イヌに驚いて転倒→骨折→飼い主に賠償命令「1284万円」の衝撃

イヌに驚いて転倒→骨折→飼い主に賠償命令「1284万円」の衝撃

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/06/18
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リードを離したばかりに

大阪府高槻市東部、JR高槻駅から2 kmほどの場所にある、昔ながらの一軒家が立ち並ぶ住宅街。

騒動の原因となったダックスフントの飼い主の女性宅を訪ねると、初老の夫が疲れをにじませた表情で姿を現した。

「あの判決が出てからずっと、妻はふさぎ込んでいます。賠償の内容や今後の対応もふくめて、裁判についてはすべて保険会社に一任しているので、こちらでお答えできることは何もありません」

3月23日、大阪地裁で、全国の愛犬家を驚愕させる超高額の損害賠償判決があった。

〈被告に、1284万5130円の支払いを命じる〉

判決文によれば、事件のあらましはこうだ。

2015年の6月14日午前10時ごろ、60代の女性が飼い犬のミニチュアダックスフントを連れて散歩に出た。

最初はおとなしく散歩していたダックスフントだが、交差点向こう側から、別の女性に連れられた柴犬がやってくるのを目にすると、急に興奮して吠え始めた。

柴犬を連れた女性は交差点を左折したが、ダックスフントは後を追い猛然と駆け出す。急にリードを引っ張られた飼い主女性が「あっ」と声をあげた瞬間には、リードは女性の手を離れ、ダックスフントは一目散に柴犬めがけて駆けていった。

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Photo by iStock

ちょうど同じころ、曲がり角の先からは、同市内に住む40代会社員の男性が時速10㎞程度のスピードで交差点方向に向かってランニングしていた。

男性は、眼の前を歩く柴犬を連れた女性を避けるため右にずれる。その瞬間、男性の足元に、柴犬を追いかけて角を曲がってきたダックスフントが猛スピードで駆け込んでくる。

女性を避けることに意識を取られていた男性は、驚きのあまり「うわっ」と声をあげる。接触を避けようとするも、とっさのことに足がもつれ、つんのめってしまう。男性は身体のバランスを崩して転倒した。

事故を目撃していた近隣住人が言う。

「男性はそのままそばの側溝に落ちて、両手を強く突いたんでしょう。手首を押さえながら相当痛がっていました。起き上がって、飼い主の女性に大声で怒っているところに警察官がきて、話し合いになっていました」

飼い主の女性は警察官から事情聴取を受け、被害男性は救急車で病院に搬送。合計9日間の入院を余儀なくされた。

その後、男性は右手首の複雑骨折と、その後遺障害に対する損害賠償を求め、飼い主の女性に対し3948万円の支払いを求める訴訟を大阪地裁に訴え出た。

結果、大阪地裁が飼い主の女性の責任を認め、1284万円の賠償命令が下ったのである。

数ある賠償項目のうち、一番高額になったのが「逸失利益」の867万円だ。裁判所は、ケガで男性の右手首関節の可動域が狭まったとして、後遺障害を認定。

それによる男性の労働上の損失を算出した。一般に裁判で用いられる労働年齢の67歳までの分を合計した金額が支払われるため、これほどの高額になったのだ。

イヌが走り出したことに驚き、リードを一瞬手放してしまっただけで、1284万円の賠償を命じられる――。

イヌを飼っている人からすれば、「噛みついたり襲いかかったのなら言いわけのしようもないが、触れてもないにしてはいくら何でも賠償金額が高すぎるのではないか」と思う向きもあるだろう。

だが、弁護士で、ペット法学会理事の杉村亜紀子氏は「決して驚くような金額ではない」と言う。

「民法718条に『動物の占有者等の責任』という条文があり、『動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う』と明記されている。

急に走り出すのは動物の性質として当然だと思われるかもしれませんが、逆に、十分ありえるからこそ、飼い主には注意を尽くし、それによって他人に不利益が生じるのを防ぐ義務が課されているのです。

そして、被害者に対する賠償金額は『イヌが被害者に何をしたか』ではなく、イヌの行動によって被害者が負った損害がどれくらい大きいかによってはかられます。

飼いイヌの行動がきっかけで、被害者に後遺症が残っているとするならば、賠償金額が大きくなるのもやむを得ません」

当たり前と言えば当たり前の理屈だが、そんなリスクを頭においてイヌの散歩に出かける人はそうそういまい。

'01年には、神奈川県鎌倉市に住む当時70代の女性が、自宅前を通りかかったイヌの鳴き声に驚いて転倒し、左足を骨折。

飼い主に横浜地裁から440万円の損害賠償命令が下ったこともある。「イヌが吠えたり、走ったりするのは仕方がない」という主張は、裁判では一切通用しない。

愛犬のせいで人生が狂う

今回、飼い主の女性に唯一の救いとなったのは、夫が加入していた自動車損害保険に「個人賠償責任補償特約」が付帯していたことだ。女性が原告男性に支払わなくてはいけない賠償金には、後日全額保険金が下りることになる。

「『個人賠償責任補償特約』は、主に自動車保険、火災保険、傷害保険などに特約としてつけることができるものですが、ペットが歩行者に噛みついたり、何か物を壊してしまったりして損害賠償が発生する場合でも設定された金額の範囲で補償してもらえます。

保険の支払い金額にもよりますが、補償無制限のものでもせいぜい月額100円程度。イヌを飼っているのなら、ちょっとした金額を惜しまず特約をつけておくほうが無難です」(フィナンシャルプランナーの平野敦之氏)

もし女性の夫が自動車保険の付帯特約に加入していなかったとしたら、1284万円という巨額のすべてが夫妻の自己負担になっていた。

愛犬のちょっとした行動で、人生計画が大きく崩れていたかもしれない。もしイヌを飼っているのであれば、いま一度保険の加入状況を確認したほうがいいだろう。

「のどかだった昔ならいざしらず、最近は法律に則ってきっちり損害賠償を求められるケースが増えているように思います。

飼い主は、愛犬をかわいがるあまり『うちの子に限ってそんなことはしない』と思ってしまいがちですが、いつ何時、自分のイヌが他人に損害を与えてしまうかは誰にもわかりません。お散歩中でも、常にイヌに対する責任を意識していなければいけないのです」(前出・杉村氏)

すべての愛犬家にとって、今回の判決は他人事では済まされない。飼い主に課される責任は、かくも重いのだ。

「週刊現代」2018年4月14日号より

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