンショックで一度下落した日本の不動産は、投資利回りが上がり(つまり価格が安くなり)、台湾や香港、上海などの不動産よりも相対的に「安い」という判断が生じたことだ。

2つには、それでも東日本大震災の影響からしばらく東京での不動産取得を控えていたのが、想像していた以上に東京に被害はなく、しかも原発事故に伴う放射線被害も、これまでのところ思いのほか現出していないことだ。

さて、ここ数年で東京をはじめとした不動産を買い漁ったインバウンドマネーも、そろそろ「収穫」の時期を迎えている。東京五輪という宴は彼らにとっては格好の「売り」のタイミングでもあるのだ。

彼らはあくまでも自分たちの儲け=数字でのみ投資判断を行う。日本人のような面倒くさい「想い」のような邪念は一切入らない。決断すれば一気に売ってくるのも彼らの習性だ。自分たちの物件を高値で売り抜けるために「ニッポンいいね」くらいのフェイク情報を市場にまき散らしかねないのだ。五輪は「ニッポンいいね」の最大のスタンプともいえよう。

遅れて市場に登場した日本をよく知らない馬鹿な外国人や、特別な「想い」で動く情緒的な日本人投資家を相手に売り浴びせて逃げる、これが彼らの生態だ。

こうしたインバウンドマネーは、何も日本だけでなく全世界を股にかけて飛び回っている。いわば、イナゴの群れのような存在とでもいおうか。イナゴの大群は地上から美味しい穀物が生い茂る畑を見つけると一斉に降下して、穀物を食べつくす。ぺんぺん草ひとつ生えない荒れ地になると、群れはまた新しいフィールドに向けて飛び立っていく。

そういった意味では、イナゴは美味しい穀物が生い茂る畑を上空から常に俯瞰し、次なるターゲットに照準を合わせているのである。日本という畑はイナゴにとってもう十分満腹した可能性もあるのだ。

●夕焼け小焼けで日が暮れて

モルガン・スタンレー証券には有名な投資クロックという考え方がある。世界の都市を時計の時刻で表し、その投資の可能性を表しているものだ。投資先としてこれから大いに可能性がある地域は「朝」。今が旬でどんどん稼いでいくべき地域を「昼」。美味しい想いもたくさんしたが、そろそろ手じまいが必要な地域は「夕」、まったく投資に値しない地域を「夜」という具合に分類して投資のポートフォリオを描いている。

かつて、ファンドバブルとも称された2006年からリーマンショックの起こる08年までの間、筆者はREITの運用会社の社長としてニューヨークのモルガン・スタンレー本社をよく訪れた。当時、日本では01年にREITが誕生し、不動産と金融が融合。日本の不動産に対する評価と期待は大きく、おそらくモルガン・スタンレーのクロックも日本に「昼」を示していたのではないかと思われる。

さて、今の日本で、クロックは何時を示しているのだろうか。夕方になると日本では、多くの地域でこんな童謡が流れる。

夕焼け小焼けで日が暮れて
山のお寺の鐘が鳴る
おてて繋いでみな帰ろ
カラスと一緒に帰りましょ

ある時、日本でIR(投資家説明)をしていた時、会場となるホテルの部屋の外で午後5時、この童謡が流れた。怪訝な顔をするインド人投資家に私は大きな声でこの童謡を歌ってみせながらこう話したことを覚えている。

「日本人は全員この歌を知っているよ。さて遊びもここまでだ、という歌さ」

当時はジョークだったつもりが、ほどなくファンドバブルは崩壊した。日本の不動産マーケットもそろそろきれいな夕焼け空になっているのかもしれない。
(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

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